第26章
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「・・・そうだな初めて死にたいと。思った時は母ちゃん、見つけた時。」
「・・・。」
「びっくり、したんだよぺちゃんこな泥人形みたいに、なっちまっててさ。」
「たけし。・・・」
「大丈夫。」
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「色々、考えんだよ。もしおれがもう少し早く、帰ってたら、とかさ。もっと早く。・・・見つけて。あげられたら、とかさ。そしたら母ちゃん、助かったのかな、とかさ。」
「・・・。」
「状況が、わかんねぇから。色々考える。」
「・・・。」・・・なぎが。苦しげに眉の根に皺を寄せる。
「・・それでもって、そのあとは怒り、な。誰にぶつけてもいいか、わかんねぇすげぇ怒りが、湧いて来て。」
「・・・。」
「なんで母ちゃんこんな目にって、さ。そこら辺のもんに、散々、当たって、当たり散らして。」
瓦礫の山を、家の残骸を、手当たり次第に投げ付けて。蹴り上げて手も、足も傷つけて、血だらけに、なって・・・
「荒れて、疲れて。・・・身も、心もズタズタに廃れて。廃れ切って。」
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「で。そこでだ。」
「・・・・。」
「そうすると。やって来る。」
夜の。・・・闇とともに。・・・やって来るんだ。
「うつって、誰でもなるんだってな。」
「・・・そう。そうだよ。」
「ぅん。おれ多分、そうだったと思う。今思えば。・・・」
「・・・。」
「眠れねぇの。」
「・・・。辛いね。」
「ん。気が狂いそうになんだよ。・・・ほんとに。」
「・・・・。」
「でも多かれ少なかれ、みんな、そうでさ。」
「・・・。」
「だから、気づかないの。自分がそうだって、事にさ。一番ヤバい、状況な。」
「・・・そうだね。」
「そう。・・・でもおれさ。すげぇ、忙しかったんだよ。」
「・・・・。」
「それが、良かったのかも。父ちゃんも、一週間後に見つかってさ。」
「ぅん・・・」
「おれ。・・・その時には。正直良かったって。思ったわ。」
「・・・・。」
「一番最初に思ったのは、それ。めちゃめちゃんなった家の中から缶ビール、見つけてさ、中身そこに・・・あけてさ、」
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「父ちゃんも、飲みなよって、ひと晩中。・・・酒盛りしながら。あんな、母ちゃんを。父ちゃんが見なくて良かったって。思った。」
「・・・・・。」
「自分の惚れた女を、・・・さ。その、最後をさ。・・・あんな姿を。父ちゃんが、見なくて良かったって。そう、思った。」
「・・・・。」
「一緒に。一緒の墓に、入れて、あげれたしさ。青森まで行って。一緒に焼いて来たの。ほんとに。・・・大変だったな、あの頃は。」
「頑張ったね。たけし。・・・頑張ったね。」
「・・・・・。」
なぎの。顔が見れなかった。
「ま、ね。」おれは、軽く言って。
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「おれ、なんもして来なかったから。最後くらい。頑張ろって。それだけ、思ってさ。だから。・・・それだけ、だよ。」
「・・・。」
「そん時思ってたのは、それだけ。そんなもんだよ、ただガムシャラに、やる事やって、疲れて寝て起きて。食う事も忘れるくらい。」・・・。必死に、父ちゃんを探して。
・・・リミットは、72時間だと・・・聞いた。
その時間の中なら、まだ生きてる可能性が、・・・あるらしい。だから3日目までは。避難所を何件も、尋ねて捜し歩いた。
もしかしたらどこかで・・・生きてるかもしれないと、思って・・・でもそれを過ぎ、何人かの港の人間の消息を・・・知るうちに。
「・・・。」
今度は足が棒になるくらい。毎日、瓦礫の山を超えて、安置所で。何人もの。遺体のリストを見て、顔を覗き込んで確認した。
・・・一緒に、母ちゃんが焼かれる前に。何とか見つけてやんないと。・・・・・
港から、波に流された方角にばかり赴き、探してたおれは。
ふと、まさか、もしかしたらと思いついた、
地元の方、家の辺りをまた探し始めた途端すぐに、父ちゃんが乗っかった、ままの車が、見つかった。
消防の裏手の、吹き溜まりの中、瓦礫に半分埋まったまま。・・・・
・・・・何だよ、・・・こっちにまで、・・・戻って来てたのかよ、
まだ泥の残る、道の上に思わず、へたり込んだ。
・・・すげぇな父ちゃん・・・よく、ここまで、・・・・
こんなとこまで・・・よく、戻って来たな・・・・
・・・こんな、・・・・
・・・ところにまで・・・・・
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同時に。考えた、
やっぱり、あの時・・・・・
真っ直ぐ家に、向かっていたら。・・・・
イチかバチかなんて、・・・その時はその時だなんて・・・考えずに、
真っ直ぐ家へ帰っていたら、
「・・・。」
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そしたら、もしかしたら母ちゃんを、助けてあげられたのかも・・・・・
声を、上げて。
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泣いたのは、この時が震災後、初めての、事だった。
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「・・・生きなくちゃって、それまでは。父ちゃん見つかるまでは死んでる暇なんてねぇって。考えてた、その時くらいが。」
「・・・。」
「・・・おれが必死で。」
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「本気で生きたって。思えた。時なのかな。」
気がつくと。
なぎが前を向いて、はらはらと。涙を流して、いた。
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