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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編2年
69/232

69話 尋問からの最終局面へ

「イェーガー将軍!! 何事ですかな!? 若い剣士がボロボロの男を鎖に繋いで引きずっていると通報が……」

 闘技場に戻って来た俺を待っていたのは、去年も世話になった警備隊隊長のバイルシュミット少佐だった。

 相変わらず声がデカい、筋肉モリモリの爺さんだ。

「バイルシュミット隊長、ちょうどよかった。こいつの拷も……尋問をするので別室の用意を。あと、誰かに筆頭宮廷魔術師のヘッケラー侯爵を呼びに行かせてください。貴賓席に居ます」

「了解した。念のため尋問には警備隊の人間も付かせよう」

 すぐに判断できるところは、さすがに警備隊の指揮官だ。

 彼にもマイスナーを借りる件で事情は話しているが、俺がいきなり鎖で拘束した男を引き摺ってくるのは想定外だろう。

 これが頭の固い役人や俺を良く思っていない人間だったら、面倒なことになるところだった。

 そういう連中に限って取り繕うのは上手い。

 捜査妨害にも等しいことをしておいて、処罰を逃れるのだ。

 アーネストがいい例だ。

 去年は俺どころかデ・ラ・セルナの邪魔をするに等しい所業に及んでおきながら、お咎め無しで堂々と日向を歩いている。

 面白半分に功績のある聖騎士のオペレーションを妨害しておいてだ。

 執行機関への協力を拒むにしても、自分の利益を守るためなら仕方のないこともある。

 銀行や企業が捜査のため云々言われても警察に顧客情報を渡さないのは当然だ。

 簡単に情報を漏らすようでは信用を失って、顧客をライバルに取られるのだから。

 しかし貴族やちんけな権力に思い上がる輩は、プライドのために人の利益を壊すことを厭わない。

 実際、アーネストはレイアへの嫌がらせのためだけに行動し、デ・ラ・セルナが秘匿していた『黒閻』の首領イシュマエルの魂魄を盗まれるに至ったのだ。

 自分の利益のために人の利益を数倍壊す奴より質が悪いな。

「ぐっ……ここは……?」

 俺が拘束していた男が目を覚ましたようだ。

 もがき始めたので首に回した鎖を軽く締めてやった。

「グヴェ! ……ガハッ、ハァ、ハァ」

 必死に空気を貪っているところに、音も無く抜いた俺のオリハルコンのサーベルをチラつかせてやった。

「っ!」

「お前を尋問するのは俺じゃない。筆頭宮廷魔術師殿だ。言っておくが、あの人は俺より腹黒くて陰険だぞ。俺なら指先からメイスで潰していくだけだが、彼ならどうするかな……」

 周りの人間が蒼褪めているが気にしないことにしよう。

 俺だって拷問は趣味じゃない。

 情報を確実に迅速に得るために必要なことだ。

 男の顔を絶望が覆った。



 警備隊の兵士と一緒にプレハブのような部屋を一つ占領し男を椅子に縛り付け、しばらく待ったところでヘッケラーとファビオラが現れた。

「間違いないのです。その男なのです」

 どうやら面通しに来てくれたようだ。

「クラウス君、フィリップ君もマイスナー大尉も初戦は勝ちましたよ。開始早々に相手の武器を弾き飛ばし、喉元に剣を突きつける綺麗な勝利でした」

「負けた奴がイカサマだと騒いでいた時間の方が長かったのです」

 負けてごねるとか……。

 二人とも面倒な奴が相手でご愁傷様だな。

 俺ならまず間違いなく、殴ってノックアウトで試合終了後に口が開けないようにする方法を取るところだ。

「綺麗な勝ち方が賞賛されるのですよ。実戦を知らない者の戯言ですがね。さて、そんなことより尋問を始めましょうか」

 ヘッケラーがにっこりと笑って、男に視線を向けた。



「なるほど、魔法の袋の中身は知らないと。困りましたね」

「し、知らねぇ。俺は受取人の場所と服に付いている家紋を知らされて、そいつに届けろと言われただけだ! 中身は絶対に見るなって……」

「指示したのは誰です?」

「昔の仲間だ。俺が居た盗賊団は散り散りになってしまって、かつての兄貴分に運び屋を頼まれたんだ」

 なるほど、その兄貴分とやらも誰かから指示されて……と。

 まともに追っていたら時間がかかるな。

 しかし、もう一つ妙なことがある。

 何故こんなチンピラに汎用の魔法の袋みたいな高価な品を預けたのか?

