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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編2年
41/232

41話 武器の完成と呼び出し

2年次の授業が始まるのは、もう少し先になります。

しばらくは師匠と過ごす夏休みのお話です。

「…………よし、仕上げだ」

「…………」

 アンと親父さんが膨大な魔力により稼働する炉から赤熱した金属の塊を引き抜く。

 ついに俺の武器が完成すると思うと興奮を抑えきれない。

 土木ギルドでのクソ忌々しい手続きを終えた俺は、早速資源を集めるために王都周辺の廃坑を巡った。

 最初はコツをつかむため練習がてら近場の鉄や銅の鉱山から行ったが、すぐに当初の目的であるミスリルやオリハルコンに標的を切り替えた。

 魔法学校の授業が始まってからは、遠出できるのが土日しかない。

それに、いざ廃坑に着いたとしても、“抽出”の魔術はひどく魔力を食う。

 元々、まともな方法では掘れない位置にある鉱物を引っ張り出すやり方である。

 俺の魔力量でもそう簡単に武器に必要な分を集められないのだ。

 アダマンタイトのような魔力の通りが悪い金属は、効率がさらに悪くなるので今回は見送った。

 ガルヴォルンの鉱山は近くにはない。

 結果、ミスリルとオリハルコンの鉱山に行くことになったわけだが、飛行魔法を使ってもそこそこの時間がかかる距離である。

 結局、十分なミスリルとオリハルコンが集め終わったのは、1年の授業も終わりかけのころだった。

 そして、アンとメアリーの実家の武器屋にミスリルとオリハルコンのインゴットを持ち込み、数日かけてようやく武器が完成したわけだ。

「それ……もういい」

「はいよ」

 俺はアンに言われるままに、炉への魔力の供給を切った。

 先ほどまでの目が痛くなるような火が一瞬にして消える。

「この炉もとんでもない代物ですね」

「まあな。それこそ、兄ちゃんが持ち込んだような素材でもなきゃ使いやしねえ。実際、商品に使ったのはこれが初めてだ」

「……使える人間もいない」

 それはそうだろう。

 この内部に魔法陣を大量に有する魔導炉は、下手な魔術師が起動させてもすぐに魔力が尽きてしまう。

 だが、俺が武器に魔力を通す魔力剣の要領で、適当に魔力を流しても使えるだけでも良くできた代物と言える。

 恐らく魔法陣は主に制御と稼働を司る役割を持つのだろう。

 どういう経緯で親父さんが手に入れたのかは知らないが、アーティファクト級の魔道具であることは間違いない。

 今親父さんが打っているのは俺の大剣だ。

 元の魔導鋼を芯にして、こちらは店の在庫であったアダマンタイトを少し補強材にして、俺の持ってきたミスリルを重ねて打ちなおした。

 ここまでなら、いつもと同じ設備でもできる作業だ。

 実際、ミスリルをコーティングした剣はそこまで珍しくない。

 しかし、今回親父さんは俺の持ってきたオリハルコンを見ると、すぐにもう一つの工程を追加した。

「出来たぜ。これで完成だ、振ってみろ」

 俺は親父さんから受け取った大剣を持ち、少し開けたスペースに移動した。

 ロイヤル・ワイバーンの腹の皮を巻いた剣柄は、初めて握ったとは思えないほど手に馴染む。

 ミスリルの刀身の上からさらに打ち重ねた、ミスリルとオリハルコンの合金の刃が妖しく光る。

 試しに魔力を通すと、魔導鋼だけだったときと比べて格段にスムーズな感触で刀身が魔力を纏った。

 フォン!

