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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編2年
63/232

63話 続・新兵器

 親父さんにまずダブルバレルショットガンを頼んだのは構造がわかりやすいからだ。

 ショットガンの銃身にはライフリングが無く、薬莢も紙で作れる。

 紙製は濡れやすいので現代ではプラスチック製が主だが、俺は魔法の袋や“倉庫(ストレージ)”に仕舞っておけるし、今回は試作品として作ったので問題ない。

 俺も最初は複雑な装填機構の無い中折れ式のデリンジャーを作った。

 銃の知識がある俺だからこそ何とか成功したが、親父さんには基本から知ってもらった方がいい。

 とはいえ、黒色火薬とマッチロックやフリントロックから始めていたのでは時間が足りないので、そこらへんは説明だけに留めた。

 もちろん黒色火薬の製法は除いてだ。

 クロームモリブデン鋼への理解も深めてもらわねばならない。

 親父さんなら他の金属との組み合わせでさらに銃に向いた金属を出してくれるのではないかとの期待もあった。

 何せミスリルやオリハルコンが実在する世界である。

 その期待にも見事に答えてくれた。

「兄ちゃんが言ったクロームモリブデンコウってのは、うちでも作れるようになった。しかし刃物の素材としてだけでなく、耐久力もオリハルコンの方が上だな。鋼鉄と同じで魔力への呼応が全く無ぇ。打ち合ったら簡単に切られちまう」

「やはり……そのままでは魔法金属には勝てませんか。しかし、親父さん。耐久力の向上には成功したんでしょ? このショットガンの金属も、ただのクロームモリブデン鋼とは違うようだ」

 試射する前の“分析”でもクロームモリブデン鋼とは違う組成なのは気づいたが、撃った後にかけた“分析”で確信した。

 俺のオリジナルの38口径リボルバーより銃身の摩耗が遥かに少ない。

「ああ、クロームモリブデンコウの部分の配合はほとんど変えずにヒヒイロカネを足したんだ」

「ヒヒイロカネ? どういう物です? 魔法金属であることしか知らなくて」

 前世のフィクションの中でもミスリルやオリハルコンと比べると剣の素材としての登場頻度は低かった気がする。

「兄ちゃんの大剣を打った魔導炉にも使われてる、金属自体の温度変化による変形や摩耗が少ない金属だ。刃物にしてもオリハルコンみたいな切れ味は無ぇし、防具にしてもガルヴォルンのような衝撃を吸収する性質も無い。硬度もアダマンタイトには劣る。専ら鍛冶の器具に使われる素材だな」

 なるほど。

 確かに、人間が振るったり装備したりするための性能なら他の魔法金属の方が上だな。

 だが、機械部品の材料としては素晴らしい耐久力を持つことだろう。

 銃にはぴったりだ。

「ちなみに単体では加工しにくい。精度の高い部品にするのは難しいんだが、どうやらクロームモリブデンコウとは合金にするのに相性がいいらしい。いや、驚いたぜ。兄ちゃんはこのことを……知っていたわけじゃなさそうだな」

「ええ、そもそもヒヒイロカネのことを、それほど知りませんでしたから」

 よくよく考えれば、これは鍛冶道具どころか産業革命の第一歩ではないか?

 魔法や魔術が発展している世界では機械技術や兵器が開発されにくいかもしれないが、この世界ならではの素材を使った機械製品向けの素材を作り出したことは大きい。

「これは……秘匿できないやつですか?」

 俺は少々蒼い顔で親父さんに尋ねた。

「いや、そうでもねぇさ。鍛冶屋の技術なんてな、一子相伝や一門不出なんざごろごろしてる。教わろうって気が無い奴も多いんだ。変な貴族が目でも付けなけりゃ、そうそう広まるってことは無ぇさ」

