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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編3年(家臣編)
99/232

99話 相棒とお出かけ


 冒険者ギルドでランドルフ商会の資料とすり合わせて近隣の資源を調べた俺は、ボウイと共に近くの森林地帯に来ていた。

 レッドドラゴンが目撃された方面とは逆方向だ。

 それでも農業用地などの人の手が入っている場所から離れれば、野生動物は目に付き、森の奥には魔物も生息している。

 森の探索はほぼ俺の私用だ。

 レッドドラゴンの件にかかり切りの冒険者ギルドに手は借りられないと思っていたのだが、意外にもボウイ本人が同行を申し出た。

 土地勘のある人間の手は借りたいと思っていたが、俺に付いて来ることができる人間は限られている。

 ヘッケラーやフィリップに匹敵する戦闘能力は求めていないものの、ある程度の距離の行軍ができることと偵察技術は必須だ。

 危険な魔物と遭遇したときには俺が前面に出て戦えばいいとはいえ、自分の身も守れないほど戦闘能力の低い人間や警戒ができない者は連れて行けない。

 “探査”の魔術で偵察、雷魔術や火魔術で遠距離攻撃と面制圧、剣で接近戦とオールラウンドにこなせるとはいえ、俺の身体は一つだ。

 土地勘のない場所で探索しつつ敵を警戒して、さらに人を守る余裕など無い。

 それを考えると、アラバモの冒険者を束ねる優秀な武官で、斥候として偵察技術に秀でた機動力の高いボウイは理想的な人材だったわけだ。

 しかし、彼が自分から俺と組むことに志願してくれるとは思ってもみなかった。

「俺が言うのもなんですけど、よくこの仕事を引き受けましたね」

「へ? ああ、去年揉めかけた件っすか」

 サヴァラン砂漠にベヒーモスを討伐しに行った際、俺とヘッケラーはトラヴィス邸に泊まった。

 その時に、俺の腕を試すつもりだったのか、ボウイは気配を消して寝室に近づくような真似をしたのだ。

 魔力に殺気を乗せて放出し、脅すだけで済ませたが、一歩間違えばボウイの頭に38口径弾をお見舞いしていてもおかしくなかった。

 最近ようやく理解してきたが、俺やヘッケラーのような聖騎士という存在は紛れもない人外で化け物だ。

 敵対しかけた者からすれば、半径一万キロ以内に近づきたくないと思っても仕方のないことだろう。

「まあ、イェーガー将軍が意味も無く俺を叩っ斬る人じゃないのはわかりましたから」

「俺の人格や仁義が云々って話なら過大評価ですよ」

 気に入らないというだけで人を殺すようなサイコになったつもりは無いが、それでもボウイは家族やフィリップたちとは違う。

 まあまあ良好な関係を長年続けてきた親兄弟。

 付き合いがそれほど長いわけではないが、同じ苦難に見舞われ、損得勘定抜きで協力してきた戦友のフィリップやレイア。

 俺とトラヴィス辺境伯家が友好関係にあるとはいえ、ボウイを近しい者たちと同列に語ることはできない。

 いざとなれば、躊躇なく冷淡な対応をするだろう。

「いやいや、そんな淡い期待をしているわけじゃあないっすよ」

「そこまで断言されると複雑ですけど……では、何故?」

「商人気質のイェーガー将軍にとっての俺は、金銭的な利益を減らしてまで攻撃するメリットのある相手じゃないっていうのもあります。それに……」

「それに?」

「イェーガー将軍が柵に振り回されるタイプの人間だから、っすね」

 確かに、仮にクロケットとまとめた商談の利益が現状より遥かに少なかったとしても、俺は憂さ晴らしを優先してボウイを消すことには消極的だろう。

 飄々として人を平然と重労働に巻き込むところにムカついているのは確かだ。

 これでボウイがトラヴィスの身内でなかったらどうか?

