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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編2年
77/232

77話 イェーガー氏の優雅?な休日

「やれやれ、酷い目に遭った……」

 レイアも意外と胸のこと気にしていたんだな。

 地獄耳はともかく、本気で俺を吹き飛ばそうとするとは……。

 まあ、メアリーという同い年にしては発育のいい少女が、自分と同じフィリップの婚約者ということもあって焦る気持ちがあるのだろう。

 豆乳を飲んで自慰の回数を増やせば良さそうだが、この世界で大豆は見たことが無いし、下ネタは人妻には言えんな。

 あの後レイアの機嫌を取るのは大変だった。

 当然、口八丁で乗り切れるわけもなく、俺の魔法の袋に保存してあったミゲールの店のスイーツが大量に奪われた。

 しかも取られたのはケーキ類や焼き菓子が主だ。

 プリンやドーナツならともかく、俺に作れない物ばかり取りやがって……。

 素材同士の一体感を出すことが難しいケーキも、僅かな分量の違いで味が台無しになるエンガディーナやフィナンシェも、ミゲールの店の味を知ってしまうと自作するのが馬鹿らしくなる。

 最終的には機嫌を直して実用的な闇魔術もいくつか教えてくれたから良しとするか。

 少し遅い時間帯だが、闇魔術を試しがてら冒険者ギルドで依頼を受けて魔物の討伐にでも行こう。

 AKMとボルトアクションライフルとキャリバー50の試射は前に終わらせて問題なかったので、今日は早く終わるだろう。

 俺は図書館を後にしながら、魔法学校のローブを魔法の袋に仕舞い、戦闘用のベヒーモスのローブを着た。



 王都の冒険者ギルドの風景はいつも通りだ。

 休日の昼過ぎなので依頼を選ぶ冒険者はほとんど居ない。

 1年の頃からフィリップと出入りしており、俺が聖騎士になってからも顔は出したので、俺を知っている冒険者も多い。

 こちらを訝しげに見ているのは、最近王都に来た連中か。

 俺はよく見るエルフの受付嬢のカウンターに近づいた。

「イェーガー将軍様、ようこそいらっしゃいました」

「どうも、何か滞っている討伐依頼はありますか?」

 受付嬢が即座に出してきた紙を見て、俺は顔を顰めた。

「レッドドラゴンの討伐……王国南部か」

 レッドドラゴンは中級竜だ。

 中級竜はほとんどが属性竜で、その中でもレッドドラゴンは最上位に分類される。

 特に火炎ブレスが強力で膂力も強く攻撃に秀でている。

 防御力ではベヒーモスに劣るが攻撃力は上だ。

 総合的に見て、ベヒーモスよりヤバい奴である。

 週末に一人でこんな相手と戦うのはご免だ。

 しかも王国南部といえばランドルフ商会のアブラナ油やオリーブオイルの生産拠点である。

 トラヴィス辺境伯領より近いとはいえ、王都からは大分遠い。

 とてもじゃないが日帰りでこなせる依頼ではない。

「言い方が悪かったですね。魔法学校の授業もありますので今日中に、遅くても明日中に帰れる距離のものをお願いします」

「畏まりました」



 街道から外れた森の中で俺は群れと逸れたと思わしきゴブリンを見つけた。

 ちょうどいい。

 実験台にしよう。

 俺は鹿狩りの要領で草叢に潜み、風上を避け、魔力を放出したり乱したりしないように注意してゴブリンに接近する。

 故郷で鹿や鳥を狩るときに会得した技術だ。

