第120話 慮。
その後案内して貰った場所で、持ってきた魚を使って私達は満足する料理を食べさせてもらった。
こちらの大陸では気温の関係で生魚を食すのはお腹を壊すから危ないと、こっちの料理屋では作って貰えなかった。……とても残念である。
ただ、その代わりにこちらでは『煮付け』と言う料理法に人気があるそうで、甘ショッパイあんかけの様なソースがかかった濃厚な味のお魚料理や、贅沢にも油を沢山使って魚を揚げてから煮た料理等々、そんな新しい境地の料理を十分に堪能させて貰う事が出来た。
場所によって色々と美味しいものが違う。これぞ旅の醍醐味である。
エアも『おいひー!』っと大喜びで食べていた。
さてさてと、それでは十分に堪能させて貰った所で、私達はもう一つの目的である戦争を止める為に、密かに動き始めた。
……もうお魚を食べたなら良いんじゃないかと思った者もいるかもしれないが、また明日もエアが食べたくなるかもしれないので、ここは一度小国と大国の戦争を、完全に止めてしまおうと策略してみる。
とは言っても正直な話、戦争の目的がどこにあるのかがさっぱり分からない。
新たな武器の開発、新たな魔法や人材の試験場、単純な略奪による金儲け、領地欲しさ、食糧、水、鉱石、金銀銅、それら資源の確保、兎にも角にもその理由をあげれば幾らでも考えられるし、もし報復だなんて理由だったらそれこそ手に余る案件である。
だが、だいたいの戦争は何がしかの利益を得たい一部の者達の思惑で始められる事が多い。
この場合で考えられるのは、王や貴族、その他権力者などが当たるだろうか。
得をするのはその者達だけなので、それ以外はどうでも良いと彼らは思っているのだが、この場合はこの者達をどうにかすれば戦争が止まる事は多い。……経験談である。
……ただ、どっちにしても、まったくこちらとしては面白い話にはならないという欠点がある。はぁー憂鬱を感じざるを得ない。
ただ、大国側は既に私へと牙を剥いている。攻撃してきたので、これは反撃せざるを得ないのだ。
と言う事で、先ずはその原因を探る為に、私はちょっと外にいる指揮官の男だけを起こし、まやかしを掛けて必要な事を聞きだすと、それぞれの国へと飛んでいき、大国と小国の代表者と思われる者達をごっそりとこの街へと連れて来た。今回は、それぞれの王と側近たちである。
まあ、この集めるまでに夜までかかってしまったので、詳しい話は翌日聞く事にした。
こういう時に、まやかしは大変便利なものであるとは思うが、やはり私としてはあまり乱用はしたくない。
この力は使えば使う程、遠ざかる気がするのだ。……"普通"や、"当たり前"と言ったそんな些細な幸せを感じとれなくなりそうになるのである。エアとの楽しいこの冒険が色あせてしまうのはとても悲しいと思った。
まあ、今回に限りしょうがないと諦める。
こんな大きな案件は、本来そう簡単に解決できる問題では無いからだ。
だから、大変重宝した。
まやかしにかけたままなので、どちらの王もその側近たちも今は大人しい。
解いたら途端に五月蠅くなるのは目に見えているが、今はまだ大丈夫なので王二人を仲良く同じベットで寝かせておく。
そこまで部屋の空きがあるわけではないのでそれだけは勘弁して欲しいと思った。
まあ別に何が起こるわけでもないし……ないよな?ない。大丈夫である。私が寝る前にもう一度確認したらちゃんと大丈夫だった。
私に襲い掛かったわけでもない小国の王の方の方までを魔法に掛けているのは、単純にこれまでの対応不足と、本人の実力不足から既にこの者はダメそうだなと私が察したからである。
独断と偏見で悪いが、この王を迎えに行った時に、ちょっとあまり良い状況ではなかったので、問答無用でまやかしに掛けてしまった。
自国の兵が必死に戦っている時に遊んでいてはいかんよ。
それも『どうせ亡ぶなら最後まで楽しみたい』などと、王のそんな言葉を周りの者達には聞かせられなかった。必死で戦っている兵達がそれではあまりにも報われない。……そんなのは見逃せない。
「きさまっ!こんな事をしてただで済むと思ってはいまいなッ!!」
「今すぐに拘束を解け!解放しなければ酷い事になるぞッ!!」
翌朝、一応会談の場を整えてからまやかしを解いたら、案の定、首から上しか動かないにも関わらず、両国の王は騒げるだけ騒ぎ出した。
側近たちも王の横に並べているので、ワーワーガヤガヤと援護射撃も含めて凄い事になっている。
言えるだけの罵詈雑言を全部吐きだしている感じで、あまりにも過激な言葉や、卑猥な言葉が飛び交った為その内容までは控えさせて貰うが、まあ一言酷い状況であったとだけは伝えておこう。
さて、両者の建て前を聞く限りでは、大義名分はどちらも『そちらが悪い。そちらが攻撃したから』と言うのが両者の言い分であった。……君達は本当は仲が良いんじゃないか?