 少なくとも、これ以上利用されるのは気分が悪いので、機会があれば始末するくらいには考えるだろう

 利益と天秤に掛けているつもりで、構築した関係が傍若無人な振る舞いを抑制していることは否めない

 こういう部分は前世と変わっていないのかもしれないな。

「あんた……意外と見るところは見ているんですね」

「恐縮っす」



「それにしても、イェーガー将軍が貴族の雇われっすか」

「そんなにおかしなことですかね?」

 付近一帯に魔物や猛獣の反応が無いことを確認した俺たちは、この探索の主目的である植物の調査に取り掛かっていた。

 既に森の奥深くまで進んでおり、付近に敵影が無いとはいえ油断は禁物だ。

 俺が近くに群生したココナッツらしき木から果実を採取している間は、ボウイが周辺の警戒をしている。

 飛行魔法があるので、両手両足で木にしがみ付いて登る必要は無い。

 それほど無防備なわけではないが、作業中は多少なりとも警戒も緩くなるので、味方は居た方がいい。

 ボウイも一見気を抜いて雑談をしているようだが、弓を手に提げ時折鋭い視線を周囲に配っている。

「そりゃ、そうっすよ。正直、自分もイェーガー将軍は結局のところ陛下の口車に乗せられて領地貴族になるものと思っていましたからね」

「まあ、確かに、逃げ場は大分塞がれていましたよ」

 俺は前世の数倍の大きさを持つココナッツの未熟果を手に取った。

 ずっしりとした重さを感じる見事な果実だ。

 王都より暑い南部とはいえ、南国の気候ではないこの地域で採れる理由は謎だ。

 まあ、継続的に栽培と採取ができるのならば問題は無いか。

「ちょうどぶっ殺……おくたばりになった侯爵の意志を継いで、同格の辺境伯家を建てれば、なんて話がありましたね」

「うひゃ! 扱き使う気満々じゃないっすか。それよりも、チキン侯爵の死因ってやっぱりイェーガー将軍関連だったんですね」

 少々口が滑った気もするが、このくらいはいいだろう。

 ボウイも曲がりなりにもトラヴィス辺境伯家の重臣だ。

 言い触らしたり、軽はずみな真似をしたりはしないだろう。

 ココナッツの未熟果は固形胚乳も所謂ココナッツジュースである液状胚乳も毒は“分析”で検知されなかった。

 錬金術的な毒性物質も、一般的なものならレイアに分けてもらった魔法陣でチェックできる。

 念には念を入れて、口に入れるのはランドルフ商会の魔道具や魔法陣でも調べた後だけどな。

「オルグレン伯爵はよく決断されたっすね。陛下自身はそれで機嫌を損ねるほどケツの穴が小さくはないでしょうけど、周りの暇人どもからはもう……」

「まあ、そいつはフィリップの勇者の肩書きに期待ですよ」

 成熟果にも毒の反応が無いことを確認し、俺は大量のココナッツの果実を魔法の袋に収納した。

 これならココナッツミルクも作れそうだ。



「ちょ、イェーガー将軍! それは……」

 次に俺たちが発見したのは、これまた異世界でお目にかかれるとは思ってもみなかった植物だ。

「ボウイ士爵、梅をご存知で?」

「ウメ?」

 熱帯の植物を見つけたと思ったら今度は梅と来た。

 生態系と気候に関しては前世の知識は当てにならないようだな。

「こちらでは違う名前なのですか?」

「いや、この実には特に名前は無かったと思います。毒がありますからね。ほんの少しなら食べても大丈夫らしいんすけど、俺は試したいとは思いませんね」

 どうやら梅はただの毒草扱いのようだ。

 まあ、毒があるとわかっている以上、余程多くの人間に好まれる味や香りでなければ、利用法や下処理など研究されないか。

 中国では塩と並ぶ太古の調味料らしいが、こちらでは流行らなかったようだな。

「あの……誰かを毒殺するんで?」

「いやいや、食用ですから」

「解毒魔術でもかけて食べるんすか?」

「いや、塩漬けにするか酒に漬けます。それで酵素を……毒が抜けて安全に食べられるはずです」

 青梅の毒は桃や杏子の種子と同じ青酸配糖体なので、塩分やアルコールで酵素を失活させれば体内活性を起こすことができなくなる。

 キョウニンやトウニンなどの生薬として用いる際も、下処理として種子を炒ることにより熱で酵素を失活させ、利用されている。

