良く知れ 権能ー2
…………ガ――――……ッピ!!
「――こちら戦士長、三馬鹿応答せよ」
「――こちら三馬鹿、通信は良好、どうぞぅ!」
「――村の状況はどうだ?送れ!」
「……問題ない……どうぞう!」
「……ではこれより、最重要極秘任務――族長の持つ例の物を入手せよ!」
「――三馬鹿了解――これより任務を開始する!」
「これは極秘任務だ――村の人間に決して悟られてはいけない。何かあったら通信するんだ――通信終わり!」
「――わかった。通信終了!」
――ピッ。
「さて……あいつらで大丈夫だろうか……まああいつらは馬鹿だから、見つかったとしても問題ないだろう。だが――例の物は必ず手に入れなければならない」
村から少し離れた茂みの中に潜む戦士長は、この村の連中に顔がバレている上に恨みも買っている。ならば、万が一……いや、二分の一の確率で三馬鹿が見つかったとしても、そこまで大ごとにはならぬだろうと送りこんだ。
「しかし~なんで俺たちがこんなことを?」何かの雑草を口にくわえるおちゃらけ男。
「そりゃ近道しようと森に入って崖から落ちて騎士団の計画を滅茶苦茶にしたからだろう。本隊も村の場所がわからずに撤退したらしいしな――」すっかり寒がらなくなった男。
「あぁ~~腹減った~~」相変わらずの男。
……こそこそと忍び込む三人は、村の端にある物置の後ろに隠れて辺りを伺った。
もう遅い時間なため、外に出ている村人は数人程度だった。
今日の出来事があったからか、見張りが4人四方の物見やぐらにいた。それに夜の散歩であろうか、うろうろしている者も何人か見受けられた。
「……これは、三人一緒に動くのは難しいな……」おちゃらけ男は状況を理解した。
「――よし!なら一人が行けばいい」三人の中でまともっぽい男が言った。
男たちは誰が行くかを決めなければならないと気づいた。。
「お前行け!!ミグ!!」
「いや、俺はあのハゲとの通信魔法の伝達係だ。ショーキチ行け!」
「……なら……おい、パーク!今こそお前の出番だ!!」
……………。
しかし、パークという男の反応は無かった。
…………?
「――おい、無視するなよ……」
ショーキチと呼ばれたおちゃらけ男は振り返ったが……
後ろには誰もいなかった。
…………。
「「おいいいいいい!!??」」
ミグとショーキチは小さな声で絶叫した。
「おいどうする!?あいつどっかいったぞ!?」ショーキチ。
「しょうがない。あいつには犠牲になってもらおう」ミグ。
「いやいや、見つかったら俺たちも見つかるぞ!?」ショーキチ。
「うーん……では作戦失敗で帰るってのはどうよ?」無い知恵を絞るミグ。
「いや~……あのツルツルは許さないだろう」ショーキチは真っ当な意見を述べた。
「そうだよな――とりあえず、パークを見つけるか……」ミグ。
「そうだな」そう言って立ち上がるショーキチ。
二人はパークというノー天気お馬鹿を探した。
パークと呼ばれた男は……何ともおいしそうな匂いに釣られてある家に近づいていた。
「ここから、旨そうな匂いが……」
鼻を犬のようにしてある家に吸い寄せられるパーク。
「何してんだお前!!」ミグがパークの服をひっつかんだ。
「え?……いや~お腹すいてさ~」潜入していることをすっかり忘れているパーク。
「お前が見つかったら俺たちも大変だろうが!?」ショーキチが文句を言っていた。
すると……その家から人が出てきた。
「――人が来る――静かに」
ミグが二人を黙らせた。
その人は家を出ると、大きな家の方へ向かって歩き出した。
……このまま……このまま。
心の中で見つからない様に願う二人。
その時……。
ぐ~~~~。
パークのお腹が盛大に鳴ってしまった。
「……あっ!」
「「「……あっ!!!」」」
三馬鹿は――少年に見つかった。
――――ガーッピ!
