YouTuber
私は霊と対話ができ、軽いお祓いなら出来る
という「設定」だけでもう20年飯を食っている。
テレビの心霊ロケなんかで芸能人についていく
「霊能者」をイメージしてくれると近いと思う。
あの人達の中にはは本物もいるんだろうけど、
私はまごうことなき偽者だ。
霊感は微妙にあるけど対話なんてできないし、
徐霊なんてとんでもない。
依頼の中から、霊障がやさしめなものに限り受注して、
霊から出来るだけ離れた場所でお祓いの真似して終わり。
その日は肝試しをする自称YouTuberからの依頼だった。
万が一の時のために付いてきて欲しいとのこと。
最近増えてるのだが、この手の依頼が一番おいしい。
だって大抵なにも起こらないから。
サービスで「あ、ここいますね」とか
「危険です、離れてください」とか言うと大喜び。
次回の依頼ゲットだぜ、って感じ。
撮影当日。山奥にある廃寺に行った。
深夜で、街灯も無いので
懐中電灯で照らしたとこ以外は真っ暗だ。
怖いよ!なにガチなロケ地選んでんだよ!
もっと手を抜け!と内心ぶちぎれながら同行した。
YouTuberはニット帽、グラサン、
パーカーといった出で立ちで、
友達のカメラマンと彼女を連れてきていた。
ゴミみたいな内容のトークを交えながら
山の中を進むと、目的の寺が見えた。
寺には霊がいるのではないかと俺でも思うので、
寺に入る前にひと仕事しておくことにした。
「寺に近づくにつれて、霊があつまってきてますねぇ」
私がそう言うと、YouTuberは
「えぇーちょ、怖い!やめてくださいよぉ」
と大袈裟にリアクションしている。
素人にしては上出来だ。私もノッてきた。
「入り口を塞ぐように日本兵が二人立っています」
「チョ、マジで怖いんですけど。入るなってことですか?」
「そうですね。敗戦後、ここに家族やら
近所のちっちゃい子供達やら匿ってたみたいです。
まだ守ってらっしゃるんでしょうねぇ、かわいそうに。
ちょっと先にお祓いしますね」
もちろんそんなものは見えない。
最近考えた取って置きのでっち上げトークだ。
「臨・兵・闘・者・猥・陳・烈・在・ソォイ!
これで大丈夫です」
「じゃあちょっと、男になってきますわ!
みんな!見ててくれよ!」
引き戸を開けたとき、背筋がゾクリとして叫んだ。
「待ってください!閉めて!」
彼は返事もなく、前のめりに倒れた。
その瞬間、私でもハッキリとわかるほどに強く、
そして無数の霊が寺から飛び出した。
彼女さんは慌てて彼に駆け寄ろうとした。
しかし、彼はうつ伏せのままで
「大丈夫!そのまま撮影を続けてくれ!」
と叫ぶ。彼女さんが
「それどころじゃないでしょ!」
と助けようとするが、カメラマンは
「これは伸びるぞ!止めない方がいい!」
と撮影を続けようとした。
流石に逃げた方がいい。
「もうダメだ、逃げましょう!」
YouTuberを彼女さんと二人で引きずり出し、
麓に向かって走り出した。
逃げている間もカメラマンはずっと撮影していた。
麓まで降りて車に乗り、急いで街まで出た。
怖くてそのまま解散するわけにもいかず、
彼女さんの家に全員であがることになった。
ほどなく、Youtuberの意識も回復したが、
何があったか記憶がメチャクチャでよく覚えて無いという。
カメラマンが意気揚々と
「一応カメラはずっと回してたから何があったかわかるよ!」
と言ってるのを見て少しイラッとしたが、
どうせなら霊能者がいる間に見ておきたいと言われ、
一緒に動画を確認することになってしまった。
あんなことがあったので
動画は全編充分に不気味だったが、
中でも不気味だったのは逃げているときだ。
YouTuberが、運ばれている震動とは明らかに違う動きで
首を上下左右に激しく振っていた。
Youtuberは青ざめながら、
ぽつりと呟いた
「…ってない」
彼女が彼の背中を撫でながら声をかける
「首なんてふってなかったよね、怖かったね」
「違う、そこじゃない。
「大丈夫!撮影を続けてくれ」
なんて言ってない!」
全員が言葉を失い、沈黙が流れた。
「きっと、貴方をあそこに留めようとしてたんですねぇ」
なけなしの面目を保つため、
平静を装い、敢えて口にした。
Youtuberがこの動画は処分すると言い、その日は解散した。
ところが数日後、彼がその動画をUPした。
彼女さんから電話があり、動画のURLと、
彼が行方不明になったことを伝えられた。
動画のタイトルは文字化けしていた。
開くとあの日の動画。
投稿者コメントには
「三ンナ コ/てら ≠」
とだけ書いてあった。