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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編2年
92/232

92話 勇者と聖剣


 数日後、俺たちは再び王城に来ていた。

 まずはヘッケラーの執務室だ。

 宮廷魔術師団を妨害した貴族たちを始末した後、エンシェントドラゴンの素材はヘッケラーが一時保管し、今はラファイエットも呼ばれ分析されている。

 瘴気に侵されていた魔物なので、浄化をしなければただの危険物だ。

 そのままでは分析のために触れることすら容易ではない。

 とはいえ、上級竜の中でも強力なドラゴンの素材を捨てるのは惜しい。

 今はラファイエットたちが手探りで処理をしているが、素材として使えるのはいつになることやら……。

 宮廷貴族たちの処刑と私財の没収も終わった。

 一連の事件は収束に向かい、エンシェントドラゴン討伐の功労者である俺たちの表彰となるわけだが、その前に話し合っておかなければならないことがある。

「まずはデ・ラ・セルナ校長の件から話しましょうか。彼の暗殺状況などを鑑みるに、下手人は『影帝』ロベリアで間違いありません。それに君たちの読み通り、山岳地帯には彼女と仲間が簡易拠点にして色々と持ち込んだ形跡がありました」

 この数日でデ・ラ・セルナと北の件は調べ終わったようだ。

「奴らの拠点から目ぼしいものは……無さそうですね」

「ええ、もちろん押収品の価値は普段なら顔を綻ばせるレベルの物ですが、今回はエンシェントドラゴンによる被害にデ・ラ・セルナ校長の死。あまりにも失ったものが大きすぎます」

 確かに、今回の事件は対応が後手に回ったとはいえ被害が大きすぎる。

 貴族家をいくつか潰した分の臨時収入があったとはいえ、王国にとっては相当な痛手だろう。

 人的被害もさることながら、首都の中心部が廃墟と化した以上、復興の労力と資金は莫大なものになる。

「まあ、復興に関しては陛下と宰相のデヴォンシャー公爵の領分です。我々のような壊し屋の出る幕は無いでしょう」

「そうですね」

「それよりもデ・ラ・セルナ校長の後始末の方が大変ですよ」

 


 俺は一瞬意味が解らなかったが、フィリップはすぐに気付いたようだ。

「相続の件ですな……」

「その通りです。彼は独身ですからね」

 なるほど、そいつは面倒だな。

 デ・ラ・セルナは貴族でこそないが、聖騎士で魔法学校の校長を務めていたので対外的な地位は子爵と同等、財産も並の上級貴族を軽く凌駕する。

 彼の死を好機と見て掠め取ろうとする輩は後を絶たないだろう。

「遺書は書いていなかったのです? ある程度の財産がある者は商人でも遺言は早めに作っておくのです」

「遺書はあります。いくらデ・ラ・セルナ校長が筆無精とはいえ、遺書が無いのを放置する陛下ではありません。デ・ラ・セルナ校長に実子は居ませんが、直弟子のような人たちは居ます。資産は彼らに平等に分配するということで話はついているのです。ですが、ファビオラさん。たとえ嫡男が居て遺言書がある貴族の死でも、お零れに与ろうと群がる者は居ます。少しでも慣例から外れた要素があるだけで、羽虫の数は一気に膨れ上がるのです」

 なるほど、確かにデ・ラ・セルナは貴族のステレオタイプから外れている。

 正式な貴族でないことを理由に遺書の信憑性やら財産の多さにケチをつけるのだろう。

「で、ここからが本題です。一部ですが、デ・ラ・セルナ校長の遺産の被相続人に我々も含まれていまして……」

「え? 俺たちがですか?」

 一瞬、意味が解らなかったが、すぐに理由には見当がついた。

「『黒閻』に関する資料や戦利品ですね」

「そうです。我々が今後も『黒閻』と敵対する可能性が高い以上、無くてはならないものです」

 確かに、『黒閻』との戦いを引き継がされることに関してはいい迷惑だが、一度敵対してしまった以上、関係を断つことはできない。

 デ・ラ・セルナが蓄積してきたノウハウやデータは大いに役に立つことだろう。

「問題は……そんな一般人にとっては何の価値も無い品でも、こちらをほかの被相続人と同じような扱いをしてタカってくるってことですか。勝手に値段を付けて、その分を現金で払え、なんて具合に」