 本職の斥候には及ばないが、長時間監視したり至近距離まで近づいたりするのでなければ十分だ。

 標的を狙うのに十分な距離まで接近し、俺は“放電(ディスチャージ)”を最小出力で放つ。

「ゲヒャ!」

 目立った外傷を負うことなくゴブリンは気絶した。

 俺は魔法の袋から縄を取り出し、ゴブリンが目覚めないうちに拘束を始める。

 両手足を縛り近くの木に縛り付けた。

「さて、敵をいたぶる趣味は無いが、これも俺の技術の向上のためだ。勘弁してくれ」



「忌まわしき罪よ、咎よ、戦慄よ、彼方より呼び起こされし苦杯の記憶は、汝を蝕む呪縛なり――“悪夢(ナイトメア)”」

 “悪夢(ナイトメア)”は完全に拷問のための魔術だ。

 睡眠状態や気絶状態の対象にしか効果が無く、トラウマや恐怖体験を増幅して認識させる。

 再び刺激を与えて意識を取り戻すまで、被術者は悪夢に苛まれ続ける。

 俺は闇魔術に適性が無いわけではなかったので、恐らく術自体は成功するだろう。

 見たいのは、この闇魔術が強すぎたとき、どのような症状になるかだ。

 今回、俺は詠唱に加え通常の数倍の魔力を込めた。

 低ランクで体も小さいゴブリンならば、その結果も顕著に表れるだろう。

「ゲッ……グゲェ……」

 ゴブリンの額に玉の汗が浮かび始め、縄を振り解こうと必死に身を捩り始める。

「ウギェァァアァァォォ……」

 縄で縛られた手足や木に縛り付けられた胴体が擦り切れるのにも構わず、どうにか苦痛に抵抗しようと奇声を発し脱出を試みる。

 ここらで止めを刺してやるのが人道的には正しい判断だと思うが、今日は闇魔術の実験に来ているのだ。

 悪いが、ここでやめるわけにはいかない。

「ゲエァ……グボ! ……ケッ、カヒュ……」

 そしてついに呼吸困難を起こし、苦悶の表情を浮かべたまま動かなくなった。

「死んだのか……?」

 俺はP226を構え、急に反撃されても即座に頭をぶち抜けるよう準備して、ゴブリンに近づいた。

 確かめてみると呼吸も心拍も停止している。

「悪いな……」

 俺は実験のためとはいえ過度な苦痛を与えたことをゴブリンに謝り、サーベルで胸を抉って魔石を取り出した。

 “火弾(ファイヤーボール)”を放ち火葬を終えた俺は軽く十字を切って、その場を立ち去った。



 生け捕りにしたゴブリンで、一番効果を詳細に観察したい“悪夢(ナイトメア)”の実験を終えた俺は、続いてオークの群れを“マナドレインミスト”の実験台にした。

 結果は満足いくもので、全てのオークが一、二秒で魔力枯渇に陥り気絶した。

 さすがに魔力をいくら吸い取ったところで、殺したりミイラにしたりすることはできなさそうだ。

 この世界で魔力は生物が活動するのに必須ではあるが、身体魔力が生命活動にまで影響を及ぼすことは少ない。

 次に一匹を残して止めを刺して魔石を取り出し、生かしておいた奴を先ほどのゴブリンと同じように、縄で手足を拘束して木に縛り付けた。

 ゴブリンよりも体格が良くて力が強いので、より厳重に拘束した。

 そして腕を浅くサーベルで切り裂く。

 オリハルコンのサーベルの切れ味は素晴らしい。

 斬った後、数秒経ってから血の玉が噴き出てきた。

「――“ペインバースト”」

「ブ、ブモオオオォォォォ!」

 俺が痛みを増強する魔術をかけた途端にオークは意識を取り戻して悲鳴を上げた。

 木が引っこ抜けそうな勢いで体をバタつかせて抵抗する。

 俺が術者だとわかっているようで、瞳の奥には明確な恐怖が窺える。

 効果は数十秒のようだ。