「えー定期連絡……どうだ?見つけたか?送れ!」
戦士長がそのタイミングで通信魔法を使った。
「――こちら三馬鹿……まだ捜査中――通信終了」
「そうか……で」
――ピッ。
ミグは通信途中で切った。
「えーっと……」少年は困惑している様子だった。
少年の目の前で相談し始める三馬鹿。
「おいどうする?見つかったぞ!?」ショーキチ。
「いや村の人に見つかったらダメという話だから、オッチーは村人じゃないからセーフだ!」ミグ。
「……そうか、よかった」ショーキチは安堵した。
「オッチー、とりあえず助けて!――お願い!」
何も考えてないパークは少年に助けを求めた。
「……あ……はい。――じゃあ僕が今借りている場所に案内しますよ」
困った少年だったが……まあこの三人なら無害だろうと考え、助けることにした。
「「「いよっし!!」」」
一安心する三馬鹿をつれて――少年は借りている宿泊施設に案内した。
「とりあえず、オッチー……サンキュー!!」調子のいいショーキチ。
「なかなかいいところじゃないか~」ミグは家の感想を述べていた。
「ねぇねぇ~そのプリン食べていい?」パークは少年の持つプリンを狙っていた。
「あっこれは……その~……まあいいか――はい。どうぞ!」
妖精のロナロナにあげるつもりだったが……渡さないというのも気が引けたのであげた。
「ところでオッチー、族長のいる場所ってわかる?」
椅子をカタカタと揺らしながら聞いてきたショーキチ。
「えーっとそうですね……あの大きな家にいると思いますが……」
族長のお爺さんならあの大きな家にまだいるのではないかと、そういう見解を示した少年。
「――おっけー!!では一緒に行こうじゃないか!」
ミグは少年も連れて行こうとした。
「――え!?」
何で!?っと思う少年。
「旅は道ずれ、世は靴擦れって言うだろ~」
「違うな……余はなさけね~だろ!!」
「このプリン……超おいしいいいいいいいい!!!!」
潜入……いや、彼らの中にそんな認識はすでに存在していなかった。
「はぁ……それで、何しに行くんですか?」
もしもの場合があるので……やや警戒して三人に聞いてみた。
「――それは極秘任務だから言えない!――口が裂けても断じて言えない!!例えば戦士長が族長に資金を渡して極秘に開発させていた生命草から作る育毛剤を入手するために来たとか……そんなこと絶対ないからな!!!!」
「はぁ……なるほど」
詳しい説明を聞いた少年。
「「…………………………」」二人の視線が馬鹿の背中に突き刺さる。
「…………………………」いや~っと照れるミグ。
「はぁ……ミグは嘘がつけないんだよなぁ~」
「馬鹿だからね~」
「お前らが言うな!!」
「じゃあ、わかりました。族長のところに一緒に行きましょう」
さっきの説明も嘘ではなさそうだし、お金を出して物を受け取ろうとすることを邪魔する理由はないと思った少年は族長のいる場所まで案内しようと決めた。
「よしわかった。頼んだぞオッチー!!」
「……いえ、戦士長さんを倒してしまったことをお詫びしなければいけないですからね……」
少年の口から不思議と、そんな言葉が流暢に出てきた。
どうやら僕もそこまで性格は悪くないらしい……と思った。
4人は族長の家に行った。
相変わらずの大きさを誇る屋敷の中……その上の方に明かりが灯っているのが見えた。
少年と3人はその光に誘われた。
その明かりの前に座っていたのは……やっぱり族長だった。
「ん?……おお少年殿か……どうしたのじゃ?こんな夜更けに……」
蝋燭の光でさえ、彼の頭を介すると直射日光に等しい光量が襲ってきた。
「「「うぅわぁぁぁああ!!??」」」
三馬鹿はその光に怯んでいた。
「えっと、あの……実は彼らを案内して……来たのですけど……彼らがお爺さんに用があると……」
すると、3馬鹿は整列して……ミグが口を開いた。
「カラフル族の族長――ツルツルピ・カラフル殿。――本日の無礼、申し開きもございません。我ら三人が今宵来たのは、我らがハゲ長こと……ツルツル・テッカリー戦士長の荒野を潤す至宝の育毛剤を入手しに来た次第です!」
「――ああ。約束通り今日完成したんじゃが……あんなことがあったしのう……できたのもついさっきじゃったから、彼に渡しそびれてしまったんじゃったな……」
族長は腰を上げて棚にある色んなものから一つの小瓶を取り出した。
「ほれ、これじゃ」
その中に隠していた――綺麗に加工された果実のような容器を手渡した。
「しかし、せっかくの綺麗な輝きじゃというのに……何故毛をはやしたいと思うのか……せっかくできた同志じゃのにのう~」
少し寂しそうにする族長。
「「「有難く頂戴します!」」」
三馬鹿は族長に一礼し、その後ミグはしゃがんで通信魔法を発動した。
――――ガーッピ!
