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幼馴染みはBLゲームの主人公です【連載版】  作者: えっちゃん
悪役女子より普通の女子でいたいのです
13/20

07.次から次への展開に私は怯える

 見た目は抜群に良い生徒会長は、美術品みたく少し離れて見ているだけで十分だと思う。

 見下ろされているだけなのに、嫌な圧力を感じていた私は口元をひくつかせた。


「総一郎に何かを頼みたいんですか?」


「うん。生徒会が広報紙を出しているのは知っているよね。新年度になったし、新しい広報紙を出そうと動いているんだ。内容は、新入生向けに学校生活と部活案内なんだけどね」


 ふう、と息を吐いた生徒会長に、私はピンときてしまった。


「もしかして、総一郎は広報紙の取材を断ったんですか?」


 ゲーム主人公の男の娘総一郎だったら、受け身なキャラで生徒会長には逆らわないだろうけど、私の幼馴染みのあの総一郎なら気が乗らなかったらすっぱり断りそうだ。

 だって、生徒会長花京院凪沙は総一郎の嫌いなタイプだろうから。


「生徒会顧問で佐藤君の担任、杉山先生からも声をかけてもらったんだけど断られちゃったんだよ」


「えっ」


 あの杉山先生から声かけられて断るとは、凄いな総一郎。

 私が頼んでみたところで引き受けてくれるとは思えないけど。頼んでも一言「無理」と一刀両断されるに違いない。


「分かりました。言ってみるけど、あまり期待はしないでくださいね」


 要件を了承し破滅フラグ(生徒会長)からやっと解放される、と気が緩んだ私は安堵から笑顔になる。

 さっさと総一郎に断られて、西園寺さんに「断られちゃった」と謝ればいいだろう。

 緊張が緩んで表情を崩した私を見て、生徒会長は一瞬だけ目を丸くする。


「それと、鈴木さん」


 ニヤリと口の端を上げた生徒会長は、私が座る直ぐ横のソファーの背凭れに手を突く。


「せ、生徒会長ぉっ?」


 覆い被さるようにして、生徒会長は私の耳元へ唇を近付けてくる。

 生徒会長から逃れようと、私は必死で背凭れに上半身をそわせ仰け反った。


「苺パンツは可愛いかったけど、廊下階段は気を付けて歩いてね」


 耳元で低く囁かれ、一気に体温が上昇する。何この色気むんむんのエロボイス。

 くすりと笑う彼の吐息が顔にかかり、息からミント系の匂いがしたのを「ガムか歯みがき粉の匂いかな」なんて考えてしまった。


「あ、あの時は、すいませんでしたっ」


 このままでは押し倒されかねない。私の脳裏に、このソファーで彼に無理矢理押し倒され好き勝手されて、最終的にあんあん喘がされる女子生徒のスチル、ゲームで見た生徒会長のエロ回想シーンが浮かぶ。


(あの流され女子生徒は私かい!? ひぃっ貞操の危機!?)