 もう一度“ペインバースト”をかけてから試しに治癒魔術をかけてみたら、痛みはすっかり無くなったのか、叫ぶのをやめてオークは辺りを見回し始める。

 その後も気の進まない実験をして、大体“ペインバースト”の効果はわかった。

 無傷の状態では“ペインバースト”は発動しない。

 傷を付けて“ペインバースト”をかけてから、近くの部位をもう一度斬りつけると、その痛みも増幅されたものになるようだ。

 治癒魔術で効果は消せる。

 これでボルグが使った闇魔術は粗方試し終わったな。

 こいつを使わないで済むに越したことはないのだが……。

 俺は実験台にしたオークに止めを刺し、魔石を回収して火葬を済ませた。



 そろそろ冒険者ギルドで受けた依頼に向かいたいところだが、残念ながらまだ闇魔術の実験は終わっていない。

 レイアに新しく教わった闇魔術は当然“悪夢(ナイトメア)”だけではない。

 尋問に使えそうなエグい闇魔術ということであれば、もう一つ有用なものがある。

 ちょうど群れから逸れたと思わしきゴブリンを見つけた。

「あいつで試すか……。灼熱と常闇は相反すれど、業火と成して魂を焦がすこと、呪詛を以って責め苛むこと、人の世には同じ――“焔呪(フレイムカース)”」

「グギョァァァアアアアァァァァ!!」

 俺の闇魔術を受けたゴブリンは絶叫を上げて地面を転げまわった。

 この魔術は火属性と闇属性の混合になる。

 レイア曰く、体の内側から焼かれる痛みを味わわせることができるらしい。

 ゴブリンの眼には自分の身体が火だるまになっているように映っているに違いない。

 熱さや痛みも再現されているので、彼はひたすら体を地面に擦りつけて消火しようとしているのだ。

 効果は単純だが、物理的に傷を付ける過程が必要な“ペインバースト”や先に気絶させなければならない“悪夢(ナイトメア)”と違い、“焔呪(フレイムカース)”は単体で効果を発揮する。

 使い勝手は良さそうだ。

 なかなか情報を吐かない奴を拷問する際に、手札が多いと便利だろう。

「ゲャォォォォ! グゥェェ!」

 しかし、これほど効果が持続するとは思わなかったな。

 俺が“焔呪(フレイムカース)”を発動する際にイメージしたのはナパーム弾なので、それも効果に影響しているのかもしれない。

 効果を切るには一度気絶させなければならないようだ。

 やはり無条件に便利というわけではなさそうだな。



 先程のゴブリンは“焔呪(フレイムカース)”の効果が切れた後も死んでいないので、このまま実験を続けさせてもらおう。

 まあ、この術は確実に命を刈り取ることになるだろうけどな。

「亡者の骸は大河に凍てつき、卑しき魂を地の底に導く訃音をここに――“コキュートス”」

 今度は水属性と闇属性の混合魔術だ。

 足元から氷漬けにするとともに、魂を引き摺り出すというか吸い取るというか……とにかく、冥府の川の名前に相応しい魔術だ。

 範囲の調整も効きやすい。

 氷結は足元から始まるので飛行する敵には発動できず、標的を完全に仕留めるまでに数秒かかるので高ランクの魔物や手練れには使えない魔術だが、雑魚を纏めて始末するには向いている。

 物理的な攻撃と違い敵が木端微塵になって飛び散ることもないので、かなりクリーンな魔術であるところもいい。

 ダンジョンや洞窟でも使いやすいだろう。

 “コキュートス”なら敵の氷像が出来上がるだけなので、土魔術や衝撃の大きい魔術を使った際に起きる崩落の危険も無ければ、火魔術をぶっ放した際の一酸化炭素中毒を起こす可能性も無い。