「こちら三馬鹿、――戦士長。例の物――――入手しました!!」
「よくやった!!!!お前たちもやればできるのだな!!お前たちの減給取り消しを考えておこう。――無事に帰って私に渡せたらな!!……送れ!」
「――三馬鹿了解。これより帰還する……オーバーカ!!」
ミグは通信を終えた。
「……じゃあ……我々はこれで!」
「――そうか……夜のこの森は魔獣が出る――気をつけてな」
――4人は族長の家を出た。
「さて、あとはこれもってツルツルのとこ戻って王国に帰るだけだ。もう見つかってもいいだろう」
ミグは村のど真ん中を歩いて言った。
「そうだな――こんな夜遅くまで働かせやがって……文句言わねぇとな」
「ここで寝たかった……眠い~~~~」
三馬鹿は戦士長の元へ帰ろうとした、……が。
「……では、僕も行きます。戦士長には謝らないといけませんので……」
三馬鹿と一緒についていくと少年は言った。
「え!?……そう?別に謝るは必要ないと思うけどな~」
「そうそう、あんな奴もっとボコればよかったのに~」
「崖に落としちゃったのも、半分わざとだしね~」
「いや……でも……」
納得のいかない少年。
「…………わかったよ」
ミグは少年の表情を見て、同行を許した。
「いいぜ、オッチーは俺たちの頼みを聞いてくれたしな!」
「いいぜ、戦士長となにかあっても俺は知らないからな!」
「いいぜ、美味しいプリンくれたしな!」
三人は親指をグッと少年に向けた。
「――はい」
少年は三人と戦士長の居るところに戻る途中――興味本位で質問してみた。
「戦士長のことについて――色々教えてもらえますか?」
三馬鹿は少年の質問に迅速に答えた。
「いいぞ!……テッカリー戦士長はレベル10だが、ユニークスキルの【ハゲし者】を取得している。それで下位魔法を使えるようになってるんだぜ!あとは……剣戟っていう技を使ってくるな……戦士長の中では……強い方だぜ?」
ミグは彼の基本的な強さを教えてくれた。
「主に使う魔法は――火球と雷線と水弾だな~。水で動きを鈍くして電気で足止め……火球で攻撃って感じだな……なかなかに……ウザいぜ?」
ショーキチは戦士長の魔法の戦い方を教えてくれた。
「はい――これ。いざという時はこれを投げればスキを作れるかもよ~プリンのお礼ね~」
パークは戦士長にとっての弱点になりうる――例の物を少年に渡した。
「……ありがとうございます!」
3人は少年を連れて……村の門から堂々と出てきては……草むらに隠れている戦士長のところへ向かった。
ニョキっと立ち上がる戦士長が嬉しそうにこっちへ来た。
「――お前たち~~よくやった!!!!……流石は我が精鋭だ!!……あれ?お前は……?」
意外なもう一人を見つけて固まるフサウ・テッカリー戦士長。
「はい――あの時、あなたの頭上に落ちてきた者です――この度は申し訳ありませんでした」
ペコリっと頭を下げる少年。
「あ、どうもご親切に……いや~こちらも大変申し訳ありませんでした。あんな無礼を……」
戦士長も同調して頭を下げ丁寧に謝罪する途中で……我に返った。
「――じゃねぇよ!!!なんでお前がいるんだ!?おい三馬鹿ぁ!!何連れて来てんだぁ!!」
怒り狂う戦士長。
「「「いや……オッチーがついていくって言ったから~」」」
口をそろえて言い訳する三馬鹿。
「馬鹿野郎共が~~!!思いっきり見つかってんじゃねぇか!!!!」
全くもってその通りである。
「「「いや……オッチーは村人じゃないしセーフでしょ~」」」
「アウトだよ!!ア・ウ・ト!!!!」
三馬鹿をしかりつけた戦士長は……キッと少年をにらみつけた。
「お前のせいで俺は大変なことに……おのれぃ!!ここであったが百年目!!!!ここで貴様に決闘を申し入れる!!!!」
刀を抜き……少年に堂々と宣言した戦士長。
「えぇ…………なんで?」嫌な顔をする少年。
「百年目って……さっき会ったばかりじゃん」
「頭には怪我ないくせに何言ってんだこいつ?」
「あはっはっは!……本当だ!毛が無いのにねぇ~~」
