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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編2年
73/232

73話 ベヒーモスの恵み

 ラファイエットに案内されたのは、前にベヒーモスを渡した倉庫に隣接された宮廷魔術師団の研究室だった。

 ラファイエットはここのところ泊まり込みで作業をしていたようだ。

 魔法学校でもいいのだろうが、警備の問題で王城の方が確実だったらしい。

 実際に研究室の一角は、ラファイエットが魔法学校の自身の研究室から持ち込んだと思わしき私物が散乱していた。

「さて、それではお披露目アルね」

 俺の装備のはずだが、後ろからは俺よりも興味津々な目が多数向けられている。

 何故か帰宅するはずのヘッケラーもフィリップたちもバイルシュミットとマイスナーも、ここまで付いて来たのだ。

「まずは注文の魔晶石アルね。いやあ、このクラスの魔石の加工も滅多にできるものじゃないアルよ。すばらしい仕事だったアルね」

 渡された魔晶石は合計ニ十個だ。

 俺の魔力量は中級の魔術師が全回復する魔晶石を十個使っても一パーセントすらチャージされない。

 それでも中級の魔術を数発撃てるくらいの魔力にはなるので無いよりはマシだったが、このベヒーモスの腹の小魔石を使った魔晶石ならば、全部使えば俺の魔力が半分以上は回復する。

 六十パーセントの回復量と仮定しても標準的な魔晶石の三十倍以上の効率だ。

 素晴らしい性能である。

 これにはヘッケラーも感嘆した。

「ほほう、これは凄い。全部使えば私の魔力でもほとんど回復するではありませんか」

「やはりそれだけの容量がありますか。俺の魔力でも実用レベルの回復手段となりそうです」

 何せ、俺の魔力が足りなくなることなど、余程の激戦が長時間続いた場合以外に考えられない。

 それこそ中級魔術の数発では何も変わらないような戦場だ。

 魔晶石で魔力を回復するには前線から離脱してじっくり魔力の吸収作業をする必要があるが、それで魔力総量の半分以上を補充できるのだ。

 十分役に立つだろう。

「さ、次はローブを見せるアルね」

 礼を言う間もなく次の装備に移ってしまった。

 まあ、後でいいか。

 今はラファイエットの説明に集中しよう。



「これが君の新しい商売道具アルね」

 渡されたのはチャコールグレーのローブコートだ。

 広い袖口に長い裾、フードも広めで形状はジェ○イローブに似ている。

 羽織ってみると、予想以上に体を圧迫しない。

 ゆったりした着心地なので中に厚着をしても大丈夫そうだ。

「性能としては、まずベヒーモスの外皮の耐刃性をそのまま活かし、元々イェーガー君の雷の覚醒魔力と相性がいいので僅かに同調して防御力が向上するようにしたアルね。それに君の希望通りの高性能な温度調節機構。魔法学校のローブより優秀でサヴァラン砂漠でも寒冷地でも快適な温度を保つアルよ」

 素晴らしい。

 この快適な温度がどこに行っても保たれるとは。

「で、サイズ調節機能も少々広めに設定したアルね。今の君の魔法学校のローブと同じぴったりのサイズからそっちの警備隊長くらいまでアルね。少々デブっても大丈夫アルね。私のところに持ってきてくれればすぐに調整してあげられるアルよ」

