第130話 磨。
『いや違うだろッ!』
私とエアが冒険者用語での会話に満足していると、火の精霊からはツッコみが入った。
それによると、先ほどの彼は別に一目ぼれして告白してきたわけではないと言うのだ。
「…………」
……いやいやいや、そんなわけがないだろう。あんなに冒険者用語を使いこなしていたのだ。
そもそも教本の例題文をそのまま抜き出して来た程なのである。勉強してないとは考え難い。
今ではマイナーな分野となっているらしい冒険者用語の勉強を、彼は沢山してきたのだろう。
力があるわけでも、魔力があるわけでもない彼が、体格の良さだけで『金石』の冒険者になれるわけがない。そうでなければ彼はただのお馬鹿さんだと言う事になってしまう。
「かーくん、嘘はダメだよ?」
『ちょっ!いや待ってくれエアちゃんッ!』『あーあ』『あーあ』『まあ、相手の事を何も知らない内に決めつけるのは良くないですからね』
私が精霊達から言われた事をエアにも説明すると、エアはどの精霊がそれを言ったのかは聞いていないにも関わらず、迷わず火の精霊の方を見てから微笑んでそう言った。
火の精霊はエアにそう言われた事でショックを受けた表情をする。
だがまあ、彼らが嘘をつかない事など元から知っている事ではあるので、最初から冗談だと互いに理解しあっているからこそのやり取りであった。
精霊達も火の精霊を含めてみなが笑っている。
ただ、確かに私達も彼の事を良く知りもせずに、勝手にその人物像を決めつけてしまうのは良くなかった。反省する事にしよう。
──それに今はそんな事よりも先に、優先しなければいけない事がある。
ここの街に来た当初の目的は、そもそもがエルフの青年達の冒険者の登録と彼らの里やダンジョンの事をギルドへと伝える為なのだ。
新たな上級ダンジョンの出現はギルドにとっても無視できない問題である筈なので、直ぐに対策が話し合われる事だろう。
「……えっ?エルフの里の傍に、上級ダンジョンが出来たんですかー。へー、あっ、もしかしてそれでみなさん冒険者登録に来たんですねー」
「ああ。そうだ」
「…………」
「…………」
……なんか、予想していたリアクションよりも反応が薄い。この沈黙はいったい何ですか。
こちらとしては、もっと緊急事態だと捉えて貰いたいのだけれど、目の前の受付嬢とエアは揃って首を傾げている。
『それがどうかしたの?』と言う困った反応をしているが、こっちも困っています。
「『新規ダンジョン発見時のギルド側の対応』を、して貰いたいのだが」
少しの間ギルドの職員もやっていた為、ギルド側の新しい制度的な話は私も少しは知っている。
とりあえずは、それを引き合いに出して話を振ってみたが……それでも目の前の受付嬢は反応が薄い。
「はい?えっとー、対応ですか?それってなんです?」
どうやら知らなかったらしい。
そうか、それなら説明するが、新しいダンジョンを発見した場合、冒険者はギルドに報告するものなのだ。
そうしたら、ギルド側は報告されたダンジョンのランクを調べるための調査員を派遣し、その危険度を正確に測る。
その為の調査員の選定と、予定の調整、資金の確保等は……君の管理の範囲外?そうか。ふむ、なら良かったら責任者を呼んで貰う事は出来るかな?
「はいっ!少々お待ちください!」
そう言った受付嬢は『上司に丸投げできる』とでも思ったのか、嬉しそうに笑顔で去って行った。
──そうして暫く待っていると、今度は笑顔の受付嬢の代わりに一人の男性がやって来る。
その男性はヨレヨレのシャツを着て、目の下には大きなクマがあり、もう何日も寝ていないのが一目で分かった。
フラフラと左右に大きく揺れながら歩いて来る男性は、倒れ込む寸前で受付の椅子へとストンと座り込むと、座り込んだ後も白目を剥いてカクカクと身体を震わしている。……君はどうしてここにやってきてしまったのだ。来る場所が違うだろう。今すぐに帰りなさい。
とりあえずは、『浄化』『浄化』。
私とエアは見ていられなくて、その男性に【浄化魔法】を同時に使用していた。いや、使用せざるを得なかったと言えるだろう。……生きろ。
「ああああああああああああああああああああああああああーーーー…………」
浄化をかけると、男性は暫く野太く魂の奥底から引き出した様な轟く叫び声をギルド中に響き渡らせた。
そのあまりのインパクトに、先ほどの獣人の男性とエアの出来事などもはや霞んでしまう程ギルドは今騒然としている。
ただ、その叫びが落ち着くにつれて、男性の目の下のクマは少しずつ薄くなっていき、瞳には光が戻っていった。
「……ごほん。申し訳ございません、お待たせしました。当ギルドへようこそ。ご用件は『新規ダンジョンの発見』と言う事で宜しかったでしょうか?」
そうして、正気を取り戻した男性は少しだけ顔を赤らめると、普通にギルドの職員としての対応をしてくれるようになった。
だが、彼は普通所か実はかなりのやり手だったらしく、常に的確な対応を迅速にしてくれている。
打てば響くとはこういう事だと言わんばかりで、『ダンジョンの傍にはエルフの里が』と彼に伝えれば、『承知しました。それでは里の方にも配慮して対応させて頂きます』と言う気持ちの良い返事が直ぐに返ってくると言う感じであった。
ふむ。里とダンジョンの事に関しては彼に任せておけば問題なさそうだと私は判断する。
……それでは、もう一方の懸念事項である青年達の今後の職場についても、折角なので彼に相談してみる事にした。
なぜそれを懸念事項と言っているのかと言えば、青年達が仕事の斡旋先に希望したのは、なんと『戦闘技能の向上が望める職場』だったからである。
「『戦闘技能の向上が望める職場』でございますか──」
当然、そんな事を相談された彼の困惑も分かる。普通街中の職場でそんな都合のよいものがあるわけがない。
私達のその無茶な要求には、如何に打てば響く彼と言えども対応できる筈が──
「──それでは『剣闘士の見習い』など如何でしょうか?」
……できるらしい。本当に素晴らしい対応力である。
──そうして、辣腕ギルド職員である彼の勧めもあり、私達はこの街で『剣闘士見習い』として働く事になったのであった。
またのお越しをお待ちしております。
祝130話到達!
『10話毎の定期報告』
皆様、いつも読んでくれてありがとうございます!
最近、日によってはいきなり普段の三倍~五倍のアクセス数を頂ける、なんて事が増えてきました。嬉しいです。
これは少しずつ成果が表れていると、考えても良いのかな?
……いや、まだ何か賞を取ったわけでもないので、これからの頑張り次第ですね(戒め)。
今後も一歩一歩、着実に書籍化に向けて突き進んでいきたいと思っています。
それと、励ましが本当にありがたいです。
沢山の元気もらってます。誤字報告とかも助かってます。
いつも応援してくれて本当にありがとう。
ブクマも評価も感想も、どれも凄い嬉しいです^^。
ブクマしてくれている二十九人の方々(前回から五人増)、評価してくれている八人の方々(前回から一人増)。
おかげで、本作品の総合評価は136ptに到達しました!ありがとう!!
油断することなく今後も頑張って参りますので、引き続き応援頼みます^^!
──さて次は、恒例の一言となりますが!確りと言葉にしていきます!
「目指せ!書籍化!尚且つ、目指せ!先ずは総合500pt(残り364pt)!」
今後とも『鬼と歩む追憶の道。』略して『おについ』を、何卒よろしくお願い致します。
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