冒険者と騎士団長
後日のある夜、ギルドの酒場にて。
「じゃ、今日は僕のツケで、飲み食いし放題だから、かんぱーーいっ!!」
ラミアはエルフ族の法律では成人してるが、テッラ大国の法律では、18歳から飲酒可能なため、ジュースを片手に、軽く挨拶をする。
「あの? ツケというか、ギルドでやる意味ってもしかして……ギルドが、あなたに支払えないでいる、あのツケで払う。という事ですか?」
ギルド職員や受付嬢達が楽しく飲み食いする中、壮年の男性で、白髪混じりの黒髪短髪、黒目、スーツのような服を着たギルド長は、冷や汗を流し、嫌な顔して、ラミアに近づいて尋ねる。
「? うん、カースちゃんが奢るなら皆に、って言うから」
ラミアは首を傾げるも、笑顔で言う。どうやら、悪気はないようだ。
「はい、出来たわよ? あ、他の人は、食べたら殺しますので」
ギルド長が絶句し、落ち込んでいると、カースクイーンが、厨房を借りて作った料理を、ラミアに持って来て見せ、笑顔で言うが、他の人に対しての警告は、目がマジだった。
「それにしてもぉ~~、どぉ~~してぇ、ランクC~~のぉ、ままなんですかぁ?」
受付嬢の一人、獣人族で猫のハーフビースト(けも耳と尻尾の生えた人)、オレンジ色の髪でセミロング、黄色い目をして、エリルと同じ服を着た女性、フィーリア・アマートゥスが、酒に弱いのか、いつもより、かなり間延びした口調で、ラミアに話しかける。
「上になると王様の命令とか、名指しの指命とか、面倒だからって、大丈夫? 何飲んでるの?」
ラミアは、ちゃんと答えるも、相手から甘い匂いがして、不思議に思って尋ねる。
「へぇ~~、これはぁ~~、蜂蜜マタタビ酒~~、ってぇ、お酒れすよぉ?」
フィーリアは、上機嫌というか、かなり酔ってる様子で、ラミアに、お酒の入ったグラスを見せて言う。
「ちょっと、先輩っ!! すみません、先輩は普通のお酒なら、そこそこ強いんですが」
エリルは、ラミアに絡みそう、というか、ふらついてるフィーリアを見て、慌てて取り押さえ、ラミアではなく、カースクイーンに説明する。
「猫科の獣人なら、仕方ないわね。まぁ、“彼女”に何かしたら、酔ってようが許さないけど」
カースクイーンは、知らない他人が少ないため、ちゃんとした? 性別で言い、エリルに注意する。
「?? ……あ、本当に甘くて美味しい」
ラミアは、エリルとカースクイーンのやりとりに、首を傾げるも、いつの間にか、フィーリアからグラスを奪っており、飲んで味の感想を言う。
「え? ……」
「あっ!? まだ、飲むのはダメよっ!?」
その瞬間、エリルは嫌な予感がして固まり、逃げる準備をする。
カースクイーンは、慌ててグラスを取り上げて、注意する。
「えぇっ!? ……暑いから脱ぐね」
ラミアは、グラスを取られると、残念がり、すると、徐々に顔があかくなって、アーマーというか服を脱ぎ始めた。
「ちょっ!? 待ちなさいっ! 脱いじゃダメよっ!!?」
エリルは、フィーリアを急いで離脱させ、カースクイーンは、ラミアが服を脱がないように、影を使って拘束し、周りの人(特に男性)に見えないようにする。
「カースさん、これをっ!!」
エリルは、フィーリアを適当に置いてくると、ドーム状の影に、タオルケットを持って来て投げて言う。
「感謝するわっ!!」
カースクイーンは、影に入って来たタオルケットを受け取り、ラミアに巻き付けると、影を解除し、何とか一息つく。
「……んぅ……スゥ」
ラミアは、いつの間にか、寝ていた。というより、カースクイーンが寝させた、という方が正しいだろう。
「……次からは、お酒は禁止ですね」
エリルは、苦笑いをして、カースクイーンに向けて言う。
「当たり前よ。果実酒レベルで、コレだもの」
カースクイーンは頷き、呆れた様子で同意した。
「それじゃあ、ここら辺でお開きにして、解散しよう。明日からも宜しく」
ギルド長も、頃合いと見て、終わりにした。
翌日、酒を飲んで寝てしまったラミアとフィーリアは、昨晩の記憶がなくなっており、互いに何時やろうかと話すが、エリルやギルド長達に、止められたという。 数日後の昼。いつものように、ラミア達はギルドにやって来て、良い依頼が無いか、掲示板を見つめている。
「なかなかないね?」
ラミアは、掲示板を見ながら、カースクイーンに尋ねる。
