2-1 最初のないとめあ
シリアス回。世界設定とか、ある程度作り込んでありますが、お話しに絡むときに小出しする予定です。
●見てる時は、意外とソレと気づけない。
地球とは違う異世界『暴食世界』の唯一の人類種生存圏の大陸の中央に存在する最大多民族国家『八百万神国》』。その名の通り、多種多様な人種、神々が住まう議会制民主主義(関節民主制)国家で有り古き神々と眷属に因る伝統と、新しく生まれる神々と信者による革新が入り混じる温故知新の激しいその国は、他の国には無い混沌とした街並みが広がっている。
都市に複数ある繁華街の大通りは日が落ちてなお、神智魔法に因る付喪神達の眠らない灯りに照らされ、高層建築や派手なネオンの光る食事処や呑み屋が軒を連ね、まるで一枚の岩盤を加工したような継ぎ目無き石畳の道を宵っ張りな者達が賑やかに練り歩く。
しかし、一つ道を外れて路地奥へ踏み込めば、繁華街の灯りや賑やかさはなりを潜め、深とした静けさと周囲の建物に月明りさえ遮られた暗さに包まれる。
そんな暗闇を、私は手に持った呪術灯器(闇を『呪う』事で灯りを確保する呪具)の灯りを頼りに歩いて居る。仲間との飲み会後、家路に急ぐために近道に普段通らないこんな路地を歩いて居る。
色々と、母体が大きすぎる国だ。治安は決して悪くはないが、どうしたってならず者の類は存在する。そしてそういう奴らは、こう言う人気の無い場所や一人で歩く者の元に訪れやすい。だからと言う訳では無いが、私は足早に道を進んで行く。
静かな闇の中に、自分の足音だけが響く中でふと、前方に人の気配を感じて何気なく目を向ける。すると、暗闇の路地のなか、一人の男がこちらに背を向けて立ち尽くしている姿が映る。
―――不審者の類ではあるまいか?
一瞬、そう頭に過ぎり警戒するが、こちらの灯りが届いたにも関わらず、男は以前こちらに背を向けたまま、こちらに気付いた、或いは気にした様子は無い。
足を止めかけたが、変に気にしすぎては寧ろこちらのが不審になる。男を気にしたまま、横を通り過ぎようと・・・
『おっぱいぶる~んぶるんっ!』
野太い声でそう叫びながら、男がこちらに振り返り服を脱いだ。それなりに警戒はしていた心算だが、予想外すぎる事態に完全に思考が停止してしまう。
だって、スキンヘッドの黒光りする全身ムッキムキの筋肉マッチョの男が、コートを脱ぎ棄てて黒ビキニ姿で目の前でサイドチェストを良い笑顔で決めてるんだもん。
(「な・・・ナイスバルクっ!!」)
思わず、心の中で掛け声をしてしまったが、色々とアレだ、それどころじゃない!先ずこいつなんでこんな夜中に路地裏で人を待ち伏せてんだとか、服脱いで筋肉見せるとか新手に変態かとか、そもそも男が黒いビキニ・・・上下つまりブラまでしてるのはなんでだよとか、さっきの叫びはなんなんだよとか、てかなんかポーズ決めたままこっちに近づい・・・
『おっぱいぶる~んぶるん!!!!』
「ぎゃああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
その夜、一人の男が逞しく盛り上がった胸筋に殴られて路地裏でその生涯を終える事になった・・・。
●普通は目が覚めると、内容が思い出せなくなるよね
「ぎゃああああああぁぁぁぁ・・・・あ?」
迫り来る黒光りする大胸筋に思わず絶叫を上げると、そこは夜の路地裏では無く、もう見慣れた和室の部屋・・・『秋恋邸』の管理人室。俺が家神として顕現している西洋風の屋敷の一室だ。
その部屋の壁際に敷かれた布団の上で、掛け布団を跳ね上げて上半身を起こして固まって居た俺は、窓から差し込む日の光に漸く先ほどまでのが夢だったのだと理解する。
「いや・・・どんな夢だよ・・・酷い悪夢だよ・・・。」
家神・・・古い、或いは人の念を長く受けた家屋に宿る神霊、言わば『家の付喪神』で有り、その家の守護神で有ると同時に家其の物で有る為に家屋から出る事が叶わないこの身故に、街を見てみたいと言う思いは確かに有った。なら、街を歩く夢を見るのも仕方ない事だろう・・・。
が、その夢がなんでよりによって悪夢なんだよ!なんで変態に襲われて殺されるんだよ?!なんでマッチョなんだよ!?なにわろてんねんっ!!!
「はぁ・・・疲れてんのかな色々・・・。」
未だに屋敷の住人達に悩まされる日々にこの悪夢、もうやだおうちかえりたい・・・。
くじけそうな心を、軽く頭を振って見ないふりしたら、何か体がぐっしょり濡れてる事に気が付く。あぁ・・・うん、汗臭そうな夢だったもんね・・・、変な寝汗も掻くよね・・・。
一度お風呂で汗を流してから着替え用と、着替えと手拭いを抱えて部屋を出ようと・・・
「おっと・・・。おはようございます、そしてお久しぶりです、紅葉様。朝早くから訪ねる無礼、何卒ご容赦願います。」
トビラを開けたら、ごてごてした法衣と袈裟をミックスした衣装に身を包んだ、大変ガタイの良いおじいさんが。普通は体の線が見えなくなりそうな衣装をぱっつんぱっつんにして、服の下からでも分かる盛り上がった筋肉を見せつけてんのかと言いたくなるようなムキムキマッチョのおじいさんがっ!笑顔でっ!!
どうやらまだ夢の中だったらしい。部屋に戻ってもう一度布団に入る為に、俺はトビラをそっと閉じた。