 他にはファイヤートレントを捕獲するときも使えそうだ。

 あいつは銃弾の雷管の導爆薬として最高の素材なので、俺にとっては非常に重要な物資だ。

 少しの衝撃で爆散してしまうので、迅速かつ正確に隙間なく氷漬けにして窒息させなければならない。

 今までは、実戦での用途は妨害が主である“氷結(フリーズ)”で頑張っていたが、“コキュートス”があれば簡単に事が済むだろう。

 神経を使って氷の形状を調整しなくてもいいし、窒息するのを待つ必要も無い。

 ちなみに“コキュートス”で引き剥がした魂を、俺が吸って糧にするとか魔力を回復したりはできないようだ。

 まあ、そこまでできたら吸血鬼呼ばわりされそうだがな。



 日も暮れかけた頃、俺は依頼の目的であるロックバードの群れを見つけた。

 ロックバードはBランクで、大きさだけならグリフォン並の巨体を持つ、獰猛な鳥型の魔物だ。

 ブレスや魔法攻撃は使わないが、強靭な爪と嘴を持つ肉食の危険な存在である。

 放っておけば家畜どころか人間まで攫って食べる連中だ。

 今回の討伐依頼も王都郊外に居を構える近隣住民の要望により出された。

 ちなみにロックバードの味は肉食とは思えないほど肉も内臓も美味しいらしい。

 まだ狩ったことが無い魔物なので楽しみだ。

 ただ、魔物図鑑で調べた内容では、モモ肉やムネ肉にレバーくらいしか可食部の記載が無かった。

 ハツや砂肝、セギモにボンジリは見逃されていると考えていいだろう。

 サエズリや軟骨は言わずもがな、キンカンまで捨てられている可能性が高い。

許しがたいな。

 ササミくらいならムネ肉に近いので切り取られているかもしれないが、手羽が捨てられていた日にはブチ切れる自信がある。

 皮に関しても一番美味いのは首回りだと転生する前に聞いた。

 恐らく、これも気付かず廃棄されているのだろうな。

 冒険者ギルドに持って帰った後も、解体に付き添うことが決定した。

 美味い部位を捨てられてたまるか。

「「「「キュィィィィ!」」」」

 おうおう、集まっているね。

 ここから見えるロックバードは全部で四羽。

 どうやら食事中のようだ。

 巣の中で散乱している肉片が元は何だったのかはわからない。

 鹿か馬か、もしかしたら熊か、人間の可能性もある。

「ま、俺の知ったことじゃない。“放電(ディスチャージ)”」

 俺は肉を焦がさない程度の電流で初撃を放った。

「「「「キシャャァァァ!!!」」」」

 不意打ちは成功した。

 しかし、ロックバードの防御力は俺が思っていたより高いようだ。

 気絶するかと思いきやフラフラになりながらも羽ばたいて反撃に出ようとしている。

「ちっ」

 俺は大剣を構えて接近しながら、左手で“倉庫(ストレージ)”から投げ槍を取り出して、感電からの復帰が一番早そうな個体に投擲する。

 もちろん“ブースト”はしっかりとかけた。

 この状態で投げた槍は下手なバリスタよりも威力がある。

「ギョバ!」

「ピギッ!」

 投げ槍が一羽の頭の一部を消失させ、次いで俺の大剣が一番近い個体の首を刎ねる。

「「キュォォォォォ!」」

 俺は返す刃で横薙ぎに魔力剣の剣閃を飛ばし、まだ痺れが残る二羽の頭部を上下に切断した。



「ふむ、思ったより防御力が高かったな」

 初見の魔物とはいえ、俺の“放電(ディスチャージ)”の効きが悪いとは思わなかった。

 サンドバッファローのとき然り、肉や素材をダメにしない最高出力で撃っていたはずだ。

 これ以上の威力だと肉が焼けてしまう。

 どうやらロックバードは魔術的な攻撃手段は持たないものの、強化魔法のような魔力の使い方はするようだ。

 簡易的な魔力の装甲である。

 そうなると一撃で意識を刈り取るのは難しいな。

 俺には至近距離まで気付かれずに接近できるほどの斥候スキルは無いし、遠距離からの攻撃では魔術はもちろん投げ槍やクロスボウも“ブースト”の魔力反応を感知されてしまう。

 投げ槍や矢はそのまま放っても躱される可能性があり、魔術も素材のことを考えた威力では決定打にならない。

 肉を焦がさないで確保するためには、どうしても“放電(ディスチャージ)”の出力を抑え、後に止めを刺しに行かなければならないのだ。

 キャリバー50なら相手の間合いの外から一撃で仕留められるだろうが、できればロックバードを狩る度に持ち出すのは避けたい。

「はぁ、もういっそ正面から斬りつけるかね……」

 俺の大剣ならロックバードを一撃で倒すことも可能だろう。

 問題は正面から戦うストレスと“放電(ディスチャージ)”で感電させられるストレスのどちらが肉質に悪影響を与えるかだ。

 要検証だな。

「おっと、素材を拾わないと」

 四羽のロックバードを魔法の袋に収納し、俺は周辺の探索を始めた。

 残念ながら金目の物は無い。

 まあ、人間から奪った光り物を貯め込む習性はロックバードには無いのだから仕方ないか。

 しかし、巣のお宝は……。

「お、卵はかなりあるな」

 ロックバードの卵も全部で八個手に入った。

 一つがダチョウの卵より大きいので、使い道に悩むところだ。

 ちなみにレイア曰くロックバードの卵は鶏卵より濃厚で非常に美味らしい。

 収穫の半分はギルドで売却するとして、バカでかい卵が四つか。

「プリンでも大量に作ってレイアの機嫌を取るかね」

 ロックバードの巣を火魔術で破壊した俺は、飛行魔法で飛び立ち王都に向かった。

 さすがに闇魔術の検証でのんびりしすぎた。

 急がないと街の門が閉まってしまう。


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