3号室住人と
親しき中にも礼儀有り。ノックして中から了承が得られたとしても、慎重に耳をそばだてるなどして中の様子を伺い、異常が無いか確認してから入るべきであった。俺もまだまだ人生経験が足りなかった。
次は上手くやるさ。決意を新たに俺は3号室の前にやって来た。さぁ、次は負けないぞ!
コンコンッとノックを響かせれば、少し間を置いて、
「・・・誰だ?」
少し、警戒心を滲ませる様な返事が返って来る。
うん、そうだよ。新しい環境に身を置いたばかりなんだ、少し警戒するくらいの態度。これが普通だよ。
「こんにちは、初めまして。私は家神の紅葉と言います。この度は、越してきた住人の皆さんにご挨拶をと思い、伺わせて貰いました。今はお時間よろしいでしょうか?」
「・・・ああ。大丈夫だ、入れ。」
少々堅苦しいくらいのご挨拶。了承の返事が得られても、まだ慌てる時間じゃない。
一度、ぴたりとトビラに耳を張り付けて、ジッとトビラの向こうに意識を集中させる。
・・・うん。何の音も聞こえない。って事は、特に何か作業(意味深)中じゃないって事だな。
では、お邪魔します。ゆっくりとドアノブを回してトビラを開けて中を覗き込もうと・・・
「ひゃぁぁっ?!」
顔を差し込んだら、トビラの横の壁に背を張り付ける様にして、見上げる様なガタイのいい青年が立ってると言う、不意打ち。悲鳴を上げたのは仕方ないと思うんだ。
慌てて目線を上げて、その大男と顔を合わせると・・・
「・・・アンナ。」
ほわい?何か、彫りの深い、濃い顔を驚愕の表情で固めて、わなわなと震えながらこっちを見て・・・。
「アンナ・・・アンナなのか?・・・いや、そんな筈は・・・アンナは確かにオレの目の前で・・・。」
何かぶつぶつ呟き出しました。てか、何かすげぇ目が怖いですこの人。瞳の奥に闇がぐるんぐるん渦巻いてる感じが・・・。
「あぁ・・・そうか・・・この子はアンナじゃない。だが、アンナなんだ・・・。生まれ変わって・・・こうしてまた、オレの目の前に・・・!だとしたら・・・だとしたらオレはどうすれば!・・・受け入れてもらえるのか?この・・・手を血で汚し続け・・・
お取込み中の様なので、俺はとびらをそっと閉じた。