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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第115話 日進。




「この気配は、"モコ"か」



 恐らくは『人為的』な理由で発生しているであろう独特な『石持』の気配がした。

 私は以前に同種と戦った際に、その特徴的な見た目から"モコ"という呼称で呼ぶ事にしたのだけれど、森の中に居れば数十年に一度くらいの頻度でしか出会わないそれも、旅に出ればこうもあっさりと出会ってしまうのだから、旅には長所ばかりではなく気を付けなければいけない短所もある事を忘れてはいけない。

 因みに言っておくと、とても出会いたくない相手である。

 基本的に、奴らは最初こそ皆笑顔で近寄って来るのだが、その後はだいたい襲い掛かって来るからだ。



 それに、こいつらは魔素の多い場所において勝手に成長し、おそらくは人を喰らう事でも成長する。

 また、こいつらは成長する事によって、見た目や言動が人に近くなり、おそらくは戦闘タイプと知能タイプなどの種類によってその成長の仕方も分かれるのだろうと推察している。

 基点的に、戦闘タイプは無口が多く、知能タイプはお喋りだ。



 大体がいきなりこうして発生して現れ、傀儡となる仮初めの身体のモコが最初に来て、それを魔石を残したまま倒すと本体のモコも現れると言うパターンが多い。


 まあ、私が知っている事と言えばそんなことくらいだ。

 一応、エアにもその情報を伝えてはあったが、初めて見る敵と言う事で少しワクワクしている様子が見て取れた。既に槍を持って警戒しているので、油断しているわけではないと思うが、確りと気を配っておきたいとも思う。



 準備が出来たら早速と、私達はその気配の発生した場所へと向かった。

 すると、そこには依然見た時と同じで、今まさにこれから大きくモコモコと膨らんでいく途中の真っ黒い球体状のモコの姿があった。

 前回はあれから人型に近い形状へと段々モコモコしていったのだが、今回はどうやらそれともまた少し違うらしい。大きな球体が一個だけで、それの大きさが少しずつ拡大していってるのである。


 そして、よく見ると、その大きな球体の正面には大きな人の顔がだんだんとくっきり浮かんで来た。

 正直、気味が悪いが他にもあるのかくるっと一周見て回る。エアも『うげー』と言う嫌そうな顔をしていた。

 今回は海の上に現れたと言う事で、これが海バージョンのモコの姿なのだろうか、なんとも不思議な『石持』である。



「うぐぐぐうあうあ……ぷはぁー。漸く出たか。ん?ここは海、か?……ちっ、ハズレだな……まあいい」



 黒い球体モコは辺りをキョロキョロと眺めると『はぁぁぁー』と深くため息を吐いた。どうやら良く喋るのでこいつは『知能タイプのモコ』らしい。

 ただ、球体モコは発生したばかりの特徴なのか、未だ私達の存在には気づいていない。一人で勝手に何かをひたすらブツブツブツブツと呟いてぼやいている。



 現在、私とエアはそんな球体モコの顔の斜め後ろ位に居た。ちょうど視界の範囲外である。

 まあ、ここで声を掛ければ何かしらの反応が返って来るとは思うのだけれど、正直強くなる前に倒すのがベストの相手だと知っている為、このままさくさくと倒す事にする。

 ただ、今回の初撃はエアに任せた。

 触れるのは危ないと言う事で、エアは魔法で全力の一撃を先ずは放った。もちろん使ったのは海の上と言う事もあり【水魔法】である。



「ぐあああああ!あぶぼぶっべべっべべぼうぶぶぶ」



 エアの使った魔法は球体モコの全身を全部囲んで、中で水の圧力を用いてモコを圧し潰すものであった。かなりの魔力を込めてあるのか全身に激しい圧力がかかっているのが見て取れる。


 エア本人も魔法を使いながら周囲への感知も忘れておらず、光の槍のレプリカを持ちながら『天元』で魔力循環を強めて、何が起きてもすぐさま反応して動けるようにもしている。エアの普段の練習の成果がよく出ている上に、心構えまで完璧だと言えた。現状、私が付けてあげられる点数は百点満点以外にない。