「あったら誰も苦労しないし、そもそも、良いのはだいたい、午前中に来て取るでしょ」
カースクイーンも、掲示板を見ながら、もっともな意見を言う。
「そんなお二人に、良い依頼がありますよ?」
いつかの再現だろうか? いや、よくあるパターンである。受付嬢のエリルが、嬉しそうに2人の背後に立ち、話しかける。
「そういえば、ご飯食べたっけ?」
「そういえば、まだだったわ」
ラミアとカースクイーンは、受付嬢を無視して会話し、あからさまな嘘(2人は毎回、昼食を食べてから来るため)で、ギルドから出ようとする。
「ちょっ!? 最近、私への態度が、おかしくないですかっ!? 話くらいは聞いて下さいよぉ……じゃないと、流石の私も泣きますよ?」
エリルは、慌てて2人の前に立ち、本当に困った様子で、思いっきりお願いする。そこには、いつもの営業スマイルは無い。
「……カースちゃん、どうする?」
「このままじゃ、らちがあかないし……仕方ないわね。話だけ聞きましょう」
2人は、ひそひそと話し合い、もはや諦めて、受付嬢の話とやらを聞くだけ、聞いてみる事にした。
「さっすがは、お二人です。では、こちらにどうぞ」
エリルは一変して、満面の笑みで言い。ラミア達をいつもの応接室に案内する。
「……ちなみに、今から逃げちゃダメ?」
ラミアは、心底嫌そうな顔で、恐る恐る尋ねる。
「逃げたら、罰則でツケ無くしますよ?」
エリルは笑顔のまま、逃がさないために、少しだけ盛って言い、応接室に通した。
「毎回、やり方が卑怯だよね?」
「えぇ、私達は、しがない冒険者なのに」
2人は、受付嬢にワザと、聞こえるように言い、遠回りに非難する。
「何の事か分かりませんが、今回は、依頼主から直接聞いて下さい。」
エリルは、非難を無視して、依頼主を呼びに行く。
「……拒否権あると思う?」
「……無いわね。諦めましょう」
受付嬢が消え、2人はこっそり断る算段を相談しあうが、経験から、完全に諦めた。「お待たせしました。こちらが、依頼主になります」
少しして、エリルが、依頼主を連れて戻って来た。依頼主 は、金髪の腰までのポニーテールで、緑目、甲冑に身を包んだエルフ族の女性だった。
「お目に出来て光栄です、クリフ様」
依頼主は、笑顔でラミアを見て言う。だが、ラミアは彼女を知らず、ただの挨拶とも気づかない。
「……誰?」
「私が知るわけ無いでしょ?」
ラミアは、会ったことがあるかと、カースクイーンに確認するが、カースクイーンも覚えがないようで、ただ、名前を知ってる理由は、簡単に分かるため、不機嫌そうに言う。
それは、ラミアを男性から守るため(強さ的には必要ないが)、一応、男装させており、可愛い顔の美少年として、ファンクラブ的な人達が出来てしまったのだ。しかも、受付嬢が持ってくる依頼で、被害者が出てるのは、大抵、か弱い女性であり、ラミアは普通に接しているだけだが、確実に落としていて、増える一方であり、カースクイーンの、悩みの種でもある。
「こちらは、街に在中している騎士団の方でして、名前は匿名にしますが、ギルドからの紹介という形で、先にクリフさんの名前を教えたんです」
エリルは、カースクイーンの不機嫌さに気づき、内心慌てて、依頼主を紹介する。
「それを、早く言いなさい。ファンが依頼と称して、“彼”に会いに来たと思ったじゃない」
カースクイーンは、不機嫌なまま、受付嬢を睨んで言い。こっそり依頼主に、標準を合わせていた影を元に戻す。しかも、依頼主が居るため、呼び方は戻さない。
「次からは気をつけますが、私共も依頼主の、身辺調査位はしますので、そこは安心して下さい」
エリルは、なお、カースクイーンの機嫌を戻すため、安心させるために、本当の事を教える。
「ならいいわ、話を聞きましょう」
カースクイーンは、機嫌を戻し、話を進めるように言う。
「「??」」
ラミアと依頼主は、状況がいまいち分からず、首を傾げている。似たもの同士かも知れない。
「……ひとまず、お茶を出しますね?」
エリルは一旦、空気を変えるために、そう言うと、部屋を退室する。
「えぇと……クリフ・ライゼンデです。ランクCの冒険者です」
ラミアは、気まずい空気の中、ひとまず名乗っておく事にした。
