いざ行け 異世界-4
――当面の危機は去った。
……そして一安心する二人。
「とにかくありがとう!!本当に……ありがとう少年君!!」リナは涙ぐんでお礼を言った。
「いやいいよ、僕も悪かったね。話をこじらせちゃったもん――だから別にいいよ」
ニカっと笑う少年。
「――うん」涙を拭うリナ。
「……ところで、君はなんでそんなに強いの?」
顎に指をあてて首を少し傾けてリナが聞いた。
「ん~」少年は腕組みしながら少し考えたが。
「――わからない、ただこいつには負けられないって思ったら――何だか力が湧いてきたんだ!」
両手を握って……その感触を確かめる少年。
「ふ~ん……つまんないきっかけねぇ~」
すると、耳元で声が聞こえた。
大きさが15cmくらいの妖精は、白くて綺麗な天使のような羽をパタパタとして宙を舞うように自由に飛んでいた。
「あ……そうだった、忘れてた――君は一体……何者?」
少年は妖精に聞いた。
「……ん~?君ね~……なんで落下地点から動いたの?おかげでずっと寝かせられてたのよ~!!」
目の前に飛んでいる妖精が目を細めて言った。
「え!?」
いきなり問い詰められる少年。
「あのまま垂直に落下してたらダメージも負うことなく何の問題も無かったの!全く……どうせ落下中ちょこまかと動き回ったんでしょ?――馬鹿ね!」
「あ、いや、その~ごめんなさい」
「ふん、もういいわよ」
「……それで、君の名前は?」
「あとでゆっくり話すわ。まだ用事があるんでしょ?さっさと済ませなさい!」
そういうと、少年の頭に降りてちょこんと座ったかと思ったら髪の毛をくしゃくしゃと引っ張り即席の毛布を作り寝てしまった。不思議と重さは感じなかった。
……三人は村への帰路についた。
「ところで……なんで僕はあんなに強くなったんだろう?」
「……やっぱり力を隠していたとかじゃないんだ?」
「うん――あんなに強かったって知ってたら僕もすぐに立ち向かっていたよ」
二人は不思議な現象について話し合っていた。
「…んぁ~……あなたが使ったのは、権能の一つ。自己強化よ――あんたのレベルが100になったの」
とても眠そうな声で妖精は言った。
「うそ……レベル100!?」リナは衝撃を受け、立ち尽くして少年を見ていた。
「レベル100?それって強いの?」少年は、振り返りながら何気なく聞いた。
「それは強いよ。とにかく強い!」リナは多少興奮気味に両手をバタバタして答えた。
「あ~えっとね、今現在分かってるレベル100なのは亢龍だけだよ!!」
「こう……龍?」龍なんて生物がいるのかとちょっと驚く少年。
「そう!世界で二番目に強いっていう魔王ザムディンって魔人もいるけど、彼でさえレベルは90だもん!」
「ほう……その魔人はレベル100にはならないの?」
「そっか……本当に何も知らないんだね少年君。いい?……種族限界値って言ってね、それぞれの種族でレベルの上限があるの!」
「人間が行きつける限界が50まで。亜人が70でしょ。竜人が85で魔人が90。そして龍族が100までなの!」
「はぁ……」
「とにかく!!だから今のあなたは、世界最強の亢龍と同格ってわけ!」
「へぇ~」少年は話半分に聞いていた。湖や森の雪を見ながら。
「………ねぇ、聞いてる?」リナは少し不機嫌な声で少年を問い詰めた。
「ああ!?……聞いてる……聞いてるよ!」
「――ホントに~?……とにかく、あなたは村を救ってくれた恩人、今できる精一杯の御もてなしをするからね」 ニッと笑顔で少年に言った。
「ありがとう」少年も答えた。
「ところで、さっきから気になってたんだけど、この場所は湖だったんでしょ。なんでこんな状況になったの?」
リナは口ごもりながら答えた。
「……わからないの、ある日いきなり寒さを感じたら、すでにこんなになってたんだ……」
先ほどの戦いでも表面だけで奥深くは全く壊れなかった湖の氷、そして雪の重さで折れている枝のある木々がそこかしこに見受けられる。
リナが教えてくれなければ、ここが湖のほとりだとは誰にもわからないだろう。