 顔面球体モコは今、何が起きているのかも分からず、ベコベコに身体が押し潰されており、このまま消滅する寸前だった。



 ……いや、すまない。語弊があった。もうした。消滅してしまったのである。



「エア、完璧だ。よくやった」


「うんっ!ロムありがとうっ!」



 私はエアを直ぐに褒めた。どーだ、タイミングを計っていたので私も完璧な間で褒める事が出来たぞ。

 エアもそんな私の言葉に、持っている槍をギュッと握りしめると嬉しそうに笑った。

 とても素晴らしい。『天元』で水の魔素を通している青エアの水適正の高さも相まって、魔法の威力も申し分ないものであった。


 球体全部を一度に圧して破壊してくれたので、中の魔石も壊れたのを私は魔力で確りと視ている。

 これなら傀儡を介して本体がこちらにやって来ることもないだろう。

 まあ、その本体を倒せなかった事は残念だが、危険を排すると言う意味では完璧であった。



 ただ、あの球体モコの特性でもあったのか、破壊した後この辺りの淀みの気配が一気に強まったので、周囲に影響を与える前に私はこの辺一帯を浄化し整えておく事にする。

 海の上と言う事で他に誰がいるわけでもないのだけれど、ここの領域に暮らす生物達に何らかの悪影響が及ばない様に一応は配慮しておいた。



 だが、そうしていると、今度は自然の海の生物が私の魔力に惹かれてやって来てしまう。

 それは海底の奥底から魔力を圧を嗅ぎ付け惹かれてやってきたようで、そこそこの大物であり、エアの感知外から既に向こうはこちらを攻撃する準備を整えた事を私は察知した。



 ただ、今回は折角なので、ここはテストも兼ねて、エアにこのまま対処を任せてみる事にする。



「エア、私は少しこの周囲を整えるから。その間の警戒は任せてもいいかな?」


「うんっ!任せてっ!」



 エアは少し自信を得たようで胸を張って応えてくれた。

 ただ、その間にも相手の攻撃は恐ろしい速度で迫っており、もうすぐエアの感知内には入るだろうが、果してエアは感知してからの対処が間に合うのだろうか。

 ……私の感覚だと、五分五分。いや、身内贔屓で視て九対一くらいの成功率はあるとは思う。

 私はこうして、のんびりと辺りに浄化を振り撒いておくだけで何ら心配はいらないだろう。



「ん?……ッ!?ロムッ!危ないっ!!!!」



 その瞬間だった。エアは新たな敵の攻撃の標的が私だったことに気付くと、対処と言うよりはむしろ身代わりと言う様な行動に出た。


 魔力で感知した目標へ、光の槍をほぼ反射的に投擲して相手の攻撃を少し逸らせると、そこに【水魔法】で更なる追撃を加えていくエア。

 そして、本人は私の前へと瞬時に水面を蹴って移動すると、手を大きく横に広げて立ち塞がり、同時に魔力で相手の攻撃を弾く為の壁を生み出した。


 その上、魔法の威力減衰と引き換えに対象を複数へと広げる効果範囲拡大を使い、私とエア自身の身体へ同時に【回復魔法】を施し、急な致命の一撃にも対応できるように保険までかけている。



 エアが瞬時に同時発動できる魔法の限界数は現状四つ(・・)

