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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編2年
76/232

76話 闇魔術と失言

 聖魔術の本を棚に戻した俺は、次に図書館の奥へ向かった。

 行き先は厳重な扉で封鎖された禁書庫だ。

 扉の近くで待機する警備ゴーレムに、俺は魔法の袋から取り出した一枚の紙を見せた。

 一見ただの羊皮紙だが、押し印にはかなりの魔力が込められており、文字も特殊なインクで書かれているのがわかる。

 ラファイエットがくれた許可証だ。

 警報装置をまた壊されるよりは、ってことで、俺が頼んだらすぐに用意してくれた。

 グリフォンを送ったりベヒーモスの素材を多く譲ったりして正解だったな。

「入室許可ヲ確認。登録シマシタ」

 これで、禁書庫を出るまで俺はラファイエットの警報装置に探知されても警報を鳴らされない。

 禁書庫に入るたびに登録が必要で、二回目以降もその都度ゴーレムに許可証を提示しなければならないが、忍び込むより楽だ。

 ファビオラはどうやって突破したんだか……。

 まあ、腕利きの斥候や盗賊なら忍び込むのは不可能ではないってことか。

 本当に危険な国家の存亡の危機に関わる書物は、魔王学校などではなく王城だろう。

 デ・ラ・セルナもラファイエット自身も警報装置だけで完全に守れるとは考えていないはずだ。

 俺は禁書庫に足を踏み入れ、本棚から目当ての物を探し始めた。

 ボロボロの表紙や如何にも黒魔術と言った風情の本の表紙を確認し、一つの地味な表紙の本を見つけた。

『実用闇魔術の書』

 実用ね……。

 本当に役に立つといいのだが。

 闇魔術はボルグが使っていたので、俺も調べておかなくてはと思ったが、物が物なので禁書である。

 聖騎士の任命式の直前は強化咆哮を優先したし、1年次の後半も鉱山巡りで時間が無かった。

 ようやく、ラファイエットに禁書庫の閲覧許可も貰えたことだし、じっかりと調べよう。



「――“(シャドウ)(バインド)”」

 俺は窓から差し込む日差しに当たる位置に薪を立て、ボルグも使った闇魔術を発動した。

 影になった部分の地面から黒い触手か蔓のような物が出来て、縦に置いた薪を拘束した。

 地面に根を張っているわけではないが、影という因子によって出現する場所が決まるようだ。

 “(アース)(バインド)”のように地面から生え、地面と物理的に密着した状態で枷が形成されるわけではない。

 足元の地面を吹き飛ばしても抜け出せないという長所はあるものの、地面だろうが壁だろうが出せることや、やろうと思えば避けたり振りほどいたりできるところは“(アース)(バインド)”と変わらない。

 逆に影が出来ている位置からでないと発動できないことは、欠点なのではないか?

 拘束や足止めなら特に闇魔術である必要は無いな。

 続けてもう一つボルグが使っていた技を見つけたので何度か試してみる。

「――“影討(シャドウリベリオン)”」

 これも影を利用した魔術だ。

 影から伸びた黒い物質が、拘束用の触手ではなく鋭い槍状になって襲い掛かる技だ。

 強度は十分のようで薪を綺麗に貫いた。

 しかし、威力に関してはベヒーモスの放った雷の槍の方が上だろう。

 俺は自分なりにアレンジして“プラズマランス”と命名した。

 数万度のプラズマで瞬時に標的を気化させ貫く魔術だ。

 半径数十センチの穴を穿つことができるので、大型の魔物や攻城戦に使う機会はあるかもしれないが、人間の集団相手なら“(フレイム)(ランス)”の方が便利で効率がいい。

 大勢の脆弱な人間を虐殺するなら、手段は爆発に限る。

 ここら辺の魔術と比較すると“(シャドウ)(バインド)”も“影討(シャドウリベリオン)”も使いどころに困る魔術だな。

 全方位から攻撃を仕掛けるという意味で、影を意識すれば位置を細かく念じることなく発動できるのは強みかもしれないが、あまり多用することにはならなそうだ。

 無詠唱までできるようになったことだし、どうせなら暗闇ならどこからでも発動できるようになればな……。

 既存の魔術を調節して形を変えることは難しいので、その場合は一から作り直した方が簡単そうだが。



「よし、あの忌々しかった“マナドレインミスト”も使えることは使えるな」

 その名の通り魔力を吸収する霧を発生させる魔術で、魔力操作に長けていない人間や、身体への魔力の定着率が低い者を即座に魔力枯渇へ陥らせることができる。

 俺のように魔力の体への定着率もそこそこあり、魔力操作にも長けている人間には効果が薄い。

 ヘッケラーも魔術師型なので定着率は比較的低いが、卓越した魔力操作によって生半可な“マナドレインミスト”程度なら問題にならない。

 ボルグにやられたとき、フィリップは魔力操作が未熟で、レイアは魔力の定着率の低さをカバーできるほどの制御力は無かったのだ。

 彼らも俺ほど重点的ではないがヘッケラーの教えを受けている。

 今ならそう簡単に魔力を抜かれて倒れることは無いだろう。

 まあ、俺のように『マナディスターブ薬』を食らった状態で持ちこたえられるほどではないだろうが。

 さて、俺の“マナドレインミスト”はどれほどの威力があるのか?

 試してみたいが、実験台が居ないな。

 吸い取った魔力は浮遊魔力に霧散してしまい戻せないので、誰かに食らってもらうわけにはいかない。

 盗賊でも捕まえて試してみようかと思ったが、あまり雑魚が相手でも威力の検証にはならない。

 そもそもこの魔術の使いどころは、どんなシチュエーションだろう?

