第104話 我。
注意。この物語はフィクションです。実在の人物や団体や事象とは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観や倫理観等も同様ですので、ご了承ください。
今私達はダンジョン都市を擁するとある国の王都へと来ている。
はっきりと言えば、この国でダンジョン都市よりも大きな街はないので、王都はあそこよりも小さかった。
私が来たことある街の一つだったので、急ぎの依頼と言う事もあり今回はここに来るのに【転移】を使った。
私達は早速、この街のギルドへと赴き、そこで今回受けた依頼について受付嬢に報告すると、すぐさま奥からはギルドの責任者らしき男達が数人現れた。
彼らはそこまで優秀な者達には見えないけれど、『赤石』を付けた者が二人と、『金石』が一人である。
聞けば、この王都のギルドの最高責任者とその補佐役二人だと言う。ふむ。大したもの達には思えなかったのでこの者達については割愛するが、どうやら王宮への仲介を兼ねているらしいので、さっさと仲介しろと言ったら、『白石が生意気を言うな』『こちらの指示に従っていれば良い』『冒険者資格を剥奪されたくなければ命令を聞け』と言う様な事を言って来たので、とりあえず全員喋れなくしてやった。
私は口をパクパクと魚の様に必死に何かを訴えかけてくるやつらを、椅子に座り頬杖をつきつつ、冷たい目で見つめながら奴等が大人しくなるのを待った。
暫くして、こちらに殴り掛かろうとしたのか攻撃の意思を感じさせたので、『金石』も含めて三人共に、かつて道場青年にやってやったのと同じように足を動かなくしてやったら、ただそれだけで何も出来なくなった。
張りぼて、見せかけだけのランクに何の意味がある?と聞きながら、私は彼らのダメな部分を一つずつ指摘してやる。これは私なりの"潰し"の一つであった。
反抗的な目をして居る者は、その度に魔法で浮かし、数十回か上下に振ってやってから、また元と同じ指摘をしてやり、それでもまだ反抗的な者はそれを何度も繰り返した。
暫くして三人の吐しゃ物で部屋の中が汚れたので、それも三人に掃除させた。
……だが、掃除すらも真面に出来ないのだ。なんだこの三人は。お前らみたいな冒険者が、本当に高位ランクを名乗るのか?
まあ、その頃にはだいぶ大人しくなってきたので、私は喋れるようにしてやり、奴らの得意な事を聞いてみる。仮にも高位ランクを誇っているのだから、何かしらの理由があってしかるべきだろうと思ったのだ。
……だが、何も無かった。本当に何も無かったのである。
戦闘が出来るわけでも、魔力があるわけでもない。指揮が上手いと『金石』が吹いたので、詳しくどういう指揮をした事があるのか、それを聞いてみれば出てくるのは大した事が無い話ばかり。
もしこいつらが昔に冒険者をやりたいと言いだしていたら、三日ともたずに三人ともこの世から姿を消している。誰もやらなかったとしても、私が消してやっていた。それほどダメだ。お前らは冒険者を名乗るな。お前らとは肩を並べたくもない。
最終的に聞けば、コネだゴマすりだ権力だ処世術だと言いだしたので、どうしようもないと思い、まやかしに掛けてやった。
すると、出るわ出るわの不正の数々。
これはもう自分の手には負えないと思い面倒になった私は、三人から私達に関する記憶の全てを消し、部屋を出ていかせて、ギルドの中心で三人には延々とそれらの罪を語らせ続けさせた。
当然、その場ではそこそこの騒ぎになり、結局は王宮から兵士が出張って来る事態になる。
一応、その際に私は兵士の一人に、王宮からの依頼を受けている事を告げておいた。
まあ、報告されれば新たな仲介人くらいはやってくるだろう。それまで私達は待てばよい。
──本来、こんな事の為に私は魔法を使いたくない。私はやりたいことにのみ魔法を使いたい派だ。
当然、こんな事はやりたい事には入らないのだ。こんな事を使う為に、私は魔法を鍛えてきたわけではない。……だがまあ、牙を向けられれば反撃せざるを得なかった。