だが、そんな建て前ではなく本音の部分、この戦争の目的の話になると、途端に彼らはだんまりしてしまう。
彼ら的には大義名分が全てであり、それが本当の戦争の目的だと言うのだが……。
まあ、実は既に昨夜、まやかしに掛けていた時にちゃんとそこも聞いておいたので、言わないならと私が代わりにズバズバと両者の本音を暴露してやった。
それによると、詳細は割愛するがこの海の街を含めて物資を欲したのが大国側の侵略目的であり、小国側は侵略された側で、反撃しただけだった。
だが、小国側もこちらはこちらで問題があり、国の上の者達が王を含めてちょっと欲に塗れすぎで、外交がそもそも下手な上に普段から肉欲に耽っている者ばかりなのであった。
彼らは余りにも周りが見えて無さ過ぎて、一言で説明するならば、それはもうただの暗愚集団でしかなかったのである。
聞けばこの戦争も、大国の王は、小国の王へと属国へとなるようにと最初は降参を促したそうなのだが、彼らはそれを大した考えも対策も無しに断ったらしい。その最たる理由もただただ、今の生活が無くなるのが嫌だったから、だそうだ。
そして話し合いは決裂し、宣戦布告がなされ、侵略戦争が始まった。
大国側からすると、資源がどうしても必要だったらしい。
小国側は最初から最後まで怠慢の連続だった。
死んでいった兵士達が報われない話ばかりである。
現に、必死に戦っていた小国側の兵士達は涙ながらに怒りを見せていた。
事前に私は魔法を使っており、会談場の中の音は外へと届くが、外の音は私以外には聞こえない様にしていたのである。
今この話し合いの場となっているのは、海の街のボロボロになった外門の外側に私が【土魔法】で特別に設置した場所である。
両国の兵達は、その会談場所を遠巻きに眺め続けていた。
昨日全員眠りについた大国側の兵士達に、特別な両国の王による会談が行われるから戦闘は一時中断だと私が伝えると、一人を除き皆が頷いてくれる。
誰も戦争などを続けたいなどとは思っていなかったようであった。
……因みに、その一人は今日も眠って貰う事にした。『貴様だけは絶対に許さんぞ!このクソエルフがッ!なにが会談だ!そんな嘘にわしが惑わさ──ガクッ』などと言って激怒していたけれど、はて?彼とはどこかであった事があっただろうか。まあ、気にしない事にしよう。
兵士達は、両方とも普段は決して聞けない自国の王の本当の声に、それぞれが思う所はあったらしい。
王とは言え、ただの人間には変わらないと知れただろうか。清廉潔白な者などいないのだ。
それがこうして同じ目線に立ってしまえば、自ずと分かってしまうだろう。
国の為に、王の為に、民の為にと戦う兵士達からしたら、王とは尊い存在であると信じていたかったかもしれない。本当はあまり見たくはないものだったかもしれない。
だが、彼らも考える事は必要である。戦う理由を他人に委ねると言う事が、どういうことであるのかを忘れてはいけない……。
──さて、こうして態々暴露もしてなんだが、既に私から彼らに直接何かをするつもりはなかった。……いや、正確にはその必要が無くなった。
ただ、両国の王含め側近たちには、私に一つだけ口約束をして貰う事を条件に、それが済めば【転移】で元いた場所へと返す事を約束した。
それはいつもの『王や側近たちを含めた皆が、私とエアの事について一切関知せず、追及せず、忘却する事』である。やはり情報は大事であるからして、これだけは譲れなかった。