「私は……騎士団で、この街の警備を担当している者です。ギルドからの紹介なので、信頼はしますが……ランクCなんですか?」 依頼主は、名前以外の、仕事に関して教えるが、いくらギルドからの紹介と言っても、冒険者としては中流位のランクで、しかも、それがだ若い少年?であり、相手の実力に不安や、疑問を覚えて確認をする。
「うん、ランクCだよ。カースちゃんは妖精だけどね」
ラミアは笑顔で答え、カースクイーンについても言うが、カースクイーンからは言うことが無いようで、ただ、受付嬢を待つというか、依頼主をある意味で、警戒している。
「妖精っ!? ちょっと、妖精ってアレよね? こんなに大きくなるというか、大きい子が居るの? というか、常に一緒に居るものなの?」
ラミアの発言に、依頼主は驚き、カースクイーンを見て、エルフ族なため、自身が契約した妖精と比較して、疑問を一気に尋ねる。
「あら? 妖精が普通に居ちゃいけないかしら? そもそも、低級で契約し易い子達と同じにしないで下さる? 私はこれでもクイーンですよ?」
依頼主はラミアに尋ねてたが、気に入らないようで、カースクイーンは、依頼主を不機嫌そうに睨みつけて言い。証拠として立ち上がり、普段は見せない4枚羽を出して広げる。
「確かに妖精、ってクイーンっ!? クイーンって、あの妖精の中で上位の称号のっ!?」
依頼主は、カースクイーンの4枚羽を見て納得するが、クイーンと聞いて更に驚く。
何故ならば、クイーンと呼ばれる妖精は、気に入った相手以外とは、絶対に契約をせず、尚且つ、出会う事すら稀であり、その力は、同属性で同じ系統の魔法ならば、他の追随を許さない程に圧倒的なのだ。
「お待たせしました。お茶以外にも、お菓子を用意しまし、た?」
エリルは、タイミングが悪い時に、戻って来たと思った。理由は、依頼主が驚き、カースクイーンがめったに出さず、凄く怒っている時にしか出さない羽を、出しているからだ。
「お菓子っ!? ありがとう。早く食べよ?」
が、ラミアは空気など読まず、お菓子と聞いて喜び、礼を言って催促する。
「……そうね、分かったようだしお茶にしましょう」
カースクイーンはラミアを見て、羽をしまい、椅子に座って言う。
「……ギルドがわざわざ、紹介するわけね」
依頼主も、納得して佇まいを正し、これ以上は追求しない事にした。
「ひとまず、(命が大事なので)聞きませんが、簡単な自己紹介が、終わった所ですか?」
エリルは、場の空気が変わり、内心安堵して、依頼主に確認をする。
「はい、少々ありましたが、紹介に納得しました」
依頼主は、笑顔で受付嬢に言い、お茶を飲む。
「で、依頼って何? 聞くだけなら聞くよ?」
ラミアはお菓子を食べて、上機嫌で尋ねるが、もはや依頼は受ける以外、道はない。
「聞いたら、当然受けて頂きます。依頼を聞くだけなんて、今時無いですよ?」
エリルは、笑顔でラミア達に、逃げ道が無いのを教える。
「……依頼主さんの仕事は、街の警備だよね? 良いの? こんな横暴」
ラミアは、一気に機嫌が悪く、というか落ち込んで、依頼主に相談する。
「えぇと……今から依頼する側としては何とも……ごめんなさいね」
依頼主は、苦笑いを浮かべ、言ってから頭を下げる。
「そんなぁ……騎士団とギルドが、グルだなんて酷い世の中だよぉ」
「そうね、職権乱用や賄賂だわ絶対。さんざん、話を聞くだけと言って、結局は受けさせるんですもの」
ラミアは、がっくりとうなだれ、カースクイーンに泣きつくよう言い。
カースクイーンは、ラミアを宥めながら、少し芝居がかって言い、受付嬢と依頼主を睨みつけるが口元は笑っている。
「(チッ)ま、まぁまぁ、悪い話じゃないですから。ね? 一応、依頼書もありますし、やはり、見て聞くだけでも良いですから」
依頼主はばつが悪そうに、受付嬢を見て、エリルは内心舌打ちし、引きつった笑顔で言って、依頼書を差し出し、説得を試みる。
「本当に? じゃあ、聞くだけ聞く」
ラミアは涙目で言い、ごしごしと目をこすってから依頼書を見る。
「……マジで泣かせたら、このギルド一瞬で消すわ」
カースクイーンは、そんなラミアを見て、いつの間にか4枚羽を広げ、本気で怒って言う。
多分、カースクイーンは演技だと分かったが、まさかのラミアが演技じゃなくて、マジだったとエリルは思わず、エリルと依頼主は、背筋に冷や汗を感じ、言葉を慎重に選ぶ。
