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良く知れ 権能ー1

「いやー!?ちょっとまってー!?」

 白目をむいて倒れた少年の肉体を抱えながらパニックになるリナ。


「え……ちょ……これどうすればいいの!?本当にこれで終わり!?」

 幽体離脱して消滅しかかっている少年があたふたしてると……妖精さんが助け船を出してくれた。

 

「――何?まだ遊んでるの?――早く戻らないと本当に死んじゃうよ!」

 全く動じずに幽体の少年に話しかける妖精。


「これどうすればいいの!?何をどうすればいいの!?」

 早口言葉のような速さで問いを投げる少年。


「あなたが今何をどうしたいのか……それを念じればいいの!」 

 意地悪だけど優しい先輩みたいに助言してくれる妖精。


「僕……生き返れ!!……僕生き返れ~!!!!」 


 少年の体に光が集まったと思ったら、その黄色い光で少年の体が見えなくなった。


「………………」

 リナはその様子をただ見ることしかできなかった。


 ――ガバッ!!


 少年は息を吹き返して起き上がった。

 


 ――少年は復活した!!



「はぁ……はぁ……死ぬかと思った!?……ていうか今、絶対死んでたよね!?」 

 割とマジで死にかけた少年。


「ごめん!本当にごめん!!まさか死んじゃうなんて……」手を合わせて平謝(ひらあやま)りするリナ。

「いや僕こそごめん!足が引っかかって……」同じ様に謝る少年。


「いや……私だよ!村を救ってくれた大恩人をわざとじゃないにしても殺しかけちゃうなんて……」

 しゅんと落ち込んでしまったリナ。 


「はぁ……今のはあんたが悪いわよ!――体力1なんかで歩き回るから――そりゃ死ぬわ!!自業自得よ!――さっきの自己強化も解除されてたしね~」

 二人の間にあった暗い空気を吹き飛ばすかのようにビシッと批判した妖精。


「あれ、そうなの?いつのまに……」


「さっきあなた、気候変動をしたでしょ?……今のあんたは二つ同時に権能は使えないの」 

 まるで教師のように教えてくれる妖精。


「そうか……権能……なるほど、これが権能か……」

 少年は自分の手のひらを見ながら……権能を使った感触を思い出していた。

 

「――とにかく村に帰りましょ!――話はそれからでいいと思うよ!」

 リナは元気を取り戻したようにニコッと笑いかけて、村のある方へと歩き出した。


 帰路についた一行だったが――少年は一変した景色に心をガシッと掴まれていた。

 

 さっきまで無かった紫色の花があたり一面に広がっていた。


 リナは村への最短距離で帰るため、道なき道を歩くので……その綺麗な花をくしゃくしゃと踏み歩くことになってしまい、少々心苦しい少年だった……。

 

「――大丈夫だよ!ここの草花(くさばな)は強いから――それに少年君がここの植物も全部助けたんだから――自信もっていいんだよ!!」

 少年の申し訳なさそうな表情から感情をくみ取って、気を使ってくれたリナ。 


「……うん」

 少年はやっぱり申し訳ない気持ちは(ぬぐ)えなかったが、なるべく草花を踏まない様につま先だけで歩こうとした――その様子をチラ見するリナは、ちょこっとだけ微笑んだ。



 ……ある程度歩くと、雲がかかる程の巨大な岩壁にたどり着いた。



「――ここ、もう凍り付いてないから使えるね!!」


 少年は岩の壁だと思って見えていたところが、リナの手で横にグワッと動いた。


 それは茎が擬態(ぎたい)していて岩壁に似せていたのだ。

 

