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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編2年
53/232

53話 ベヒーモス戦2

「グルァァァ!!」

 ベヒーモスの角に収束した魔力が放出され、眩い光が天を穿つ。

 次の瞬間、俺に数条の雷が降りかかるが魔法障壁を展開してやり過ごした。

 何のことは無い。

 混合魔術として魔術教本にも載っている、ただの“落雷(サンダーボルト)”だ。

「それなら俺にも使えるぜ」

 俺も“落雷(サンダーボルト)”を放つために空に向けて魔力を集中しようとするが、そうは問屋が卸さなかった。

「ガァァ!」

「チッ」

 先ほどの“落雷(サンダーボルト)”は牽制だと言わんばかりにベヒーモスが突進して爪を振るってきた。

 巨体からは想像もつかないスピードで迫る一撃から地面を蹴って身を躱し、こちらも大剣を振るう。

 回避行動をとりながらのカウンターだったので急所は捉えられなかったが、地面を蹴っての踏み込みは飛行魔法での空中戦とは鋭さが違う。

 濃密な魔力を通された大剣はベヒーモスの前足を深く切り裂いた。

「ギャオォォ!?」

「ふっ」

 鋭い撓りをもって叩きつけられた尻尾を、さらに地を蹴ってバックステップすることで躱した。

 余波でばら撒かれた雷の魔力を大剣で振り払うことで消し飛ばす。

「まだまだ足りんな」

 俺は先ほどベヒーモスの前足にカウンターを見舞ったときに破った雷属性を帯びた魔力の障壁の感触、それに空中に漂う余波の雷の魔力を振り払った感覚を思い出しながら呟いた。

「こちらも強化魔法と魔力剣で体にも武器にも魔力を通した状態でぶつかっているんだ。多少の感覚は掴めてきたが……まだ雷の魔力を素で感じられていない」

 俺は再度大剣を構えなおしベヒーモスと対峙した。

 俺が付けた前足の傷は塞がりかけている。

 治癒魔術ではなさそうだ。

 俺は注意深くベヒーモスの傷の周辺の魔力を観察した。

「なるほど、障壁や身体強化を支える魔力の再構築は後回しにして傷を治したか。しかも治癒魔術ではなく再生能力を刺激するような感じか……。この早さは魔物の旺盛な再生力あってのことだろうが、人間でも全く意味の無い技術ではないな」

 魔力を覚醒させることのメリットがまた一つ見つかった。

 雷属性に特異的なものかはわからないが、代謝を活性化させることができる可能性がある。

 トカゲのように再生はしないまでも、毒を即座に分解したり傷をすぐに再生したりできるのであれば嬉しい。

 さらに筋組織や神経に作用させて知覚や運動機能をブーストさせることも可能かもしれない。

 どちらも自分の体に電流を流すに等しい行為なので軽々しく試す気にはなれないが、強化魔法や治癒魔術や解毒魔術とは別のアプローチから、スペックを維持向上できるのであれば研究する価値はある。