この謎の異常気象が無ければ、湖は凍らずに雪国のようになってはいなかっただろう。
そして、こんな事態にも陥っていなかっただろう。
そしてこのままでは、村は寒波によって飢えて死ぬかもしれない現状を少年はまじまじと思い知った。
「……異常気象が無ければ……こんなことにならずに済んだのにね……」
少年は、湖を見ながら村のことを心から憂いた。
するとどこからか……少年の周りにキラキラした光の玉が、いっぱいに満たされて集まってきた。
黄色い光の束が少年を取り囲み……
それは柱のように上へと伸びていった。
そしてついには、空の雲にまで届いた。
リナは、その光景が余りにも美しかったので見とれてしまった。
「きれい……」
少年を包み込んでいる光柱は、雲を突き抜けると……花火が空に咲くように一気に外へと広がった。
……彼女は目を疑うような光景に立ち会った。
光の粒が通った途端、雪や氷が透明になって消え……みるみるうちに湖が水で満たされていった。
そこから生えている木々や倒木からも若葉や葉っぱが生えてきた。
湖は息を吹き返したかのように……水は空をひっくり返したかのような美しい青色をしていた。
はるかなる空の太陽へと向かうような丘から流れ落ちる滝の水が、沈みゆく夕日に照らされて……何十個もの虹がかかり……流れ落ちる景色は……言葉では表せない絶景であった。
湖の水面には虹が反射して綺麗な七色の模様が描かれていた。
その横を漂う雲にも色彩画のようなカラフルな色に染められていた。
白一色だった世界が……一変して…………色鮮やかな世界になった。
……少年にとって……この世のものとは思えない絶景だった。
そう……一瞬にして、この地一帯の雪化粧が剥がされて……本来の美しさを取り戻したのである。
「…………………………え?…………あれ?」
ふと我に返り、何が起こったのか自分でもわからない混乱と、あまりにも美しい異次元のような光景に呆気に取られている少年。
「何!?……何が起きたの!?……この虹色だらけなのは一体?――リナ?」
「――ここはね……永遠に虹がかかる場所と言われているんだ♪」
リナはそう言いながら、少年の隣に立った。
……リナは、さっきまで光があたり神々しい光景を作り出したこの少年が極めて異質な存在であることと、偉大で影響力を持つ人であること。
――そして、なんとなくだけど……そこはかとなく儚げな人だと思った。
少年は今、何が起こったのか具体的にはわからないが、自分の起こした現象であること。
なんとなく今の自分がとてつもないものにされたことを自覚した。
――さっきのもこれも、僕がやったらしいかもしれない……。
……なにがなんだかよくわからないけど、答えは妖精さんが知っている。
本当はすぐにでも問いただしたいところだけど……村に騎士団のことを報告するのが先かな?
少し考えこむ少年と、元通りになった故郷の姿を見つめるリナ。
「えへへっ――君は、とにかくっすっごいんだね!!」
リナはまるで自分のことのように笑いながら言った。
「さあ、村に帰ろう少年君!!」
リナは手を差し伸べた。
「うん――ありがとう!」
少年はそう言って手を掴もうとしたら、踏み出した足が木の根につっかえた。
「あ……」
――ムニュ……
少年の顔面は、リナの胸にダイブした。
「「…………………………………………」」
二人とも一拍おいて、顔が真っ赤になった。
「キャー!!!!」
リナの魔法を込めた渾身の一撃が少年の股間に直撃した。
「はう!!!???」
――バタッ。
――チーン。
少年は力尽きた。
「あ~あ……これで、ワールドメイカーはおしまいっと」
妖精はポツリと言った。
「いやー!?ちょっとまってー!?」
幽体離脱して昇天しかかっている少年。
「あっ……あああーーーーごめん少年君ーーーー!!!???」
思わず衝動で少年を殺してしまったリナ。
――こんなんで大丈夫なのでしょうか?
――とりあえず、こんなしょうもない感じで
――少年とリナと妖精の――神話が始まったのだった。