「えぇと……依頼書にもありますが、最近、治安の悪化と冒険者の行方不明が発生しまして……」
依頼主は、緊張したまま、言葉を選んで依頼の説明を始めるが。
「あ、それ僕達じゃない? 依頼で、何人かダンジョンで殺したし、宿屋でも殺したよね?」
冒険者の行方不明と聞き、ラミアが普通に話を遮って言う。
「何言ってるの。依頼で殺害したんだから、行方不明とは別でしょ?」
カースクイーンは、ラミアの発言に呆れた様子で言い、受付嬢を見る。
「はい?……ちょっと、お待ちくださいっ!!」
エリルは、2人の会話に疑問を覚え、3人を部屋に残し、急いで依頼完了の書類を確認しに、部屋を出て行った。
「……えぇと、死体は?」
依頼主は、訳が分からず、死体についてだけ尋ねた。
「ダンジョンだから、モンスターの餌かな?」
ラミアは思い出すようにして言い。
「適当に、近くのゴミ箱に捨てたわ。宿屋の人達に悪いもの」
カースクイーンは、しれっとした態度で言う。
「……えぇと、名前と人相があるので、一応確認を」
依頼主は、厚い紙の束の書類を取り出して、見せながら言う。
「じゃあ、僕から」
ラミアは、書類を手に取って、行方不明の人相を確認していく。
「ま、居たらギルドの問題ね。私達のせいじゃないわ」
カースクイーンは、呆れた様子で言う。
「…………うん、居ても30人位かな?」
ラミアは、紙の束をカースクイーンに渡し、平気な顔で言った。因みに、30人は書類の厚さで約5分の1にあたる。
「……私が殺したのは、16人位かしら?」
カースクイーンは、パラパラと人相書きの書類を捲り、見終えて言う。
「えぇと……つまり2人で46人も殺したんですか? この数ヶ月で」
依頼主は、怒りよりも、恐怖を感じて、2人に尋ねた。
「うん、でも全部依頼だよ? たまたま居合わせた、何て事はなく、パーティー行動で、ちゃんと被害に遭った証人も居るし、依頼主が被害にあう前に、仲間を止めない、ってのは同罪だよね?」
ラミアは、淡々と説明し、カースクイーンも頷いて事実だと言う。
「それに私は、自分の部屋じゃないのに押し入って相手を軽く殺しただけよ? 目的は被害者の身体か、口封じでしょうが」
そして、補足するように、カースクイーンが続けて話す。
「つまりは……依頼で殺したと? 街中なら我々騎士団が居るのに?」
依頼主は、納得出来ずに、ラミア達を見て疑問を尋ねた。
「ダンジョンの中は無法地帯。全ては自己責任でしょ? 第一、証拠がないと騎士団って動かないじゃん」
ラミアは、不満そうに依頼主を見て言う。まるで、職務怠慢だと言うように。
「……しかし、それは依頼主が、嘘を言っていたら問題でしょ?」
依頼主は、ラミアの言葉に、胸を痛めるが、騎士団の方針として、間違いを起こさないために必要だと言う。
「理由なんて、依頼主や、被害者が泣いてたら、それで充分だよ」
ラミアは、依頼主の疑問に、笑顔で答える。
「…………そっ、それも、そうですね。次からは気をつけて、もっと、ちゃんと話を聞こうと思います」
一瞬、ラミアの笑顔が眩しく見え、依頼主は見とれてしまうが、慌てて納得したように、志を新たにして言う。
「それは良かった。頑張ってね」
ラミアとしては、騎士団が頑張れば、こんな依頼が減ると思い、笑顔で応援する。
「はい、ストップ。それ以上は、受付嬢が戻ってからよ」
一瞬、依頼主とラミアが、何か良い雰囲気に、なりそうな気がして、カースクイーンが会話を止めようとする。
「それもそっか、お菓子のお代わりあるかな?」
ラミアは、簡単にカースクイーンの言い分に納得し、お菓子を食べるも、なくなってしまい、催促しようと考える。
「おっ、お待たせしましたっ!! お二人が来た日から漁っていたので」
エリルは、依頼完了書類の束を持って、勢いよく戻って来た。
「確認は、こっちでやるから、お菓子と、お茶のお代わり頂戴」
ラミアは、急いで戻って来た受付嬢に、笑顔でお願いする。
「私もお願いするわ。時間かかりそうだし」
カースクイーンは、さっきの行方不明者の書類よりは少ないが、情報合わせのため、時間がかかると見越して、受付嬢にお願いする。
「分かりましたが……ちゃんと作業してくださいよ?」
エリルは疲れ気味に了解し、その間の作業をお願いする。
「ま、僕達は顔しか知らないし、依頼書見れば一発だよね」