「その技……もっとよく見せてみろ!!」



「グルァァァ!!」

「甘いんだよ!」

 ベヒーモスの飛び掛かりからの噛み付き、雷を全方位にばら撒くコンボを回避行動と魔法障壁で搔い潜り、再び大剣を切り上げてのカウンターを狙う。

 しかし、今回はいとも簡単に躱された。

 人語は解さないまでも高い知能を持つSランクの魔物ならば当然か。

 一度使ったパターンの攻撃はそうそう簡単に喰らってくれない。

「まあ、予想はついてたけどな」

「ガァ!?」

 突如、轟音と共に砂埃が巻き上げられベヒーモスの体勢が崩れる。

 威力自体はベヒーモスの障壁や外皮なら防げないものではないが、今のは完全に不意打ちだった。

 何故クリーンヒットしたのかと言えば、魔力反応がほとんど無かったからだ。

 数秒前の攻防の最中に砂に埋めた俺のパイプ爆弾だ。

 下級の魔物ならば、ほとんどの場合は魔力を持たない人間と同様に魔術の発動や強化魔法の起動を察知できない。

 例外も居るが、それこそ魔術や強化魔法の技量が皆無で、且つ武人の感覚で力量を推し量ってしまう人間と同じくらいの割合だろう。

 しかし、ある程度のランク以上の魔物には、戦闘時の振る舞いに関しては下手な人間を凌ぐ知性を見せる者も居る。

 当然、ベヒーモスもその猛者に含まれる。

 魔力を読んで行動できないようでは、最初に俺が放った“電撃(エレクトリックアタック)”ですでにお陀仏だ。

 奴も魔力反応から敵の力量や放たれる魔術の威力を予想することには長けていたはずだ。

 しかし俺のパイプ爆弾には通用しない。

 魔力反応を呈するのは、ほぼ時限装置の簡単な起爆の魔石プログラムのみ。

 中級火魔術以上の火力を出すとは、ベヒーモスの奴は思ってもみなかっただろう。

 ダメージはそこまで深刻でなくとも隙は出来る。

 俺は畳みかけるようにベヒーモスの顔と右前足に大剣を振るった。

「ガァァ!」

 傷は致命傷になるほど深くない。

 これで再生の魔力の流れが見られるはずだ。

「ほう、やはり治癒魔術とは違う。体細胞分裂の速度を上げて傷が癒えるのを加速する方向か。だが、これはどちらかと言うと副産物だな。そもそも傷を治すことを意識して魔力を回しているわけではないように見える。体をより速く、力強く動かすためなどの漠然とした身体強化の魔力が自然と傷口に吸い寄せられたようだな」