「ええ、その通りです。こういった問題に関しては、デ・ラ・セルナ校長も少々疎いようで……陛下やシルヴェストル教授の対応が間に合わなかったみたいですね」

 確かに、俺たちとデ・ラ・セルナが出会ったのは去年で、『黒閻』との戦いに巻き込まれたのもここ一年ちょっとの話だ。

 恐らく、シルヴェストルや俺たちの名前を適当に列挙して、『黒閻』に纏わる品や記録を譲渡する旨だけを書いたのだろう。

「それ……全面的にシルヴェストル教頭に任せられないのかな……」

「実は私もそのように考えていました」

 ヘッケラーは若干驚いたように俺の顔を見て深く頷いた。

 シルヴェストルならば俺たちと資料を共有することを渋るようなことは無いだろう。

 『黒閻』が共通の敵である以上、自分だけで抱え込むメリットは無い。

 俺たちは相続を表面上は放棄して、シルヴェストルの手に渡るよう手配することで同意した。



「で、次に……フィリップ君。君の覚醒についてですが……」

「何かわかりましたか? ヘッケラー殿」

 フィリップが待ってましたとばかりに食いついた。

 レイアもメアリーもファビオラも身を乗り出している。

 ここ数日の待機中も、婚約者三人組はかなり気にしていた。

 揃ってワイバーン亭に俺を訪ねてきたこともあったが、残念ながら役に立てなかった。

 俺自身はヘッケラーと違って覚醒のメカニズムに詳しいわけではない。

 しかし、ヘッケラーがこの話題を出してくるということは、何かしらの調べがついたということだな。

「火水風土の基本四属性以外への魔力の覚醒。そういった意味ではクラウス君と同じですが、彼の雷属性の魔力は覚醒の手順自体は通常と同じものです。しかしクラウス君の場合は、一つの属性として認識されていなかったものです。それに対してフィリップ君の場合は聖属性という、魔術の属性としては一応認識されているものに、通常とは違う手順で覚醒を果たした」

「お師匠様、それではクラウスの覚醒とフィリップの覚醒には関連する情報が無いということですか?」

 確かに、今の話だけではレイアの言う通りに思えるな。

「ええ、二人をただ異質の覚醒魔力というくくりだけで関連付けて調べようとしていたことは無駄でしたね。しかし、古い文献を漁った結果、耳寄りな情報を得まして」

 このクソ忙しい時期にそこまでしたのか。

 部下も優秀なのだろうが、ヘッケラーは本当に超人だな。

「千年前、我がライアーモーア王国の建国に尽力し、数多くの技術や知恵を民衆に授け、長きに渡り世界を恐怖で支配した古の魔王を撃ち滅ぼした勇者の話、ご存知ですか?」

 勇者?

 そういえば、そんな話もちょくちょく聞いたな。

 イェーガー士爵家の蔵書に無かったので俺は知らないが。

「ええ、もちろん。あの古いお伽話ですな」

「どこまでが真実で作り話かわからないあれね」

「話には聞いたことがあるのですが、内容にはあまり詳しくないですわ」

「いろんな人が書いているので、偽物が多いというか本物がどれなのかわからないのです。出所が不確かな書物を好き好んで扱う商人も居ないのです」

 俺以外はどうやら概要は知っているようだ。

 田舎モンは辛いね。

「クラウス君はご存じないですか?」

「ええと……魔王を倒したとか、養鶏の技術を齎したとか、石鹸を初めて作ったとか、洗浄や着火の魔道具の元を作ったとか……」

 あとはサヴァラン砂漠とアラバモの名前とか、リカルド王の召喚獣であるケットシーの名前の由来は三銃士の可能性があるとか。

 まあ、ここら辺は言わなくてもいいだろう。

「概ね間違っていません。まあ、一般に出回る勇者の活躍を描いた本や言い伝えなどは、そういった世界や王国が享受している恩恵についての話がほとんどでしょう。ですが、王城の書庫に保管されている勇者に関する記述では一つ面白いものがありましてね」