 これも一度持ち帰って分析と実験をする必要があるが、恐らくは前世と同じ手順で処理できるはずだ。

 ホワイトリカーもどきと砂糖はたっぷりあるし、これで梅酒の生産に一歩近づけたな。

「将軍が嬉々として集めるってことは美味いんすかね。酸っぱくて、大して美味いものじゃないらしいんすけど……」

「まあ、塩漬けは珍味らしいですから好みが分かれるでしょうね。梅酒はこの香りですから期待できますよ」



「今日はここらで切り上げますか」

「了解っす」

 周辺の植物を一通り調べ終わったころには、既に日が傾いていた。

 魔法の袋にはかなりの収穫が詰め込まれている。

 一般の冒険者や狩人の領域よりも森の奥の方で活動していたので、収穫を独占してしまう心配も無く、つい興が乗りすぎてしまった。

 ココナッツと梅の後に見つけたものは、ほとんどがランドルフ商会の資料にも載っていた市場にも並ぶ野菜や果物だったが、それでももう一つ有益な発見があった。

「イェーガー将軍と居ると目から鱗っていうか、既成概念を崩されることだらけっすね。俺もこの辺りの地理にはそこそこ精通しているつもりだったんすけど、将軍の知識の前には形無しっすよ。さすがは魔術師だ。学がある人は違うっすね」

「いえいえ、手伝っていただいて助かっていますよ。っていうか、学問に関してならボウイ士爵こそ俺よりいい学校を出ているのでは?」

「いや、確かに俺はトラヴィス辺境伯家の重臣家の当主ですから、高い家庭教師を雇っていましたけど、魔術師や錬金術師は別物っすよ。彼らは学校や貴族教育とは次元の違う知識を常に貪欲に求めていますから」

 確かに、よくよく考えればヘッケラーやラファイエットの柔軟な思考や知識は、学校の勉強で培ったものではなさそうだ。

 この世界の水準から考えればかなり効率のいい授業をしているはずの魔法学校のカリキュラムでも、トップクラスの錬金術師や呪文の研究者との間には隔絶したレベルの差がある。

 やはり高度な知識や技術は、まだ一般公開される体制はできていないようだな。

 魔術師や錬金術師が知識を秘匿しているというよりは、研究の時間を削ってまで講演はしないし、教わる者も同じ職種の弟子に限られるということだ。

 まあ、インターネットが無い以上、誰でも論文を見られるような社会に一足飛びになれるわけは無いか。

「ところで……明日も出るんすか?」

 ボウイの問いにしばし考えてから俺は口を開いた。

「いえ、今日だけでもかなりの収穫があったんで、明日はランドルフ商会支部で梅酒の仕込みとココナッツの試食をしましょう。無いとは思いますが、毒性物質なんかの検査は早めにしておきたい」

「わかりました。では、次の探索は明後日で?」

「そうですね。念のため、冒険者ギルドで討伐依頼と生態系をもう一度確認してから行きましょう」

 付近に生息する魔物に関しては、場所によってかなりの違いがある。

 ゴブリンやオークはどこに行っても湧いてくるが、限られた場所でしか確認されていないマイナーな魔物などいくらでも挙げられる。

 アラバモ付近のアクアフェレット然り、サヴァラン砂漠のサンドバッファロー然り。

 ロックバードのときのように、偶然受けた討伐依頼から思わぬ食物資源の発見があるのも珍しくない。

 願わくは、この地域にも美味な魔物が生息していることだ。

 今回の遠征の主語は、一応フィリップの勇者就任パーティーのための土産なのだから。

 そのついでに、趣味と実益を兼ねたランドルフ商会の商品開発の仕事をしているだけなのです。

「では、ボウイ士爵。ブラッサムまで戻りましょう。ランドルフさんに話は通しておきますので、明日は直接ランドルフ商会支部まで来てください」

「ええ、よろしくお願いします。いやぁ、楽しみっすねぇ。新しい酒が少なくとも二つ(・・)は出来るわけでしょ。売り出したら、うちには優先的にお願いしますね」

「善処します」

 酒はどこでも売れるからな。

 もちろんデカい取引先のトラヴィス辺境伯領は大切にするさ。


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