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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編2年
48/232

48話 ショッピングツアー 後編

「らっしゃい。クロケット様の使いの方から、話は聞いてまっせ」

「ああ、よろしく頼む。イェーガー将軍、ヘッケラー侯爵。アラバモで一番の香辛料を扱う店と言えばここです」

 案内された店はクロケット一押しの商店らしい。

 売り場は外に面したカウンターになっており、これまた選り取り見取りの香辛料がズラリ。

「この店で御座るか……」

 あれ? トラヴィスの元気がないな。

「お館様、聖騎士のお二人に紹介するとあっては、このアラバモで一番の高級店でなければなりません」

 ああ、なるほど。

 トラヴィスが個人的に奢ってくれる以上、高い店でも辺境伯家全体への打撃にはならない。

 クロケットはコスト度外視で俺たちの機嫌を取ることに注力したわけだ。

「ささ、どうぞ中へ。聖騎士様のお越しやさかい、気合い入れて商売させてもらいますわ」

 おっと、カウンター越しに注文してハイサヨナラではないとは。

「あまり高い物ばかり出さないでほしいので御座るが……」

「何言うてますのん! 領主様。聖騎士様のお二人、それも食通として名高いヘッケラー侯爵様にランドルフ商会の顧問でもあられるイェーガー将軍様が相手でっせ。最高品質のものを用意するに決まってますわ」

「ぬぬ……」

「領主様、こうは考えられまへんか? ここでお二人にウチを気に入っていただければ、今後も個人的もしくはお二人と懇意の商会なんかも巻き込んで香辛料を買っていただける。大口取引が恒久的にまとまるとあったら、アラバモも潤うってもんですわ」

 それ……街はそこまで関係なくね?

 あんたが儲かるだけだろ。

 よく口が回るものだ。

「くっ……わかったので御座る……」

 早ぇな! 諦めるの。

 やはりトラヴィスは交渉事などにはあまり向かないようだ。

 もしかしたらこのアラバモが持っているのは、ほとんどクロケットのおかげかもな。

 まあ、俺にとっては香辛料が貰えるのなら何も言うことは無い。

 さて、じっくり選ばせてもらいましょうか。



「ほな、こちらが当店自慢のホークタロンですわ」

 店主の指示で運ばれてきた箱の中身は、まさしくトウガラシだった。

 ほどよく乾燥させてある。

「クラウス君、すごく辛そうですけど……大丈夫ですか?」

 ヘッケラーが心配そうに尋ねてきた。

 まあ、この見た目だ。

 警戒するのはわかる。

「サンドバッファローのタレを作るのは、まだ無理そうですが、ほかにも用途はあります。例えばパスタに」

「ほほう、パスタでっか? それは初耳でんな」

 店主が食いついたか。

 まあ、ペペロンチーノは家庭でもできる料理だから言ってもいいか。

「オリーブオイルでニンニクとホークタロンを炒めて、茹でたパスタと搦めたものは基本だな。ホークタロンは大皿に一つで十分だ」

「ほのかなピリ辛感を出す、っちゅうことやな。肉や魚を入れても美味そうや」

「お、いいところに気づいたね。俺はタコとバジルを入れたものが好きだが、クラムや塩漬け肉を入れてもいいかもな」

 ヴォンゴレやペスカトーレが日の目を見るのも近いか。

「んんっ! クラウス君、そのパスタは早めに作ってもらうとして、ほかに探していた香辛料の件を進めたらいかがです?」

 ヘッケラーの咳払いで俺と店主の会話は止まった。

「拙者も腹が減ってきたで御座る」

「私も……先ほどワイルドボアの煮込みをいただいたはずなのですが……」

 まあ、確かに今の会話は飯テロだったな。

「では、とりあえずホークタロンは丸ごとの物と粉末、両方用意してくれ」

「はいな。お買い上げ、おおきに」



「さて、次はとりあえず鶏のスパイス焼きに使われるものを一通り持ってきてくれ」

「はいはい、もう用意させとりますわ」

 店主の指示で、この店の従業員がいくつもの香辛料が満載された木製の器を運んできた。

 広い机を埋めつくすように香辛料の器が並べられる。

「鶏のスパイス焼きに使われる香辛料、とりあえず一通り全部になりますわ」

 やはりカレーのスパイスに近いものが多いようだ。

 見た感じクミン、カルダモン、オールスパイス、ターメリックをはじめシナモン、クローブ、コリアンダー、ローレル、それに粉末状のショウガとブラックペッパーもあるようだ。