「……これは、幻想的だね――」

 少年は夢の中に迷い込んだような錯覚を感じた。


 それは――植物のトンネルだった。

 緑色、黄色、オレンジ色に茶色、色とりどりの草花がずっと先に続いていた。

 この天然のトンネルには、ちょっとだけ斜角があった。


 吹き抜ける緩やかな風が――とても気持ち良かった。


「ここは一体なんでこうなってるの?」中をテクテク歩きながら少年は聞いた。

「ここはね――世界樹の切株なんだ!」リナは元気よく答えた。

「……切株?この巨大な大地が……一本の木でできてるの?」

 にわかには信じられなかった……。


 二人は今、島一つ分と言ってもいい位の大きさもある木の中を登っていたのだ。


「――そうだよ!私たちカラフル一族は、自然と共存する一族なんだ♪」 

 急斜面でも何のその――全くペースを落とさずに歩くリナ。

「ここは一族の者しか知らない秘密の近道だから、ここを抜けたらすぐに村につくよ!」 

「……はぁ~~…………」

 最初こそ景色を見て楽しんでいたが、次第に登りがきつくなってきて疲れが溜まってきたのにも拘らず――全く息を切らさずに歩くリナの様子を見て呆気にとられた少年だった。


「はぁ……はぁ……切株ってさ、つまり誰かがこれを切ったの?こんな大きな木を?」

「それが――わからないんだ~、なんでこうなっているのか。……永遠の謎っていうのかな?」

 少年の方を見るため、振り返り後ろ歩きをするリナ。


「――ほう……それはロマンがあるね!」

「……でしょ?」


 二人は何気ない会話をしていると……草のトンネルを抜けた。



 ――やっと少年の通ったことのある道に出たが――そこは見事なまでに別世界だった。



 七色の花びらをした花が一面に広がり――まるで虹を地面に描いたような美しい世界だった。


 さらに夕日が(いろど)り、その光景をより美しく演出していた。


 ――虹の花畑……少年は作品名を付けるとしたらこれしかないと思った。


 ――こここそが……生命草の群生地だった。



 ――少年は……真剣な眼差しで言った。


 

「――綺麗だね……本当に綺麗だね――僕、リナに出会ってから……こんなにも綺麗なものをいっぱい見ることができたよ――こんなに綺麗なものは――今までで生きてきて……初めてだ――」


 少年は過去の記憶がなかったが……心がこれ以上ないほどに喜びに打ち震えているのがわかった。

 

 リナが隣にいるのと、早く村に帰らなければならないので我慢したが……本当はここで……子供のようにはしゃいで……走り回って………………なぜか思いっきり泣きじゃくりたくなった。 


「――ありがとう。すごくうれしい!」


「でもね……これは……()()()()()()()()()なんだよ――好きなだけ、たくさん見てね!」

 リナは、空気を読んで最低限の言葉しか言わなかった。


「――うん」


 ――あなたが守った……か。


 その言葉に……少年は少し酔いしれた。



 ほんの一時、少年はその美しさに魅せられた。


 

「ほら――とにかくもう少しだよ!頑張って!!」

 もうすぐ帰れることに喜んでピョンピョンと駆けるリナ。

「はぁーはぁ~ぜぇ……はぁ~……」

 それとは対照的に、まるで亡者みたいに歩いている少年は思った。


 ――僕の体は基本的には普通の人より弱いらしい……この標高2㎞の山みたいな木を登るだけで足がメキメキする、体全体が疲れた……これはもう駄目だぁ……村に帰ったらゆっくり休ませてもらおうっと……。


 


 そして――村がみえてきた。


 一部が壊れている門入のり口には……お婆ちゃんと、もう一人、老齢のお爺ちゃんが立っていた。


 彼こそが……カラフル一族の族長であるお爺さんであった。


 

「……待っててくれたんだ……おばあちゃん!!!!」

 

 リナは少年を置いて走り出し……おばあちゃんに抱き着いた。


「おばあちゃん……ただいま!!」

「……おうおう……リナ……おかえり!!」

 おばあちゃんは背中をポンポンと叩いて、彼女の無事を喜んだ。


 その声を聞いて村人たちも出てきた。

 その彼らの恰好は……へんてこな姿をした人も少なくなかった。鍋を被ったおっさんに、お箸を剣のようにして持つ女性……(わら)だらけの服をした子供。

 それを見た少年は、彼らは万が一ここに騎士団がやってきたら交戦しようとしていたことがわかった。



 族長はリナに一言二言言った後、少年が入り口を通ったと同時に深々とお辞儀をし――口を開いた。


 