 思い返せば先ほどの大剣の食い込み具合も思ったより浅かった。

 間違いなく障壁の強度は上がっている。

 恐らく、魔力制御の主旨は体のポテンシャルを引き出すという単純なもの。

 見てすぐに真似できるものではなかったが、ベヒーモスの魔力の運用方法が少し解明できただけでも収穫だ。

「さて、お前の雷はこんなものじゃないだろ。次だ」



 突如、ベヒーモスが砂煙を上げながらバックステップした。

「ん? 何だ?」

 今まで積極的に殴ってきていたベヒーモスが急に距離を取ったのは予想外だった。

 だが、次の瞬間にはすぐに奴の意図を理解した。

「グアァァァ!」

 ベヒーモスの角に収束した魔力は今までより格段に強い。

 周囲の浮遊魔力をも巻き込むように展開された術に、俺の背を冷たい汗が流れる。

「っ!」

 慌てて展開した魔法障壁はいつもの数倍の厚さだ。

 そこにベヒーモスが放ったドラゴンブレスのように収束した雷撃の閃光が叩きつけられる。

「グルァ! ガァァァ!!」

 続けざまに数発、雷の柱が撃ち込まれる。

 近距離の戦闘では悉く攻撃を防がれカウンターを食らい、遠距離から火力で押し切る方が有利だと判断したのだろう。

 だが、俺はベヒーモスの狂気に満ちた猛攻に反して冷静だった。

「やはりSランク。魔物にしては、よく考えている。魔力反応すら捉えられず魔術で奇襲し放題の奴らとは大違いだ」

「ガァ!?」

 先ほどの強烈な砲火で俺が全くの無傷なのが信じられないようだ。

 今までとは桁違いの魔術を撃たれたときは俺も肝が冷えたが、障壁で受けてみて観察すればどうということは無かった。

 派手な雷魔術だったが、貫通力は大したことない。

 傾斜をつけ、アーク放電やプラズマも防げるようにイメージした、分厚く幾重にも張り巡らされた俺の障壁を貫くには力不足だ。

「さて、もう種切れかな」

 俺はベヒーモスを挑発しつつ、次の攻撃に備えて魔法障壁を張る。



 ベヒーモスが直線状に放ってくる雷の柱は数発受けてみて、大した貫通力が無いことがわかった。

 おそらく強力な遠距離攻撃ということでドラゴンブレスに近い術を繰り出しているのだろうが、やはり応用は効いていない。

 俺が雷属性を今より自在に扱えて、これだけの魔力を一条の雷に収束できるのならば、もっと貫通力を増して生半可な障壁ならば破ることができるはずだ。

 逆に広範囲を攻撃するのならば“紅蓮(クリムゾン)地獄(インフェルノ)”などの殲滅魔術を使えばいい。

 先ほどのブレスのほかにも地面を叩きつけて雷撃を伴った衝撃を走らせる技なども確認した。

 今のところ砂漠の砂に綺麗に電気を通す術は思いつかないが、いずれは俺なりに改良できるかもしれない。

 雷属性への理解や今後の魔術の開発へのヒントになるのは何もベヒーモスが見せた技だけではない。

 俺が上空に避けた際に奴が放ってきたのは今までと変わらない雷の柱だった。

 対空砲や空中炸裂弾の概念を持たないベヒーモスにはそれが限界だろうが、俺ならば上空を高速で移動する敵を正確に狙う時間が無くても撃ち落とせる術が作れそうだ。

 雷属性への理解は論理的にも感覚的にも順調に進んでいる。

 だが、俺は心の片隅の一抹の不安をぬぐい切れなかった。

 技のアイデアはいくつも手に入れたが……このままベヒーモスをたたき切って、果たして俺は本当に覚醒に至れるのだろうか?

「ガァァァ!!」

「――“電撃(エレクトリックアタック)”――フルチャージ」

 ベヒーモスの角から放たれる電撃に真正面から打ち返し、一度引いてから全身の魔力を注ぎ込むイメージで押し返す。

 ヘッケラーの言う覚醒に至る道――同系統の魔術をその身に受け押し返す――に限りなく近い構図だ。

「グルァァ!」

 撃ち返された電撃を尻尾で弾くベヒーモスを視界の隅でとらえながら、俺は手に持った大剣に視線を落とす。

「まあ、何度やっても同じか。これだけで完全な覚醒魔力を手に入れることはできないようだ」

 今までの攻撃は全てアウトレンジから慎重に加えたものだ。

 大剣による斬撃でのカウンターも密着してはいない、すれ違いざまの攻撃なので同様である。

 こうなれば残された可能性は一つだ。

「お前の懐に突っ込んで障壁を突破してたたき切ってやる」

 至近距離からベヒーモスの雷の魔力をぶち破る。

 今の状態より雷の魔力に深く干渉するには、それ以外の方法を思いつかない。

「さあ、勝負と行こうか」

 大剣を握り直し真・ミスリル合金の刀身に魔力を通した。



 全身を覆う強化魔法と大剣を覆う魔力が一つになり、感覚が研ぎ澄まされる。

「グルァ!? …………ガァァァァ!」

 ベヒーモスから感じる魔力もかつてないほどに高まり、覚悟を決めた戦士のような風格を醸し出す。

 今回は単純に角に魔力を収束し、雷の柱をぶっ放してくるだけではなさそうだ。

 百メートルの体躯を覆う雷の輝きも強くなっているが、“落雷(サンダーボルト)”の魔術と同じような空に対する魔力の制御も感じられる。

「クロスファイア……か?」

 俺が予想したのは多方向からの同時攻撃だ。

 空からの落雷にベヒーモス本体からの魔術と直接攻撃。

 単純な弾数の増加に見えて出し惜しみしない全力の攻撃だ。

「いいぜ、来いよ」

 俺が全ての攻撃を受け流し、防ぎ、全力で切り伏せることに決めた瞬間、ベヒーモスが動いた。

 天から降り注ぐ数条の雷。

 もはや無音にも等しいほどの轟音を発し俺の周囲に着弾する。

 それに合わせて、体に纏った雷をより一層輝かせながら、ベヒーモスが地を蹴る。

「ウラァ!」

 俺も大剣を振り上げ接近する魔力の流れを振り払いながらベヒーモスに突っ込む。

 だが、次の瞬間、俺は全身の血を凍りつかせながら突進を止めた。

「っ! しまった!」

 先ほどの無数の落雷の範囲が予想外に広く魔力剣で飛ばした剣閃の振り払いだけでは全てを消せなかったのだ。

 当たっていない落雷からはダメージが無いとはいえ、全方位に雷が同時に落ちれば目眩ましには十分だ。

 当然、俺は視界を塞がれた不利を相手の魔力を探ることで覆そうとするが、一瞬の迷いが悲劇を生む。

「ぐあっ!」

 自身も周囲の雷に溶け込むように光を放ったベヒーモスが横に回り込んでいたのだ。

 頭を吹き飛ばされるのは何とか防いだものの、鋭い一撃にブロックに使った大剣が飛ばされ、俺も地面に叩きつけられた。

 打ち付けた左肩と脇腹を鈍い痛みが襲った。


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