 それを【感知】【水魔法】【魔力障壁】【回復魔法】に魔力を振り分けつつ、背後の私を守る事にその身を前へと晒しているのだ。



 攻撃よりも守り重視。こういう状況には本人の資質がよく出るものである。

 それに、確りと自分の出来る事の最大限を選択して実行できる判断力と決断力。

 一番安全な位置に私を置いてくれようとするその優しさ。敵の前面へと己の身を晒す勇気。

 背後で見ていて、私はそんなエアの全てを心の底から誇らしく思った。



 これぞ冒険者だと言う立派な姿が、目の前にあったのである。



 私は感動を覚えずにはいられなかった。

 かつて、昔の時代でも、ここまでできた者は少ないだろう。

 『いつの間にか、こんなにも立派に』とそう思うだけで、私の心中には大きな手ぬぐいが何枚も必要になるほどの……いや、今はまだ戦闘中である。自重自重、我慢我慢。



 なにしろ、相手は海の怪物。

 一部では『クラーケン』などとも言われ、大陸間の交易船をよく海の藻屑へと変えている超巨大な頭足類であった。相手のその足は多数存在し、その一本で大きな船を叩き壊し海の中へと引き摺り込める程に凶悪な攻撃力をもつ。大凡、人間の力では敵うべくもない相手である。



 だが、そんな相手の巨大な足の一本の攻撃を、巧みな投擲槍と【水魔法】、魔力の壁で受けきったエアの判断と力量は素晴らしかった。

 魔法使いとして、最善を尽くした行動である。


 例えそれが一本の足の攻撃を防いだだけだとしても充分に意味がある。

 もちろん、その足を使用不能にしたわけではないし、その後に続く他の足の攻撃にも対応が追い付いているわけではない。

 エアは、弾いた時点で持てる札の全てを切ってしまってもいた。



 だがしかし、敵の初撃を弾いたと言う事、それ自体に意味があり、とてつもない価値があった。

 一撃で敗れてしまえば、相手との差は測れず、その差が大きく果てしなく感じられるものである。

 だが、最低でもそれに堪え得る方法知っていれば、明確な次へと繋げられるのだ。

 どれだけの力を備えれば、次はこの敵に勝てるのかが分かるようになる。



 最低でも、今のと同じ防御方法を敵の足の数だけ使える様にする事、そして、尚且つ敵へと致命の一撃となる技を一つでも使えるようになる事、極端な話だがそうすればこの敵には間違いなく勝てるのである。

 これを学べるのと学べないのとでは、雲泥の差があるだろう。



 それにもしこれが一人であったなら、エアの冒険はここで終了していたのかもしれない。

 だが、エアは一人ではないのだ。



 背後には私がいる。

 君が今、命がけで守ろうとしてくれた私が、ここに。

 そして私は今、そんな誇り高い君を守れる事を幸いに思う。



 ……ただ、そう考えると私が教えなければいけない事は、まだまだ多いのだと認識した。

 エアが笑っていられるように、その力になる為に教えられることを全て伝えたい。

 私はそんな想いを秘めながら、今一度強く気を引き締めたのであった。



「ロムッ」



 エアは弾いた時点で、もう敵わないと悟り、私へとガシッと抱き付いて来ていた。

 私はそんなエアの頭をポンポンして、『安心しなさい』とだけ彼女の耳元で囁く。




 ──敵は既に動けない(・・・・)のだ。




 超巨大生物だろうが、『クラーケン』だろうが、私には関係なかった。その足先は今やピクリともしていない。

 昔にも狩ったことがあるが、私からするとこれはただの少し奇妙な魚(?)である。

 相手のどこが食えるのか知っている程に、私は地味にこいつにも慣れていた。

 ……なんか、私が海に出て沖に行くと、毎回こいつらの仲間がやってくるのである。



 なので私は、道場青年にやったように動けるものなら動いてみろと、その生物を魔力で完全に縛り動けなくしてから、全身を水上へと空高く釣り上げた。

 まあ、だいたい全長百メートル程はあるだろう。まあまあの大きさである。



 少々大きいが、後は足を一本ずつ切り取り、残りの少々グロテスクな部分は全部毒があるらしいので消去して、足だけを【空間魔法】に収納してお終いであった。



「……ポケ――」



 久しぶりにエアはまた『ポケ――状態』になってしまったが、怪我等もなさそうなので、よいしょっと背負って海の上の『土ハウス』へと戻る事にする。


 今回エアは良く頑張ったので、明日は少し珍しいものでもご馳走しようと私は思った。




またのお越しをお待ちしております。

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