「お初にお目にかかるである――少年様!儂がこのカラフル一族が族長――ツルツルピッ・カラフルですじゃ。此度は本当にありがとうございました!!」

 彼の頭が夕日に照らされて……キラリと光った。


 うわっ(まぶ)しい!?……となった少年だが、すぐに挨拶を返した。 


「はっはい!どういたしまして――僕は……その、名前を思い出せないので自己紹介できないのが心苦しいのですが……」

 すっかり忘れていた……少年は自分の名前も分からないので自己紹介すら(ろく)に出来ないのである。


 そんなことは全く気にしないという感じの族長さんは、少年の背を押して前へと出した。


 リナはおばあちゃんとの抱擁を終えて……村のみんなに聞こえる様に大きな声で言った。


「――みんな!この少年くんが王国騎士団長とその一団を退けたの!!――それだけじゃないよ?この異常気象も彼が元に戻したの!!そりゃもう~とにかく……すっっっっごいんだから!!!!」

 リナは興奮して大声ではしゃいで言った。


 おお、なんと。すげぇ。あんななよなよしてるのに。騎士団長に勝ったのか!?すげぇ強いじゃないか。おうありがとうよ。



 村人たちは大喜びであった。


 

「さあさあ……一族の大恩人をいつまでも立たせるわけにいかぬよ――どうぞこちらへ」

 お婆ちゃんが少年を案内してくれた。


「あぁ……どうも……」


 リナ達、カラフル一族の村であるレインボービレッジは、世界樹の山頂に広がる樹林の中に切り開かれた村だった。

 家は木材が基本であり、一軒一軒と区切られていた。

 家の構造は平屋のような一階建てのものがほとんどで、風通しの良いように最低限の柱しかなかった。屋根は平べったい形だったので、雪対策は全くされていなかったことが分かる。


 しかし、一軒だけ大きさも構造も異なっているものがあった。

 それは村の中心に建てられており、急勾配の屋根の家だった。


 窓の数から5階建ての家で、いわゆる合掌造りの様式の大きな家だった。


 その家の中に入ると、とても落ち着くような……木の匂いが漂ってきた。

 中は意外と広く、囲炉裏が吊られ――とても暖かかった。


 少年は家の一番広い部屋に通される途中で……ある一室に目が()まった。

 

 ――暗い部屋のベッドでじっと眠っている人がいる……。


「――あの人はどうしたんですか?」

 ちょっと気になったので質問してみた。


「ああ……あの子はな……ルナ・コフィン・カラフル。リナの妹じゃ――」

 細い目で彼女を見つめるおばあちゃん。

「え……!?」

 リナの妹――何でこんなところでずっと寝ているの?……少年はそう思った。


「もう8年前になるか……ルナが10歳の頃に迷子になってしまってのう……一族総出で探しておったのじゃが……。リナが川辺に打ち上げられていたルナを見つけたのじゃ。すぐに応急手当をして村へ連れ帰り、できることは全て手を打った。数時間後――ルナは何とか意識を取り戻したのじゃが……何があったのか何も覚えておらなんだ……。それでも目立った外傷もなく、ルナも元気になって、みんな一安心しておったのじゃ……。それから5年後――突然それは起きたのじゃ」


「………………」

 少年はルナが体調が優れないとか、ただ眠いから眠っているわけではないとわかった。


「ルナの睡眠時間が日に日に伸びてきた。……最初こそは気にする必要はないと判断したのじゃが、次第にそれが異常だと気づいた。……10時間、12時間、15時間――そして今では一日20時間もの間――ルナは睡眠を取らないといけない体になった」


「……何が原因なんですか?」


「わからん――原因も、その治療法も……何も分からん――」


「ルナは一日4時間しか行動できなくなった……食事も一度、食べる量も減り続けて体力も気力も衰えた。――正直、ルナはいつ永遠の眠りについても……おかしくはない――」

 おばあちゃんがルナの話をしている間――姉のリナはずっと暗い顔をしていた。


「………少し見せてもらってもよろしいでしょうか?」

 少年はおばあちゃんに提案した。 


「あ……ああ、構わないんじゃが……少年は治癒魔法ができるのか?」

 顔を覗き込むようにして聞いてきた。


「――いや、できないですけど……少しだけ要領がわかったので……多分何とかできると思います!!」

 少年は魔法の事についてはてんで分からないが……自分の持つ権能については少しわかってきたので……彼女を助けることと権能を使う練習と……一石二鳥なのでやってみようと思った。


「無理しなくてもいいからね?……今の少年君はとっても疲れているんだから……」

 とっても心配そうに言ってくれるリナ。


「――大丈夫、無理はしないから……」

 少年はベットの前で腰を落として……その人の近くに座った。


 その人は顔の上にタオルをのせられていた。

 少年はその人の手を取った……ルナの手は冷たい程ではないにしろ、健康な人の体温ではなかった。


「すぅううううう………………はぁああああああ~~~~」

 ぐっすりと眠るその人の手を握って……たった一つの事を念じてみた。


 あの妖精が言った通りなら……可能なはず!


