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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第107話 珍。




 冒険者二年生である私達は今日も元気だ。

 季節は、日差しの暑い季節を越え、実りの季節に入って半ば過ぎた位の事。

 その間二回のお野菜イベントも楽しく終わり、もう少しで寒い季節が来そうだと感じる時分である。



 私達はいつも通り歩いて海の見える街を目指していた。

 とはいっても、私は兎も角、エアの方は少しだけおかしな事になっている。


 その様子を説明するなら、歩く途中途中で時々、カクッ、カクッと止まり、まるで未熟な魔法使いが作ったゴーレムが不器用にもなんとか歩いている様に見えた。

 その一歩一歩は普通に歩けてはいるのだが、数歩ごとに必ずピタッと止まる瞬間があるのだ。



 ただその理油は単純で、私がその数歩ごとにエアの感知内に水球の的を出して、それをエアが即座に感知して風で破壊しているせいであった。

 だが、動きこそどこかコミカルで面白そうに見えるものの、その表情は真剣そのものであり、エアの額からはこの肌寒さに関わらず常に玉のような汗が浮かんでいた。

 まだ少し立ち止まりかけるものの、エアは私の背中に乗らずとも感知と魔法発動ができる様になっているのだ。微妙に停止する事はまだあるけれど、これは大きな進歩であると言えるだろう。





 それも、水球は出る度に毎回形や硬度を変えており、絶対に安直な攻撃だけでは破壊出来ない様にしてあるため、そもそもの破壊の難易度も微妙に上がっていた。

 その上更に、破壊出来なくとも常に水球が出現するタイミングは変わらず、破壊出来ないままでいるとどんどん目標が増えていくのである。



 それが最大四つ溜まった時、つまりは五つ目が発生した時点で、その日のこの訓練は強制終了となってしまう為に、毎日一回のこの練習をエアはとても大事にしていた。……と言うか、魔力を使いすぎる為に、一日一回以上やろうと思っても出来ない事の方が多い。



「そこまでだな」


「はぁ、はぁ、はぁ……」



 この訓練が終わると、エアは魔力がつきかけぐったりとしてしまうので、だいたいこの後はエアを背負ってまた歩きだすのが最近の私の日常である。



「さあ、エア」


「うん。ろむ、……はぁ、はぁ、きょうは、どうだった?」



 エアはヨロヨロとしながらも既に安住の地と化した私の背中に付属品よろしく乗り込むと、汗まみれのままでそう尋ねて来た。

 魔力が尽きかけていて浄化が発動できないエアの代わりに私が浄化を使ってスッキリさせると、今日の出来栄えをエアに私は伝えていく。




 毎日少しずつ成長をしているので、その細かい違いに本人が気づくのは難しいのだが、『差異』に至ると魔法の性質や込められている魔力量まで良く分かるようにもなる為、私がエアの気づけない詳細な部分までを正確に評価するようにしていた。

 因みにこれは毎日やっている。今日の所はまだ少し全体的な見極めの甘さを指摘した。



 今はまだ、必ず破壊できるようにと、だいぶ保険的な気持ちから多めに魔力を使って発動している。エアは威力をあげる方に傾倒して集中しているが、それを察知する力の方に集中を回せば、それだけ魔力を抑えた攻撃で目標を破壊できるようになると説明した。