 レトルトにあるような米に合うカレーを再現するのは時間がかかりそうだが、トマトも使ったチキンカレーなら、少し配合を研究すればいけそうだ。

「あと、こちらは家庭でも、ようやる配合の『合わせスパイス』各種ですわ」

 カレー粉のように、すでに調合済みのスパイス各種とレシピまで用意してくれている。

 至れり尽くせりだ。

「ありがとう、感謝するよ」

「いえいえ、これも商売やさかい。お気に召したら追加注文もいただきたいもので」

 ここで、ヘッケラーが口を開いた。

「で、どうです? 何か思いつきましたか?」

「そうですね、俺が作ろうと思っていたカレーは配合を見つけるのに少し時間がかかりそうですが……」

 俺は既存の組み合わせのスパイスのレシピを見た。

 前世ではトウガラシもチリペッパーの表記でカレーに入っていることもあったが、こちらではホークタロンは使わないようだ。

 おっと、クミン、カルダモン、オールスパイス、コリアンダー、ターメリック、ブラックペッパーだけの配合があった。

 これにホークタロンの粉末を少し加えれば、簡単なチキンカレーはいけそうだな。

「師匠、チキンカレーなら、鶏を煮込んでパンにつけて食べるものなら作れそうですよ」

「本当ですか!? では、早速……」

「いやいや、まだ商品を見ますよ。あらかじめ買う予定だった物が調達できたにすぎませんから」

「くっ……わかりました。なるべく早くお願いします」

 まったく、食い意地が張ってるね。

 カレー粉のスパイスの購入を決め、コリアンダーの葉の部分とローレルの葉を生の状態で追加注文し、予定していた買い物は済ませた。



「ほな、残りの商品をお見せしましょうか。とびきり高級なのがありますさかい」

「勘弁してほしいで御座る……」

 少しトラヴィスが不憫になってきたな。

 まあ、クロケットが何も言わない以上、そこまで深刻なダメージではないのだろう。

 放置でいいか。

「こちらになります。よう見たってください」

 おっと、商品に集中だ。

「そ、それは……」

 トラヴィスが慌てているので、つられて俺も視線を向ける。

「これは……サフランか?」

 店主が出してきた商品の中でトラヴィスが注目していたのは、深紅の糸状の香辛料だった。

 確か、黄色い花柱の混じっていない、赤い雄蕊ばかりの物は最高級品だったな。

「よくご存じでんな。混じりっ気の無い、いいサフランでっしゃろ」

 あ、サフランの呼び方はそのままなんだ。

「確か、この辺では米にかけたり、お茶にしたりしますね。香りは独特で、私は嫌いではないですが、あまりにも値段が……」

「いかにも……。貴族御用達の無駄に高価格な見栄っぱり用の着色料で御座るよ」

「確かに、必需品でない以上、コストを考えると買い手は限られるでしょうな」

 なかなかボロクソに言われているね。

 だが、俺はサフランを使用する美味い料理で、恐らくここに無い物を知っている。

「師匠、先ほど米にかけると仰っていましたが、それはただの米ですか? ほかに何かを混ぜたりは?」

「いえ、ただの黄色い米でしたね」

「左様、拙者の寄子も見栄のために客に出すそうで御座る。大して美味いものでもなかろうに……」

「浪費など無能の証拠です」

 なるほど、サフランライスだな。

 そりゃカレーが無ければ、ただの香りが付いた米でしかない。

「師匠、トラヴィス辺境伯、クロケット準男爵。その料理、改良できますよ」

「何ですって!?」

「誠で御座るか!?」

「それは!」

 店主の口元が「やはり」といった具合に吊り上がった。

「先ほど言ったカレー、肉と野菜をスパイスと煮込んだものをかけて食べるのもいいですが、これはサフランライスに合うカレーを考える必要があります。もう少し簡単で一般家庭にも普及しやすいものがあるんです」