「――元気になれ~元気になれ~~……元気に……なぁれ~~」    

 少年はただそれだけを考えた。


 リナは少年の後ろから見守っていた。


 ……すると――


「……ん?――あれ?…………私――ん?……何でこんな時間に起きたの?……わたし」

 だんだんと手が温かくなり、ムクッと彼女は起き上がった。


「……あっ……ああ!……ルナああああ!!!!」

 リナはルナに抱きついた。


「え!?――リナお姉ちゃん!?――どうしたの!?」

 リナや周りにいる人たちの反応から――この時間にはルナは起きていないと察した。


「ルナルナルナ~~~~!!!!」

 リナはルナに抱き着いたまま離さなかった。


「なんと!?あの状況のルナを一瞬で!?生命草から作った回復薬でも治せなかったというのに……これは一体……」

 おばあちゃんは目を点にして驚いていた。


「ほうほう――なるほどなるほど……」

 族長は……意味深な感じで、うんうんとうなずいていた。


「少年君――ありがとう……私の大切な妹を助けてくれて……本当に……」

 妹の胸に顔を埋めながらお礼を言うリナ。


「――いや……別にいいよ」


「……リナよ、ルナを家まで送ってあげなさい――見たところ体調は良くなったようだが、今はまだ大事を取って休むべきじゃ……もちろんリナもな……今日はありがとうな……」

 おばあちゃんは優しく二人の姉妹に言った。


「――何だか良く分からないけど……あなたが治療してくれたんですね……ありがとう!」

 姉の頭をよしよしとしながらルナはお礼を言った。


「うん――とにかくありがとう!」リナも涙声(なみだごえ)で言ってくれた。


「――うん。お大事にね……おやすみなさい」

 少年はそう言うと……家族水入らずの環境を作るべく、家の奥の部屋へと向かった。


 リナはルナを連れて家に帰った。


 ルナの大事を取ったため……そしてリナもまた大変な一日だったため――人前ではそんな素振りは見せなかったが……疲労困憊(ひろうこんぱい)で今にも倒れ込みそうだったためだ。



 二人と別れた少年は――族長達と話をした。




 僕はリナと二人で、戦士長らを追いかけたところから――ことの顛末(てんまつ)を包み隠さず全て伝えた。


 

 ――そして、リナが大切にしていた宝石を取り返せなかったことも伝えた。

 


「――なるほどのう。王国の策略は回避したが……今度は少年が標的になってしまうのう……」

「――いえ、いいんです」

「……ところで、その妖精とやらは姿が見えんが?」

「はい――何故だか姿を見せることを嫌がってるようで……」

 さっきまで頭に隠れていた妖精は、影も形も無くなっていた。


「ふむ――ここは人里じゃしな……」


「――とにかく!!少年君は疲れてるから――今日はこの辺でお開きにしましょうよ」

 いつの間にか帰ってきていたリナが提案した。

「……あれ?」少年は振り向いてリナが来たことに――ちょっとだけ安心した。

「ルナはええのか?」おばあちゃんが聞いた。

「うん――元気いっぱいに寝息を立てて寝てるよ!」


「――そうじゃな、なんにせよじゃ!――少年、本当にありがとう!この恩は簡単に返せるもんじゃない。――君の頼みなら……儂らはドンと聞くからの!カラフル一族は……いつまでも君の味方じゃ!!」

 族長のおじいさんはそう言ってくれた。


「――はい。ありがとうございます」

 何が何だか分からずに意味不明な世界に来て……いきなり色んなことがあったが……今、自分の味方ができたことが……何だか……少し……こそばゆい感じに思えた少年だった。

 



