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01.陽奈子、覚醒する

連載版です。よろしくお願いします。

短編版に加筆しています。

 母親の嫁入り道具の三面鏡、その前に立つのは西洋人形みたいな可憐な女の子。


 肩より短い柔らかな栗色の髪に大きなリボンを付けて、フリルがふんだんに使われたピアノの発表会用に買ってもらったピンク色のドレスを着た美少女は、ぱっちり二重の色素の薄い緑がかった大きい瞳に涙をいっぱい溜めてじっと見上げてくる。

 色白な肌が羞恥でほんのりピンク色に染まり、私は心臓がドキリと跳ねた。

 こんな可愛いのに色気を感じさせる表情、少女への性的嗜好を持つ人が見たら涎ものだと思う。


「やだよぅ、恥ずかしいよ」


 ドレスの腰回りに付いたリボンを握りしめ、モジモジする総ちゃんが可愛いらし過ぎて私は身悶える。


「何これめっちゃ可愛い」


 今まで自分はノーマルで、可愛い少年を苛める嗜好は無かったけれど、こんな可愛い姿を見たらもっともっと苛めたくなってしまうじゃないか。

 次はどんなことをして苛めてやろうか。可愛い服を着せて一緒に出掛ける? スーパーの女子トイレに一緒に入るのはどうだろう。

 鼻息を荒くした私は、そこまで考えてハッと気付いた。


「うん? 可愛い少年?」


 少年、少年って何だ。泣きべそで私を見詰めるのは、どこから見ても可愛い美少女じゃないか。


「陽奈ちゃん、もぉ許して」


 大きな瞳に溜まった涙はついに決壊して、ポロリと零れ薔薇色の頬を滑り落ちた。

 私が泣かしてしまったこの可愛い子は、総ちゃん。そして私の名前は陽奈ちゃん、鈴木陽奈子。


「総ちゃん、あれ? 私は、陽奈子......?」


 バラバラになったパズルのピースがしっかりはまり、私の頭の中である記憶が甦り弾ける。


「ぎゃあー!?」


 弾けた記憶は巨大な渦となり私を飲み込む。

 記憶の洪水に襲われて、女子とは思えない野太い悲鳴を上げてしまった。


「ひ、陽奈ちゃんっ?」


 意地悪な顔でニヤケていたのに、急に豹変して恐怖で絶叫し出した私に、驚きのあまり涙が止まってしまった総ちゃんはおろおろ狼狽える。


「可愛い総ちゃんは嫌ぁー!!」


 二度絶叫した私は、そのまま後ろへひっくり返って意識を失った。


 白目を剥いてひっくり返った姿は、確実に総ちゃんのトラウマとなることだろう。

 だが、この時の私には彼を気遣う余裕なんて全く無かった。




 (何てこと!?)


 可愛い美少年から美少女となった幼馴染みの総ちゃんを見て、脳裏に甦った記憶は所謂前世の記憶というやつだ。


 前世、としか説明しようがない記憶の中に出てくる私は平凡な容姿をした女子大学生。

 前世はどうやって人生の幕を閉じたのかは分からないけれど、ごくごく平均的な家庭の二人姉妹の妹として生きていた気がする。

 大学の夏休みに暇をもて余していた私は、ゲーム会社に勤めている姉から頼まれたあるゲームの試作品をやり始めた。

 ゲームは試作品のためタイトルはまだ決まってなかったが、女装が趣味の高校生の男の娘が主人公で、内容はとある高校を舞台に麗しき教師や先輩、同級生や後輩を攻略していきイチャコラするBLアプリゲームだったと思う。

 男の娘のBLとか、どこのジャンルの人がやるんだよと思いつつ、姉のために淡々とプレイしていった。


 そのBLゲームの主人公男の娘は、色白でつぶらな瞳が可愛くて「こりゃ男でも惚れるな」と素直に頷いてしまう容姿。

 その主人公の幼い頃の回想シーンで出てきた初めての女装姿は、まさかの幼馴染みの総ちゃんこと、総一郎君を女装させた姿と瓜二つ。

 そして私は、幼馴染みの総一郎を苛め倒した上に無理矢理女装をさせて、女装趣味に目覚めさせてしまうとんでもない悪役女子。

 ゲーム内でも主人公の恋路を邪魔して苛めまくり、最後は主人公に攻略されたヒーローに断罪されて高校を退学させられちゃう悪役女子、鈴木陽奈子だったのだ。



 ぶっ倒れた後、甦った記憶の情報量を処理しきれずに高熱を出した私は、どうにか悪役女子になる未来を回避しようと思考を巡らす。

 主人公に関わらないのが一番だが、家が隣だし仕事が忙しい総一郎の両親に頼まれて彼はほぼ毎日夕飯を一緒に食べている。学校後は我が家に「ただいま」と帰ってくるし、一緒に宿題もしているし彼と一緒に過ごすことが多くて無理だ。


 距離を置くのが無理なら、総一郎が男の娘になるのを阻止するしかない。

 幸いにも私達はまだ八歳である。母親がフランス人の幼い総一郎は美少女にしか見えないが、今からガッツリ鍛えれば男らしくなれるんじゃないか。

 ついでに私も心身ともに鍛えれば、悪役女子になんかならず普通の女子として過ごせるはずだ。体育会系の才能が花開けば、ゲームとは違う道も出てくる可能性もある。

 体育会系になれなくとも、総一郎の外見だけでも男らしくなってくれれば、破滅フラグは折れるのではないか。


 高熱を出した後のため重く怠い体を起こし、私はベッドサイドの棚へ手を伸ばす。


 棚の引き出しから手鏡を取り出す。

 覗き込んだ手鏡には、真っ直ぐの黒髪に形のよい鼻、大きな黒い瞳は吊り目のまぁまぁ可愛い女の子。

 総一郎がふわふわ綿菓子なら鈴木陽奈子は真逆の外見、甘さ控えめビターチョコレートといったところか。

 記憶の中にあるゲームキャラの陽奈子はきつめの美人で文武両道の優等生だった。でも中身が“私”の場合、ポンコツ過ぎて完璧な陽奈子にはなれない気がする。


 将来美人になれる保証はあっても、ヘタレの私は悪役女子にはなりたくないし行く末が高校退学、苛めっ子として訴えられて一家離散は阻止しなければ。

 麗しき攻略対象キャラは確かに美形揃いだけど、ゲームキャラの陽奈子が憧れたとしても実際に彼等と恋仲になるとか考えられない。

 男の娘になるのを阻止しても総一郎がBLに目覚めたいなら止めやしないし、今の私には攻略対象キャラを巡って戦う気もない。

 前世は、男子と付き合ったことも親しく話すことも無い半分引きこもり女子だったから。攻略対象となるキラキラ男子なんて眩しいだけ。残念な私が付き合う相手は、容姿性格共に普通の男子がいいもの。



 こうして前世の記憶が甦った八歳の時から、破滅フラグをへし折るための戦いが始まったのだった。


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