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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第101話 隠。



「おおーーー!よくやったっ!」



 私達が羽トカゲを前に暫く話し込んでいると、おそらくはこの国の者だと思われる兵士達が十数人、馬に乗ってやってきた。

 その中の一人が満面の笑みで何かを言っているみたいだが、私達からはまだ少し遠くて、ここまでは良く聞こえてこない。


 感知で彼らが近づいてくることは分かっていたのだが、エアに教える事の方が大事であった為、彼らの事は無視していた。

 それに、国に属する者達と私の相性は昔からあまり良くないので、正直あまり関わり合いたいとも思えない。



「ロム、なんか沢山人が来たね」


「ああ。この国の兵士達だろう。まあ、気にする必要はない」


「おお!エルフと鬼人族か!たった二人で倒すとは素晴らしい!お前たちは冒険者だな?」



 彼らは恐らく、この近くの砦の者達だろう。

 この『石持モドキ』は恐らくはそこを狙って飛んでいた様に見えたので、落としてなければこの羽トカゲは砦にダイブしてわちゃわちゃしていたのかもしれない。

 それを思えば、彼らが救われた気持ちになって、私達に礼を言いたくなる気持ちは分かる。

 だが、私達には元々彼らを助ける気など全くなく。ただ羽トカゲを倒したかったから来ただけなのだ。他意は全くない。お礼を言われることは筋違いですらあった。



「ああ。冒険者だ。……だが、すまないけれど、私達は君達に興味がない。こっちは勝手にやっておくので、君らは帰って貰って構わんぞ」


「おおう!流石はエルフ。中々辛辣と言うわけだな。──だが、そちらには無くても、こちらには用事があるのだ。少し話を聞かせてくれないか?もう少しでこの国が危険な魔物に襲撃されるところだったんだ。それを未然に防いでくれた勇気ある冒険者達をこのまま野放しにしたんじゃ、我々の方が怒られてしまう。良かったら歓待させてくれ。国の方からもきっと褒賞があると思う。さあ一緒に」


「ん?まもの?」



 私は彼らに興味がないと言う事をハッキリ告げたのだが、彼らの方が私達に用事があると言う。

 それも、おそらくは私が最も嫌いな理由であろう。親切の押し売りとまではいわないが、こういう状況には心当たりがあった。凄く面倒な話になりそうな雰囲気である。……聞かなかった事にして、逃げてはダメだろうか。


 だが、エアの方がやってきた兵士の話に食いついてしまっている。

 それも話の内容と言うよりは、どちらかと言うと彼が羽トカゲを魔物と呼んだことが気になるらしい。

 『どうしよう、これは言った方がいいのかな?今じゃないかな?あの人は兵士だから違うかな』とうずうずしているエアの姿が見えた。



 ……あーこれは。そう言えば、少し昔エアに『ドラゴンを魔物扱いするのは"二流冒険者"である』と、『石持』について説明した時に教えた覚えが私にはある。

 だから、もしかしたらエアはあの兵士に向かって、それを言ってやろうか、どうしようかと悩んでいるのかもしれないと私は察した。



 密かにこういう冒険者同士のやり取り的な話がエアは大好きで、いつかは相手に"冒険者マウント"を取ってみたいと言う小さな憧れを持っている事を私は知っている。そのために沢山勉強したこともだ。


 だがしかし、エアが案じている通り、この場合相手が兵士なので、ここで『お前は二流冒険者だ!』なんて言っても『へ、兵士なんだが?』と返されて終わってしまうだろう。それではダメなのだ。

 だけど、それでも『一度は言ってみたいな』『どうしようかな』とソワソワしているのが分かった。



 そもそも何故、"冒険者マウント"を取りたいのか。そこには楽しい秘密が隠されているからである。

 私が昔に冒険者として精力的に活動していた時代、その当時は基本的にみな言葉が粗く、汚い罵り合いが日常で、それが挨拶にすらなっていた。


 その上誰が考えたのか、ある日から、冒険者用語なるものが流行り出し、『よお!クソッタレが!テメエまだ死んでなかったのか!』と片方が挨拶すると、『うるせえ馬鹿野郎!テメエとは違うんだよ!このゴミ屑がぁ!』と言う返しをしたとする。