「――はい。じゃあここを使ってね!」

 少年はリナに離れにある迎賓館のような場所に連れてかれた。 


「――ここなら、妖精さんもでてきてくれると思うよ!」


 …………すると。


「へぇ~こんなド田舎でも、マシなところはあるものねぇ~」

 少年の方から声が聞こえた。

「……なーんて言うと思った?あなたも馬鹿なのね!!」

 妖精はいつのまにか少年の頭から出て来て……リナに悪態(あくたい)をついてきた。


「む!?……でも、でてきてるじゃない!」少しムスっとしながらリナは答えた。


「それはね――あなたに現実を教えてあげるためよ。勘違いしないでよね~」

 挑発的な妖精。

「――少年くん。その妖精さんが何者なのか教えてもらったら……後で私にも教えてね」

 妖精の言動を聞かなかったことにして少年に笑いかけたリナ。

「あっ……うん。わかったよ」

 何だか……今の会話が少年には少し怖かった。


「――少年くん。とにかくありがとう!!本当にありがとう!!――そしてお疲れ様でした。今夜はゆっくり休んでね!!」

 リナはそう言って……退席した。


「リナって……とってもいい子だね~」

「何?――――あんた、もしかして惚れたの?」

「え!?……いやそんな……」



「あ!――忘れてた!!」

 リナが飛び出してきた!? 


「わ!?――なっ何?」

 思わず取り乱す少年。


「あ……驚かせちゃった?ごめんね!晩御飯は後で持ってくるからね!――それじゃごゆっくり!」

 そう言い残し、リナは今度こそ退席した。



 

「さて……いくら何でもあの言い方はどうかと思うよ」妖精に向かって言った。

「名無しのあなたが随分と偉そうね~……誰のおかげで権能を使えると思ってるの?」

 しかし、妖精はリナの時と同様に高圧的な態度で物申(ものもう)してきた。


「――え!?それはどういうこと?」

 何もかも知らないし分からない少年にとって、今の言葉は聞き捨てならない言葉だった。

 

「…………あの女の言う通りにするのは(しゃく)だけど、これ以上のことを教えたらあなたはフリーズするでしょうから――あんた、今日はもう休みなさい」

 ニターっと意地悪な笑いをしながら……。

 

精々(せいぜい)、あの子の胸の感触でも思い出しながらね」 


「――!?」赤面する少年。


 そう言うと、またパッと消えてしまった。


「……なかなか厄介な性格だな~あの子……」

 妖精が一筋縄ではいかない相手だということ、そして……権能の事と言い……かなりの重要人物であるということを再確認した少年だった。




 ――時が経って……虫やカエルらしき声が聞こえてくる夜になると……リナがご飯を持ってきてくれた。


 ――コンコン、ガチャ。


「――こんばんは!!少年君お腹すいてる?」


 しかし、少年はリナのこの言葉によって……今この時になって……初めて気づいた。

 

「あれ?――お腹すいてない」少年はお腹に手を当てて答えた。

 

「あっもしかして……まだ早かったかな?」

  

「いや……そうか、普通ならもうすいててもいい時間なのだろうけど――」



 二人はゆっくりと話ができる状況なので……話を始めた。


 村の人達は明かりを消して眠る家もあったので……少年は明かりを消してほしいと頼み、リナは木の形をした蝋燭(ろうそく)に火を(とも)した。


「……さっきの妖精さんは何も言ってくれなかったのよね?……でも私があなたを殺しちゃったとき……あの子言ってたね――ワールドメイカーって……」


「――うん、確かに言ってた……」



 ……あ~あ……これで、ワールドメイカーはおしまいっと……



「多分だけど……ワールドメイカーって世界創造者って感じの意味だと思うんだ……」

 少年はちょっと考えた憶測(おくそく)を口にした。

 

「――ふんふん」ちょっと高い椅子に座り、足をプンプンと振りながらリナは聞いた。


「だから――権能っていうすごい力で世界を作り変えることができる――と思う。だから今日のようなことができたんだ――ということかもしれない……」

 かなり自信なさげに言う少年。


「……お婆ちゃん言ってたよ。この村に伝わる伝説でね――あなたは神様だって――」

 リナは少年の目を見て……語り始めた。


「神……様……?」

 信じられない言葉を聞いてしまった少年。


「うん――私もそう思うよ。だって……湖のほとりでわたし見たもん。光が君を(おお)っていくのを――あの光がこの地域一帯にグワーッて広がったもん!……わたしには、あの光をあなたが従えているように見えたな~」

