09.総一郎は悶々とする
可愛い可愛い悶えてます。
お隣さんで幼馴染みの鈴木陽奈子は可愛い。
癖の無い艶やかな黒髪に、少しキツめだけど大きな黒い瞳はくりくりとよく動くし、赤く色づいた唇はさくらんぼみたい。
黙っていれば、陽奈子はハッするような美少女だ。
ただし、中身が残念過ぎて陽奈子をよく知る小学生の頃からの友人は、「残念美少女」と彼女を評す。
残念美少女でも、総一郎はそのギャップが可愛いと思っている。
何時も斜め上な言動をしてくれるから、彼女と一緒にいると楽しい。これが俗に言う、ギャップ萌えというやつと最近は思っている。
黙っていれば美少女の陽奈子は、中学生になった頃から目立つのを嫌い、本人曰く日陰キャラになろうとしていた。
日陰キャラになろうとするほど、「可愛くて大人しい女子」と周りから思われ注目されるのに、馬鹿な陽奈子は気付かない。
然り気無く傍に居て、周囲を牽制しつつ彼女が男に近寄らないように総一郎は日々気を配っている。が、男達以上に面倒なものがすぐ近くにあった。
「総一郎! ママ、今から陽奈ちゃんとデートしてくるわねぇ!」
親子だから好みが似るのか、陽奈子の事が大好きなフランス人の母親は、久々の休日をは夫と息子と過ごすよりも「陽奈ちゃんと一緒がいい」と言い切る。
中学入学以降、体つきが女らしくなってきた陽奈子に母親は時折薄化粧をして出掛けている。何時も可愛いのだが、この前の格好はヤバかった。
母親が動画サイトで興味を持ったという、ゴスロリ服を着せられ髪をツインテールに結んだ陽奈子は、アイドル顔負けの美少女に変身していて見惚れてしまった。
更にヤバかったのは、その日の買い物で母親が選んだセパレートタイプの水着、所謂ビキニを試着した写真を見せらせた時だ。
恥ずかしそうな陽奈子のビキニ姿はスクール水着とは違った色っぽさがあって、総一郎は下半身が完全に反応する前に自室へ逃げてしまった。水着の試着写真を撮るなんて、何やっているんだうちの母親は。
陽奈子は可愛い。
可愛いけれど、鈍くて無防備で高校入学してから、特に二年に進級してから増えた男達からの視線にも気付かない。
窓から隣家を見るとまだ誰も帰宅して居らず、無用心にも陽奈子の部屋の窓は施錠すらしていない。
昨日、捻挫した陽奈子が無理をしていないかと心配して送ったメッセージに返信は無く、何かあったのかと総一郎は部活に集中出来なかった。
悶々とした気分で、乗ったバスの車窓から歩道をぼんやり眺めていると陽奈子に似た女子生徒の後ろ姿を見付け、唖然とした。女子生徒の隣を歩く男は、何かと目立ち一年時の球技大会と体育祭で総一郎と競った狩野理人だったのだ。
目を凝らして見ると、やはり女子生徒は陽奈子で、衝動的にバスから降りていた。
何故、どうして狩野理人と?
どす黒い感情が噴き出しそうになった総一郎へ、鈍い陽奈子はあっけらかんと「接骨院へ言っていたの」と言うのだ。
『ねぇ総ちゃん、広報紙のインタビューを断ったんでしょ?』
『何で知ってる?』
『えっとね、今日の放課後、生徒会長から総ちゃんに協力して欲しいと伝えてって、頼まれたの』
捻挫の原因、生徒会長とぶつかったと聞いてから感じていた嫌な予感が的中した。
善人の仮面の被り、周囲を欺いている生徒会長が陽奈子にちょっかいをかけたことを覚り、不安と焦燥に目の前が暗くなっていく。
もしも陽奈子が生徒会長に気に入られたら?