 気を失わせるだけの非殺傷兵器として使うのならば“放電(ディスチャージ)”でいい。

 魔力の消費も雷系統の方が少ない。

 これも今すぐには使う状況が思いつかないな。



 “ペインバースト”は間違いなく有用な魔術だろう。

 まず、拷問の際に有効だ。

 俺は拷問マニアではないので盗賊を生け捕りにしてアジトの場所を吐かせるとき、武芸大会のときのように捕虜を尋問するときには、殴る蹴る以外に手段は無かった。

 しかし“ペインバースト”なら致命傷とは程遠い傷で痛みを与えることができる。

 俺は人をいたぶって喜ぶ趣味は無いので、これを戦闘中に使うことはあまり無いだろう。

 しかし、こちらの攻撃力が不足するような強敵を相手にするときは、僅かな傷の痛みを増幅し次の攻撃を加える隙を作ることができる。

 相手の回避能力が自分の攻撃を上回っているときも有用だろう。

 ボルグに使われたときも同じような状況だった。

 太腿に受けた傷は浅かったが、“ペインバースト”を食らい動きは鈍った。

 まあ、俺より格上の相手が闇魔術一つでどうにかなるとは思わないが、小細工の引き出しが多くて命が救われる可能性もある。

 覚えておこう。

 しかし、これも実験台が居ないと試せないな。

 もういっそ魔物を捕まえて試してみるか?



「さて、実物を知っているのは、こんなもんか。他に何か使えそうなのは……」

「クラウス、何をしているの?」

 ボルグが使った魔術を一通り試し、他の魔術を調べようとしていた俺に声を掛けたのはレイアだった。

 禁書庫の閲覧許可証は彼女も持っている。

 俺の分と一緒にラファイエットに頼んだのだ。

 許可証を持つ人間が多ければ多いほどセキュリティーに穴が出来やすくなるが、レイアは俺たちの中で一番博識で書物を有効活用できる。

 俺が熱心に頼んだおかげで彼女も認められたのだ。

 断じてラファイエットを脅したりはしていない。

 ちなみに他のメンバーには渡されていない。

 フィリップは上級貴族の当主として教育を受けているものの読書は好きではないし、ファビオラは余程の切羽詰まった状況でなければ本を開いた瞬間に寝る。

 メアリーも禁書庫には興味が無いようだ。

 まあ、ここに用があるのは闇魔術関連の指南書を探す俺と、魔法理論や錬金術を突き詰めたいレイアくらいのものだ。

「ん? 闇魔術……クラウスが使うの?」

「ああ、ボルグに使われたやつはマスターした。格別、強いわけではなさそうだがな」

「へぇ……」

 レイアは床に転がった薪を細い指でつつき、観察しながら口を開いた。

「穴は“影討(シャドウリベリオン)”ね。この何かが巻いてあったような跡は“(シャドウ)(バインド)”かしら?」

「ご名答」

 レイアは俺が使った魔術を一瞬で見抜いた。

「レイアは使えるのか?」

「ええ、基本的な闇魔術の本なら売っていないこともないわよ」

 なるほど。

 所詮は学校の禁書か。

 表通りで大っぴらには売っていなくても、彼女のような高ランク冒険者なら手に入れる手段はあるようだ。



「では、レイア先生。何か便利な闇魔術は知りませんかね?」

 本に載っているものを片っ端から覚えてもいいが、先に彼女に聞いておいた方が効率はいいだろう。

 もしかしたら本に載っていない魔術もレイアなら知っているかもしれない。

「そうね……他には何を覚えたのかしら?」

「“ペインバースト”は強敵に隙を作るときや尋問で使えそうなので覚えた。“マナドレインミスト”もボルグが使っていたので一応な。これはどちらも実験台が居ないので効果のほどはわからん」

「そう……。もう、上級も使えるのね、ふんっ。なら、“記憶復元(メモリーリストア)”は? 闇魔術の中でも死霊術の一種だけど、死んだ奴の頭から情報を取れるのよ」

「何でそんなに不機嫌なんだよ……。まあ、盗賊のアジトを聞き出す前に誤ってぶっ殺しちまったときは便利そうだな。……あれ? 載っていないぞ」

 俺は闇魔術の本で探すが、見当たらなかった。

「これ……」

 レイアが魔法の袋から出してくれた本を受け取り、俺は目を通し始める。

 どうやら死霊術に焦点を当てた本のようだ。

 えー、なになに?

『正常に記憶を復元するには死後数時間以内でないと厳しい』

『アンデッド化が進行すると記憶も言霊も留まらないので瘴気の強い場所では効率が落ちる』

 発動条件に不思議なことは無いな。

『術者の精神とのリンクを構築するための魔法陣が……』

 魔法陣、だと?

 しかも続きには……。

『もっともポピュラーな方式は、質問を念じ答えを文字にして浮き上がらせる魔法陣……』

『被術者が見たものを復元する手法では、写し絵に転写する魔法陣……』

「なあ、レイア」

「何かしら?」

「何故、魔法陣がこんなに必要なんだ?」

「難しい術だからよ。あれ? ひょっとして天下の雷光の聖騎士様には使えないんですか~?」

 嫌がらせかよ……。

 俺が魔法陣を作れないことは知っているだろうに。

「(貧乳め……)」

「何か言ったかしら!?」

「いいえ、別に……ぷっ」

「あ、あんた……! ぶっ殺してやるわ! 表に出なさい!」

「へ?」

 ここまで切れたレイアは珍しいな。

「あたしだって……あたしだって、いつかは……。せめてメアリーくらいには!」

「いや、無理じゃね?」

「きぃ! もう許さない! 王宮のクソ女どもとすらヤれなくしてやるわ! その薄汚いイ○モツを切り取ってケ○の穴に突っ込んでやる!!」

「さーせんしたぁ!!」


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