 リラックスしているからか……リナは素になって少年に視線を向けていた。


「…………………………」

「…………………………」

 

 ――沈黙が流れた。


 二人を照らし出した蝋燭(ろうそく)の火が……ゆらゆらと揺れていた。


「――うん」

 小さく(うなず)く少年。

 

「……だから……少年くん――だいじょ~ぶ!!」少年の目の前に立って言った。

「――?」

 首を傾げる少年。


「――君がなぜこの村に来たのか、本当に神様なのか――そういうことを気にするのはわかるよ」


「でもね……それが一番じゃないよ?一番大切なのは……少年くんがこの世界で何をするか……何をしたいか……何を作るか……何を成し遂げたいかだよ!!!!」

 リナはひとりぼっちの少年君を何とか(はげ)まそうとした。


「…………………………」

 蝋燭の火を見つめる少年。


「少年くんは、こんなに綺麗な光景を見たことがないって言ったけど……私もおんなじなんだよ?少年くんは凄かったよ――本当に神秘的だったし……とにかく……かっこよかった」

 ちょっとだけ赤面したリナ。

 

「…………………………」

 同じく……ちょっとだけ照れる少年。

 

「――だから……ね?――自分の気持ちに素直になって!自信を持って思うようにすればいいよ!」

 やや照れ隠し気味に視線を外して一呼吸入れた後、再び目を合わせたリナ。


「いつまでもここにいていいからね。ゆっくり考えて……少年くんの気持ち……教えてね」

 腰を上げて扉の方へ歩き出すリナ。


「お腹が減ったらいつでもいってね――私の家、ちょうどお隣だから……じゃあ、おやすみなさい」

 軽く手を振ってくれた後……リナはまた、笑顔を向けてくれた。




 ――それから……大分夜も更けてきた。



 ……しかし少年は一向にお腹は空かないし、疲れているのに眠くもならなかった。



 ――マジか……。


 

「……マジよ!」

「あ、妖精さん」

「あなた――いつまでも私に他人行儀ね……馬鹿なの?」

「いや、だって……」

 まだ名前も教えてもらってないし……と心の中で反論した。


「――ロナロナ」

 妖精はポツリと言った。


「――?」

「……私の名前!ロナロナよ」


「……ありがとう。ロナロナ」

「――ふん」


「それで、ワールドメイカーってなに?」


「あんた……もうわかったんじゃないの?」


「……本当に……世界を作る人?」


「――そうよ!……あなた、ここへ来る前に何て言われてここへ来たの?」


 ……あの低い声の人の言ってたことを思い出す。

 

「……良い世界を」


「そうよ。――ただあなたは、このみすぼらしい世界を好きに作り変えればいいのよ!」

「……みすぼらしくなんかないよ」

 心からの一言だった。


「――そう。……なら、あなたは何しに来たのでしょうねぇ?」

 そっぽを向きながらからかうように言うロナロナ。

 

「……そんなこと……………………わからないよ」

 

 少年は……自分なりの答えを求めていた。


 リナに言われたことを――今の僕には何一つ返せる答えなんか持っていなかった……


 何をしたいか……何を作るか……何を成し遂げたいかだよ!!!!


 この世界で何をするか……そもそもここはどこなのか?

 何をしたいか……そもそも自分は何者なのか?権能とは何だ?ワールドメイカーとは何なんだ?

 何を作るか……逆に何かをしなければならないのか?あのおっさんに問い詰めたくなる。

 何を成し遂げたいか……この世界で僕のしなければならないことがそもそもあるのか?



 そして何よりも……僕は一体誰なのか……



 自分という存在自体が不確かなもので……少年は不安で仕方がなかった……。

 

「…………そんなに、ごはんとか睡眠とかとりたいの?」

 ロナロナは落ち込んだ様子の少年に聞いた。


「…………」


「――あなたはね、この世界の神として登録されたのよ」

 少しだけ……少年の疑問に答えてくれた。


「――神?」

 

