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幼馴染みはBLゲームの主人公です【連載版】  作者: えっちゃん
悪役女子より普通の女子でいたいのです
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05.陽奈子と占い結果

 足首を捻挫した私を自宅まで送るため、校長と話をしてきたらしい遠藤先生は勢い良くC組へ突入して、総一郎を拐うように連れて教室へ戻って来た。


 事情をよく分からないまま、遠藤先生に引き摺られワゴン車の後部座席へ押し込まれた総一郎に、経緯を説明すればあからさまに嫌そうな顔になる。

 私は彼を巻き込んでしまった申し訳無さで俯き、自分の膝へ視線を落とす。


「ごめんね」


「陽奈子が悪いんじゃない」


 確かに、今の状況に関しては私は悪くない。とはいえ、遠藤先生を止められなかったのだ。

 隣に座る総一郎は溜め息を吐くと、膝の上で握り拳を作っている私の手を触れた。


 意外と学校から自宅が近かった西園寺さんは、名残惜しそうに何度も振り返りながら車から降りていた。

 建設時から「どんなお金持ちが住むのかしら」と総一郎と見上げていた駅近タワーマンション。そこの上階に住んでるとか流石お嬢様だ。正しく悪役令嬢という称号に相応しい御住まいである。

 悪役女子という微妙な役名の私は一般家庭の生まれで、自宅は築二十年のごくごく普通の一軒家だし。


「鈴木の家と佐藤の家は本当に隣なんだなぁ。幼馴染みってやつか」


 スマートフォンのカーナビアプリの案内を確認した遠藤先生は、小さく「だからか」と呟いた。


「幼馴染みというか、兄妹みたいに育ちましたから。ねぇ」


 何度か話を振っても、総一郎はムスッと眉を寄せたまま会話に加わってきてくれない。

 前々から気付いていたけれど、総一郎は何事にも熱い熱血タイプは苦手らしく、遠藤先生の話に私が相槌を打つ度に何故か機嫌が悪くなっていく。


 空気を読んでくれず、話し続ける遠藤先生と不機嫌な総一郎に挟まれた私は、車内の微妙な雰囲気に耐えきれず早く家に着いて欲しくて窓の外を見る。

 窓に映った総一郎と視線が合う。

 会話が途切れたタイミングで振り返り、上目遣いで彼と視線を合わせた。


「一緒に帰ってくれてありがとう」


「もともと陽奈子と一緒に帰るつもりだったんだ。送ってもらえるならラッキーだろ」


 一緒に帰るつもりだったと言われて、私は内心首を傾げた。

 クラスの派手な女子数人が、放課後C組の男子を誘ってカラオケに行くと話していたのと、彼女達がカラオケへ誘うメンバーの中に総一郎の名前があった気がしたのだ。


「でも総ちゃん、放課後は」

「もうじき着くぞ~!」


 能天気な遠藤先生の声で私の声は掻き消される。

 窓から見える風景は見知ったもの。もう自宅へ着くのなら、これ以上話すのは止めだと私は口を閉じた。


 玄関前に留められた車から私の荷物を持った総一郎が先に降り、慣れた手付きで玄関扉の鍵を開ける。

 送ってもらった御礼を遠藤先生へ伝え、総一郎の差し出した手に掴まりふらつきながら家へと入った。



「つっ、」


 玄関の上がり(かまち) に座ると、帰宅したことで緊張が緩んだのか右足首が痛み出して小さく呻いた。

 緩慢な動作で靴を脱ごうと手を伸ばす前に、横から伸びてきた手が私の足からするりと靴を脱がす。


「ちょっ、自分で脱げるって」


 蒸れた足と靴の臭いを嗅がしてしまったと、焦る私の真横へ総一郎は腰を屈めた。リュックを肩へひっ掛けたまま、私の膝裏と背中へ腕を回しを抱え上げる。

 予告なしに急に抱き上げられ、総一郎のジャケットにしがみついてしまった。

 本日三回目のお姫様抱っこ。

 女の子としたらトキメキが生まれる場面かもしれないが、いきなりやられると吃驚するし恥ずかしい。


「総ちゃんっ歩けるって」


「大人しくしてろ」


 耳に当たる総一郎の吐息が擽ったくて、私は目を細める。


 リビングへ続く引き戸をお行儀悪く足で開いた総一郎は、三人がけのソファーへとゆっくり私を下ろした。


「ありがとう」


 離れる直前、ジャケットの裾を掴んで礼を伝える。

 フッと笑った総一郎は私の頭を一撫でして隣へ座った。


 足を上げていろと言われたのを思い出して、隣に座った総一郎の肩へ背中を向けて遠慮なく凭れ掛かってやった。


「そういえば、西園寺ってあんなのがいいんだな」


「あんなのって。熱血な生徒想いのいい先生だと思うけど?」


「熱血? 彼奴も杉山と同類だ。遠藤が陽奈子の担任で、杉山が俺の担任とか最悪だし」


 吐き捨てるように言うと総一郎は黙ってしまった。


