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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編2年
70/232

70話 一網打尽

「ひぃ! こ、降参する」

 フィリップは二戦目も一撃で決めた。

 冒険者崩れにしか見えない貧相な槍使いの男だったが、フィリップはレイピアで器用に穂先を絡め取り叩き落とした。

 その後は槍を拾う間も与えず接近し喉元に剣先を突きつけた。

 確かに華麗な勝ち方だ。

 俺ならあんな遅い槍の刺突なら蹴り上げて顔にぶち当てるか、避けてすれ違いざま殴って終わりだが、想像してみても全く美しくはないな。

「さっき、フィリップさんが手を振ってくれたのです。ほわぁ……」

 ファビオラさんよ、それは対戦相手が例の魔法の袋を持っていないか確かめただけだ。

 しかし、ファビオラが否定した後に見せた笑顔と軽く手を振る仕草は無駄にイケメンだった。畜生め……。

「それにしても厄介ね。アーネストとマリウスはほとんど一緒に居るし、二人に接近する人間の反応も数えきれないわ」

 嫌気がさした俺に代わってレイアが“探査”で二人を監視してくれているが、状況は芳しくない。

 マリウスはアーネストの腰巾着だし、二人に媚びを売るために近づく者も多いのだろう。

 二回戦の対戦相手はアーネストの手下ではなかった。

 次の三回戦の相手がアーネストなので、そこで仕掛けてくる可能性が高いが、他に伏兵が居ないとも限らないので警戒は怠れない。

 面倒なことだ。

 そして、特に新しい発見は無いまま時間だけが過ぎてゆく……。



「次ですね」

 ヘッケラーの言う通り特に大きな動きは見られず、ついにフィリップとアーネストの試合の時間が来てしまった。

「お師匠様、仕掛けてくると思いますか」

「ええ、間違いなく。まあ、これは私の戦士としての勘ですけどね。レイアさんはマリウス君の監視を」

「はい」

 ヘッケラーの勘となれば無視はできまい。

 策略も戦場の経験も豊富な聖騎士の先輩だ。

 舞台の準備が整いフィリップが姿を現した。

 反対側からは無駄に高そうな防具に身を包んだアーネストが入場する。

 ミスリルの胸当てか。

 軽くて丈夫だから防具に向いていないわけではないが、本来なら剣にして魔力剣を使ってこそ活きる素材だ。

 少なくとも、あのような装飾まで総ミスリルで作るのは無駄遣い以外の何物でもない。

 フィリップの実用的なガルヴォルンの防具と小盾に比べると惨めになる。

 そしてファビオラが緊張した面持ちでフィリップにサインを送った。

 どうやらアーネストが腰に着けている物が例の魔法の袋らしい。

「ふん、逃げずによく来たねぇ」

「何やら秘策があるようだが、貴公が戦うのであれば勝ち目はないぞ」

 フィリップはファビオラの目配せを受けアーネストが例の魔法の袋を持っていることを知っても、自信に満ちた表情を変えなかった。

 それは決して無警戒から来るものではない。

 鍛錬によって形成された自分の技と、死線を潜り抜けた経験に裏打ちされたものだ。

「きぃ! その澄ました面が気に食わないんだねぇ! 跪いて許しを請うのなら勘弁してやろうと思ったけどねぇ、吠え面をかかしてやる!」

 アーネストが魔法の袋に手をやるのと同時に、俺も魔力を練り上げいつでも“落雷(サンダーボルト)”で援護できるように準備した。



「な、何だあれは!?」

「おい、ヤバいんじゃないのか、あれ」

「は、反則だろ!」

 アーネストが魔法の袋から取り出したのは、高さ十メートルはありそうなゴーレムだった。

 質感はアイアンゴーレムに似ているが、前にダンジョンで倒した奴より強そうだ。

 大きさもそう感じる要因ではあるが、ボディ全体からただの鉄ではないような魔力を感じる。

「アイアンゴーレムに似ているけど、ミスリルが混じっている……? でも、あんな大きさのゴーレムなんて初めて見た。お師匠様、何かわかります?」

 レイアはヘッケラーに視線をやった。

「私も見たことはありませんね。いや、自然の魔物では見たことがありません」

 メアリーはヘッケラーの言わんとしていることをすぐに理解した。

「つまり……あれは人為的に作られた物ということですの?」

「恐らくは。さて、一体誰が作ったのでしょうね。あれだけ巨大なゴーレムを作るのは簡単ではないはず。ラファイエット教授クラスとまではいかなくても、優秀な錬金術師が必要なはずです」