「ワールドメイカーは、その世界における神様になって権能を使って作り変える――要は創造神ね。――当然、神様だからご飯も睡眠もいらないのよ」


 ……何故空腹にならないのか……そんなつまらない疑問の答えを教えてもらった。


「ちなみに……あなたも体験したからわかるでしょうけど、性欲は多少あるからね♪」


「え!?……あっその、えと……」

 予想外の方向性からの攻撃にたじたじする少年。


「フフフッ――。権能は……あなたが強く思えば使えるわ……あなたの今したいことを思いなさい」


「――あ!そうだ!甘いものがあったら、私に頂戴ね。情報料よ……じゃあね」

 

 ――そう言うと……ロナロナはまた消えてしまった。




 ……駄目だ……疲れて何も考えられない……。


 ――ロナロナに言われた通りにしてみよう。


「ごはん……ごはん……ごはん!!」

 

 ――ぐぎゅるるるるる。


 ――本当だった。


 ――すごいなぁ。

 



 少年は夜遅くで悪いとは思ったけど、言われた通りに隣にある家にお邪魔した。

 

「おじゃましまーす……リナ?」


 家の中はすでに明かりが消えており寝静まっているようだった。


 ……もう寝ちゃったかなぁ。


 少年は家にあった蝋燭を持ってきていたので、寝室には行かない様に注意しながら晩御飯を探した。

 

 目立つような場所にはなかったので……諦めて家を出ようと振り返った時だった。


「……お困りで?」

 婆の顔が暗闇から現れた。


「ぎゃああああ!!??」

 少年は暗闇の中からモンスターが出現した!?

 ……と思ったら、顔の下から光が当たったおばあちゃんだった。


「――リナは今湯あみをしとるよ」

「はぁ……はぁ……びっくりした…………あの……」

「うむ、わかっておるよ。いつ来てもいいように、用意しとったんじゃよ。――リナがな」

 

 おばあちゃんは木製の冷蔵庫らしきものを開けて……豪華な食事をとりだした。


「――ほれ、これじゃ!」


「ここで食べていきなさい」


「――そうですね。ではいただきます」


 食事は、一言で言えば和食のようだった。


 しかし、少年が知っている食材とはまるで異なっており……色とりどりの芸術品のようだった。


      前菜:虹彩米の炊き込みご飯。

     スープ:焼き皇潤マツタケのスープ

     魚料理:川フグと虹エビの天ぷら

     肉料理:虹鳥の唐揚げ桜卵のせ。

メインディッシュ:虹色イクラをのせた虹色マスの刺身

     サラダ:千色コーンと生命草のサラダ

    デザート:レインボーアップルプリン

    ドリンク:山岳ミツバチのハチミツ入りレモンティー


 目が点になるような豪華な食事だった。


「ふっふっふ……この村の出せる最上級の御もてなしじゃよ。すごいじゃろ……リナは!」

「ははっ……本当だ。すごいですよ……あとでお礼言わないとですね」


 ――デザートのプリンはロナロナにあげないといけないな……。


 どれも美味であり、豪快でいて繊細な味だった。

 炊き込みご飯は噛めば噛む程味が染み出てくるようで、スープの深い味わいは海の深海へ潜るかのように酔いしれる。

 天ぷらはサクサクしてるくせにエビとフグの食感がまた良いアクセントになっている。唐揚げに卵を合わせているからジューシーでいて口の中で味が変わるのがまた素晴らしい。

 刺身は新鮮そのものでイクラと一緒に食べると、掛け合わされたような味わいが美味しいという言葉の中に吸い込まれていくような感覚。

 現実感の消失が起きるかのようだった。

 サラダがまた口に残る後味を入れ替えてくれるかのようにフレッシュで、レモンティーはほんのり甘くちょっぴり酸っぱいのがこの料理たちを引っ張っていくような、また食べたくなるような食欲を呼び起こすものだった。

 プリンは、ロナロナにあげるので持っていくのだが、用意してくれた手前一口だけいただいた。これもまた、口に入れた瞬間から飛び出すような旨さとそのあとの繊細な甘さ、のどごしと後味に残る印象。

 これも締めくくりに相応しいデザートだった。



 ……大満足の食事を終えた少年が気づいたときには……おばあちゃんは既に眠ったのか……いなかった。


 少年は台所っぽいところで食器を自己流で洗い、乾かすっぽいところに置いた。


 リナに、すっっっっごく美味しかったよ!!――と書き置きを残した。


 少年はすっかり元気を取り戻してデザートを持ってリナの家から出てきた。


 ――その帰りに…………出会ってしまった。

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