「ヘッケラー殿、まさか……」

「ええ、勇者は聖属性の覚醒魔力を有していたようです」



「覚醒方法まで似ています。本来は同じ属性の魔力をその身に受けて押し返すことで覚醒を早めるところ、この勇者は闇属性の魔力、即ち相反する属性を受けることで聖属性に覚醒したようです。もっとも、勇者の場合はミアズマ・エンシェントドラゴンではなく低級のアンデッドだったそうですが。他の属性、例えば水属性に覚醒するのに火属性を受けるなどは意味がありませんが、何故か勇者の聖属性はそれが可能だった」

 ヘッケラーの言葉に部屋の中の全員が言葉を失った。

 最初に再起動したのはファビオラだった。

「フィリップさんが勇者……。最高なのです! やっぱりフィリップさんは世界一の旦那様なのです!」

「おい、ファビオラ。私はそのような……」

「やりましょう! フィリップさん、勇者やりましょうなのです!」

 ファビオラは普段は金勘定と損得で動くケチな奴だが、こういう直接的な権威や餌には弱いようだ。

「ヘッケラー殿……」

「王国もフィリップ君を千年ぶりの勇者として称える方針です。何せエンシェントドラゴンに止めを刺したのは君ですから」

「しかし……私は最後の一刺し以外は……」

 フィリップは困ったように俺の方を見るが、ここは押し付けさせてもらおう。

「確かに、火力で押してエンシェントドラゴンにダメージを蓄積したのは俺と師匠だ。だが、最終的に瘴気を全て取っ払い、仕留めたのはフィリップだ。君が居なければ戦闘は長引いて王都全体が廃墟になっていた」

「クラウス……」

「受け取っとけ」

「……わかった」

 これでいい。

 俺もエンシェントドラゴン討伐には十分貢献したので、報酬が出ないなんてことは無いだろう。

 ベヒーモスの分と合わせれば金は十分だ。



 フィリップの勇者認定に関しては本人も受け入れることが確認できた。

 レイアはファビオラほどストレートには喜ばないものの、ニヤけた表情は隠せていない。

 メアリーもフィリップが今後も危険な目に遭う可能性が高くなることに憂いを含んだ表情を一瞬見せるも、最終的には致し方ないと思ったようだ。

「さて、フィリップ君を勇者として認定するにあたってもう一つ大事な要素があるので話しておきましょう。レイピアの鑑定結果が出ました」

 そういえば、フィリップのレイピアも数日前にヘッケラーの部下が何か調べていたな。

 フィリップの覚醒と同時にへし折ったエンシェントドラゴンの牙が吸収されたんだったか。

 アダマンタイトという魔力の通りが悪く魔剣などに加工しにくい素材で魔物の素材と融合。

 詳細が分からなければ、さぞ気味が悪いだろう。

「『真理の机』による鑑定ができなかったので、正確に言えば結果が出たというわけではありませんが、過去の文献や資料から推測するに、そのレイピアは『聖剣』になっている可能性が高いですね」

 聖剣ね……。

 いかにもだな。

 前世のフィクションだと魔剣と相反する物だが、この世界では魔剣と呼ばれるものは普通に流通している。

 警備隊副隊長のマイスナーが持つ二対の剣もそうだ。

 魔術の使えないマイスナーでもかまいたちのような剣閃を飛ばすことができる。

「聖剣……それも確か千年前の勇者が使ったアーティファクトですな」

「ええ、そうです。詳細は私の方でもわかりませんでしたが、どうやら君のレイピアと共通点があるようでして。その一つが、本来なら魔剣製造の処置どころか魔力を通すことなどできない素材の剣が、竜の素材を取り込んだというものです」