ラミアは笑顔で、楽勝だとばかりに言って、作業を始める。
「……気楽なんだから、後で後悔するわよ?」
そんなラミアを見て、カースクイーンは溜め息混じりに言い、依頼主と一緒に作業に入る。
数分後。
「……僕もう疲れた、というか飽きたよぉ」
ラミアは、直ぐに音を上げた。それもその筈で、ただ、依頼書にある名前と、行方不明の名前の確認だが、載って無いのが多く、分かるものから捜すも、行方不明の書類は厚すぎた。
「だから言ったのに、大人しく待っていれば、お菓子が来るから」
カースクイーンは呆れながら、ラミアに黙って待つように言う。
「お待たせしました。お代わりですよ」
少しして受付嬢がお菓子とポットを持って来て言う。
「お菓子だっ!」
ラミアは、待ってましたと元気よく言い、目が光る。
「……クリフさん? 作業は?」
エリルは、お菓子をラミアの前に置き、空になったカップに紅茶を注ぎながら、何もしてないように見えるラミアに尋ねる。
「面倒くさくて、飽きちゃった」
ラミアは笑顔で受付嬢に言い、お菓子を食べる。
「……気にしないで、“彼”にこういう作業は、向かないから」
カースクイーンは、何か言いたそうな受付嬢を見て、諦めろ、と告げるように言う。
「分かりました。……所で、照合してる所悪いのですが、私、そんなに殺人依頼なんて物騒な依頼、出してないですよね?」
エリルは了解し、確認作業をしているカースクイーンと、お菓子を食べてるラミアに対し、確認の為に恐る恐る尋ねた。
「そうだっけ? 確か……そんな依頼ばっかり、だったような気がするけど?」
ラミアは、お菓子を食べる手を止め、首を傾げて、カースクイーンに尋ねた。
「……いや、殆ど女の敵だし、生きてる価値の無い、○ズ野郎しか居ないみたいだから、みんな殺っちゃおう、って話さなかった?」
カースクイーンは、依頼を受けた、一番最初の頃を思い出すようにして、ラミアに説明する。
「あっ!? 思い出した! その後、街の治安やギルドの信頼にも関わるんで、受付嬢とか、他の冒険者に対して、態度の悪い冒険者の始末とか、他にも、制裁して欲しいとか、懲らしめて欲しいって依頼も、後々面倒が起こるのもアレだから、って殺っちゃったんだった」
ラミアは、殆ど思い出し、あったことの殆どを話し、治安の事は知らないが、行方不明者は殆どはラミア達が殺した事になった。
要は、受付嬢の助言や悪乗りに、ラミア達が暴走した結果であり、当然のように依頼完了書類には殺人依頼なんて書いてない。ましてや、脅迫や脅しで良いという依頼もある。
そして、よくよく調べてみると、ラミア達が知らない行方不明者は、ラミア達が顔を見ずに殺した相手か、殺した相手の被害者だった事が判明した。
「えぇと……では、行方不明者が増えて、治安が悪いと思ったのは気のせい、という事ですか?」
依頼主の女性は、何とも言えない雰囲気で、無駄足だったのかと、受付嬢に尋ねた。
「そう、なりますかね? そもそも、私は、最近は治安が良くなった、と聞くので、最初驚いたんですが?」
エリルも微妙な表情で、依頼を持ち込まれた時に、思った事を依頼主に言う。
「……いや、大事なのは、これで依頼完了? 受けた記憶ないけど」 と、微妙な感じで会話をする受付嬢と、依頼主を見て、ラミアは尋ねた。冒険者としては一番大事な事である。
「はい、依頼書。ちゃんと、サインしたわよ?」
と、カースクイーンは言って、抜け目なく、置いてあった依頼書に、素早く(いつの間にか)サインをして、受付嬢に差し出す。
「っ!?……いえいえ、起きてなかったので無効ですよ? 報酬は依頼主に戻ります。」
エリルは、はっとして、依頼書を受け取ると、破り捨て、笑顔で言う。
「……あーー、何かごめんね。後でご飯奢るか、一緒に巡回してくれれば、日当位は出すから、ね?」
受付嬢の行動に、目を丸くして固まるラミア達を見て、騎士団の女性は、罪悪感を覚え、謝罪し、2人をお詫びとして誘う。
「本当っ!? じゃあ良い」
依頼主だった女性の言葉に、ラミアは目を輝かせ、一変して笑顔で言う。
「……後で後悔するわよ?」
カースクイーンは、元依頼主を見つめ、溜め息混じりに言う。皮肉等ではなく事実として。
「えぇ、じゃあ……明日の夕方に、ギルド前で待ち合わせね」
