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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

○○ゲェム

第二十二回開催は2月3日(土)

お題「鬼さんこちら」/和風

2月3日は節分、2月6日は抹茶の日です。

皆様の参加をお待ちしております。


#創作版深夜の文字書き60分一本勝負


作業時間

2/2(金)

23:36〜0:36

 格子の門扉に唐破風の屋根、漆喰に見せた鉄筋コンクリート。立派な建物に、僕は思わず天を仰いだ。呼び鈴を鳴らすのも、なんだか気が引けてしまう。

 暫く一人でうろうろしていると、脇の小門から女性が出て来てどきりとする。手桶と柄杓を持って、割烹着を着たその人は僕を見て訝しげに眉を寄せた。

「あの、こちら奈賀戸さんのお宅でしょうか」

 僕はなるべく怪しまれないように笑顔を取り繕う。女性は一度、僕を下から上までなめ回すように見ると、そうですけど、と言った。僕の姿はそんなに異質に映っているのだろうか。

 僕は笑顔を絶やさずに、用件を手短かに伝えた。すると、女性の頬の強張りが解け、中へと案内してくれる。まずは第一段階。

「坊ちゃんは何も仰っておりませんでしたけれど、ご友人でいらっしゃったのですね」

 女性――確かアサエさんだ――は、僕に後に続くように告げると、近代和風建築のこの家の中へと招き入れてくれた。

 スリッパを履いて玄関を上がり、部屋を三つ。部屋の前まで来ると、アサエさんが扉をノックした。

「坊ちゃん、坊ちゃん。ご友人がいらしてますよ」

 ――静寂。

 また今回も駄目なんだろうか、そう諦めかけたとき、内鍵が持ち上がる音がして、中から白い手が手招きをした。第二段階。

「くれぐれも粗相の無いようにしてくださいね」

 僕はそう言うアサエさんに軽く会釈をして部屋の中に入った。

 中には青白い顔をした瞳ばかりが大きな、一見少女のような少年が、僕を見上げていた。

 僕はどきりと胸が弾むのを感じた。“はじめての邂逅”、もっとも僕にとっては四度目に当たるが、僕は無事にそれを果たした。

「考えたのだけど」

 坊ちゃんはいつも唐突に切り出す。僕は身構えた。

「何をです」

 坊ちゃんは部屋の奥まで歩いて行くと、窓を開け放ち、そこに背を凭せ掛けた。

 僕は過去、三回。坊ちゃんに会いに来ていた。その内一度はアサエさんに追い返され、一度は部屋に入れて貰えず、もう一度は顔を見るのがやっとだった。

「お話したはずです。僕には嘘を吐く意味などないと」

 僕は扉を背にして立つと、極めて真面目な顔つきで言った。

 幼い坊ちゃんはこの時まだ知る由もないが、彼の四代後、つまり、玄孫に当たる者が、戦争に於いて最悪の結果を、つまり核爆弾のスイッチを押した。世界は震撼し、非核三原則を持つ筈の国の凶行を批難した。僕はそれを伝えに来た。政界に名を轟かすようになるのは、坊ちゃんの代からだ。

「ぼくが拒否したらどうなるのかな」

「つまり?」

「つまり、ぼくは大きくなったら。なに、君の時間では大した事では無いだろう。ぼくが大きくなり、子を成し、政界へ進出したらどうなる」

 僕はそっと後ろ手にやった。ベルトの背には小型だが、殺傷力の充分高められた銃がある。

「坊ちゃん、これはお願いではありません。予め決まっている未来に終止符を打つ為に僕はここへやって来た」

 僕は小型拳銃を坊ちゃんの前に突き出した。

「あなたの一族の末裔は、世界を破滅に導く。それは何としても阻止せねばならない」

 ふふ。坊ちゃんが笑う。

「じゃあ消してみると良いよ。ぼくは別に構わない。益体もない将来の政治家人生より、よっぽど有意義というものだよ」

 坊ちゃんは生前、この屋敷にずっとこもりきりだったらしい。病弱なせいもあったろうけれど、人間嫌いな所もあったと思う。

 僕は引き金に手を掛ける。

「さようなら坊ちゃん」

 坊ちゃんはその時、笑ったような気がした。「鬼さんこちら」、そう言って窓から飛び降りる。僕が窓際に駆け寄り、下を見るとそこにはザクロのような頭をした――。


「SEー25354!」

 意識が浮上する。熟睡中にたたき起こされたような、めりめりと夢と現を引きはがされる感覚。僕は半身を起こそうとして、自分が何処に居たのかを思い出した。

 ポッドの中だ――。

「今回の主役はSEー25354、君だ! よくやった、君は無事奈賀戸暗殺に成功した」

 周囲から拍手と歓声が上がる。そうだ、僕はSEー25354として、奈賀戸暗殺の密命を受けていた。

「これで核戦争は起こらない……!」

 僕が興奮してポッドを叩くと、卵形をしたポッドが揺れた。

「そうです! 貴方の功績をたたえて、貴方にはボーナスポイントを十万点差し上げましょう!」

 突然、目の前にスロットよろしく回転しながら数字が浮かぶ。

 NEW RECORD!と書かれた文字がカラフルに点滅し、再び歓声が上がる。

「待ってくれ! 僕が奈賀戸を暗殺したら、未来が変わって核戦争は起こらないんじゃないのか!」

 白衣を着た研究員が、僕の所へ歩いてきて卵形のポッドを覗き込んだ。

「そうです、奈賀戸暗殺を無事果たした貴方にはこうして十万点を……」

「十万点って何だ」

「ボーナスポイントですが?」

「ボーナスポイントって何だ⁉」

 僕は遂に激昂した。ポッドを揺らすほど声を荒げる。研究員は不思議そうな顔をしてぼくを見ている。

「SEー25354、貴方は少し疲れているようですね、休憩を摂られた方がよろしいかと。貴方のログイン時間は……大変だ、七十二時間を超えている」

 ぷしゅう。ポッドが息を吐き出すように開かれる。このポッドは大気汚染物質を避ける為に作られた超小型核シェルター……。

「う、うわああああ!」


「貴方ノ健康ヲ損ナウ恐レガアル為、強制SHUTDOWNヲ行イマシタ。マタオ待チシテイマス。NEXT TRY AGAIN! BYEーBYE!」

 僕は呆然とし、ポッドの外であったものを見た。電子式時計が午前二時を指し、周囲はしんと静まりかえっていた。カフェの店員が面倒臭そうにやってきて「お客さあん、他の人に迷惑だから大声出さないでもらえます?」と間延びした声で言った。

 ボックスシートの脇にある鏡には、僕の痩せこけて髭面の顔が映っていた。背後に目をやると、“SPIES OF THE ERA”というゲームが、ヘッドマウントディスプレイにラベリングされ、ソフトが挿さったままだった。

 ここは遊廓(YUUKAKU)と呼ばれるゲームスポットだ。僕は“SPIES OF THE ERA”のマルチエンディングシステムにハマり、このネットカフェに入り浸っていた。

「……すいません」

 僕は小声で謝ると、再びHMDを被る。今度こそ暗殺を成功させてやる。

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