 ちなみに鉄やアダマンタイトと竜の素材を使った聖剣を作る試みは行われているが、成功した試しがないらしい。

 錬金術どころか鍛冶的な処置もせずに聖剣という完成した武器ができるなど、あまりにも都合の良すぎるファンタジーだ。

 何かしらのからくりがありそうだが、そう簡単にわかることでもないか。



「聖属性の覚醒魔力に聖剣。フィリップは正しく、伝説の勇者の再臨だな」

「ええ、その通りです。幸い、フィリップ君には剣聖を超える剣の申し子という評価に去年の『黒閻』との戦いを切り抜けた功績がありました。それに今回のエンシェントドラゴン戦に関しては文句のつけようが無い偉業です。胸を張って、これからは勇者を名乗りなさいな」

「はい……。少々、分不相応な評価とは思いますが……」

「そういう謙虚なところは武人としては好ましいのかもしれませんが、ここは堂々と受け取っておいた方がいいと思いますよ。君の場合は先代のこともありますし……」

「そうですな……」

「ん? 先代?」

 俺はつい聞き返してしまった。

 言った後に余計な詮索だったかと後悔したが、もう遅い。

「あ、いえ……。申し訳ありません、フィリップ君」

「いえ、いいのです。クラウス、私が幼いころに両親が他界したことは話したな?」

「……ああ」

「別に王国に害を成す行いをしたわけではないのだが、少々面倒な問題に巻き込まれてな。私が剣を極めて後ろ指を指されぬようになろうと決意した要因ではあるのだが……」

 話しにくそうだ。

 ここはあまり深く追求すべきではないが、興味が無いように振る舞うのもいかがなものか。

「……とりあえず、差し迫った危機じゃないんだな?」

「うむ、それは無い」

「ならいい。まあ、毒薬やら暗殺やらが必要なときは俺を頼れ。友情価格で引き受けるから」

「すまぬな……」

 いずれ必要なら話してもらうさ。



「さて、そろそろ行きましょうか。謁見の準備は整っているはずです」

 今日、俺たちが王城に来たのはリカルド王と謁見するためである。

 エンシェントドラゴンの討伐から数日しか経っていないにも拘らず、こうして国王との公式な謁見がセッティングされたのは、フィリップの件があってのことだ。

 王国側にしても、勇者という聖騎士よりも希少な存在の認定は前例の無いことで、当然ながら基準も形式も無い。

 確実に言えることは、聖騎士に勝るとも劣らない強大な戦闘力を有する存在であり、他国にとっても取り込めるようなら取り込みたい存在であるということだ。

 フィリップの場合は上級貴族家の当主なので、他国の間者による亡命の打診などはそれほど来ないはずだが、その代わりに暗殺者はダース単位で送り込まれる可能性がある。

 フィリップが後れを取ることはまず無いだろうが、それでも周りの人間が巻き込まれたり、ケチを付けられたりするのは避けたい。

 王国としても早めにサポートの体勢は整えて周知しておきたいわけだ。

「さ、フィリップ君。今日は君が主役です」

 謁見の間前に着いた俺たちは、慣例通り武器と魔法の袋を預けて、重厚な扉の前まで進む。

 そこでヘッケラーの指示に従ってフィリップを先頭に、俺とヘッケラーとレイアはその後ろに並んだ。

「緊張するものだな。公式な謁見など、襲爵のとき以来だ」

「そう固くなるなって。勇者様だぜ。偉そうにふんぞり返っとけばいいのさ」

「貴公……何か企んでいるな?」

「別に~」

 敢えてフィリップに言う必要も無いが、俺を未開地の砦の司令官にしたいリカルド王は、今回の功績を口実に俺への報酬に厄介なブツを付けてくる可能性がある。

 領地とか領地とか領地とか。

 それをフィリップに押し付けようってだけだ。

「粗相の無いようにニャ」

 いつもどおりリカルド王の召喚獣のケットシーが謁見の間の扉を開けた。

 両開きの扉が開き切ったタイミングで、俺たちは謁見の間に足を踏み入れた。


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