鈍い彼女は、外面は人当たりの良い生徒会長の本性には気付かず、手を出されるかもしれない。
自分の部屋の窓枠に足をかけ、何時も通り総一郎は鍵の開いた窓から陽奈子の部屋へ侵入した。
部屋へ入ると、柑橘系のルームフレグランスの香りが鼻腔に広がる。香りを嗅ぐと、今まで感じていた焦燥が薄れていく気がした。
陽奈子が帰宅するまで寝ているかと、ベッドへ寝転がれば畳んだ下着が背中に触れる。
「はぁ、陽奈子」
ローズピンクのリボンで縁取られた薄ピンク色のブラジャーを広げると、柔軟剤の香りが広がり使用済みでは無く洗濯した物かと落胆する。
総一郎の手に丁度良く収まるブラジャーの膨らみ。ブラジャーのタグで確認すると、サイズはDカップだった。
次いで広げたブラジャーとお揃いのショーツも、リボンに縁取られた可愛いデザイン。
中学生になるまでは、総一郎の身体は細く陽奈子のショーツは履けたのに、もう履けそうにないのが残念でならない。
女装趣味は無いが陽奈子の服は、可愛らしい下着は身に付けてみたいと思う。
寝転んだ総一郎は、両手で広げているブラジャーを着けて、お揃いのショーツを履いた陽奈子の姿を想像して......下半身に熱が集まっていく。
「はぁ、陽奈子」
小学六年の時に経験した総一郎の初めての射精は、陽奈子の下着の匂いを嗅いで興奮した状態で経験した。
あの時の白いショーツは、綺麗に洗って記念として密閉容器に入れて隠し持っている。
陽奈子のベッドに寝転んで、彼女の匂いに包まれて何度妄想に耽ったことか。
妄想ではなく近い将来、自分の下に陽奈子を組み敷いてしまいたい。
ベッドへ寝転がる陽奈子を、戯れに背中から抱き締めたことがあっても、真正面から抱き締める勇気はまだ無かった。
玄関の開閉音、階段を上がる軽い足音がして陽奈子が帰宅したのを知り、総一郎は掛け布団を被った。
「あー! 総ちゃんったら、また私のベッドで寝て!」
扉が開くと同時に発せられた陽奈子の大声で、今起きたといった風に総一郎は掛け布団から顔を出した。
頬を膨らませて文句を言う陽奈子は、半分呆れながらも何だかんだ毎回許してくれる。掛け布団の下、自分のベッドで総一郎が何をしているか知らずに。
本当に馬鹿で可愛い。
「寝るなら、自分の部屋で寝なさいよ」
「陽奈子の部屋の方が居心地がいいんだよ」
「もぉーしょうがないなぁ」
ブレザーを脱ぎ、リュックサックを学習机横のフックに掛けた陽奈子へ向かって、総一郎は掛け布団の中から丸めたショーツを放り投げる。
「陽奈子、洗濯したパンツくらいしまっとけよ」
「えっ!? こ、これは、お母さんが畳んで置いただけで。ってか総ちゃんっ! パンツがくしゃくしゃになっちゃったでしょっ!」
受け取った物がショーツだと理解した陽奈子の顔は、茹で蛸みたいに真っ赤になって可愛い。
真っ赤な顔で、パンツを両手で握って慌てているのも可愛い。
掛け布団の中からブラジャーを出して、ブラブラ揺らして見せれば、「うぎゃー!」と悲鳴を上げた陽奈子は掛け布団を引っ張りだす。
掛け布団を引っ張り返すと、陽奈子は勢い良く掛け布団越しの総一郎の下半身に顔から倒れた。
「うっ」
「く~! 引っ張り返すなんてやるな総ちゃんっ!」
「はっ、陽奈子。手ぇ、どけろ」
手を突いた場所、掛け布団の下には総一郎の股関の間。
トランクスの中で膨らんだ一物が強く刺激され、痛みとむず痒さに総一郎は小さく呻いた。
「手? 何、総ちゃん、あ......」
掛け布団に突いた自身の手のひらの位置を確認して、陽奈子の顔が一瞬青くなり、次いで熱を帯びていく。
「ご、ごめん~!!」
二度、真っ赤になった陽奈子は、急いでベッドから降りようとする。
反射的に総一郎が伸ばした手は届かず、陽奈子はベッドから飛び降りた。
からかうと直ぐにムキになるし、半べそ顔が堪らなく可愛い。
同じクラスになれれば、常に陽奈子の傍に居られたのに。
彼女に近付こうとする男達を、威嚇すら出来無いのが嫌で堪らない。
いっそのこと、押し倒して無理矢理にでも処女を奪ってやろうか。体だけでも自分のものにしたら......そんな思いが総一郎の脳裏をよぎる。
「えーと、ごめん。痛かった?」
「玉をぐりってされて痛かった」
「玉、言わないでよ~!」
暗い想いを抱いてヤル気になっても、真っ赤になった可愛い陽奈子の泣きべその顔を見ると、総一郎の中でヤル気は萎えていってしまうのだった。
掛け布団の下でナニしているのかはご想像にお任せします。