エアはそんな私の姿を近くでずっと見ていた。
冒険者の"潰し"に関する話が好きなエアだが、今回の"潰し"に関しては私の落ち込んだ姿に何かしら思う所があったのか、どこかしょぼんと元気無さそうにしている。……すまないなエア。こんな面白く無いものを見せてしまった。
私のやった事も視点を変えればただの傲慢で、独善的な行動に見えるだろう。
自分を正しいと思っての勝手な行動は、必ずどこかに歪みを生じさせるが、それと同時にそれに適応した者達にとっては、それ以外は悪になるからだ。
例えばあの三人の家族。
あの三人の事を大切に思う者達にとって、私のした事は悪以外のなにものでもない。
『あんたが余計な事をしなければ、これまで通りに私達は幸せな毎日が送れていたのに、それをあんたが全部ぶち壊した!』と言えるからだ。
……私はかつて、この問題に頭を悩ませたことがあった。
『誰かを救うための冒険者が、他の誰かを傷つけて良いわけがない』などと、青臭くも全てを救える気になったりもしてみたものだ。
──だが、結局は『無理だな』と気が付き、私は今の様に『自分の守りたいものを守る為だけ』に力を使うようになった。
それは何故か。……それはこんな私にもまだ、心があるからだ。
正直な話、嫌いな奴を救いたいと思えるほどの聖人に私はなれなかった。なりたいとも思えなかった。
私の知る唯一の聖人も『そんなの無理無理。汚い奴は死んでもいいよ』と、完全に綺麗好き目線でしかものを語っていない。
エアから私が落ち込んだように見えているのも、実際はただ『また面倒な事に巻き込まれてしまって疲れた』と言う心疲れでしかなく、彼らにまやかしを使った事にも罪悪感的なものは、全くこれっぽっちも感じてはいない。
……あの三人の家族の幸せ?知らんな。赤の他人だ。全く興味がない。
……命の価値は皆等しいだ?そんなわけあるか。大事な者達の方が重いに決まっている。そんな事を言うお馬鹿には、一度野生の獣と命掛けで戦って食い殺されてからもう一度言いに来てみろ、と言ってやりたくなる。その甘い考えも、死ぬ瞬間になら多少は変わっている事だろう。
私は魔法使いだ。
それも野生で身と心を削り、沢山のモノと引き換えに力を手にした、ただそれだけの一人の魔法使いに過ぎない。
だが、それなりの力を持つ事は自分でも理解しているが故に、周りに迷惑を掛け過ぎないようにと、ある一定以上は関わりにならない様に距離をとったり、自分の知識を押し付け過ぎたりしないようにと、自分で自分にラインを設けたりもしている。
私が他者の『名』をあまり覚えない様にしているのも、それの一つにあたる。
これだけ"まやかし"が使えれば、望めばその名を軸に相手を思いのまま操る事が出来るだろう。
周囲を全て自分の意のままに、下手したら街一つを支配する事だって簡単かも知れない。
だが、それは私のやりたい事ではないのだ。
だから、気を付けている事も地味に多いのである。
──結局、話が長くなってしまったが、要は今回『ただムカついたからやっちゃったけど、本来は不本意な事なので、もうあまりこんな事はしないようにします』と言う事である。訪れた街のギルドで毎回こんな事はしたくない。
今回も、もう少し我慢して、ただただ仲介を受け入れられれば良かったのだが……。
『いや、無理でしょ旦那』『あいつらエアちゃんにあんな事言うから!』『おばか』『当然の結果だと思いますよ!』
……そうだな。私も無理だと思った。前言撤回だ。
ただ、私的にも正直ラインぎりぎりの行為であった事も事実である。
相手が私に殴り掛かろうとして、攻撃の意思を見せて牙をむいて来たから反撃と言う形で対処したが、もう少し私も自重した方が良いと反省した。
私は何もギルドと言う組織そのものや、人の作る社会や街やルールの全てをぶち壊したいわけではない。
私はただ、大事な者達が笑っていられる場所で一緒に暮らして居たい。ただそれだけなのである。
またのお越しをお待ちしております。