騎士団の女性も、嬉しそうに言い。さっさと、部屋を出て行った。
「……“彼女”と待ち合わせして、食事までする意味、分かってないわね」
カースクイーンは、元依頼主の女性を見送り、笑顔で言った。
「どうなっても、私は知りませんよ? 一応、彼女もファンが居る、この町の騎士団長ですから」
エリルは、カースクイーンを心配して言い、依頼主の情報を少しだけ教える。
「騎士団長かぁ、強いかな? 手合わせしてみたいなぁ」
ラミアは、騎士団長と聞き、楽しみが増えたように言い、立ち上がる。
「バカ言わないの。一瞬で勝負が決まるわよ? 騎士団長の負けで、ね」
カースクイーンは、やれやれ、という感じで、ラミアに分かりきった結果を言ってラミアに続く。
「お二人共、ダンジョンの下層で、無双しましたからね。勝負なんてなりませんし、騎士団長が可哀想なので、勝負はしないで下さいね?」
エリルも想像出来たのか、困った顔でラミアにお願いし、3人で部屋を出る。
翌日の昼過ぎ。
「とりあえず、何着てけば良いかな?」
ラミアは、服と装備を見ながら、カースクイーンに尋ねる。
「そうね、食事だけなら服だけで良いし、見回りを一緒にするなら、装備も考えないとね」
カースクイーンは、ラミアのしたいことに合わせ、脳内で色々とシミュレーションして言い。
「うーん、見回りって何か面白そうだし、してみたいかな?」 ラミアは、深く考えず、思った事をカースクイーンに伝える。ラミアの脳内はいたってシンプルのようだ。
「それじゃあ……クリフ衣装で行きましょう。お互いのためにも」
カースクイーンは、一気に考え、笑顔で言うと、ラミアの衣装と装備を決めて着付ける。
「毎回思うんだけど、自分で着れるよ?」
ラミアは、カースクイーンにされるがままになるが、ほぼ毎日なので、苦笑いして言う。
「あら、私がしたいからいいのよ。それに…サラシは自分では巻きづらいでしょう?」
カースクイーンは、相変わらず、最初にサラシを巻ながら笑顔で言う。内心は、着つけが出来て、凄く嬉しいが、口が裂けても言わない。
そんなこんなで着替えが終わり、少し早いので、ギルドでおやつを食べる事にした。
ギルドに入り、入口近くのテーブルに座ると、2人は紅茶とケーキを適当に頼んだ。
「あら、いらっしゃい。今日は掲示板の方に行かないのね」
2人が頼んだ品を待っていると、受付嬢のフィーリアがやって来て、笑顔で話しかけて来た。
「うん、約束があるからね」
ラミアはフィーリアを見て笑顔で言うが、内心、エリルじゃなく、フィーリアで良かったと安堵した。
「へぇ、珍しいわねぇ。カースちゃんが許すなん……それじゃ、また今度」
フィーリアは、意外そうな顔でカースクイーンを見て、思わず言いかけるが、睨まれたので言うのを止め、仕事に戻る。
「?? 一体どうしたんだろ?」
ラミアは、フィーリアが直ぐに帰るので、首を傾げて、不思議そうにカースクイーンに尋ねる。
「さぁ? 呼ばれたんじゃないかしら?」
カースクイーンは、笑顔でラミアを見て言い、原因は自分だが惚ける。
その後、やってきたケーキを食べ、紅茶を飲んで時間を潰し、日が、だいぶ傾いてからギルドから出る。もちろん、会計はギルドのツケで払った。
「お待たせ、待ったかしら?」
2人がギルドから出て、しばらく待つと、騎士団長がやって来て、話しかけてきた。
「全然、ご飯食べたら見回りしたいな」
ラミアは、特に他意はないが、笑顔で騎士団長を見て言う。
「……何か視線が痛いけど、分かったわ。着いてきて」
騎士団長は、周り(ラミアファンからの嫉妬)の視線を感じ、苦笑いを浮かべて、ラミア達を店へと案内する。
「楽しみだなぁ、見回り」
ラミアは、嬉しそうに言い、ついて行くが、周り(騎士団長ファンから)の視線に全く気づかない。
「……私はちょっと寝るわ。“彼”に何かしたら許さないから」
カースクイーンは、視線をウザいと感じ、騎士団長にくぎを差してから、ラミアの影に入る。
「えっ!? 影に入った? ……一体どんな、いえ、他の方に見せて大丈夫なんですか?」
騎士団長は、カースクイーンの行動というより、影に入るという事に驚き、聞こうとするが、素直に教えるバカは基本的におらず、逆に、ヒントを与えるような行動をさせて、狙われたり大丈夫なのか心配して尋ねる。