 米とサフランときたらこれに決まっている。

 パエリアだ。

「オリーブオイルで玉ねぎ、パプリカ、好みによってはニンニクを炒め、米を投入。海老やクラムや白身魚などを入れ、ワインとコンソメとサフランを加え、蓋をして蒸し上げれば完成です。肉を炒めて入れてもいいですね。米がほどよく焦げた部分も美味と言われています」

「ううむ、サフランの香りが海の幸に……。それは確かに美味そうで御座るな」

 もう一つ、気になっている料理がある。

「あと師匠、サフランを入れた、魚介のスープって知ってますか?」

 そう、ブイヤベースだ。

「いえ、聞いたこと無いですね」

「これも、エビやクラムやイカを使います。魚介を煮込んだスープにサフランで色と香りをつけたものですね」

 俺は詳しく作り方を説明した。



「いや~、将軍様の話を聞いていると、自分も腹へってもうたわ」

 はは、今日はさんざん飯テロをしたな。

 予想以上に買い物と商談が長引いてしまったので、砂漠に出るのは明日になりそうだ。

 となると、チキンカレーは今日作ることになるかな。

 そんなことを考えていると、トラヴィスが懸念を口にした。

「しかし……イェーガー将軍の料理が広まったら、ただでさえ高いサフランが余計高騰するのではないで御座るか?」

 あ、確かに。

 そうなると俺も今後はサフランの補充が難しくなるかもしれないな。

 しかしクロケットはかぶりを振る。

「お館様、元々サフランの価格の高さは需要によるものではありません。むしろ売れなくて困っていた。そうですね?」

「確かに、そうですわ。それでも製造コストを考えると価格を下げることはできまへん。お貴族様からの注文がなかったら、とっくに手を引いてますわ」

 うーむ、そうなると庶民への普及は難しいか。

「しかし、イェーガー将軍様の話を聞いて一つ活路を見つけましたわ。将軍様はランドルフ商会の特別顧問だそうで」

「ああ、まあそうだな」

「なら、ウチらとの顔つなぎを頼んますわ。まずは高級店から。それから徐々に庶民には低級のサフランもしくはターメリックで代用などする方針で、生産効率を上げることに投資していけばええ」

 確かにランドルフなら、そこらへんもうまくやるだろう。

 俺が一筆書いて任せてしまうのも手だな。

 彼はしっかりと俺の案を運用してくれる。

「では、サフランの生産量は増やせるということで御座るな?」

「当然ですわ! これだけの革新や。儲ける機会を商品の枯渇なんかで逃してたまるかい!」

「こういうわけです、お館様。まあ、物が物ですから劇的に安くはならないでしょうが、彼は商品と買い手の組み合わせをしっかりと理解している商人です」

「うむ、杞憂で御座ったな」

 よかった。

 妙な高級志向と独占にこだわる奴なら面倒なことになっていたが、案外この男は合理的なようだ。

 しかし……。

「俺は料理をこの場で実際に作ったわけでもないのに、よく決断したな」

「そりゃ、将軍様に実績があるからでっせ。マヨネーズ、ドレッシング、揚げ物、アブラナ油。こんだけごっつい儲け話を出しとるお方や。乗るに決まっとりますわ」

 ああ、なるほど。

 ノリと勢いで物を言っているように見えて、冷静な分析の結果だったわけだ。

「まあ、それでも味に関しちゃ、実際に味わってみいひんと分からんものでっしゃろなー」

 視線が俺に集まる。

 仕方ないな。

「ちょっと早いですけど、ここで飯にしますか?」

「おお! それはいい考えです。店主、厨房の準備を」

「はいな! すぐに案内させます」

「イェーガー将軍、拙者も御相伴に」

「お願い致します」

 さて、またずいぶんと大人数の料理を作ることになったな。

 俺は店主が調達してくれた鶏でチキンカレーを、自分の魔法の袋に保存してあった白身魚と海老でブイヤベースを作り振る舞うことになった。


注意)料理に関しては作者の好みと偏見が含まれますw


そろそろベヒーモス討伐に向かわないといけませんね。

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