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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第135話 休。





 送別会も終わって、挨拶回りも済ませた私達は街を出ることにした。

 大樹の森へと、今年もまた戻る予定である。



 別れの挨拶の時、エルフの青年達に別れを告げたら色々と感謝された。

 だが、彼らとの出会いは、私達にとっても得るものが多い良き出会いであったように思う。


 エルフの青年達に魔法や冒険者としての心構えを教えたり、彼らよりも前に立つ機会が多かったエアにとっても、新鮮な出来事の連続だったのではないだろうか。


 この街で出会った剣闘士達との出会いもまた、エアにとって特別な物となっただろう。

 彼らとの戦いを通して、これまでは鍛錬ばかりで自分がどれほどの実力をつけていたのか分からずにいた部分が、はっきりと認識できただろうと思う。

 顔つきと言動に最近はだいぶ落ち着きの様なものが見えるようになった。



「ロムー。おんぶして欲しいなっ!」



 未だ私に甘えてくる事は多いが、自分はこうしたい、こうしなきゃだめだという強い拘りの様なものが明確に生まれてきている様に感じる。


 人を成長させるのは人との出会いなのかもしれないと、私はこの街で感じとる事が出来た。

 私もまだまだ自分の未熟な部分を再確認できたことだし、改善しなければいけないと思う。

 ……特に、この前の送別会の後は、剣闘士達が凄くよそよそしくなった。



 『ロムさんって実はかなり凄い人』っていうエアの主張が、何故そんな変化をしたのかはわからないけれど、『ロムさんって実はヤバい人?』となり、『ロムさんって、実はやんごとなき人?』となって、『ロムさんって、実はどこかの国の王族?』かも、最終的には、『ロムさんって、実はエルフの王様』に違いないと言う話にまで発展していた……人の噂とは恐ろしい物で、危うくこの国のお偉い人達から招待が届く事になりかけたのである。



 私はただの冒険者だと、何度も言ったのだが、『ただの冒険者があんなに強いのはおかしい』と反論されて、喜べばいいのか否定すれば良いのかよく分からなくなってしまった。



 私なんかはただの野生の魔法使いである。

 品のある生活なんかよりも、泥の中を這いずっていた時間の方が多いというのに。



 まあ、なにはともあれ、私達は街を出ると、暫くした所で【転移】を使って大樹の森へと戻って来た。

 だいぶ久々に感じるが、やはりここは居心地がいい。帰って来たという感覚がする。


 エアと一緒に精霊達に挨拶をしてから、そうそうに花畑へと飛び込んで、大の字になって寝っ転がった。



「はぁあーーー、きもちいーーー」



 風の通りがいい。

 草花の香りがする。

 背筋が伸びる感覚があって、ぐーーっと伸ばしていくと、旅の凝りの様なものが解れていくような気になった。


 旅は楽しい。得るものも沢山ある。

 だが、こうして一息つく大事さも大切にしたいと思った。


 ぽてっと気づいたら、そんな私のお腹にいつも通りの重みを感じる。

 『ふへへっ』、とエアもどことなく緩みがちな笑みを見せた。


 暫く横になっていると、気づいたら私達はそのままお野菜達に囲まれており、突発的に始まった『お野菜イベント』に寝ながら参加する事になった。



 周りの精霊達が笑っている事が私にとっても凄く嬉しい。

 色んな場所へと行ったが、どこの街にも居る精霊達はだいたいが綿毛達ばかりで、どれもみんな元気が無い。

 私は【(ホーム)】を使いそんな綿毛達と時々こちらへと、送っていたのだが、そんな綿毛達の楽しそうな姿も増えていた。

 私がこの森を離れている事で、だいぶ魔素の濃度も抑えられているらしく、彼らがここにいても大丈夫な環境になっているのだとか。


 当然、精霊の中には、その魔素が濃い状態じゃないと逆にダメって者達も居る為、そこは精霊達と密かに相談して上手く専用の地域を作って対処していた。


 最近では、よその土地へと言っていても大樹を通して、その位の事は出来るようになっている。

 私もなんだかんだと少しずつ成長しているようだ。



 こうやって、実りの季節まではまたのんびりと過ごす事にしようかとエアに相談すると、エアも最初は『うん』と小さく頷いたのだけれど、その後は気づいたらいつしか寝てしまっていた。



 その瞬間、周りにいるお野菜達が『え、終わり?』と絶望したような停止をしたが……君達、本番は明日でもいいかな?え?既にカットしちゃったお野菜があるって?え、しょうがないから私にくれる?そ、そうか、ありがとう。



 寝ながらなので行儀は悪いのだけれど、私はスティック状態にカットされて食べやすくなったお野菜を精霊達に一つずつ食べさせてもらった。


 私がシャクシャクと食べだすと、これはこれで面白かったのか、食べさせて嬉しかった精霊の一人が『前夜祭(・・)だ!』などと言って喜んでいたが、誰がそんな上手い事を言えとっ……ゴホッゴホッ。咽てしまった。それに、まだお昼過ぎである。



 ──だが、私はそうして、そんな穏やかな時間を楽しく満喫したのであった。

 ……君達、私はエア程には食べられないからな、分かってるな?少しずつ頼むぞ、少しずつ。

 フリ?フリじゃない!ちがうちがう。本当に違うから。

 それに、一人一本までだからなっ!そこっ!また並ばない様にっ!





またのお越しをお待ちしております。

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