「?? 別に大丈夫だよ? 1人で最下層近くのモンスターに、挑む人居ないでしょ?」
ラミアは首を傾げ、騎士団長の反応が面白いのか、笑顔で言うが、ワザとなのかうっかりなのか、カースクイーンの強さを教える。「あ……まぁ、基本的には居ないけどね。あ、もうすぐ着くわ」
騎士団長は、ラミアの一言に、何人か該当したのか、苦笑いを浮かべ、完全に同意はしない。そして、目的の店が見え、場所を教える。
「っ!? 早く行こっ!」
「えっ!? ちょっ!?」
店が近いと教えられ、ラミアは騎士団長の手を取って、走り出し、騎士団長は慌てて、ついて行くように走る。
店に着くと、カースクイーンが出てきて、2人の繋がった手を離す。
「だいたい状況は把握してるけど、少しは拒否しなさいよ」
カースクイーンは、ラミアではなく、騎士団長を睨みつけ、怒った様子で言う。
「ごっ、ごめんね? いきなりで、ちょっと驚いちゃって」
騎士団長は、慌てて謝り、困った顔で理由を言う。
「三名でっ! 2人共、早くしないと置いてくよ?」
が、ラミアは2人を無視して店に入り、店員に人数を言い、案内されながら言う。
「今、行くわ……勝手に“彼”に触れたら殺すから」
カースクイーンは、騎士団長を睨んだまま言って、ラミアの元に急いで向かう。
「あはは……何か、他の視線も痛いけど……気のせいよね」
騎士団長は、カースクイーンの脅しに苦笑いを浮かべ、後を追いながら、周りからの視線を感じる も、言い聞かせるように呟く。
3人は、目立たない席(店員の配慮)に着き、メニューを決めて、料理を待つ。
「ひとまず、名前名乗らなかったから、教えるわね?」
騎士団長は、見回りを手伝うと言ったラミア達に、名乗らないのは不便だと思って言う。
「え? 別にいいよ、今まで依頼主の名前、全然聞いてないし」
ラミアは、別に名前は気にしない、と笑顔で言う。
「こういう人なの。まぁ、名乗るなら、私が聞くから大丈夫よ」
カースクイーンは、ラミアの反応に呆れた様子で言い、騎士団長を軽くフォローする。
「ありがとうございます。私は、この街で騎士団長をしている、アーシェル・アルジェント・シュヴァリエです。良ければアーシェで構いませんので。」
騎士団長、アーシェは、カースクイーンのフォローに礼を言い、名前を名乗る。
「シュヴァリエは騎士団長の称号ね。でも……あの性、そんなにあったかしら?」
カースクイーンは、騎士団長アーシェの名前を聞き、悩むようにブツブツと、何か呟く。
「? ……あっ! もしかして、ウルムお姉さんの親族の人?」
ラミアも、聞いたことがある性の気がして、何とか思い出し、勢いよくアーシェに尋ねる。
「ウルムお姉さん? ……えぇと、出来れば本名と、出会った場所が分かれば、分かると思います」
アーシェは、ラミアの言った名前に、心当たりがあるのか、嫌な予感を覚えながら、詳しい情報を求める。
「? 何て言ってたかな? ダンジョンで会ったんだけど、カースちゃん覚えてる?」
ラミアは首を傾げ、ブツブツ考えているカースクイーンに尋ねる。
「は? 族長でしょ? アウルム・アルジェント。他にエルフで同じ性、居たかしら?」
カースクイーンはラミアの疑問に答え、またブツブツと考える。
「…………えぇと、祖母です。私は第3王女の末娘です」
アーシェは、名前を聞いた瞬間、固まり、身分がバレるのが恥ずかしいのか、もじもじして言う。
「……え?」
「あ、そうなんだ。よろしく、アーシェお姉さん」
カースクイーンは、アーシェの発言に固まり、ラミアは、特に気にせず、笑顔で挨拶する。
「ありがとう。皆、私の名前聞くと畏まっちゃって、騎士団に入ったのに、何故か一番安心だからって、この国の王様にここに配属させられたし」
アーシェは、さっきまでと、態度が変わらないラミアに礼を言って愚痴る。
「……私はカースクイーン、“彼女”は……偽名と本名どっちが知りたいかしら?」
カースクイーンは、相手が、法律的に強者と認め、諦めた様子で名乗り、ラミアの名前について尋ねる。
「えっ、彼女っ!? クリフって偽名っ!?」
アーシェは、カースクイーンの名乗りではなく、ラミアの性別や、名前について思いっきり驚いた。
「村の子達に名前を言い当てたら、大切な物を1つだけあげる、って約束があるからね。本名を知ってるのは、ごくわずかだよ?」