 唐竹に振り下ろした感触は空間すら切り裂いたかのような錯覚を起こす。

 試し斬りなどしなくても分かる。

 切れ味が段違いだ。

 これならロイヤル・ワイバーンの首も難なく刎ねることができるだろう。

「素晴らしい。俺にとってはこれ以上ない最高の剣だ」

「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。この『真・ミスリル合金』はうちの一門秘伝の素材でな。ミスリルの魔力伝導性をそのまま……いや、底上げしたうえでオリハルコンの切れ味と魔力への感応性を併せ持つ代物だ。兄ちゃんほどの魔力剣の腕の持ち主なら、下手な純オリハルコンの物より遥かに強力な武器になるぜ」

「親父さん、感謝します。まさか、これほどの逸品が手に入るとは」

 俺は大幅にグレードアップした大剣を“倉庫(ストレージ)”に仕舞い、金貨を取り出す。

 全部で100枚だが、この程度なら問題は無い。

 ワイバーンの余った素材は王国が直接買い取り、色を付けてくれたので懐は温かい。

「おっと、そいつは受け取れねぇ。兄ちゃんには散々オーダーメイドの高ぇ武器を買ってもらってるし、ハンティングナイフなんつう商品まで開発してもらったんだ」

「この剣は魔力剣の達人でなければ無用の長物。売り出しても金貨100枚はしない」

 それはいけない。

 親父さんもアンも使い手を選ぶが最高品質の武器を作ったことで満足してしまっている。

 確かに、魔力操作に秀でた剣士という特殊な戦士以外にとっては、この武器はただサイズのわりに軽く、頑丈な、ちょっと切れ味の鋭い剣でしかない。

 だが、俺はその特殊な戦士の条件にぴったり当てはまる。

 それこそ全財産を投資しても欲しい品である。

「これは今の俺が無理なく出せる最大の報酬です。少なくとも俺は、この剣にそれだけの価値があると思っています」

「しかしな……」

 だめか……。

 だが、この店は絶対に閉めさせたくない。

 アンはともかく親父さんはいざ店の経営が傾いても絶対に援助は受けないだろう。

 メアリー経由でオルグレン伯爵家の援助など拒絶するに決まっている。

 何とか受け取ってもらわないと。

「研究費です。また俺が無茶な注文をする可能性があります。その時まで腕を鈍らせないようにしてください」

「はぁ、しゃあねぇか。ありがたく受け取っとくよ」

「……感謝」



 魔法学校の訓練場に戻ってくると、フィリップが声をかけてきた。

「クラウス、新しい剣は……どうやら出来たようだな」

 しかし、レイアたちはまだわかるが、何故ヘッケラーまで来ているのやら……。

「夏休み中は一緒に訓練するのです。私も君の武器を確認しておきませんと」

 筆頭宮廷魔術師はそんな理由で公務を抜けられるのか?