「お前らの毛根も全部抜いてやろうかぁ?今ここで!!!!」
村人達にも聞こえそうな大音量で叫ぶ戦士長。
「「「ひぃいいいいいいい!!??」」」
狼狽する三馬鹿。
「――おいお前……私の任務遂行を見事に阻止してくれたな――この礼は高くついたぞ?」
隠す気も無い敵意を向ける戦士長。
「……………………」
何を言っても聞いてくれない……戦士長を見てそう思った少年。
「手短にしてくださいよ~夜中なんだから~」
「戦うなら向こうでやってくださいよ~……みんなの迷惑だから~」
「早くしてくださいね~眠いから~」
三馬鹿はだるそうにそう言った。
「わかっている……来い!」
戦士長は刀を収めて……更に森の奥へと進んでいった。
少年も……彼の後をついていった。
―――。
――月下の決闘。
月明かりが……互いの姿を照らし出した。
森の中にポツンと開けた草原――ところどころに木の根や岩が転がっていた。
戦士長は戦いに必要ない荷物をそこの岩の上に置き……戦闘すべく装備を着た。
少年と戦士長が――向かい合った。
少年 対 フサウ・テッカリー戦士長。
二人の近くを飛んでいたフクロウが……どこ吹く風とホウ……ホウ……っと鳴いていた。
「……止めましょうよ――僕はあなたと戦う気なんて毛頭ないですよ!」
少年はただ謝りに来ただけで……こうなることを予想していなかった。
「――毛頭が無いだとぉ!!??」
少年の言葉に超反応する戦士長。
「あっ……いやいやいや違います違います!!決してそういう意味では……」
急ぎ挑発的発言ではないとアピールする少年。
「……お前にははなくとも、俺にはある!!今回の任務失敗の責任を押し付けられるだろう――だが、彼女が持っていた宝石と、貴様のボロボロな姿を見せつけてやることで私は汚名返上できるだろう。そして何よりも……頭上からの奇襲によって貴様に負けた私の王国戦士長としてのプライドのために――お前を……殺す!!」
刃を向けるテッカリー戦士長には……大人しく帰る気配は微塵も感じられなかった。
「――戦わないのは貴様の自由だが……私は容赦しないぞ!!」
そろそろ始めようか……そう言っているかのように――彼は構えた。
「――わかりました。………………では、申し訳ありませんが……」
少年は戦う気は全く無かったが……何もしないで負ける気も無いし、何よりもここで彼に殺されて死ぬ気もないので……決闘に応じる決心をした。
僕は――湖で騎士団長と戦った時と同じ権能を使おうとした。
あの王国騎士団長を退けた時のように――
僕は……こんなところで負けるわけにはいかない!!!!
少年は同じように念じた――。
――だが…………いくら思っても……
……あれ?…………何も起きない??
――強くなれ!強くなれ!!強くなれ!!!強くなれ!!!!
……しかし……やっぱり……少年の体には……なんの変化もなかった。
「……あれ!!??」
やばい……マジでやばい……権能が使えない!?
「……準備できたか?――では……王国戦士長フサウ・テッカリー いざ参る!!」
≪レベル判定≫
テッカリー戦士長は初手に少年のレベルを判定した。
本来ならば戦闘の前に使うべきだが……それでは彼と対等な条件ではないので彼の騎士道に反する。
――よって決闘開始と同時に使ったのだ。
…………レベル1。
――レベル1だと!?……いや、こいつは舐めてかかるとやばいことは知っている。
あの高さから落ちてきてなお無傷だったことは三馬鹿に言われて知っている……俺は油断も手加減もしないぞ!!
少年のレベルの低さを冷静に判断し行動するテッカリー。
……まずは小手調べだ!!
全力で駆けだして剣を振りかざす戦士長。
「――うわぁ!?」
少年は権能が使えない動揺と混乱の中で――なんとかその場から飛び出して前転し回避、その勢いに乗って一目散に逃げる少年。
――なかなか……悪くない動きだ。
少年の身のこなしを評価しながら、急ぎ追いかける戦士長。
少年は必死で逃げながら思考を巡らした。
――なんで!?権能が使えない!?
