中二病 哲学的ゾンビ
6月
高校入学を終え、新しい環境に慣れ、初対面の同級生から友人へと親交を深めているクラスメイト達
僕、河内悠馬もそれなりに交流をし、友人と言って差し支えのないクラスメイトも数人居る
しかし、僕は人を心の底から友達と思えない心の病に罹っていた
思考実験 『哲学的ゾンビ』
僕はこの実験の存在を知った時、体に電気が走ったかのような錯覚に陥った
まさに自分が所謂友人達に抱いていた靄がかった感情の文章化のような実験だったからだ
仲良く遊んでいる友人、その友人のふとした拍子の表情
一瞬の視線の動き、同じ遊具でも楽しいと感じる瞬間が違う時
彼は彼女は、『今、どんな気持ちなんだろう』と考えた時いつも答えは出なかった
その考えを親・教師・友人達誰に質問しても明確な答えは返ってこなかった
そうこうしていると自分を介さず見知らぬ人と人の交流を外側から眺めるという時間が増えた
しかし、人達はそんな事は誰も気にしていない様だった
相手の心なんて分からなくても友人なんて言えるのか
相手が何を喜び怒り悲しみ楽しむのかを本気で分からず友人なんて言えるのか
そんな小学校時代
そして哲学的ゾンビに出会う
自分以外の人は全て哲学的ゾンビであり人ではない
故に心を持たず、超常的存在によりデザインされた人ならざる存在であり
故に心を持つ自分とは相いれない存在なのである
この実験を知った時、僕は自分が救われたと感じた
それまでは自分は人の心の分からない異常な人間なのではないか
とてつもなく冷たい計算高い人間なのではないか
そう悩んでいたのが、実は自分以外の全員が心が無かったと知った時
どれだけ楽になっただろうか
それからは、心の無い人間に見えるゾンビと親交を深める必要も無いと思い
ただひたすら一人で過ごす
そんな中学時代
そして高校入学
実は中学時代は少し後悔していた
自分以外の人間は心は無いが、別に敵ではなかったのだ
心のないゾンビに友好的態度をとる事は変ではなかったのだ
哲学的ゾンビの発見の喜びに興奮していた僕は、周りは全て敵だ
と考えてしまっていた
故に学校では孤立し不審がられ、家では依然までと違ってしまいいじめられているのではと心配を掛け
分かりやすく言えばグレていた
高校の入学を機に、人当たりを変え、傍目には数人の友人関係を築いている存在
そんな風に認識されている自覚もあった
始めて言葉を交わす人にもごく自然に打ち解けていたと思う
そうして高校入学から2か月程経ち、クラスが形になってきたと思った時
いつものHR
担任が紹介した人物に僕の心は搔き乱された
担任「今日は、新しく皆の仲間になる子を紹介するぞー」
ガヤガヤと騒がしくなる教室
「あの噂ほんとかな?」
「いや流石にないでしょ」
「でも今朝見かけたって人がいたよ」
「誰だよそれ、またフカしじゃないの?」
皆、隣の席の友人に口々に話す
担任「おーい、とりあえず話が先に進まないから黙れー、もう噂が出回ってるようだが転校生だ。入って来なさい」
担任の教師が最後の一文だけ教室の外へ向け声を発すると
ガラッと扉が開き
一人の少女が入って来た
スラっと伸びた真っ白な足
肩まで伸びた黒髪
前髪は右目の上から左へ流しピンで留め
黒縁のメガネに隠れているのは
大きくキラキラした、しかしその奥で少し陰りを見せる目
高校一年生にしては起伏に富んだ肢体
高く形の整った鼻
口数の少なさを思わせる小ぶりな唇
視線を誘導される左目の涙ホクロと喉元のホクロ
鞄を持つ指は美しく長く、爪もキラキラと輝いてる
「渡辺虹佳です。よろしくお願いします」
自己紹介を終え、スンっとしている彼女を見て
僕はかつて中学生の時に覚えた感覚である
体に電気が走った錯覚を
寸分違わず覚えたのだった