 確かに、資材も技術者も金も必要だな。

 しかし、ヘッケラーたちはゴーレム本体を気にしているが、俺は別の場所に注目していた。

 ゴーレムの武装だ。

 その大きな筒をいくつか束ねた形状の物から目が離せなかった。

「どう考えても、あの豚伯爵では無理なのです。……クラウスさん、どうかしたのです?」

 ファビオラに呼び止められて、ようやく我に返った。

「あ、ああ」

「クラウス君、何か気になることでも?」

「いや、実は……っ! いかん! フィリップ、逃げろ!」

 俺が試合場に視線を戻したときには、既にゴーレムの武器はフィリップに向けられていた。

 次の瞬間、轟音と共に試合場の地面の一部が吹き飛んだ。



 砂煙が晴れ、試合場の様子を確認できたときは安堵した。

「ふぅ……。クラウス、助かったぞ」

 フィリップは無傷だ。

 負傷している様子はない。

「まったく、貴公の銃を知らなければ危なかったな」

「フィリップ、そいつは単発だ。二発目は連続で撃てん」

「心得た。任せろ」

 フィリップが再びゴーレムと対峙したところでレイアに袖を引かれた。

「クラウス……あれは、銃なの?」

「ああ、ノックガンだ」

 最初期の機関銃といえばジェームス・パックルのリボルバーカノンだが、数本の銃身を束ね一度に発射する銃も歴史上には存在した。

 どちらかというと機関銃よりショットガンに近いか?

 元々は海軍が甲板上の敵を攻撃するために作られた、七本の銃身を束ねたフリントロック式の銃だったはずだ。

 当然、反動が凄まじく再装填に時間がかかることや、機関銃や小銃の装填機構の発達により姿を消した。

 しかし、今のノックガンには度肝を抜かれた。

 フィリップは俺の銃を知っており、先ほどのノックガンは俺の銃と違い純粋な火薬だけで動いているわけではなく、そこそこ大きな魔力反応がしたので無事に避けられたのだろう。

 それでも、あれが時間差で銃弾が次々と襲い掛かる機関銃だったら、フィリップはヤバかったかもしれない。

  ノックガンを作れるのであればボレーガン――ミトラィユーズとも呼ばれるフランスの多銃身機関銃――に行きついてもおかしくないからな。

 そう考えたら背中を冷たい汗が流れた。

「フハハハハ! どうだ、僕の力は! さあ、オルグレン伯爵、早く降参するといいんだねぇ」

 空気を読まないアーネストが調子づく。

 これには観客もブチ切れた。

「おい! そんな物を出して反則じゃないか!?」

「そうだ、武芸大会は一対一の試合だろう」

「あんな危険な物を召喚するなんて! 何考えてるのよ!?」

 しかし、アーネストは屁理屈を捏ねる。

「これは僕が所有する魔道具だ。大会の規定には、魔道具の使用は認めない、とは書いていないんだねぇ」

「なっ!?」

「そもそも、武器の制限だってない。強い剣は魔道具と変わらないんじゃないのかねぇ?」

 とんでも理論だな。

 大陸中の剣士がブチ切れそうだ。

 だが、運営がこいつの陣営だという時点で、認められる可能性が高い。

 どうする?

 いっそ、観客と国王を危険に晒したとしてアーネストの係累を全員始末してしまうか?