 さすがにバイルシュミットほどのゴリマッチョにはならないだろう。

 まあ、将来的にデブる可能性はあるか……。

「で、どうアルか?」

「少し試してみます」

 俺は倉庫の隅に移動し、強化魔法を弱めに発動した。

 今までと同じ魔力操作に違和感は無い。

 “倉庫(ストレージ)”から大剣を出して軽く振るう。

 上段から大きく振り下ろし、体を捻ってフルスイングしてみる。

 もちろん王城の一部をぶっ壊すわけにはいかないから魔力剣は発動しない。

 ローブがよく撓るので邪魔になりはしないかと心配だったが、全く剣を振るうのに支障は無かった。

 裾の形状の仕立て方がいいのだろう。

 翻る感触の柔らかさに比べ少々重かったので最初は違和感があったが、すぐに慣れた。

「素晴らしい。ラファイエット先生、本当にありがとうございます」

「それはよかったアルね。はい、これ予備ね。変更なしみたいだから、このまま渡すアルね」

 そう言ってラファイエットは俺に同じローブコートを渡してきた。

「え? これは……」

「グリフォンの素材のお礼も兼ねて、二着作ったアルね」

「助かります」

 確かに、破られることが無いとも限らない。

 ラファイエットも無神経な研究者に見えて意外と気が利くんだな。



 ベヒーモスのローブの出来は素晴らしい。

 生半可な攻撃では傷一つ付かない耐久力を持ち、柔らかくよく撓るので動きを阻害しない。

 裾を翻せば矢の雨や生半可な魔術程度なら叩き落せる。

 弾幕に対して魔法障壁を張る必要すらなくなるのだ。

 一刻も早く敵に接近したいときや、こちらも魔術の準備をしたい時などに、魔法障壁に労力が割かなくて済むのは喜ばしいことだ。

 まあ、ロイヤル・ワイバーンの火炎ブレスのような強力な範囲攻撃は魔法障壁で防ぐ必要はあるだろうが。

 何はともあれ、このローブを着ておけば防具に関しての問題はほぼ無くなるわけだ。

 ちなみに他の面々もベヒーモスのローブを着てみたのだが、誰もしっくり来ないらしくラファイエットに注文する者は居なかった。

 ヘッケラーや女性陣には重すぎるし、マイスナーやフィリップの膂力でも機動力が落ちるらしい。

 俺と同じくらい重さが気にならないのはバイルシュミットだが、彼はヒラヒラとはためく裾に違和感があるとか。

 この様子ではベヒーモスのローブは完全に俺専用だな。

「さて、クラウス君に品が渡ったところで、残りの素材をどうするのかお聞きしても?」

 ヘッケラーに言われるまでもなく、俺も残りの素材をどうするか早く決めたいところだ。

「俺がある程度は決めていいんですかね?」

「もちろんですよ。君の獲物ですから。国からも優先的に買い取りたい素材の話は来ていますが、君の意志が優先です」

 なるほど、魔物の素材は倒した者に権利があるという常識を侵害する素振りを見せてはいけないわけか。

 たとえ純粋な冒険者としての仕事ではなくても、国が徴収したかのような取引は批判されるからな。

「あ、私の方には頭部の素材を回してほしいアルね」

 ラファイエットはこういうところはブレない。

 まずは魔石から決めるかな。



「ええと、魔石はベヒーモスのコアになる大魔石が一つに……ラファイエット先生、腹の小魔石の方はいくつ残っていますか?」

「残りは三百二十六個アルね」

「うひゃ。じゃあ全部で三百四十六個もあったんですか」

「その通りアルね」

 持久戦じゃなかったから、ベヒーモスが抵抗して消費し溶かしてしまう魔石が少なかったのだろう。

 俺はヘッケラーに向き直って質問した。

「王国からの買い取り希望はいくつくらいですか?」

「可能ならば百個確保してほしいと言われています」

 百個か。

 残りは二百二十六。

 十分余るな。

「では、そちらは希望の数を売るとして。残りですが……師匠、ぶっちゃけどの程度分け前を渡せばよろしいですか?」

「え? 私も頂いていいのですか? 王国への売却分の多くは宮廷魔術師団にも回されるので、これ以上取るのは少々申し訳ないかと……」

「いやいや、師匠もベヒーモス討伐には一緒に行ったじゃないですか。寄ってきた魔物を殲滅してくれたんですから、個人として素材を取る権利はありますよ」

 結局、すったもんだの挙句、ヘッケラーは俺と同じく五十個を個人で受け取ることになった。

 正直、俺に五十個というのも多い気がする。

 俺自身はそれほど錬金術に詳しくないからな。

 俺より多く受け取るのは良くないというのは無意味な気がするが、まあヘッケラーに無理に押し付けることはあるまい。

 残りは百二十六個。

「レイアとメアリーも要るか?」

「いいの?」

「いいんですの?」

「ああ、フィリップに渡しても投擲武器にしかならないだろうし、ファビオラは真っ直ぐに質屋に持っていく未来が見える」

「ぬぐっ……さすがの私でも魔石を投げたりはせん!」

「ギクッ! そ、そんなことしないのです」

 フィリップはともかくファビオラは図星だな。

「レイアは錬金術をやるだろうし、メアリーはアンが使えるだろう。まあ、十個ずつくらいが妥当かな」

「ありがとう、大事に使うわ」

「ありがとうですわ」



「一応、デ・ラ・セルナ校長にもお土産として十個くらい持っていくか。聖騎士の先輩だし」

 ついに残り百個を切った。

 残りは九十六個。

「あとは……ラファイエット先生かな」

「んん……さすがにその数はお金を払わないといけないアルね」

 いや、ラファイエットに金を出させるのは、いささか問題だな。

 ならば彼にはおすそ分け程度で渡しても問題ない数にして、国にもう少し買ってもらうか?

 しかし国も魔石ばかり買うわけにはいくまい。

 なら冒険者ギルドにでも持ち込むか?

 それでも加工するとなれば結局ラファイエットのもとに持ち込まれるだろう。

 なら、彼の儲けを増やしてやった方がいい。

「では残りの九十六個はラファイエット先生に預ける……ということで。先生の私用で使う分には、いくらでも自由にしていただいて構いません。魔法学校や誰かの依頼で使う場合には、利益はラファイエット先生の研究費ということで。その代わりと言ってはなんですが、実用的な兵器や魔道具が出来たら俺の方には優先的にお願いしますよ。魔法学校に関わる用途ならシルヴェストル先生も管理を手伝ってくれるでしょう?」

「任せるアルね!」

「ええ、わかりました。調整はお任せください」

 さすがは教頭先生。

 働き者である。

 これで面倒な依頼が来たときに俺がいちいち魔石を売りに行く必要がなくなった。

 立っている者は教頭でも使え、ってね。

 そして俺はラファイエットに素材を提供することで強力な武器が手に入る。



「で、大魔石は……需要が無さそうっすね」

「無いですね」

 俺はヘッケラーが即答したのを聞いて大魔石を売るのは諦めた。

 まあ、ウルズの水差しのときみたいに、俺にとって有用なアーティファクト級の魔道具でベヒーモスの大魔石が必要な物が見つかることを期待しよう。

 続いて一部が俺のローブになった皮だが、何せベヒーモスの巨体だ。

 まだ十分に残っている。

「皮は皆さん用が無いみたいですが、王国からの買い取り希望なんかはありますか?」

「ありますよ。重戦士の外套としては有用ですから」

 なるほど。

 確かに、このメンバーで適合する人間が居なかっただけで、使える人間も探せばそこそこの数見つかるだろう。

「とりあえず、俺は余裕をもって二十……いや、三十着分くらい取っておくとして、残りは王国政府のお買い上げとラファイエット先生にお任せしますか」

「イェーガー君が必要な分を自分で保管しておくのなら、私は研究用の資料だけだから少しでいいアルね。政府がたっぷり買うといいアルよ」

「わかりました。おかげ様で宮廷魔術師の部下たちにも潤沢な資材を出せそうです」


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