――思いが足りないから!?疲れたから!?深夜は無理!?回数でもあるのか!?
色々と原因を考えた……そして引っかかる言葉を思い出した。
――そういえば、ロナロナが……
――誰のおかげで権能が使えると思ってるの?
確かにそう言っていた――まさか!?
…………ロナロナがいないと使えない?
……だとしたら……本気でマズい!!??
ロナロナがいない今……僕は力尽きたら本当に死ぬ!!!???
正しいかは分からないが、今の僕には権能を使えないという答えを出した少年は、背の高い木々の中を通って……必死で逃げて逃げて逃げまくった。
「――貴様ぁ……敵前逃亡だと!?怖気づいたか!?」
戦士長の声が木霊した。
少年は振り返ると……追いかけてくる戦士長の姿は見えず走る音も聞こえない。
何とか彼を巻くことができたのかもしれないと思った少年は、必死で何も考えずに走ったせいで肩で息をしているくらい体力を大幅に消耗してしまった。
戦士長に見つかった時に全力疾走して逃げれるようになるまで休憩しつつ、何か使えるものはないかと探した。
近くにあるのは柔らかい雑草や小さな石ころばかり……あまり役に立ちそうになかった。
迫りくる危機感を感じる少年は、手ごろな石ころを拾いつつ……多少危険だが背の高い植物の生えている方へしゃがみ歩きをして移動、木の枝でも拾おうと手を伸ばした。
――その時――草むらから強烈な突きが目の前に!!??
反射的に足が動き、頬をかすった程度で済んだ。
少年は勢い余って後転し状況を見ようとしたら、次の突き攻撃が来た。
「剣戟・突き詰!!」
戦士長は両手で剣を持ち、突きを出した瞬間に両肘を曲げて剣を引っ込め、再び腕を伸ばして突きを繰り出し、その間隔は1秒に4回もの連続突き攻撃をしてきた。
少年は体勢を犠牲に3回までは何とかよけたが、完全に体のバランスを崩して4回目の攻撃は避けれないと直感し、先程拾っていた石ころを戦士長の顔目掛けて投げた。
戦士長は少年の投擲に反応して攻撃を中断――両足を脱力し、腰から崩れ落ちる様に体勢を落とし、更に投げられた石に対して体を横向きにする事で見事に避けた。
少年は戦士長がしゃがみ込んだその一瞬で立ち上がり、また走り出した。
「おいおい――追いかけっこは止めにしようか……少年!!」
下位魔法――≪雷線≫!!
――バチィッ!!
戦士長の指から一つの小さな雷が少年の足に直撃した。
「――うわ!?」
足に当たったが痛くはなかった――しかし、突然後ろから膝カックンをされたような衝撃が足に伝わり派手にこけてしまう。
態勢を立て直そうとする途中で後ろを向いたら……
戦士長はすでに少年の目の前にいた――。
「隙あり!!」
戦士長が剣を振り下ろそうとしたとき――
「……ああああああああーーーー!!!」
少年は大声で大袈裟な挙動で戦士長の真横の草むらに指をさした。
その声に動きを止める戦士長だったが、指さした方を向くことは無かった。
「ふん……三馬鹿が騙されるような陽動に私が引っかかると思っているのぐわらば!!??」
――突然、戦士長の真横から狼のような魔獣が2匹現われ、戦士長に襲い掛かった。
「――チャンス!!」少年はその機に乗じて駆けだした。
「あっ!?おい待て小僧!?――くそっ!?――離れろ犬っころが!!!!」
オオカミのような魔獣が噛みついて戦士長の被っている兜を剥がした。
すると……漆黒の夜を照らし出すかのような……テッカリン☆っとした頭が現れた。
二匹の魔獣は前と後ろから挟み撃ちにしようとし……その機を窺っていた。
兜を失って真の頭を出した戦士長は刀を右手に持ち替えて、左手で刃の根元から切っ先へと触れた。
そして……脱力したようにしゃがんだ瞬間――魔獣は同時に襲い掛かった。
「下位魔法――≪炎装炎刃≫!!」
戦士長は魔法で火を纏わせた剣を振り上げて、一回転した。
魔獣はその攻撃を同時に直撃し地面に倒れた。
その後すぐに起き上がりはしたが……ダメージが大きかったからか、茂みのなかへと退散した。
魔獣を退けた戦士長は兜を取り戻して被り辺りを見回したが――完全に少年を見失った。
「――ふん。多少運が良いらしいが――まだ終わってないぞ!!」
≪動作探知≫
しかし、またも魔法を使った戦士長は右手を開いて地面にビタっとくっつけた。
自分から半径100m程度の動くものを見つけるしがない探知魔法だが……こんな森の中で人一人見つけるのは容易いことだった。
少年は息も絶え絶えになりながら、何とか自分一人を隠せるような背の高い茂みに隠れた。
本当ならもっと遠い距離まで逃げたかったが、体力が回復しておらず、すぐに見つかってしまうと思ったからだった。
少年は権能が使えないとこうも弱いこと、そして戦士長が想像以上に強かったことを思い知り、ちょっと前の自分の考えなしの行動を反省していたが……そんなことは後でいくらでもすればいい。
「――とにかく、今は逃げることだけ考えよう!」
そう結論を出した……すると。
≪水弾≫
遠くのどこからか……声が聞こえた。
ドッシャーーーン!!!!
