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幼馴染みはBLゲームの主人公です【連載版】  作者: えっちゃん
悪役女子より普通の女子でいたいのです
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04.陽奈子と恋する女の子

二年生初日の続き。

 新学期初日は、始業式とHRだけのため午前中で終了となる。


 避けたかった攻略対象者生徒会長と出会ったり、毛糸のパンツを披露したり捻挫したりと散々だったけれど、何とか終わってくれて私はようやく身体中の緊張が解けた。

 帰りの支度を手伝ってくれた亜稀は、教室まで迎えに来た同級生の彼氏と帰って行ったし、派手な女子や総一郎に絡まれる前に帰らなければ。


「鈴木、痛みはどうだ?」


 さっさと家へ帰ろうと歩き出した私は、背中へかけられた遠藤先生の声にギクリと肩を揺らしつつ、無視もできずに振り返って答える。


「まぁ、痛いけど何とか歩けます」


「親御さんに連絡して迎えに来てもらうか?」


 お迎えは有難いが今の時間帯は難しいだろう。教室の壁にかけられた時計を見て、今日の母親のスケジュールを脳内で確認してから口を開いた。


「今の時間は、母親は忙しいしお迎えは無理ですね」


 遠藤先生は大袈裟なほど包帯を巻かれた私の右足を見下ろして、うーんと唸る。


「鈴木はバス通学だったな。帰り道で動けなくなって車に轢かれでもしたら心配だからな~校長先生が許可してくれたら、家まで送っていくよ」


 白い歯を見せて笑う遠藤先生の勢いに思わず頷きかけて、駄目だと慌てて首を横に振った。

 高校生にもなって大事にしたくないし、攻略対象者である遠藤先生とは担任以上の関わりは持ちたくない。

 断りの言葉を言おうとした時、ガタンッ!と誰かが音を立てて席を立った。


「遠藤先生! 鈴木さんを送って行ったのを事情を知らない人に目撃されて、勘違いして学校へ連絡されたら先生の立場が悪くなりますっ」


 勢い良く席を立った生徒、西園寺皐月のよく通る声が教室に響き、下校せず残っていた生徒の視線が私と遠藤先生に集まる。

 悪いことは何一つしていないのに、西園寺に睨み付けられて私は背中が冷たくなるのを感じた。

 睨まれる原因となった遠藤先生は、冷や汗を流す私とは違い全く動じもせずに、はははっと笑う。


「西園寺の言うことも最もだな。じゃあ、佐藤も一緒に乗っけていけば大丈夫だろ。鈴木とは家は隣だろ」


 何故、ここで総一郎の名前が出てくるんだ。総一郎と遠藤先生を関わらせたら余計こじれる気がして私は頷けず、彼女ならきっとどうにかしてくれるんじゃないかと、期待した目で西園寺皐月を見る。


「遠藤先生っそういうことでは」


「じゃあ、西園寺も一緒に乗ってくか?」


「えっ?」


 遠藤先生からの言葉で、ピタリと西園寺皐月の動きが止まる。

 つり上がった眉は下がり、頭から湯気が出そうだった彼女の勢いはあっという間に鎮火していく。

 意気消沈した西園寺皐月は、恥ずかしそうに両手を胸の前で合わせてじっと遠藤先生を見上げた。


「遠藤先生が大変でなければ......よろしくお願いします」


 軽くお辞儀をして頭を上げた彼女は、先ほどの興奮とは全く異なった表情をしていて、更にほんのりと頬を赤らめているように見えた。


(あれっ? えっ、まさか西園寺さんって......えぇ~!?)


