いざ行け 異世界-0
なにもない まっしろなせかい
ぼくは
たったひとりだった
うえもしたもなく みぎもひだりもなく ゆかもなくそらもない
じぶんといういしきでさえ おかしなものだとおもった
じかんさえもない このせかいに
ひとつのへんかが 生まれた
「…………ぇ……」
どこかから、声のような音が聞こえた。
僕の頭の中で響いてくる、ぶっきらぼうな声。
それを聞くと、心のどこかで苛立ちが生じた。
「……おい!お前!!」
――ビクッ!?
空間が震えるような声量に、僕は心臓が止まったかと思った。
「……え!?もしかして……僕……ですか?」
この時、初めて僕は、自分の声を聞いた気がした。
「ふ~ん、なるほど……お前がそうか。随分と軟弱そうなやつだが……まあいい。そう変わりはいないからな~」
謎の声は、何やら気怠そうな態度だった。
ありとあらゆる全てが謎だらけの世界――
万が一にも、この声が消えてしまったら、僕は何も分からないままに置いていかれてしまう。
危機感を覚えた僕は、何とかしないと――と、思った。
僕は勇気を出して――言ってみた。
「あなたは誰ですか?ここはどこですか?僕は一体……何がどうなったのですか!?」
逸る気持ちが、言葉を次々と送り出す。
「あ~も~うるさい!そう次々と質問するな!……あとで答える奴が答えるさ……では、早速だが登録開始な」
声の主は、質問などお構いなしに、話を進めだした。
「登録?」
よく分からないその言葉に、僕は緊張が走った。
「――んで、え~っと、ん~こいつは難しいとダメっぽいしな~…………おし!こんなもんだろ~」
ピロン♪
突然、どこかから何かの機械音が鳴った。
「はい。じゃあ、行ってきな――良い世界を!」
「……はっ?」
フッ――。
突然、足元から地面らしきものが消えた。
いや、空間が出現したというべきか。
あの声は誰なのか?登録って何だ?今の異変はなんなのか?ここはどこなのか?
自分は……だれなのか?
そんな僕の疑問は、この後、すぐに霧散した。
――目を開けると……まるでスカイダイビングしたような青々とした大空があった。
見渡せない程の広大な世界が、そこには広がっていた。
遠い空に浮かんでいる島、真っ白に彩られた山脈、右の空にはかすかに見える月と左の空に昇っていく太陽、視界一面に見えた大陸と煌めく大海原が、飛び込んできた。
きわめて雄大な光景に、心を奪われた。
しかし、肌を貫く寒さと耳から送られる轟音で、今まで気付いていなかったことに……決して理解したくないことに……気付いてしまった。
自分が、今、とてつもない速さで落下していること。
そして、着地する手段がないことを……。
「あ……僕……死んだ……」
もしも、願いが叶うなら――
あなたは
何を願いますか?
全てが思うままとなったら、
あなたは、
何を叶えてみたいですか?
何を見て、どこかへ行き、何を成してみたいですか?
それとも……
何かを殺したいですか?
何かを、ぶち壊してみたいですか?
叶えられなかった思い
残り続けた後悔
やってみたかった夢
もしも、願いが叶うなら――
これは、そんなひとりを追いかけた――冒険譚である。