 そんなことを考えていると、ゴーレムがノックガンを振り回してフィリップに襲い掛かった。

 直接、殴りつけるつもりらしい。

 やはり連射は効かないか。

 そしてレイピアを構えたフィリップとゴーレムの影が交差した。



「そんな……バカな!? あり得ないんだねぇ! こ、これなら……オルグレン伯爵を痛めつけることができるって父上が……」

 フィリップとゴーレムの勝敗は一瞬で決まった。

 フィリップはすれ違いざまにゴーレムのノックガンの打撃を小盾で受け流し、レイピアで胸部の制御ユニットと思わしき辺りを一撃した。

 残ったのは胸部を砕かれたゴーレムの残骸だけだ。

 実に見事な一撃だった。

 俺なら強引に大剣を使った魔力剣の一撃で叩き切り、必要ならさらに“(フレイム)(ランス)”でも撃ち込んで止めを刺していただろう。

 当然、破片どころかゴーレム本体も吹き飛び周囲に甚大な被害を齎したに違いない。

「さて、アーネスト」

「ひぃ!」

「貴様は武芸大会の支援者の立場を取っておきながら、自ら伝統を汚すという暴挙に出た。この明らかに危険なゴーレムも私が仕留めたからよかったものの、一歩間違えれば国王陛下を危険に晒すところだったのだ。どう責任を取るつもりか聞かせてもらおう」

「ち、違う! 僕は父上に言われて……」

「そうか、ハイゼンベルグ伯爵の責任というわけだな。となると、ハイゼンベルグ伯爵に近しい運営に関わっている者は全員に責を問わねばなるまい。いや、もしや最初から陛下を害するつもりだったのでは?」

 この言葉で大会運営の者が多く固まっている席の辺りが蒼褪める。

 こちらの貴賓席の方を見るが、すぐに絶望の表情が広がった。

 横を見ればヘッケラーが冷たい笑みを浮かべており、リカルド王はつまらなそうな表情を装っているものの今にも吹き出しそうな顔だ。

 奴らも自分たちの運命を今更ながら理解したのだろう。

 そのとき、運営の一角で動きがあった。

 あれはシュッセンドー男爵だ。

 ヘッケラーに顔を教えてもらい、俺も一応マークはしていた。

「くっ、どけ!」

 どうやら金の入った袋を持って逃げ出そうとしているようだ。

 これは反逆者確定でいいだろう。

「“落雷(サンダーボルト)”」

 空から一条の雷が降り注ぎ、シュッセンドー男爵の頭上に真っ直ぐ突き立った。

 周囲に居た運営も数人が巻き込まれたが、問題ない。わざとだ。

 最大の情報源のハイゼンベルグ伯爵はまだ生かしてあるし、もしあの中にそいつだけしか持っていない情報があっても、最悪、闇魔術で死体から抜き出せるらしい。

 もちろん腕利きの宮廷魔術師の労力と時間はかかるが。

「うわぁあぁぁ!」

「ひぃぃ!」

「し、知らない。俺は何も知らないんだぁ!」

「イェーガー将軍、どうかお慈悲を。私はハイゼンベルグ伯爵に脅されて仕方なく」

「なっ!? ぼぼ、僕は無実なんだな。息子が勝手にやったんだな」

「そ、そんな! 父上!? 僕は父上に従って……」

 黒焦げになった死体を見て残りの運営の奴らは腰を抜かして座り込んだ。

 仲間が殺されて責任の擦り付け合いとは見下げ果てた奴らだ。

 しかもアーネストとクレメンスに至っては親子で、とは……。

 まあ、百歩譲ってアーネストは仕方ないにしても、12歳の息子のせいにするクレメンスは救い難い。

「いい加減にせんか!!」

 リカルド王の怒号が響いた。

 こちらには殺気や敵意が向いていない状態で、いきなり近くで叫ばれたので俺までびっくりした。

「ハイゼンベルグ伯爵! 親子で責任を押し付け合うとは……恥を知れ。取り巻きの貴様らも同罪だ。ヘッケラー!」

 リカルド王に指名されたヘッケラーが満を持して腰を上げた。

「さて、このままではイェーガー将軍が残らず消し炭にしてしまいますね。皆さんも、そんな悲惨な最期を迎えたくなければ大人しく従ってくださいね」

 ヘッケラーの不気味な笑顔が止めとなり、誰一人反抗することなく拘束された。

 一部のハイゼンベルグ伯爵家の私兵と思わしき者が逃げ出そうとしたが、周辺を固めていたシルヴェストルの部下に捕縛された。

 こうして、ハイゼンベルグ伯爵一門のオルグレン伯爵襲撃事件は一応の幕を閉じた。

 しかし本当に厄介なのはこれからだ。

 あのゴーレムの出どころを探らなければならない。

 ヘッケラーやリカルド王にとっては、そちらの方が国の一大事に直結しかねない話である。

 何せ、背景には『黒閻』の影があるのだから……。



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