「だからエア、もっと自分の力に自信を持ちなさい」



 今保険に回している力が『十』であるとするなら、それを『五』や『三』、出来れば『一』程にまで抑えられれば、その分だけ他に魔法が使えるようになるのだから。



 難しい事だが、これはとても大事な事でもあった。

 基本的に生き物は体を休めると体力や魔力が回復するとは言われているが、戦闘中にそんな暇はなく、一度に使える魔力の最大はそれぞれ決まってしまっている。



 そんな限られた魔力量の中で、節約して使うのと丼勘定で使うのとでは、当然発動できる魔法の種類や回数に大きな差が出てくるのだ。



 そして、エアの様に必要量よりも微々たる差だが少し多めに使ってしまう者達は、それに慣れてしまうと中々それ以上ギリギリを狙って使う事を怖がるようになる。

 魔法を使う度に『失敗するんじゃないか』とか『見誤れば目的を達するに不足してしまうんじゃないか』と疑心暗鬼になってしまうのだ。



 当然、魔法を使う度にそんな恐れを抱く魔法使いは、成長が遠くなる。

 何故ならば、それは自分の感覚を信じられていないからだ。



 感覚で発動する事が重要である魔法使いの世界において、その感覚を信じられないのは、致命的な欠点になりやすい。

 一度この癖がついてしまうと、修正する事そのものに恐怖を覚えるので、もの凄く大変なのである。



 ただ幸いなことに、エアは私の言葉を素直に聞ける耳と心があり、それをすれば間違いないと絶大な信頼を預けてくれている。

 これだけ信頼を預けて貰っているならば、それに吊り合う心でちゃんと向き合い、確かな成果をおまけして返してあげるのが、私の役割なのだ。





「おいっ、あんた達!さっきから見てれば、面白そうな事してないか?俺も混ぜくれ!」


「……ねえ、止めときなよ。相手は知らない人だよ?」


「良いんだよ。エルフに会える事って滅多にないんだぜ?それがこんな所に居るんだから、折角だし自分の力がどれだけか知っておいた方が良いだろ?」


「……でもー」


「大丈夫だって。……あ、それにほら見てみろってあの人達の首元。『白石』だってさ。これから『金石』を目指す事になる俺達にはいい踏み台だよ」


「あっ、ちょっともう。待ってよ。……私達まだ冒険者ですらないのに(ブツブツブツ)」


「ほらほら早く来いって。俺の実力を見せてやるからさ」




 ……と、知らない二人組が何かを言っているのだが、まあ見ても分かる通り私は耳長族(エルフ)と言う種族であって、実はお気づきかもしれませんがそこそこ耳が良い。

 なので、十メートル程先に居るそんな彼らのひっそりとした会話などは、ほぼ丸聞こえであった。



 見た目成人したてのまだ少年少女と呼びたくなるような二人組。

 恐らくはその見た目から、魔法使いの少年と、剣士の少女であると思われる。


 そんな二人が……というよりもどうやら少年魔法使いの方が、私達のやっていた歩きながらの訓練を感じ取ってそれに興味を持ったらしく、自信満々にこっちに近付いてきているのであった。

 少年に腕を引かれるようにして、少女も嫌々こっちへとやってきている。




 ……ふむ。なるほど。


 ただその時、私はその二人を魔力量などを視ていて、とある事に気づいた。



 これはとても珍しい話ではあるのだが、羽トカゲに『天翼』、エア達鬼人族に『天元』とある様に、人にも実は『天』がある。



 ──それが何かといえば、それは『天稟(てんぴん)』と呼ばれているもので。


 

 同じ人でありながら、明らかに人とは違う才能を有した者達。俗にいう"天才"であった。


 それが今、私達の目の前に二人(・・)揃っているのである。


 何たる巡りあわせか、はたまたこれを運命と呼ぶのかは分からないものの、なんとも面白い二人組だと私は思った。


 見ると、魔法使いの少年の方は活発で、剣士の少女の方は少し思慮深い人物の様に思える。

 逆の方が適性がありそうな感覚はあるものの、現時点で既に常人とは比ぶべくもない程の力強さや魔力を彼らからは感じた。


 昔はそれなりに居たが、最近ではとんと忘れていたその懐かしき感覚に、私は思わず喜びを覚えてしまい、何故かその小さな魔法使いの少年の両脇に手を入れて、高い高いをしたくなった。……と言うか、気づいたらしてしまっていた。



「ちょっ!?なっ!!いきなりなにすんだっ!?」


「えっ、な、なんで?」


「ろ、む?」



 当然、そんな事をすれば、魔法使い少年、剣士少女、エア、のそれぞれの困惑した声が聞こえてくる。

 そして、当然やってしまった私の方もなんとなく恥ずかしくなってしまった。

 ……これは本当に、思わず勝手に身体が動いてしまったのである。申し訳ない。



 私は素直に頭を下げて少年達に謝った。

 いきなり驚かせてしまって、本当に申し訳ない。



「い、いや、別に怒ってもないからいいよ。吃驚しただけだし」


「うん。わたしも。……あの、頭を上げてください」


「……ロム?いつ隠れてお酒飲んだの?頭痛くない?浄化要る?……ん、それとも何か謎が?わたしまた何か見落としてた?」



 少年少女は『なんか聞いていたエルフのイメージとは全然違うなぁ』と言いたげな顔で不思議そうにポケ―っと私を見ていた。

 一方、エアは私を心配しつつも、突然『ハッ!』と何かに気づいたように辺りをサッサッと見回し始め、魔力を使って来た道や周囲の探知を注意深くしている。



 初対面の二人ともすまない。……そして、エアさんごめんなさい。何も無いんです。今回はただのミスなんです。私のポンコツな所が出てしまっただけなんです。あと、隠れてお酒を飲んだりしてません。だからそんなに注意深く調べなくても平気です。



 エアが真面目に辺りを調べれば調べる程に、なんとなく自分の顔が熱くなるのを私は感じた。

 ……もしかしたら、今の私は珍しい事に、顔を赤く染めているのかもしれない。


 そして、そんな仏頂面の赤面にエアも遅ればせながら気づいたのか、私の顔を見るとエアは満面の笑みで私を見つめてくる。まるで新しいおもちゃを見つけた様な瞳の輝きだ。……あまり見ないでください。



 『穴があったら入りたい』とは、きっとこういう時に使う言葉なのだろうと私は知るのであった。





またのお越しをお待ちしております。

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