第7章
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「余命、一ケ月です。」
「・・・・。」
・・・・え?
・・・・。誰、が?
「・・・・・。」
・・・・余命。・・・・
・・・・。よめい・・・・?
「数値からして言えば。」
「・・・・。」
「生きているのが、不思議な。・・・・位です。」
・・・・へぇ。・・・・なんか。すげぇじゃん。
少しだけ。誇らしいような、気持ちになる。
「残念ですが。・・・・こうなってしまったら。もう、手の、施しようがありません。」
そんな台詞。
どこかで聞いた事、あり過ぎて。・・・・笑える。
「・・・・。え?おれのこと?」
いま思い返してみると。
赤面しそうなくらい。恥ずかしい。・・・・事を聞いた。
この時。くらいだよな。少しだけ。・・・・そう言って、焦ったのは。
それでも医者は。少しも。笑いもせずに。
「ご家族は?」そう、淀みなく聞く。
「・・・・いない。」
「では。・・・・」
淡々と、話を続ける。
「今後の、方針について。一緒に。考えて、行きましょう。」
「・・・・。」
意外にも、そんな風に。真剣な顔して。おれにそう言うから。
その時に、おれは初めて。
あ。これは・・・・現実なんだなって。初めて。思ったんだ。
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おれの父親は。
船で沖に出て。魚を獲って来る、仕事をしてた。
母ちゃんは。陸でそれを待つ。
晩飯の食卓に並ぶのは、毎日毎日、来る日も来る日も、ほんと、ほとんど、魚ばっかりで。
外に出ても。家ん中も。いつも、いつも・・・・
潮と、魚の匂いがしてた。
おれの友達は海と風。
生まれた時からずっとそう。
じゃれて、遊んで。
時に厳しく。時に。・・・・優しく。
ずっと。そうして、おれに。・・・・寄せては返し、色々な表情を見せてはいつも。
どんな時でも。・・・・
そうして、結局、最後には変わらない顔しては。いつも。・・・・
おれに。いつだって、寄り添って、くれていた。
でも、おれは。・・・・その、海に。・・・・波に。
全てを。さらわれた。
あの日。忘れもしない。
あの一瞬で。おれは。・・・・
両親も。船も、町も港も。
全てを、その大きな口を開けた黒い海の中に、深く、飲み込まれた。
優しかったあの、蒼い海は。
全てをそうして。真っ黒く塗りつぶし。何も無かった、事にして。・・・・
また、何ごとも、なかったかのように。
そうして。・・・・また。
蒼色の、静かな海へと、還っていった。
「・・・・普通、せめて。・・・・三ケ月くらい、あるものじゃ、ないんですか?」
思うまま。そんな事、言ったおれに。
眼鏡の先生は、初めてほんの少しだけ、口の端を歪ませるようにして上げた。
「もっと早くわかっていれば。治療の方法も、あったのですが。・・・・」
「・・・・。」
・・・だって何の。症状も、なかったしな。・・・・
多少、熱っぽかったり。だるかったり。
たまに、動けなくなったりした時も。あったけど。・・・・
貧血でぶっ倒れたり、物食べらんなくなったり・・・
・・・・。あ、なんだよ。
おれは笑う。
・・・・。症状、ありまくりじゃんか。
だめだね、おれ。
あれから。ほんと、だめだね。・・・・母ちゃん。
ぼんやりとした。灰色の。そんな思考からおれを、呼び戻してくれたのは。
ぽんぽん。
「・・・・。」
この時も。やっぱり・・・・まだ隣にいた。こいつだった。
「・・・・。」
寝ているおれの。膝を叩く。
「・・・何か嫌なこと。・・・・思い出しちゃった。・・・・?」
「思い出させたのは。おまえじゃんかよ。」
「ごめんなさい。・・・・」
「・・・・。」
素直にあやまる。こいつが可愛くて。
おれは言う。
「余命、一ヶ月だって。」
「・・・・。」
「そう・・・・言われて。一週間経つから。あと三週間だな。」
「・・・・。」
「こんなに、元気なのにさ。」
「元気じゃ、ないじゃない。」
彼が、何本もの管で繋がれた、おれを見て言う。
「・・・・だいたいがさ。こんなのいらねぇんだよ。どうせ、死ぬんだからさ。放っといてくれって。話だよ。」
「放っとけませんよ。」
「・・・・。」
彼が。おれをまたじっと。見つめる。
「・・・・ほっとけない。」
・・・そんな。瞳で見つめられると、・・・・さ・・・・、
おれ。・・・・
何でもおまえの言うこと。聞きたくなるな。
「死ぬのは。・・・・怖い。・・・・?」
「怖くねぇよ。」
これは。ほんと。・・・・全然、怖くも。何ともない。
「だからあなたの事。・・・・放っとけないの。」
「・・・。」
「放っとけない。」
彼が。おれを見てそう、小さく呟いた。
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