「そうですか……」

 親父さんを信用していないわけではないが、一応気を配っておこう。



「さ、次だ。見てくれ」

 続いて俺が手に取ったのは、先ほどと同じような曲銃床を持つ銃だ。

 後装式の次に発展する装填方式といえば、当然ボルトアクションだ。

 レバーアクションは構造が複雑すぎて廃れたのだったな。

 弾薬は7.62×51mmNATO弾とほぼ同サイズ。

 ありふれたハンティングライフルやスナイパーライフルの規格だが、あえて似ている銃の例を挙げるとすればウィンチェスターM70か。

 レミントンM700とも言えなくもないが、渋い木製ストックはM70に近い感じがする。

「なかなか細けぇ仕掛けだったけどよ、理解さえすりゃ簡単だ。それよりも苦労したのはライフリングってやつだな。こいつばっかりは試行錯誤を繰り返すしかねぇ」

 ボルトアクションの発明が遥か昔なのは地球においての話で、初めて見て簡単などと言ってしまえる親父さんのセンスには恐ろしいものがある。

 しかし、ライフリングが難しいのは同感だ。

 俺が拳銃を自作したときも苦労した。

 スーパースローで観測したりできない以上、銃弾の回転に与える影響を確かめる術は試射しかない。

 さて、射程と精度はどんなものか……。

 …………結論から言って、ライフリングの性能の良し悪しはわからなかった。

 何せ試射する場所は武器屋の裏庭だ。

 拳銃の最大有効射程――約五十メートル――での試射すらできない場所で、八百メートルまでの射撃を想定した7.62mm弾とライフルの精度などわかるわけがない。

「まあ、数十メートルで使い物にならない、なんてことは無いですね」

「そういえば、兄ちゃんは五、六百メートルから最大で八百メートルまでって言ってたな。俺じゃあ物が良くても扱う腕が無い以上、検証しようがないんで忘れてたぜ」

「……後日、報告しますよ。まあ、恐らく不具合は無いでしょうけど」

「そうしてくれ」

 こいつが完璧な性能ならば魔術師の暗殺にはもってこいだな。



 次に手に取ったのは、現代でも馴染みのある名銃だ。

 武骨なプレス加工を思わせる輪郭に大型のバナナ型マガジンを持つ、コピー品なども含めれば世界で最も多く生産されているアサルトライフルAK-47だ。

 いや、余剰ガスを上に逃がすため先端を竹槍型に斜めにカットしたバレルと、反動を直線的にするため銃身の延長線上に真っ直ぐ伸ばした形のストックからすると近いのはAKMだ。

 弾薬は7.62×39mm弾。

 NATO標準の5.56×45mm弾より反動が大きく精度や有効射程は低いが、近中距離でのパワーは二倍近い。

 威力の基準が前世と全く同じというわけではないだろうが、少なくともこの世界でほかの弾丸も作った場合、威力の比率は前世と同じような関係になるはずだ。

 前世の基準ならAK-74などで使用される5.45×39弾の方が反動も少なく命中精度も高い。

 それに軽量だ。

 しかし強化魔法を使えばAKMの反動など俺にとってはどうということはないし、魔法の袋があれば携行弾数も気にしなくて済む。

 ならば僅かでも火力の向上を図った方がいいだろう。

 俺が銃を持つのは魔力反応を伴わない致命的な攻撃による不意打ちを仕掛けるためとはいえ、コンシールドキャリーや取り回しに関しては拳銃があればいい。

 本来なら火力を出したいときは、おとなしく魔術を使う。

 俺がAKMを出すのは余程の限られた状況以外あり得ないだろう。

「魔力反応の無い矢……弾丸を数秒間で三十発も発射する兵器か。兄ちゃんも、えげつねぇモンを考えるねぇ」

「まあ、まともな訓練を積んでいない魔術師なら一瞬でミンチでしょうね」

 まずはセミオートで試射をする。

 渇いた発砲音と心地よい反動が肩に響いた。

 さほど広くない裏庭なので数十メートルというライフルにとっては至近距離ともいえるレンジでの射撃だが、銃の作動の具合を見るには十分だ。

 俺の放った弾丸は狙い違わず的に弾痕を穿ち、銃の部品にも不具合が起きた形跡は無い。

 続けてフルオートで撃ってみる。

 反動は強化魔法を意図して完全に切った状態だとかなりブレる強さだが、まだ自然に体を循環する魔力による身体強化でどうにかなる範囲だ。

 そのままマガジンの三十発を撃ち切った。

「ふむ、全弾撃っても故障や目に見える摩耗は無いですね。親父さん、素晴らしい仕事です」

「ああ、ありがとよ」

 この銃も近いうちに三百メートル程度の射撃をしてみよう。



「さ、こいつが本命だったな」

 続いて親父さんから受け取ったのは、この銃製作の最大の目的にして俺が最も渇望する武器。

 オートマチック拳銃だ。

「……うん、注文通りだ」

 俺の手の中で黒光りするのはスイスが生んだ傑作銃だ。

 現在、生産しているのはドイツらしいが、何はともあれ西側の拳銃では最高峰の一つだ。

 その名もSIG SAUER P226。

 9mmの十五連発という現代オートの一般的な規格だが、その性能はピカ一である。

 角ばった輪郭と構造はまさに質実剛健、スイスの名銃らしい逸品だ。

 米軍の制式拳銃トライアルでは価格が高めでマニュアルセーフティが無いことからベレッタM92に敗北したが、P226が全てにおいて劣るかと言われれば、そんなことはない。