 去年は遠藤先生と杉山先生と関わったのは授業だけだし、二人の先生に対して総一郎が刺々しいのは嫌味でも言われたか授業で何かあったのか。

 あれがイベントと呼べるか不明だけど、生徒会長との出会いイベントを私が起こしちゃったくらいだし、総一郎の方で先生達の好感度が下がる何かがあったのかもしれない。


「また同じクラスになれなかった」


「クラスまで同じだったら、部活以外ずっと顔を合わせることになっちゃうよ? っと」


 凭れかかっていた総一郎が身動いだため傾いだ上半身は、後ろから回された彼の左腕が支える。

 彼氏もいない私が、家族以外で触れられても緊張しない相手は総一郎だけ。

 ゲームの知識が甦ってから、今までずっと彼を監視していたけどそれもあと一年だけだ。高校二年生を乗り越えたら、お互いのために離れなければならない。

 だって、鈴木陽奈子は佐藤総一郎の幼馴染みで彼のライバルなんだから。

 それなのに、私と離れたら他の女の子を抱き締めるのかなと思うと、少しだけ寂しくもある。


「怪我した理由は転んだから、だっけか」


「うん。前から来た人にぶつかって転んだの」


「誰にぶつかったんだ?」


 総一郎からの問いに私は直ぐには答えられなかった。

 強制力の有無ではなく、何となく生徒会長とは関わらせたくないと感じていたのだ。


「言わなきゃだめ?」


「駄目」


 きっぱりと言うと、腹部へ回された総一郎の腕に力がこもる。

 しまった。これでは逃げられない上に喋らなければ締め上げられる。


「廊下の角を曲がった時、出会い頭に前から来た生徒会長とぶつかったの」


 ピクリ、総一郎の肩が僅かに揺れた。


「総ちゃん?」


「あの生徒会長と? 陽奈子は本当に......」


 私の腹部へ回された左腕はそのままにして、総一郎は右手で顔を覆う。

 生徒会長とぶつかったのはそんなに不味いことなのかと、まさか破滅フラグだったのか。

 私の全身から血の気が引いていく。背中と腹部の温もりが無ければ気絶したかもしれない。



 重たい沈黙が続いているリビングへ、ガチャガチャと玄関を開ける音が微かに聞こえ私は我に返った。


「ただいまー! 姉ちゃん、総ちゃんいるー?」


 元気な声とバタバタ足音を響かせてやって来る弟のおかげで、強張っていた私の全身から力が抜けていった。


「あ、隆之介お帰りー」


 普段は煩くて苛つくこともある弟だけど、今だけは助かった。


 廊下からリビングへ続く扉が開くと同時に、私の腹部へ回されていた総一郎の腕は離れていった。





 翌朝、慌ただしく支度をしていた私の視線はテレビ画面に釘付けとなった。

 テレビ画面に映し出されているのはニュース番組の占いコーナー。甲高い声の可愛らしい女性アイドルが今日一日の星座別運勢を伝えていた。


『~~座の女性は残念ながら超ついてない日! 今日一日は、しょうがないなぁと諦めて☆』


 友人達によると、このニュース番組の占いは高確率で当たるらしい。占いは信じないようにしているとはいえ、まさかの最下位とは少々気分が下がる。


「あーあ、姉ちゃん最下位だってさ。可哀想~いててっ」


 生意気な隆之介の頭を拳骨でグリグリ撫で回し、私はトーストを口へ詰め込んだ。



 占いが最下位でも、朝練があるから総一郎は先に登校したから急かされることも無いし、捻挫していても祖父の介護をしに出掛ける母親に車で学校へ送って貰えて、朝は何時もより楽を出来たじゃないか。


「おはようございます。昨日はありがとうございます」


 教室へ入り前の席の西園寺さんに声をかければ、彼女は大きく目を見開いた後恥ずかしそうに頬を染めて視線を泳がせた。


「お、おはようございます。足は大丈夫?」


 朝から美少女が恥じらう可愛い姿も見られたし、占いの『超ついていない日』というのはきっと外れだ。


「おはようございます。あの、鈴木さん」


「何でしょう?」


「放課後、私と一緒に生徒会室へ来てくれないかしら?」


 私はピシリと笑顔のまま固まる。


 悪役令嬢と一緒に破滅フラグしかない生徒会長の側へ行くなど、嫌な予感がしてよろめいてしまった。

 机に手を突いて転倒は免れたが、踏ん張った右足首に鈍痛が走る。

 嫌な予感とニュース番組の占いは的中するかもしれない、と涙目になりながら私は思ったのだった。



鈴木隆之介、元気な小学五年生。

因みに、総一郎は一人っ子。


幼馴染み枠からはみ出しているとは思っていない陽奈子には、イチャイチャしている自覚はないのです。

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