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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第114話 漂。

区切り的に。今回はちょっと短め。




「ロム―。海って楽だねー」



 聞いたら船乗りが怒り出すんじゃないかと思う様な一言を呟くエアだが、その姿勢は波の上でぐでーんと寝っ転がっており、楽な姿勢のまま流されていた。不思議な感覚なのだが、好きな方向へと流れていけるらしいので、エアはこのまま海の上でのんびりしていればいいらしい。



「あっ、来た!」



 それに、捕まえたい魚の方は勝手に向こうから大物が襲い掛かって来てくれるので、その時にだけ少し向こうの攻撃をかわして、ドスンと言う重いパンチ一発でエアは獲物を仕留めている。

 水中の中でもエアのパンチの威力はほぼ衰えないらしく、余裕のある狩りであった。



 因みに、私はそんなエアの傍で波の上に座っているように見えるが、普通に水面すれすれを浮かんで飛んでいるだけである。そして、今は真剣にエアの手袋を製作中であった。……慣れていないので、これは意外と難しい。



 水も食料も揃っているし、このままの方向へと進めば問題なく向こうの大陸へと到着する流れにも乗っている。

 前の街での宿の料金は先払いだったから問題もない。

 海面が日の光を反射して眩しかったりもするが、日傘代わりに【土魔法】で海の上に囲いを作って屋根の様に魔法で浮かべて見たら意外と快適になった。


 作ろうと思えば、このまま海の上に土の家だって作れる気がする。

 完全に魔法で支えているので、魔力運用の持続訓練にもなるし、中々に悪くない。



 日が暮れてきたら、その家の中で手袋の続きを製作する事にしよう。

 こんな冒険も素晴らしいものだ。



 『こんなの異常』



 すると、中々に珍しい事に水精霊だけが話しかけて来た。

 どうやら海の上と言う事で、他のみなは今回大樹でお休みしているらしい。


 見たら水の精霊もエア同様に水の上でリラックスしてだらりと寝ころんでいた。

 だが、私からしたら何が異常なのかあまり違和感がないのだけれど、どこが異常なのだろうか。



 『だって、家』



 そうして、水の精霊は全()建ての雨風日差し避けと睡眠と手袋作製の為に私が作った、製作時間十秒の敷()面積20坪程の二階建て『土ハウス』を指差して、不服そうにしている。


 ──はて?これのどこに問題があるのだろうか。中々に上手く作れたとは思うのだけれど。



 『違う。なんで土?』



 ああ、なるほど。そう言う事か、と私は水精霊の言葉で気づいた。

 ここは海の上なのだから、『おいおい水を使え』と言う事なのだろう。



 『いや、ちが──』



 分かる。今さっき来たばかりなので見てなかったかもしれないけれど、それも実は試して見たのだ。

 ただ作っている最中で、日中は光が反射して眩しい事と、海面の小魚達が安全な場所だと勘違いして床から入って来てしまうと言う問題が早期に発見されてしまったのである。

 歩いていて踏み潰すのも忍びないので、しょうがなく『水ハウス』計画は文字通り水泡に帰した形だった。よって今回は『土ハウス』に決定なのである。許して欲しい。



 『……うん』



 ありがたい。水精霊も、そしてその周りにいる綿毛達も納得してくれたらしい。



 『でもこれ、沈まない?』



 水の精霊の疑問も当然だった。この家、そこそこに重たいのだ。

 だが、これくらいならば一年中だろうと問題なく支えていられるので問題ない。

 次の大陸迄の魔力感知も済んでいるし、暫くはこの自動に運んで貰える冒険を楽しもうかと思う。

 他の精霊達にもこの『土ハウス』の中なら大樹とそこまで変わらないだろうから、気が向いたら良かったら遊びに来てくれと伝えて欲しい。



 『うん。わかった』



 これもある意味では空を飛んで移動するのと変わらないが、家を作ってそれと共に移動する冒険と言うのは私にとっても初体験で新鮮であった。

 エアの思い付きから始まった"海の上を行こう計画"ではあるが、これは冒険者達にとっても新たなる冒険の形になるかもしれない。

 街にいって宿を借りなくても、家を連れて冒険すればいいじゃないかと言う逆転の発想。これは中々に面白いと感じる。問題がなければ今後も続けていこう。



 そして一方のエアは、休憩は一旦終わったのか、此処でしか出来ない動きだったり、魔法だったりの確認をしていた。

 普段は周りに人が居たり、森の中だったりして出せない全力もここでは遺憾無く発揮できるし、試したかった魔法も全力で放てるらしい。高い集中力で真剣に取り組んでいる。

 こういう時は邪魔をしない様に、私は声を掛けないでひっそりと見守る事にした。


 魔法使いにとってこの試行錯誤の時間と言うのはとても尊いものなので、大切にしてあげたいのである。



 ただ、そうこうしている内に、辺りは段々と夕暮れ間近にもなってきた。

 流石にそろそろ時間も遅くなるので、エアと一緒に作った家へと入ろうと思い、一声掛けようとした……ちょうどそんな時であった。



 私は珍しい事に、こんな場所で『よくないもの』の気配を感じてしまったのである──。



 

またのお越しをお待ちしております。

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