 気位の高い生粋のお嬢様な西園寺皐月と、庶民派で兄貴分の熱血教師。

 考え方も性格も合わなさそうなのに、私の目が変になっていなければ彼女はまるで、恋する乙女の表情で遠藤先生を見上げている。

 ゲームでの西園寺皐月は生徒会長推しだった気もするし、教師二人のルートでも総一郎の前に立ち塞がるが、高飛車な表情ばかりでこんな乙女な表情をした立ち絵は無かった。


「おーし、決まりだな。教室閉めるから早く出ろ~」


 遠藤先生に追い立てられて、残って成り行きを見ていた生徒数人は渋々教室から出ていく。



「西園寺さんって、もしかして」


 もしかしなくても、お嬢様が何かのきっかけで熱血教師に憧れるという王道パターンか。

 「校長の許可を貰ってくる」と、言って教室を出ていった遠藤先生の後ろ姿を見送っていた西園寺皐月は、ギクリと肩を揺らす。


「なっ、なによっ私が一緒じゃあ、お邪魔かしら?」


 昨年はクラスが離れていたし、生徒会メンバーとして凛とした姿しか見たことが無かった彼女の慌てる姿は、私と同じ年齢の女の子に見えて可愛い。


「ううん、そうじゃなくて意外だなって。遠藤先生は西園寺さんとは違うタイプだから、苦手なのかと思ったけど違うんだね」


「なっ、何のこと? 勘違いしないで」


 口では否定をしていても、裏返った声と真っ赤に染まった頬が苦手じゃないと肯定しているのに、彼女は横を向いてしまった。


 教室に残っているのが私と西園寺皐月だけで良かった。

 だって、遠藤先生に対して乙女な顔をしている彼女の姿を見たら、二人の間に何かあるのかと勘繰られそうだから。

 頬を染めて狼狽える彼女は、とても悪役令嬢には見えない。普通の高校生、恋する女の子だった。




 ***




 コンコンコン、カラリッ


 ノックをして生徒会室へ入室した眼鏡をかけたのは、いかにも真面目な参謀タイプといった男子生徒。

 室内を見渡して自分以外の生徒会メンバーは来ていないことを確認し、男子生徒は生徒会長席に座る花京院凪沙の側まで歩み寄る。

 男子生徒を一瞥した後、花京院は直ぐに自分の手元へ視線を戻す。


「西園寺は今日は用事のため欠席するそうだ」


「ふぅん」


 興味無さげに相槌を打ち、右手人差し指と親指で左手のひらに乗せたカードを弄る。


「凪沙、それどうした?」


「これは拾ったんだ」


 手のひらに乗せているのは、生徒の身分証であるカード。

 拾ったと事も無げに花京院は言うが、高校の規則では悪用を防ぐため生徒の身分証を拾った者は直ぐに教師へ届け出なければならない。

 それを生徒会長自ら破るとは、暗に誰の身分証か調べろということか。男子生徒の眼鏡の奥で、切れ長の瞳が細められる。


「それは二年生か。鈴木陽奈子? ああ、その子は剣道部エース佐藤総一郎の幼馴染みだよ」


「佐藤って例の? へぇ苺ぱんつはアイツの幼馴染みか。それは面白いな」


 身分証を机上へ置くと、花京院は顔を上げてニヤリと笑う。


「苺ぱんつ?」


 身分証と繋がりがなさそうな言葉と生徒会長の表情から、男子生徒は怪訝そうに眉を顰める。


「戸惑って真っ赤になって泣きそうで、アレは可愛くてなかなかそそられたよ。もっとイジメて泣かしたくなる顔だった」


 クツクツ喉を鳴らして目を細めて笑う顔は、お伽噺のチェシャ猫のように初めて見た者の不安を煽るもの。

 普段の清廉潔白な爽やかな笑みとは異なり、珍しい玩具を見付けた幼子のような無邪気な笑みを花京院凪沙は浮かべる。

 思わず男子生徒は溜め息を吐いてしまった。


「凪沙、悪い癖を出すなよ。佐藤総一郎は敵に回すと面倒な相手だ」


「付き合ってもいない、ただの幼馴染みなら問題ないだろ」


「そういう話ではない。お前は面倒臭くなったり、飽きたら直ぐに壊すだろ。その後のフォローしている俺が色々大変になるんだよ」


 男子生徒は、花京院が机上へ置いた身分証の写真を見下ろす。

 そこには、艶のある黒髪に少しつり上がった大きな瞳をした可愛い少女が写っていた。



西園寺さんと遠藤先生のエピソードは後程。

攻略対象キャラがもう少し出てきたら、登場人物を一覧にまとめます。

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