ラミアは、笑顔で偽名の説明をする。
「ついでに性別は、変な虫が来ない為よ。……料理が来たわね。続きは、食べ終わってからにしましょう」
カースクイーンは性別について説明し、料理が来たので話を打ち切る。
というか、料理が来たら、ラミアが食べるのに夢中なため、会話が出来ないせいだが、しばらく食事を堪能した。
「色々分かったけど、大切な物が欲しい訳じゃないし、秘密にするから、本名を教えてくれる?」
アーシェは、水を飲み、ラミアが落ち着いた所で、カースクイーンに尋ねる。
「ラミア、ラミア・アルクスよ。言っとくけど、私達の部屋か、ギルドの応接室、各族長の部屋以外では口にしないで、これでも3年はバレてないんだから」
カースクイーンは、ラミアの名前を教え、口に出して呼べる場所を教える。が、意外にも、呼べる場所が少ない。
「3年っ!? いくら何でも……ヒントとかはないんですか?」
アーシェは、3年もバレてないのに驚き、挑んでる人達を哀れんで尋ねる。
「もちろんあるわよ? 長とか村の大人は知ってるし、むしろ、知ってる人は割と多いわ。でも、2年位は旅をしてたから、居場所を捜してるだけの子もいるかもね」
カースクイーンは、面白がって言うが、真面目に挑む側からすれば、たまったものじゃない。
「美味しかった! 2人共、僕が食べ終わるまで、会話を待ってくれてもいいと思わない?」
と、今まで1人だけデザートを、幸せそうに食べてたラミアが、拗ねた様子で文句を言う。
「暇になってたから良いでしょ?」
カースクイーンは呆れた様子で言い、ナプキンでラミアの口周りを綺麗にする。
「っ、……まるで親子みたいね」
アーシェは、失礼だと思いながら、笑いをこらえて言う。
「何言ってるの? そこはカップルみたい、って言いなさいよ」
カースクイーンは、アーシェを睨みつけて言うが、ちょっとだけ嬉しかったり。
「へ? いやいや、同性でしょ? 確かにラミ……クリフは男装してるけど」
アーシェは一瞬、キョトンとなるも、否定するように言う。
「フッフッフ、彼女の一人称が僕の理由、教えましょうか?」
カースクイーンは、不敵に笑い、自慢げに言って、アーシェに近づく。
「え? ……じゃあ、お願いします」
アーシェは、流石に、カースクイーンの雰囲気が気になり、お願いして聞くことにした。
「……つまり……なのよ……分かった?」
カースクイーンは、アーシェに耳打ちして、ちゃんと教えてあげた。
結果、アーシェは真っ赤になって俯き、固まってしまい、よく聞こえなかったラミアは、首を傾げて不思議そうに、アーシェとカースクイーンを見比べる。
「さて、話は終わったし、見回りに移らない? 騎士団長さん」
カースクイーンは、もう話すことはないと、アーシェの肩を叩いて言う。
「ひゃいっ!? あ……あぁ、そ、そうね。支払いしちゃうから、2人は先に出てて」
アーシェは、肩を叩かれて、ビクッとなるも、何が起きたか分からず、ニヤニヤするカースクイーンと、首を傾げて、不思議そうにこっちを見るラミアを見て、動揺しながらも、状況を把握して言う。
「分かった、先に待ってるね」
ラミアは笑顔で頷き、カースクイーンと一緒に店を出る。
その後、支払いを済ませたアーシェと一緒に、決められたルートに沿って、夜の街を見回り、騎士団の駐屯所にやって来た。
「何か、何もなくて、つまんなかった」
ラミアは、どうやら暴れたかったようで不満げに言い、対照的には。
「何も無いのが一番よ。それだけ治安が良い証拠だしね」
アーシェが嬉しそうに言う。ただし、見回り中から現在まで、ラミアを一切見ず、カースクイーンに話しかけてる感じである。
「じゃあ、日当をもらったら帰るわ。1人分で良いわよ」
カースクイーンは笑顔で言い、担当の騎士団員から日当を受け取る。
「じゃあ、またね。見回りはもうしないけど、依頼があれば受けるよ」
ラミアはアーシェにそう言って、勝手に握手をして、先に帰る。
「……それじゃあ、またね。あなたから、気安く触れたら、今度はちゃんと脅すから」
カースクイーンもアーシェに“力を入れて全力で”握手し、睨みつけて脅して帰る。
「…………クリフさん、君がいいかな?」
アーシェは、ぼーーっと、ラミアが帰った方を見つめ、真っ赤な顔で、ぼそりと呟き、ちょっとだけ痛い手を大事そうに握る。