まるで2mの大男にぶつかったかのような衝撃が少年の真後ろから襲ってきた。
「うおおあああおう!?……うぅ……何だこれ!?」
隠れていた場所からはじき出された少年は、びしょびしょに濡れていた状況にパニックを起こしていた。
「――ただの水だよ……少年、ダメージもないし曲芸に使われるような魔法だ」
少年の元へとゆっくり歩いてくる戦士長。
「しかし――服を着たままで肌寒い夜を走るには……なかなかしんどいものだろう?」
静かに言った戦士長の指先が……少年を捕捉した。
「――さらに……この類の魔法には……効果倍増の特典付きだ!!!!」
指先がバチバチと電気が走っていた。
――マズイ……と思った時には遅かった。
≪雷線≫!!
「ぐわあああ!!??」
少年は見事に直撃した。
避ける間などありはしなかった。
少年は水浸しであることも相まって、けっこうなダメージになった。
少年が痛みで怯んでいる隙に、戦士長は更なる追い込みをかけた。
≪火球≫<包囲陣>
戦士長は両手で小さな火の玉を打ち上げた。
その火の球は、上空で一瞬光ると……円状にばら撒かれ、火で出来たドームのようなものに覆われた決闘場ができた。
少年が炎で包まれたことに驚いたその一瞬に間合いを詰めてきたテッカリー。
≪水刃≫!!
さっき曲芸でも使われると言っていた通り……戦士長が振りぬいた炎の剣から水の刃が飛んできた。
少年は戦士長の攻撃を間一髪で避けた時、今持っている全ての石を戦士長に投げた。
――剣戟 円回!!
戦士長は剣の柄を指先だけで扱ってペン回しのように剣をクルクルと回転させて向かってくる石を全て弾いた。
少年はその間に水浸しになった上着を抜いで――戦士長の持つ剣に向かって振り下ろした。
よしんば剣を落としてくれたら願ったり叶ったりだった。
――しかし、戦士長は剣で受けずにバックステップして間合いを離した。
それも予想通り――
少年は上着を再び振り上げようとして戦士長の目線を上にあげた。
その瞬間を狙って……一方の足でもう一方の靴を脱ぎ、戦士長へ飛ばした。
「――靴!?」
戦士長は剣の腹で受け、飛ばされた靴を防いだ。
「はあああああああ!!!!」
またも大袈裟な声で注意をそらし、上着を振り下ろしながら靴を飛ばしての同時攻撃をした。
戦士長は左手で剣を持ち体の背中の後ろへ下げた。
濡れた上着攻撃は戦士長に当たったが……ベシッと音が鳴っただけだった。剣に当たらなければ何の意味もない。
少年が投げた靴は、右手でペシッと弾かれた。
――しかし――この瞬間――攻撃をする絶好のチャンス。
少年は……全身の全ての力を込めて……がら空きになった戦士長の顎へ――
「うおおおおおらああああああ!!!!」
ズゴオオオオオン!!!!
右アッパーを戦士長の顎に炸裂させた。
少年は、右拳が割れたかのような痛みが走った。
しかし――戦士長は上を向いたが――――――倒れもせず、ひるみもしなかった。
戦士長はわざと攻撃を食らい……間合いに入らせたのだ。
顎に拳を受けた戦士長は……それでも視線だけは少年へと向け続けて、決して逃さなかった。
そして……
――斬!!!!!
