第24章
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「何か誤解。・・・してませんか。・・・」
「・・・。」遠慮がちに。なぎがそう、後ろから、問いかける。
「何がだよ。」初めて、口を開く。ちらりと。まだなぎの手の中にある、その紙を忌々しい思いで、見つめながら。・・・・・
おれは。ショックだった。自分がそう、見られていた事が。
仕事。・・・そう、言われて。
そんな事。言われて割り切って・・・おれを見ていた事が。そんな風に、見られていた事がとても。・・・ショックだった。
わかってる。
そんな事初めから、分かってる。・・・・
仕事なんだって、
言われなくたって、わかってる・・・・
それでもって、
「あなたが自殺をするとは。」
「・・・。」
「考えては、いません。」
「・・・。んな事どーだって、」
「・・・。」
「いいんだよ。」そんな事。
おまえに関係ない。
「だからこの紙を。・・・見せました。翼には、止められましたけど。」
ぴくりと耳を、傾ける。翼。・・・・その、また忌々しい、名前を聞いて。
「・・・あいつが何って。言ってんだよ。」おれの、ライバル。
・・・ライバルって。言うか。・・・今んとこの、恋敵・・・みたいな、もんだ。・・・なぎを、見つめる。
「少し座って、話しませんか。・・・?」
「・・・・。」
大人しく。促されるまま、車椅子を押され。
また、銀杏で埋まるベンチに、移って。驚くほど手際良くなぎが枯葉を払うと、一緒にそこに、腰を掛けた。
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「少し、話してもいいですか。・・・?」隣の、おれを見る。
「だから、座ってんじゃんかよ。」どうして、おれは。こんな言い方しかできないのか。・・・・はぁ、と少しだけ。
ため息を、もらす。
「疲れた。・・・?」なぎが言う。
「・・・。」無言で。返事を返す。
「・・・大丈夫?」おれの顔を、心配そうに、覗き込んで。
・・・そんな仕草でさえ、今は。
嘘みたいに感じる。
「・・・大丈夫だって。」
「無理しないで、すぐに言って下さい、モニターを付けてないから。・・・心配だな。・・・・」
「・・・。」例え嘘でも、とすぐに、思わず、思い直す。
憂い顔が、やっぱりたまらなく、綺麗で。・・・・
触れたくて。思わず、おまえに手を伸ばしそうに、なる。こればっかりはだって、・・・仕方ない、じゃんか。・・・おれだって、
生身の、人間だ。
・・・今んとこは。
ぎゅっと手の平を、握る。
あまりこれ以上は、近付かないほうがいい。
おれは、少しだけ。ベンチの端に寄った。
「・・・。はぁ、」今度はなぎが、ため息を、漏らす。
「一日に50人。」
「・・・。」
「この国で自殺をする人がいるって。知っていますか。・・・?」なぎが静かに、話を始めた。
「未遂を含めたら未知数の人達が、・・・」
「知ってるよ。」おれは言う。
「・・・。」
「細けぇ数字は知らないけど、あのあとだって、いっぱい見て来た。」
「・・・・。」
そう、本当に大変なのは。・・・まず、生きてく事だ。
おれはあの後に知る。面倒な、ことばかりだ。生きてくって事は。
今までそんな。面倒な事一切合切、おれは親に頼りきって、生きて来た。
そんな事をそうだな。親が亡くなってから改めて。おれは・・・初めて、知る事になる。
「でもさ。」
「・・・。」
「家もない。金もない、それなのに仕事も家族も。全部全部なくなっちゃってさ。」
「・・・・。」
「もう、生きてる意味がない。死にてぇなんて思っちゃう事なんて。・・・仕方のない、ことだろ?」おれは言う。
「どうして。死にたいと思うと思う?」そのおれの問いには答えず、なぎが言う。
「・・・。」そりゃぁ。・・・・
「生きてても、仕方ないって思うからだよ。」
「違う。」
「・・・。」
「何が。・・・違うんだよ。」
その珍しく強い、口調に。思わずなぎを、見つめた。
「死にたいと思うことと、生きてても仕方ないと。思う事とは違う。」
「難しいこと言われても。おれわかんねぇよ、ばかだから。」
「違う。」
「・・・。」
「あなたは、馬鹿じゃない、・・・だからいま。・・・生きている。」
「・・・・。」
「自殺、する人はね、死に。・・・憧れるの。」
「・・・。」
「生きることと死ぬことを天秤にかけて。死ぬほうが、楽になれると。魅力的だと・・・そう、思うの。だから死を、選ぶの。」・・・本当の。・・・死の意味が何かも。わからないまま。・・・・
死に魅了され、まるで恋にでも堕ちるように、・・・盲目的に、それを、・・・選んでしまう。
「生きたい・・・と思うより強く、死にたいと・・・思って、しまうの。」
「・・確かに。」
「・・・。」
「そりゃそうだろ、じゃなけりゃ、わざわざそっち行こうとは、思わねぇよ。」
「・・・そぅ、だから死を、恐れるうちはまだ、大丈夫。」
「・・・。」
「自分で死を選んだりはしない。」その、畏れを肌身に感じているから。
人はそうして、・・・日々死と向かい合い、生きている。
「そう、思っていたの、知っていたの僕たちは。・・・でも、毅は違った。」
「・・・。」
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「毅。・・・?」おれは思わずそう、口にする。
「そう、彼はもう。・・・何度も。自殺、未遂を起こしている。」
「うそ。」
おれは言う。
「・・・ほんと。」
「・・・・。」
「ほんとなの。」なぎがおれを、じっと見つめた。
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