表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「A」  作者: みんと*
22/64

第22章



「なんだよ。」


「ふふ、」


「水族館じゃねぇか。」


「すいません。」


「・・・。」


「海までは、遠くて。」


「別に。・・・いいけど。」


そのまま。なぎが連れてって、くれたのは。ここら辺では一番有名らしい。近くの、水族館だった。



「・・・。へぇ。・・・・」


わざわざ魚なんて。見に行ったことないおれは。


巨大な水槽を、てっぺんまで。・・・・見上げて。


「・・・はじめて。見た。・・・」


「ふふ。」頭の、上からなぎの。笑い声がする。


「・・・。」車椅子を、押されて。


パジャマの上に、コート羽織った、ままで。てっきりそのうちの話だと思ってた、おれは。


足元は外履き用のサンダルの、・・・ままだ。



・・・そのうちなんて言ってたら、行けなくなるか。



もじもじ、と。その足を動かして。気恥かしさを、隠して。また水槽を。・・・見上げる。


泡立つ水の中で、いわしがダンスする。



「・・・こいつら、笑っちゃうな。」


「え?」


「こんなおシャレなとこ入れられてよ。幸せだな、こいつら。」そう言って、見上げると。なぎが可愛い、顔して、微笑む。

 

その笑顔が眩しくて。おれは目を逸らす。





「・・・。」僕は、翼との会話を、思い出していた。



「言わない方がいい。」


「どうして。」


「ルール違反だよ、渚。」


「・・・・ルールなんて、関係ない。たけしを、楽にして、あげたい。」


「ナギ。・・・・」翼が難しい顔をして、溜息を、つく。


「一生懸命になることは、いい事だけど。ごめん、今回は。こっちの事も考えて?」


「・・・・。」


翼がここまで言うのも。無理はない。


僕たちが、自分の患者さんとなった人に、そこまで話すのは。立派な規約違反だ。


でも思わず僕は、言ってしまった。


懸命に、死を恐れる毅に、自分のつらい、思い出までを絞り出して。

 

少しでも、その死に寄り添おうと。その死への、恐れを軽くしようと。


身を削り。・・・無意識に。まさに、身を削るように、それをしようとしている、彼を見て。


つい、話してしまった。僕も。・・・その、思いに寄り添いたくて。


「相乗効果を狙っています。」


・・・あなたが。楽に、なればいい。


それを、誰かに話す、事によって。


誰かに聞いてもらう。事によって。それがあなたの。・・・救いに、赦しに・・・なればいい。


それが。その相手が僕だったら。もっと。・・・良かったのだけれど。


天井まである。大きな水槽を覗き見て。


「おれんとこじゃさ、もっと色んな魚、いたわ。」


「・・・。」


「オオガイ、セッパ、コノシロ、うなぎ、だろ・・・イワシ、サバ、スズキ、ヒラメ、カレイ、ワタリガニ、モズクガニ、・・あ、カニは魚じゃねぇか。」・・・そう、まるで。子供みたいに。


嬉しそうに、子供の頃に。・・・戻った、みたいに。楽しげに、得意そうに。


指を折り、きらきらとした目で水槽を仰ぎ、懐かしい、記憶を辿る、あなたを見て。

 

その、折れても、まだ。・・・綺麗に伸びる指先を、うっとりと。ただ、眺めて、いた。



車椅子を押す。「やめてくれよ。・・・」そう言うたけしに、言って聞かせた。


「体力は温存してください。自分が思ってるよりずっと、・・・」


「・・・。わかったよ。」今日は少しだけ。素直だ。その証拠に、


「なぎ。」


「はぃ?」


「・・さんきゅ。」


・・・。僕は笑う。


「なんだよ、」


「何が・・・さんきゅ?」


「るせぇよ、」


「あははは、」照れて。大人しく車椅子に座る、たけしを見る。


いつも。このくらい、素直に。言う事聞いてくれたら、いいのに。・・・・


僕は、未だ。一番肝心な事を言おうか、言うまいか。


「・・・。」


・・・迷っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