第6章
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「もぅ。」
・・・・甘い。・・・・甘ったるい。誰かに甘えてるような、声だな、と思った。
たまんねーな。
ゆるくまぶたを持ち上げたら天井。
「・・・。」
気がついたら。ベッドの上でただ目を開けて。
見慣れた白い空。・・・・じゃねぇ。
白い天井を。じっと、見つめていた。
首を声がした方に。くるりと向ける。
目の前に。あいつがいた。
「・・・。」
これは。・・・・夢、か。・・・・? それとも。・・・・
・・・、幻。・・・・?
「歩き回るから。」その唇が言う。
「うん。・・・・」おれはそれを、じっと見つめて。
「今朝は昇圧剤、飲んだんですか?」
「飲んだよ。」
「煙草は?」
「吸った。」
「もう。・・・・、僕に隠れて。どこで、吸ったの。・・・・?」
やっぱり、甘くて。・・・・
優しく、おれに甘えて咎めるように。
おまえが、そう言った。
「煙草は、もうダメですよ。」
「・・・・。」
「血管を収縮させるから。ただでさえ。血の巡りが悪いって言うのに。・・・・」
「おまえの、名前。」
「・・・・。」
「なぎさって、読むの?」
「もぅ。・・・・聞いてる。?」
「聞いてるよ。」
おれは笑って。
「おまえこそ、おれの話、聞いてんのかよ。」
「・・・・。」
「なぎさ?」
「はい。」
・・・・従順に。返事を返されて。
また、ドギマギする。
ヤばいよ、また。・・・・ぶっ倒れちゃうよ。・・・・
「・・・・そっか。・・・・女に、間違われない?」
「いえ、特に。」
「そっか。」
おれそっか、しか。・・・・言ってない。
「あまり。そういう事は。・・・・考えないで。つけたみたいです、両親が。」
「そっか。」
彼が笑う。
やべぇ。超、恥ずかしい。・・・・でも。・・・・そっか。・・・・
「いい、名前だな。」
やっぱり。なぎさ、か。・・・・
「ありがとう、ございます。あなたのも。とってもいい名前。」
「・・・・。」
「由来とか。あるんですか?」
「・・・・。別に。そのまんまじゃん。」
おれは笑って。
「武士って書くなんてさ。ほんと恥ずかしいっつぅか。やめて欲しいって言うか。」
「ふふ。」
「それに、幸田だぜ。・・・・一歩、間違えば。・・・・ジャイアンだよ。」
「・・・・。?」
「散々からかわれたよ。子供ん時から、・・・・ったく。」
そう言えば、と急に思い出して。悪態を、つく。
そうだ、おれはこの。名前のせいで。この、名前を知った相手はその途端。
え?・・・なんつって、
わざと、聞き返されたり。からかわれたり。
子供の頃からさ。
たまに、ぷっと、噴き出されたかと思えば。一歩、身を引かれて、ためつすがめつ、ジロジロ眺めてなるほどね、なんて言われたりする事もあって。
そう言う奴は大抵、スネ夫みたいな意地悪そうな・・・・顔しててさ。
なんだよおまえは・・・・やんのか?
中学にもなるとおれはほんとにそうやって、自分から威嚇するように、こぶしを振り上げた。
それでもしつこくからかって来る奴には。てめぇっつって本気で殴りかかって。一発痛いのをお見舞いして。・・・・って。ほらな。
結局。
名は体を、現わすんだ。
「とにかく、そういう訳で。おれ、名前にはコンプレックスあんの。」
「素敵な、名前なのに。」
そう言って、なぎさが笑いながら、おれの点滴のダイヤルを回して調節しながら、おれを見る。
「・・・・んな事言ってもらったの、初めて。」
その。魅惑的な薄茶色の、瞳で。・・・・
「・・・・。おまえは・・・・名前まで。・・・・なんか、綺麗、だね。」
おれも思わずそんな事言って。じっと。彼の瞳を見つめ、返した。
視線が、絡み合う。・・・・
何か、一瞬思いついた事を、聞こうとして口を開いたら。
あいつが。すかさずこう聞いた。
「余命は?」
「・・・・。」思わず口を、つぐむ。
「何て。・・・・聞かされて、いますか?」
「なんで。」
「・・・・。」
「おまえにそんな事。言わなくちゃ、ならないの?」
ぷいと。そっぽを向いて目を閉じる。
・・・・なにも。感じない。
そんな事言われても。何も。・・・・感じない。
最初に、言われた時から。そうだった。
銀色の縁の眼鏡に白衣を羽織った、どこにでもいそうな、医者の目の前に座って。
おれは。その日軽い気持ちでただ、検査の結果を、聞きに行った。
・・・だけの。つもりだった。
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