「中身は知らなったようだが、魔法の袋だけでも高価な品だ。マリウスから受け取った金よりも遥かにな。持ち逃げしようとは思わなかったのか?」

「そんなことをしたら殺される! 兄貴分たちは、あんたらにとっては雑魚の一人かもしれないが、俺からすれば恐ろしい手練れなんだ。受け取った運び賃も俺にとっては大金だ」

 辻褄は合っているな。

 だが、俺にとって最大の疑問がまだ解決していない。

「師匠、こいつは“マナドレインミスト”に似た術を放つ魔道具を持っていました」

「ほほう、“マナドレインミスト”ですか。上級の闇魔術ですね。君とフィリップ君たちもボルグに使われて大変な目に遭ったそうですね」

「ええ、あのときはマナディスターブ薬の毒矢も喰らってましたから。それはそうと、こいつが使った“マナドレインミスト”は筒状の魔道具のような物に封入されていました。破裂して木端微塵になったので使い捨てのようですが、そんじょそこらに売っている物ではないはずです。恐らく、“マナドレインミスト”を使用できる者が作って、この男に持たせたのでしょう」

 俺が睨むと、男は体全体でビクつきながら喋った。

「し、知らねぇ。他の武器と一緒だ。奪ったり、知り合いの伝手で買ったり……」

 俺は間髪入れず男の足を踏みつぶした。

 骨を粉砕する嫌な音が伝わる。

「ぎゃぁぁあぁぁ!」

「状況を理解していないようだな。お前にできることは俺たちに協力して生き永らえるか、仲間のことをベラベラ喋ったという情報と共に放り出されて餌になるかだ」

 薄汚い策だが、この男が対象なら罪悪感も薄れるというものだ。

 こいつは盗賊の中でも底辺ということは一般市民の中でも弱者を狙って略奪をするようなクズである。

 俺には人を裁いて悦に浸る趣味は無いが、この程度の決めつけなら可愛いものだろう。

 もしかしたら、日本の警察より優しいかもしれない。

 彼らは全世界の人間がメリットを求めず命すらも差し出して自分たちに協力すべきなどという自己中の権化のような考え方をするからな。

 司法取引がハナから頭に無い時点で、そう言っているのと同じだ。

「さて、ある程度痛めつけてから放逐した方が粛清に来た元仲間も狙いやすいだろう。次は反対の足を……」

「わかった! 言う、言うから……」



「あの魔道具は届け物と一緒に渡された。もしヤバい奴が出たら使えって」

 この男にブツが届くころには既に何人も経由している。

 出所を探るのはこれも後回しか……。

 しかし、一つ分かったことがある。

「背後には、『黒閻』か、それに匹敵する組織がある」

 魔法の袋という高価な物と危険な兵器を、言ってはなんだが下層階級の連中を何人も経由させるのは正気の沙汰とは思えない。

 普通なら確実に途中で着服されるはずだ。

 スラムの住民たちは相互扶助の精神と恩義を重んじる。

 そうしないと生きていけないからだ。

 しかし、それが適用されるのは内輪での話である。

 外の人間には適用されない。

 ならば今回の荷物は何故届いたのか?

 従わせることができるほどの恐怖があるからだ。

 この男を従わせるには元兄貴分で十分だろうが、他の連中にはその程度の力では足りない。

 逆らえば命は無いと認識させるだけの組織を顎で使える連中といえば限られてくる。

「なるほど、ならハイゼンベルグ伯爵の係累はまたしても『黒閻』に利用された可能性があるわけですね」

 ヘッケラーがほくそ笑みながら呟いた。

 いい案が浮かんだのだろう。

「よし、では例の魔法の袋の中身は使っていただきましょう。ファビオラさん、魔法の袋の見た目は覚えていますね」

「はい、もちろんなのです」

 なら、持ち出してきた時点で気付けるな。

「恐らく、ハイゼンベルグ伯爵の手の者かアーネスト君が、フィリップ君に対して使うでしょう。またフィリップ君を危険に晒してしまいますが、もし彼が対応しきれないようなら我々が飛び出せばいいことです」