 すると、この場合の翻訳としては、『おはようございます!良い朝ですね!元気そうで何よりです!今日も頑張っていきましょう!』と言う朝の挨拶に対して、『おはようございます!そちらは今日も景気が良さそうですね!私も見習いたいです!一緒に頑張っていきましょう!』と言う返しをしたと言う事になるのである。


 これが冒険者同士の専門隠語であり、みなはそれを『冒険者用語』として認識していた。


 先ほどのも基本的に知り合い同士や、仲の良いもの同士が使う場合の冒険者用語で、それ以外にも『敵対的冒険者同士バージョン』や、『初対面冒険者同士バージョン』等の専門隠語冒険者用語集もあり、これが好きなものは一生この言葉だけで会話する事が出来たのである。


 私はそこまで活用していたわけではないが、まあ一部は未だに知っているし、たまに使うこともある。

 ただ、エアはこの話を最初に聞いた時から、『冒険者っておもしろそう!』とキラキラと瞳を輝かせていたので、それが今の時代、使う機会がほぼ無い事に飢えていると言うのも知っていた。



 だが、やはりせっかく覚えた知識は、披露したくなるのが人情というものである。

 ……しょうがない。後の事は私がどうにかする事にして、この折角の好機を、エアに精一杯楽しんで体験して貰うことにしようか。うむ。それがいい。



「エア、言ってやりなさい」


「えっ!?良いのっ!!」



 相手は冒険者じゃないからと、何とか踏みとどまっていたエアの冒険者マウント欲が、私が許可を出したことで一気に溢れ出してしまった。

 普通ならば『えっ、でも相手の人は兵士だよ?』とか聞いて来そうなものなのに、『良いのねっ!じゃあ言っちゃうねっ!』と言う、喜びいっぱいの笑顔なのだから、私にはもう止める事など出来そうにない。……うむ。後の事は任せて、腹の底から言っちゃってください。




「ゴホン……んー、んー。こほん。テメエら二流がしゃしゃり出てくんじゃねーぞぉおらぁ!身の程を弁えろってんだ、くそがあぁ!テメエらみてえな『ぴーー』が『ぴーーーーーーーー』して『ぴーー』だから『ぴーーーーーーーーーーーー』!」



 ──ふむ。時代って、変わって良かったのかもしれない。



 エアの口から出てくるとは信じられない隠語の数々に、私は古き良き時代のダメな部分をまざまざと見せつけられたような気がした。

 時代の変化で冒険者が変わってしまった事を今まで散々嘆いてきた方の私ではあるが、今時の冒険者がクリーンで賢い者ばかりになって、ほんと変わって良かったなって、この時になって初めて思ったのである。


 それに、よりにもよって、エアがチョイスした冒険者用語のバージョンが、一番酷い語録が揃っていると噂の『敵対的冒険者同士バージョン』だとは正直私も思っていなかった。きっと『初対面冒険者同士バージョン』だとばかり……。大樹の森の家の書庫にまだ残っていたかぁ……。



 ──さて、問題は此処からである。私はこれを上手くフォローする事が果たして出来るのであろうか。


 だが、やるしかないのだ。やるしか。

 あれだけの罵詈雑言を全部言い放ったエアの方は、言えただけでもう充分に満足したらしく、満面の笑みで『ロム!私できたよっ!』と嬉しそうに顔を向けてきている。この笑顔を誰が否定できようか。いやできまい!


 そうなったらもう、私には『よくできた!完璧だったぞ!』と褒める事以外の選択肢はないのである。



 ……だが当然、よく見なくても分かる程に、言われた方の兵士さん達の顔は皆、空焚きした鉄鍋みたいに真っ赤になっているのであった。




またのお越しをお待ちしております。






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― 新着の感想 ―
[気になる点] 昔はそれなりにたくさんいたみたいですけど今はどのくらいの数が残ってるんでしょうか、トカゲ君たち まがりなりにも空中戦最強の生物なので今の人間たちの手には余りそうですけど [一言] ─…
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