「うぐっ!!!!???」
左手にもっていた剣でモロに横薙ぎの一太刀を喰らってしまった。
すかさず追撃する戦士長。
少年は、水浸しになる前に拝借した少し大きめの果物をポケットから出して投擲した。
戦士長は的確に果物だけを剣の腹で弾くと同時に――魔法を使った。
≪雷線≫<直>
「ぐううっ!?」指から一直線に少年を糸のような雷が貫いた。
少年は……ついに膝をついた。
……体力は1になってしまった。
……次の攻撃を喰らうと、死んでしまう。
少年は心臓がバクバクしながら……死の恐怖に駆られていた。
「――往生際の悪さは大したものだ……部下に欲しいくらいだぞ……少年?」
「…………………………」
切られた痛みに電気のビリビリ感がまだ残っており……非常に辛い状況だったが……その痛みで逆に冷静さを取り戻した少年は、戦士長に気づかれない様に辺りを見回した。
二人を包み込んでいるこの火の壁の境界に大きな岩がある所を見ていると……大岩の奥の方には炎が無かった!!
この火の壁の厚さは1m程度とわかった……今の水浸しの状態なら突っ切ってもそこまで問題ないはず……なんとか戦士長の隙を作れれば……逃げれるかもしれない……。
――やぶれかぶれだ…………やるだけ……やってみよう!!!!
……今までの言動から……戦士長は僕を過大評価している……
だから――――――やれる!!!!
「はあああああ!!!!こうなったら使ってやる!!!!」
少年は空に手をかざし――ある騎士団長がやっていた通り……見様見真似で叫んだ。
「――これが……僕の切り札だ!!!!――中位魔法!!!!」
威厳溢れるように……叫べ!!!!
「……何だと!!??」
戦士長はその言葉に警戒して後退りした。
≪業火灰塵≫!!!!
「ヤバい!!??」≪水弾≫<障壁>
水の塊が戦士長の手に出現すると障壁になるように広げてガードした。
戦士長が使える下位魔法では中位魔法の業火灰塵は完璧には防げない……ダメージ覚悟で目を閉じて衝撃に耐えようと食いしばっていた。
――しかし…………一向に……業火灰塵はこなかった。
「………………ん?」
戦士長が水の障壁を横にずらして少年の方を見た。
――誰もいなかった。
「…………………………ふっふっふ……ははははははっはっはははっははは……」
ケラケラと笑う戦士長、フサウ・テッカリー。
「もう……許さん……あの小僧おおおおおおおおおおおお!!!!!!」
戦士長は激昂して叫び声をあげた。
少年は必死で逃げた先には……激流の川が立ちふさがっていた。
もしも流されてしまえば、呼吸もできずに上下も分からなくなって溺れてしまうだろう――飛び込んで逃げることはできない……。
そう判断した少年は戦士長が追い付く前に……森の深い川の上流へ行こうとしたら……
――剣戟・飛刃!!
少年が足を踏み出そうとした場所に……大きな切れ込みが入った。
ぐっ!?……もう来たのか……。
≪火球≫<連弾>!!