両国の王はそれだけで良いならと、すぐさまその事を声に出して約束してくれた。これで契約はなる。
ただ、小国の王は戻る事にばかり気に掛けていたが、大国の王の方は最後まで私の事を見つめていた。
そうそうに長い時間ではなかったが、会談は終わる。
思ったよりも精神がずっしりと疲労した気がするのは、きっと私だけではなかっただろう。
だが、会談の場を整えた甲斐はあったらしく、戦争は自然と止まった。
それは、大国の王の方が兵を退くと言いだしたからである。
当然その言葉に、小国の王や側近たちは大層喜んだ。
だが、その後の結末が想像できていなかったのも、やはり彼らだけだった。
大国の王は、この会談の声が周りにも伝わっていると言う事をどうやら察していたらしい。
そして、それが兵達に伝われば、彼らがどう動くかも確りと理解していたのだ。
よって、これ以上攻め込む必要もなく、小国はその内亡び、その資源は手に出来ると彼は悟った。
それに、小国に住む者達を哀れにも思ったのだろう。これ以上の戦闘は無意味だと知ったのだ。
そして、何かあれば可能な限り受け入れる用意がある事を、去り際に小国の兵達に向かって彼は口にして去っていったのである。
小国の王は、自国の兵士達に声を掛けるどころか、一度たりとも視線を向ける事さえしなかった。
──この先はもう蛇足だろうか。
言わずもがなだが、戦争は終わり、暫くして小国は大国の一部となった。
小国の王は、最後の時まで遊び呆けていたらしい。
……予想通りに、面白くもない話になった。
だが、当初の目的は達成できたと言えるだろう。
お魚も食べられたし、それを作ってくれるお店も守れた。
「ロム!こっちのも美味しいよッ!」
海の街にて、私達はあれからも色んな食堂を巡っている。
そして今日も、美味しい料理を発見できたことに、エアは嬉しそうに笑っていた。
此度の事で私達が得たものは、殆ど何も無かったのかもしれない。
……だが、私が本当に守りたかったのはこの笑顔なのだ。それだけで満足なのである。
またのお越しをお待ちしております。
祝120話到達!
『10話毎の定期報告』
皆様、いつも読んでくれてありがとうございます!
早いもので、この作品を投稿し始めてから、もうそろそろで二か月が経ちます。
現状、二か月で約四十万文字という個人的には良いペースで書けています。
皆に励まされてるのが分かるので、頑張れてる感じです。本当にありがとう><。
ブクマ、評価、感想(今日も頂きました、嬉しい)、誤字報告も助かってます。
ブクマしてくれている二十四人の方々(前回から六人増)、評価してくれている七人の方々(前回から二人増)。
おかげで、本作品の総合評価は116ptに到達しました!(先ず100pt超えましたよー!!)
いつもありがとうございます!
油断することなく、今後も頑張って参りますので、引き続き応援頼みます^^。
──さて、恒例の一言!確りと言葉にしていきます。
「目指せ!書籍化!尚且つ、目指せ!先ずは500pt(残り384pt)!」
今後とも『鬼と歩む追憶の道。』略して『おについ』を、何卒よろしくお願い申し上げます。
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