「ところでクラウス、新しく作ったのはそのサーベルもか?」

「ああ、前にボルグのせいで壊れたからな」

 俺は腰の新しいサーベルを抜いた。

 白銀の刀身に薄く金色の光沢が纏わりつくような幻想的な色合いをしている。

 これも材料持ち込みで親父さんに製作を依頼したオリハルコンのサーベルだ。

 前に使っていた業物のサーベルより、反りが浅く細身で取り回しのいい小振りな造りになっている。

 素早く抜いて振り回すのに最適な剣だ。

「オリハルコンの剣なんて初めて見たのです」

「わたくしもですわ。希少な金属であるうえ、真価を引き出すには扱う技量も必要ですから」

「クラウスの魔力の質なら相当な切れ味を引き出せるんでしょうね」

 オリハルコンはただでさえ切れ味の鋭い刃物になりやすいが、こちらの性能もやはり使い手の力量に左右される。

 魔力の伝導性はそこまで高くはないが、その代わりに精神感応の力が宿り魔力の質に呼応してより切れ味を増す性質があるのだ。

「余程の使い手でなければ武器ごと真っ二つか……」

「クラウス君の魔力は『濃い』ですからね」

 サーベルの鑑賞会が一通り終わった後は大剣のお披露目だ。

 俺は“倉庫(ストレージ)”から出した大剣を一度横薙ぎに斬り払い、垂直に立てて刀身を見やすいように保持する。

「これは……すごいな……」

「っ! 魔力が……拡散しない……?」

「きれいなのです……」

「これを……お父様とアンが……」

「ふむ、これほどの魔力剣を使いこなすのならば、指南も一足飛びに……」

 何かヘッケラーが物騒なことを言ってるよ。

 だが、この剣があればどんな敵にも負けないような気分になってしまうのは事実だ。

 慢心は良くない。

 気は引き締めなければ。

 ここでヘッケラーが俺に疑問を投げかけた。

「確か、ミスリルとオリハルコンの合金と言っていましたね。それは高位の錬金術ですか?」

 そういえば詳しいことは聞いてないな。

「錬金術とは聞いていないですね。アーティファクト級の魔道具の炉を使っていたのと、真・ミスリル合金とかいう名前は聞きましたが」

 俺はメアリーに視線を向けた。

「わたくしも特殊な製法は詳しくは……」

 営業担当のメアリーとはいえ一度も売ったことのない商品の詳細までは把握していないか。

 俺はヘッケラーに視線を戻した。

「師匠、親父さんに聞いてみますか?」

「恐らく無駄ですわ、クラウス。お父様もアンも感覚派ですから、『スゲェ素材を作る道具』くらいにしか認識していないかと……」

 親と妹に対してずいぶん辛辣ではないか。メアリーさんよ。

「それは残念です。強力な武具の素材に関しては未だに錬金術の研究でも解明されていないことが多いですから」



 1年のすべての授業が終わり、俺たちは一旦退寮した。

 終業式のようなものも、大聖堂で行われたが相変わらずフィリップは居眠りであった。

 そして俺は、荷物を魔法の袋に突っ込み急いで王城へ向かった。

 ヘッケラーからの呼び出しである。

 挨拶もそこそこにすぐ退散してきたのはフィリップたちを気遣ったからでもある。

 ファビオラが実家に帰る前に他の嫁候補二人も侍らしてデートだと。

 四人でデートか。

 あいつ本当に爆発すればいいと思う。

「イェーガー将軍、お疲れ様です」

「お疲れ様です。誰か、ヘッケラー侯爵のところまで案内してくれませんか?」

 そして俺はといえば、相変わらず王城を一人で歩くことはできない。

 暇そうな騎士に案内してもらうことになる。

「では、私がご案内いたします」

「ありがとうございます」

 何度目かの角を曲がると見知った顔が歩いてくるのが見えた。

 見間違えようがない、ふさふさの毛に包まれた猫が。

「おや、イェーガー将軍。お久しぶりニャ。王城に来るなんて珍しいニャ」

「やあ、どうも。ヘッケラー侯爵に呼ばれてね。君も謁見の間前のホールじゃないんだね」

「吾輩は今は休憩時間ニャ。食事に行くニャ。警備はポルトスと交代したニャ」

「……まさか、もう一人アトスかアラミスってのがいるのか?」

「何で知ってるニャ? 吾輩はアラミスで、もう一人アトスってのがいるニャ」

 この世界に三銃士の知識を持ち込んだ地球人がいるな。

 次の召喚獣にはダルタニアンとでも付けるのか。

「ところで陛下は君たちの名前をどこから付けたんだろうな?」

「確か、城の書物庫の古い物語から取ったそうニャ」

 なるほど、存命中の人物ではないらしい。

「そうか、助かったよ。良かったらこれどうぞ」

 俺は魔法の袋から魚の灰干しをいくつか取り出した。

 故郷にいたころ海岸で釣った白身の魚を植物の葉で包み、採取した火山灰にぶちこんで作ったものだ。

 現代では紙かセロファンで包むんだったか?

 当然、そのような文明の利器は無いので、その辺に生えている植物から毒の無いものを選んだ。

 最初の頃は失敗作を量産して“分析”の魔術を掛けただけで廃棄する羽目になった。

 それがずいぶん上達したものだ。

 もちろんプロのようにはいかないが、そこそこのアジの干物程度には食べられる物がいくらか完成した。

 非常食の一つだったが魔法の袋があれば保存食にこだわる必要が無い以上、くれてやっても問題ないだろう。

「ニャ!? 魚の干物は大好物ニャ。それにこれは未知の香りを感じるニャ。感謝するニャ」

 アラミスは上機嫌で帰って行った。

 ふと横を見ると、案内の騎士がフルプレートの兜の下で興味津々オーラを放っていた。

「……あんたにもやるから」

「これは申し訳ありませんな」

 市場で魚を補充しておくか……。

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