森の奥から連続して野球ボール程の大きさの火球が少年の逃げる方向へ放たれた。
約1mの高さの炎の壁が――少年の退路を断った。
少年は逆方向へ逃げようとしたが……すでに同じ様になっていた。
左右には炎の壁、後ろには激流の川……そして、前から戦士長が現れた。
……戦士長が少年を追い詰めた。
彼は顔こそ笑っているが……怒りに満ち満ちて引きつった歪な笑い顔だった。
「――もはや逃げ道はないぞ……」
突きをいつでも打てるように構えていた。
「君も男なら……観念したまえよ?」
一歩ずつ……一歩ずつ近づいてきた。
「………………わかりました。観念します――」
少年は……本当の最後の手段を取ることを決めた。
「ん?……ほう……君はあの三馬鹿と違って話が分かるな……」
しかし戦士長は言っていることとは裏腹に……少年の言葉を全く信じておらず間合いをじりじりと詰めてくる。
「――いえ……違います」
少年は、怒れる戦士長の目を見て……言い放った。
「――?」
また何か猪口才なことをしてくるかと身構える戦士長。
少年は思い出した。
――リナが妹のルナを連れて家に帰った時――お婆ちゃんに聞いてみたときのことを……。
少年はこの世界へと来た時から今までの説明を終えた後……今度はおばあちゃんからリナのことやカラフル一族の事……伝説の事を聞いた……そして……心に引っかかった疑問があった。
「ねぇ……おばあさん……」
「ふむ……なんじゃ?」
「なぜ……リナは自分の全てを差し出してまで、この村を助けようとしたのでしょうか……いや大切だからだという事はわかりますよ!!……でもリナが犠牲になることなんて誰も望んでなんかいないでしょう……なのに……なんでリナはそんなことを?」
少年は思った。
自分の大切なものを守るために……自分を犠牲にしてしまえば――結局は自分を守れない。
もし自分を守れなかったら……その大切なものは二度とかえってこない……守った意味がないじゃないか……と――。
「そうじゃな……確かに……そうじゃ。自分を犠牲にして死んでしまったら二度と会えないものな――でもな……少年よ」
おばあちゃんはズズズッとお茶を飲んで……言ってくれた。
「例え己の全てを懸けてでも――家族の心からの頼みを蹴りとばしても――それ以上に大切なものが――ある――」
「そういうものを持っている人はのう……」
「――その大切を何があっても守りたい――傷ついても怖くても――死をも覚悟して命を懸けてでも前に進んだ――あの子の勇気であり生き様なんじゃ――それほどまでにも大事なものを……リナは持っていたのじゃよ。リナにとって命の輝きの根源……とでも言おうかのう――リナにとって……それがこの村じゃっただけじゃよ……」
「…………?」
おばあちゃんの言っていることが……少年には何となくにしか分からなかった。
少年の少し困惑するその様子を見て、おばあちゃんは微笑みながら言った。
「……自分の事を思い出せん今の少年には……酷な話かもしれんが……いつの日か、思い出せばええ……もし、記憶を取り戻しても何も無かったとしたら……ここで、それを見つければええよ……そうすれば……いつの日か分かる時がくるじゃろうて……」
――――。
「――命を懸けて前に進むことをですよ!!!!!!!!」
少年は走りだした。
自分の背後にある――川の激流のその先にある――断崖絶壁の滝の方へ!!
「滝に落ちて逃れる気か――させぬわぁ!!!!」
戦士長が走って追いかけてきた。
流石に鍛えているため――戦士長のほうが足が早くて追いつかれた。
≪雷装雷刃≫!!!!
電気を帯びた剣を振りあげて――少年へ振り下ろされたその時――少年はポケットに手を入れた。
「これが――僕の本当の切り札だ!!!!」
ポケットから何かを取り出し――それを盾にした。
「……?――何ぃ!!!!????」
それは……三馬鹿の一人――パークに持たされた例の物だった。
戦士長はそれが何なのか理解した瞬間――それに攻撃が当たる直前で止めた。
その隙をついた少年は戦士長の腕を両手で掴み――自分諸共に川へ突っ込んだ。
「ううおおおおおおああああああ!!!!」
己の持てる全力をかけて――川へと引きずり込んだ。
「うわああ!?って待て小僧ーー!!それは俺のものだーーーーー!!!!」
バッシャーーーーーン!!!!!
「――ぷはあぁっ!?」
何とか水面に顔を出す少年。
「待てえええええ!!!小僧おおおおお!!!それをよこせええええええ!!!」
激流に流されながらも例の物を取ろうと、もの凄い形相で泳いでくる戦士長。
「これが欲しければ――あげますよ!!!!」
少年は咄嗟の判断で――彼の育毛剤を滝の方へと投げた。
「ほわあああああ!!!???――俺の髪よおおおおおおお!!!!!!!」
戦士長は断末魔のような叫びとともに――例の物が落ちていく方へ向かい……自ら滝へ落ちていった。
少年は抗う術も力も持たず……滝から落ちた。
しかし、戦士長のように飛び出していなかったためなのか……いきなり水中に引きずり込まれ、全く別の方向の流れにもっていかれた。
「もがががぐぐぐぐぼおおおぼぼぼぼぼぼ!!!???」
少年は薄れゆく意識の中で、少しでも息が続くように手を口に当てて――流れに身をゆだねるしかできなかった。