 初体験が好きでもない相手で、ソファーの上で無理矢理とか終わっている。

 彼の餌食になんかなりたくない一心で、私は両手を前に突き出した。

 生徒会長に対して無礼だとか先輩だとか、全て吹き飛ばす勢いで生徒会長の胸を押して何とか距離を離す。

 真っ赤に染まっていると自覚できるくらい熱い顔を見られたくなくて、私は俯きながら頭を下げた。

 頭を下げた勢いで立ち上がる。


「失礼しましたぁ!」


 返事を待たずに生徒会長の脇をすり抜け、私は扉へ向かって歩き出した。




 バタバタ音をたてて退室していった陽奈子の後ろ姿を、ポカンと口を開けて見送った花京院凪沙は彼女が扉の奥へ消えたのを確認して、くくくっ、と笑いだしてしまった。


「凪沙、鈴木さんに何やったんだよ。まさか、お前」


 扉が開き、部屋に入ってきた黒瀬川は飽きれ顔で花京院に問う。


「克己、なかなかいい反応をしてくれたと思わないか?」


 クツクツ笑いながら花京院がソファーに腰掛けると、先程まで座っていた陽奈子の温もりを感じた。


「いいね鈴木陽奈子。気が強そうな顔をして、反応が初なんだよ。泣きべそが可愛いとか、必死になって逃げるとか、そそられる」


 からかってやろうかと近付いただけで、あの反応。

 吊り目で気の強そうな少女が、実は全く男慣れしておらず羞恥で真っ赤な顔をして涙目で見上げてくる様は、なかなかそそられた。少し味見をしようして、逃げられるとは。

 “優しくて紳士な生徒会長”が近付いただけで、ほとんどの女子生徒は頬を染めて恥じらい体を差し出すのに、全力で拒否されたのは逆に新鮮に感じる。

 説得を依頼したのは生徒会の仕事のためとはいえ、自分に対して思いっきり警戒していた鈴木陽奈子が、佐藤総一郎とは仲良くしているのかと思うと、少しばかり胸がムカつく。

 このムカつく感情をどうしてやろうかと、花京院はほくそ笑んだ。



「あのなぁ凪沙、悪い癖を出すのは止めろよ」


 ニヤニヤ笑う花京院は、悪巧みをするときの表情だと知っている黒瀬川は、今後の展開を予想して......痛み出したこめかみを人差し指でグリグリ押さえた。




 ***




 待っていてくれた西園寺さんに挨拶をして、生徒会室から逃げるように退室した私は、一直線に昇降口へ向かっていた。

 総一郎からは「部活終わるまで待っていて」と、メッセージが届いていたけど、早く学校から離れたい。依頼の話は帰宅後にすればいいだろう。


(何なのよアレは!? まるで攻略イベントじゃないの! イベントが起こるのは、私じゃなくて総ちゃんでしょっ)


 この時の私は、考え事をしながら歩いていたせいで前方不注意だった。放課後の特別教室前の廊下には、人がいないという思い込みもあったのだろう。


「うぎゃあっ」


 曲がり角を曲がったところで身体に衝撃を感じ、踏ん張ろうと捻挫した右足首に力を入れてしまい痛みが走る。

 痛みのあまりよろめいた私の腰に腕が回された。


「おいっ、前向いて歩けよ」


 意思の強そうな眉に黒い瞳と短い黒髪。

 いきなり爽やか系スポーツ少年の顔がドアップにあって、私は「ぎゃあ」と悲鳴を上げた。


 至近距離から私の顔を覗き込む男子生徒と密着して、彼の筋肉質な腕が腰に回されている状況に頭の中は大混乱に陥る。

 またしても廊下の角を曲がって男子とぶつかるとか、恥ずかしい上にこんな展開は通常では有り得ない。格好良い男の子に抱き抱えられるとか、漫画か恋愛小説、乙女ゲームじゃないか。

 数秒程男子生徒の顔を見詰めてから、彼が何者か気付いた私の顔から音をたてて熱が引いていく。


 男子生徒は、攻略対象キャラの一人。同級生ポジションの男子バスケット部エース狩野理人(かのうりひと)


「ごっ、ごめんなさい」


 痛む右足首を庇いながら狩野理人から離れて立つ。

 距離を開けたことは特に気にした様子も無く、彼は私を一瞥して口を開いた。


「お前、確か鈴木だっけか?」


 何故、狩野理人が名前を知っているのかと考えて、一年時彼と同じクラスだったと思い出した。

 当時は、極力目立たないよう気を付けていたし、クラスの中心人物だった男子生徒とは絶対に関わらないようにしていたから、彼が私の名前を知っているとは吃驚だ。


「おい、大丈夫か?」


 怪訝そうに問われ、私は無理矢理笑みを作る。


「だ、大丈夫。ごめんね狩野君」


 おかしい、私は悪役女子の筈だ。

 なぜ短期間に、次から次へ攻略対象キャラと出会ってしまうのか。

 この出会いが、生徒会長みたく何かのフラグだったらどうしよう。

 去年一年間の努力は無駄だったのかと、頭が真っ白になるくらいハイペースで攻略対象キャラに出会うなんて。


 どうやって興味を持たれずにこの場から立ち去ろうかと、私は笑顔を顔に貼り付けたまま考えを巡らしていた。


攻略対象キャラ四人目:狩野理人。

同級生ポジションの爽やか男子バスケット部エース。恋愛に真面目な彼は、総一郎を苦悩しながらも一途に想う純情タイプ。一番マトモな恋愛が出来る。


またしても総一郎不在です。

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