表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「A」  作者: みんと*
26/64

第26章


「・・・そうだな初めて死にたいと。思った時は母ちゃん、見つけた時。」


「・・・。」


「びっくり、したんだよぺちゃんこな泥人形みたいに、なっちまっててさ。」


「たけし。・・・」


「大丈夫。」



「色々、考えんだよ。もしおれがもう少し早く、帰ってたら、とかさ。もっと早く。・・・見つけて。あげられたら、とかさ。そしたら母ちゃん、助かったのかな、とかさ。」


「・・・。」


「状況が、わかんねぇから。色々考える。」


「・・・。」・・・なぎが。苦しげに眉の根に皺を寄せる。


「・・それでもって、そのあとは怒り、な。誰にぶつけてもいいか、わかんねぇすげぇ怒りが、湧いて来て。」


「・・・。」


「なんで母ちゃんこんな目にって、さ。そこら辺のもんに、散々、当たって、当たり散らして。」


瓦礫の山を、家の残骸を、手当たり次第に投げ付けて。蹴り上げて手も、足も傷つけて、血だらけに、なって・・・


「荒れて、疲れて。・・・身も、心もズタズタに廃れて。廃れ切って。」



「で。そこでだ。」


「・・・・。」



「そうすると。やって来る。」



夜の。・・・闇とともに。・・・やって来るんだ。







「うつって、誰でもなるんだってな。」


「・・・そう。そうだよ。」


「ぅん。おれ多分、そうだったと思う。今思えば。・・・」


「・・・。」


「眠れねぇの。」


「・・・。辛いね。」


「ん。気が狂いそうになんだよ。・・・ほんとに。」


「・・・・。」


「でも多かれ少なかれ、みんな、そうでさ。」


「・・・。」


「だから、気づかないの。自分がそうだって、事にさ。一番ヤバい、状況な。」


「・・・そうだね。」


「そう。・・・でもおれさ。すげぇ、忙しかったんだよ。」


「・・・・。」


「それが、良かったのかも。父ちゃんも、一週間後に見つかってさ。」


「ぅん・・・」


「おれ。・・・その時には。正直良かったって。思ったわ。」


「・・・・。」


「一番最初に思ったのは、それ。めちゃめちゃんなった家の中から缶ビール、見つけてさ、中身そこに・・・あけてさ、」



「父ちゃんも、飲みなよって、ひと晩中。・・・酒盛りしながら。あんな、母ちゃんを。父ちゃんが見なくて良かったって。思った。」


「・・・・・。」


「自分の惚れた女を、・・・さ。その、最後をさ。・・・あんな姿を。父ちゃんが、見なくて良かったって。そう、思った。」


「・・・・。」


「一緒に。一緒の墓に、入れて、あげれたしさ。青森まで行って。一緒に焼いて来たの。ほんとに。・・・大変だったな、あの頃は。」




「頑張ったね。たけし。・・・頑張ったね。」


「・・・・・。」


なぎの。顔が見れなかった。


「ま、ね。」おれは、軽く言って。



「おれ、なんもして来なかったから。最後くらい。頑張ろって。それだけ、思ってさ。だから。・・・それだけ、だよ。」


「・・・。」



「そん時思ってたのは、それだけ。そんなもんだよ、ただガムシャラに、やる事やって、疲れて寝て起きて。食う事も忘れるくらい。」・・・。必死に、父ちゃんを探して。





・・・リミットは、72時間だと・・・聞いた。


その時間の中なら、まだ生きてる可能性が、・・・あるらしい。だから3日目までは。避難所を何件も、尋ねて捜し歩いた。


もしかしたらどこかで・・・生きてるかもしれないと、思って・・・でもそれを過ぎ、何人かの港の人間の消息を・・・知るうちに。



「・・・。」



今度は足が棒になるくらい。毎日、瓦礫の山を超えて、安置所で。何人もの。遺体のリストを見て、顔を覗き込んで確認した。



・・・一緒に、母ちゃんが焼かれる前に。何とか見つけてやんないと。・・・・・



港から、波に流された方角にばかり赴き、探してたおれは。


ふと、まさか、もしかしたらと思いついた、


地元の方、家の辺りをまた探し始めた途端すぐに、父ちゃんが乗っかった、ままの車が、見つかった。



消防の裏手の、吹き溜まりの中、瓦礫に半分埋まったまま。・・・・




・・・・何だよ、・・・こっちにまで、・・・戻って来てたのかよ、


まだ泥の残る、道の上に思わず、へたり込んだ。



・・・すげぇな父ちゃん・・・よく、ここまで、・・・・


こんなとこまで・・・よく、戻って来たな・・・・


・・・こんな、・・・・



・・・ところにまで・・・・・





同時に。考えた、


やっぱり、あの時・・・・・


真っ直ぐ家に、向かっていたら。・・・・


イチかバチかなんて、・・・その時はその時だなんて・・・考えずに、


真っ直ぐ家へ帰っていたら、


「・・・。」




そしたら、もしかしたら母ちゃんを、助けてあげられたのかも・・・・・


声を、上げて。



泣いたのは、この時が震災後、初めての、事だった。





「・・・生きなくちゃって、それまでは。父ちゃん見つかるまでは死んでる暇なんてねぇって。考えてた、その時くらいが。」


「・・・。」


「・・・おれが必死で。」



「本気で生きたって。思えた。時なのかな。」



気がつくと。


なぎが前を向いて、はらはらと。涙を流して、いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