 マニュアルセーフティが無いことが一番心配なのは新兵だ。

 熟練者にとっては、1911シリーズを愛用するコックアンドロック――ハンマーを起こした状態でセーフティを掛けること――での携帯に拘る人以外、さほど問題にならない。

 マニュアルセーフティが無いからといってP226の安全性に大きな問題があるわけではないのだ。

 むしろ精密なメカニズムによって安全性は高い方に分類される。

 そして、堅牢性に関しては泥水に長時間浸けても作動するほどの強固さだ。

 信頼性は非常に高い。

 価格の問題で軍も警察も全員に配備することは少なかったらしいが、個人的にP226を購入する軍人や警官も多い。

 それに、現在のP226のスタンダードモデルは元々E2と呼ばれていたモデルだ。

 E2はエンハンスド・エルゴノミクスの略である。

 人間工学に基づいた設計で、トリガーのストロークの短縮やグリップ後部の縮小などが施されており、握りやすく使いやすいデザインになっている。

 現在はE2の呼称が取れて、この改良を施したモデルが現行のスタンダードだ。

 実際に持って比べたことがあるのなら間違いなくP226の方が持ちやすい。

 上部でバレルが露出しておりサイトの延長線を意識しやすいベレッタに慣れている人間が急に持ち替えると、全長が短く分厚いスライドにびっちりと覆われたP226はインスティンクトで狙いがつけずらいように感じることがある。

 しかし慣れればむしろP226の方が精度が高いことがわかるはずだ。

「なあ、兄ちゃん。この小型の銃の設計図を見て確信したんだけどよ……。一から考え出した物じゃねぇだろ?」

「…………」

「いや、文句があるとかじゃねぇ。俺も技術者の端くれだ。学問や技術ってのが飛ばし飛ばしの断片から間の理屈を理解していくもの、時には基本が最大の謎なんてこともわかってる。だがよ、この銃の仕組みは、とんでもなく洗練されてやがる。いくら何でも前に見せてもらったリボルバーってのから、すぐにこうはならねぇはずだ」

「……確かに、その通りです」

 オートマチック拳銃はボーチャードピストルから始まりモーゼルc96などからコルトM1911の時代を経て発展してきた。

 ボーチャードピストルを元にルガーP08、ワルサーP38などの歴史に名を残す名銃も生まれた。

 同じ9mmパラベラム弾を使用する銃なら、第二次大戦期のルガーやワルサーの次はブローニングハイパワーなどが挙げられる。

 ストライカー方式の銃ほど新しいメカニズムではないにしろ、P226は少なくとも数十年の技術の研鑽によって生まれてきたのは確かだ。

「そいつを、兄ちゃんは知ってるんだな?」

 俺は黙って頷いた。

「そっか、ならいい」

「え?」

 一瞬、俺は驚愕に目を見開いた。

「兄ちゃんが俺たちじゃ足元にも及ばない知識を持ってるのはわかってる。それが古の魔王の遺物だろうが構いやしねぇ。いずれは人間が解き明かすもんだ。数百年、数千年かかるかもしれねえけどな。今はそこら辺のこと教えるべきじゃねえって思ってんだろ?」

「……正直迷っています。無闇に広める気はありませんが、親父さんのような優秀な技術者に、わかっていて遠回りさせるようなことをするのは……」

「そいつは気にしなくていい。俺は根っからの研究者じゃねえ。職人として業を鍛えたいって思いはあるが、こう見えて広い視野を持つように努めていてな。時代を無視してまで人殺しの道具をばら撒こうとは思わねえわけだ。兄ちゃんも必要な時が来たら教えてくれるんだろ?」

「ええ、それはもちろん」

「ならいいさ。俺が食い詰めてるのに面白半分で出し渋ってるとか、そんな状態じゃねぇんだ」

「……ありがとうございます」

 俺が出した設計図から色々と見抜ける親父さんの洞察力にも感服するが、この器のデカさには頭が上がらない。

 もし、俺が大量の銃の配備を必要とする時が来たら、絶対に親父さん以外には任せないことに決めた。


注意)銃器、特に拳銃のレビューに関しては筆者の主観的な意見も含みます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 先日より楽しく読ませていただいてます。 個人的な趣味好みで言えば、FNfive-sevenもしくはベレッタ45口径ロングバレルでのデュアル?アキンボ?にしてほしかった。 フルオート実装してい…
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