 クラウスとヘッケラーが捕虜の尋問をしている頃、控室では……。

「よう、オルグレン伯爵。圧勝だったな」

 第一試合を終え引き上げてきたフィリップにマイスナーが声を掛けた。

 しかし、フィリップの表情は暗い。

「……こういう言い方は好かんが、相手が弱すぎたのでな。そちらも似たようなものだったのであろう?」

「まあ、確かにな。何の自慢にもならないどころか、残酷なことをしている気分にならぁ。イェーガー将軍に言わせれば、ただの油断なんだろうけどな」

 決して相手を侮らず驕らない姿勢という意味ではクラウスと同じだが、フィリップたちのような剣一筋の人間の感覚は少し違う。

 騎士の気質を持つ純粋な剣士にとって模擬戦にはやはり美学がある。

 対戦相手への敬意を持つことが常に自然で当然のことなのだ。

 それに対して、クラウスなら「如何なる手段を用いても倒す」、「相手がどれほど弱くても確実に迅速に始末できる方法を取る」といったところだ。

 幼少期の戦い方がどちらかといえば魔術師に近かったクラウスは、例え相手が人であっても奇襲や罠に忌避感は無い。

 フィリップたちが試合の後に苦々しい気分になるのは、こういった部分の違いだろう。

 そんな沈んだ雰囲気のフィリップたちに声を掛ける者が居た。

「余裕だねぇ。まあ、君たちが調子に乗っていられるのも今の内だけどねぇ」

「アーネスト。貴公、何か用か?」

「いやいや。ただ、緊張感の無い雰囲気だったから心配してあげただけだねぇ」

 フィリップもマイスナーも、その言葉そっくりそのまま返したい、と言った表情だ。

 事実、アーネストは佇まいも身のこなしも素人そのものだ。

 一体どこにフィリップたちに勝てる要素があるのか?

 だが、フィリップはハイゼンベルグ伯爵の陣営に秘策があることを思い出し、侮りの気持ちを完全に霧散させた。

「まったくねぇ、父上もいくら爵位が同じだからって格下相手に過剰なんだよねぇ」

 ギルドの実績と環境から見ても明らかにハイゼンベルグ伯爵家の方が運営の才は無い。

 王国への貢献度もまた然りだ。

 オルグレン伯爵家に勝るところといえば、貴族家を立ち上げたのが数十年早かったということだけ。

 当主はケチな色ボケの脳たりん、功績はお察し。

 僅かに歴史が長いだけで格上ぶることができるのだから、おめでたい思考回路を持っている。

「まあ、次の次の試合で僕が直々に身の程を教えてあげるよ」

「ほう、身の程! それは楽しみだな、ハイゼンベルグ『伯爵公子』殿。是非、このオルグレン『伯爵』にお教え願いたい」

「ちっ……」

 アーネストはまだ爵位を継承していないので、どう考えてもフィリップより立場は下だ。

 フィリップにしては嫌味な言い方だが、彼のストレスの溜まり具合を鑑みるに、これでも自制は効いている方だろう。

「首を洗って待っているんだねぇ」

 捨て台詞を残して去っていくアーネストを冷たい目で見送り、フィリップはマイスナーに向き直った。

「アーネスト……そういえば奴も出場していたな」

「ああ、完全に勝ちを譲ってもらった試合だったな。相手の力量もあのボンクラよりはマシだろうがお粗末なもんだったぜ」

「……一旦、クラウスたちのところへ戻ろう。何か掴んでいるかもしれん」





 俺とヘッケラーとファビオラが、捕虜の男を軽く治療し警備隊員に引き渡して貴賓席に戻って来ると、フィリップたちも居た。

「クラウス、話は聞いたぞ。マリウスに怪しい物を渡した男を尋問したそうだな」

「ああ、今終わったところだ」

 捕虜から得た情報をヘッケラーが説明し、ブツを実際に使わせることで敵の尻尾を掴む作戦を提案した。

 “マナドレインミスト”を封入した魔道具に関してはニールセンをも驚愕させたが、作戦は概ね受け入れられた。

 メアリーは反対するかと思ったけどな。

 フィリップの話で、アーネストというマリウスとの繋がりの深い第一容疑者が浮上したことで、メアリーも手を拱いているつもりはなくなったのかもしれない。

「心配要らん。余程の危険な代物であれば、ここから監視しているクラウスとヘッケラー侯爵が援護してくれるのであろう」

 信頼されているのはわかるが、少々気が重いな。

 フィリップが一番危険なのは変わらない。

 一瞬、ダブルバレルショットガンとパイプ爆弾くらい持たせた方がいいかと思った。

 しかし、すぐに思い止まった。

 銃器の類は素人に使わせることが一番危ない。

 生兵法は大怪我のもととは言い得て妙だが、まともに扱い方がわかっていない人間に銃を持たせると、使えないどころか周囲の人間を殺しかねない。

 日本でも警察官が銃を暴発させてニュースになったことがあるが、あれこそまさに素人レベルの人間に持たせて事故った典型的なパターンだ。

 採用している銃が38口径スナップノーズや32口径などの本来はコンシールドキャリーのための銃とはいえ、幕末の銃やサタデーナイトスペシャルではないのだ。

 銃の機構だけが原因で暴発するなどあり得ない。

 残念ながらフィリップには普段通りの武装で行ってもらうしかないな。

「フィリップ、次の試合はまだアーネストが相手ではないが、とりあえずファビオラを確認しろ。彼女は例の魔法の袋の見た目を覚えている。アーネスト自身が仕掛けてくるとは限らにないからな」

「うむ、わかったぞ。身振り手振りでもファビオラの言わんとすることはわかるから心配するな」

「はぅ……そんなこと言われると……」

 このクソリア充め……。



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