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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編1年
38/232

38話 白魔の聖騎士、そして面倒事の予感

遅くなりました。申し訳ありません( TДT)

新キャラでます。

「ミスター・イェーガー、わしはここでお別れじゃ」

 謁見の間を出たところで、デ・ラ・セルナは唐突に俺に告げた。

「何か用事でもあるのですか?」

「ああ、次の仕事が立て込んでおるのもあるが、お主に会ってもらいたい人物が居るのじゃ」

 俺に会ってもらいたい人物?

 王宮の中でか?

「ミスター・オルグレンたちと一緒に会うことになるじゃろう。彼に案内してもらうとよい」

 武器や魔法の袋を受け取った俺は、先ほどとは別の騎士の案内に従い王宮を歩いて行く。

 俺の謁見に比べればフィリップたちは時間がかからない。

 もう、お偉いさんとの面談は終わっているはずだ。

 そして、またしても道が分からん。

 ほんとに帰り案内がいないと詰むぞ、これ。

「騎士団の人は皆、道を覚えているのですか?」

「いえ、たまに道に迷う連中もいますよ。そういった連中は王宮内より外の仕事を好みますが」

 いいのかよ、それ?

「例えば、イェーガー将軍にまとめて気絶させられた部隊の奴らとか」

 あれか!

 ダンジョンに入るのに邪魔で“電撃”ぶち込んだ奴らか。

「それは申し訳なかった……」

「いえ、彼らも聖騎士が相手では仕方ないでしょう。恥でも何でもありません。それに、頭は悪くても戦闘に関しては優秀な奴らですから」

 こいつも辛辣だな、おい。

「この王宮には我々も知らない通路がたくさんあります。近衛は我々より詳しく把握しているようですが、中には王族しか知らない秘密の抜け道があるとか」

 まあ、不思議ではないな。

 元々、王城内部が入り組んでいるのは、賊が容易に侵入したり逃走したりできないようにするためだ。

「それでもイェーガー将軍クラスの使い手ならば、王城ごと破壊して皆殺しにできますか……。こちらです」

 何故こいつらは俺を破壊神扱いするのかね?

 愚痴を言いたい気持ちを抑えて、俺は部屋に入った。

 ドアを開ける前から気づいていたが、フィリップたち以外に中に居る人物は二人。

 そのうち一人は俺の下がったテンションを持ち直させるどころか張り詰めさせる存在だった。

「初めまして、クラウス君。私は『白魔の聖騎士』にして筆頭宮廷魔術師のディオトレフェス・ヘッケラー侯爵です」



 フィリップの向かいに座る男は、先ほどの謁見の間でも見た金髪ロン毛の青年魔術師だった。

「やはりあなたが……。ご挨拶が遅れました。先ほど『雷光の聖騎士』になったクラウス・イェーガーです。よろしくお願いします」

 やはり彼は魔力量が段違いだ。

 体はあまり鍛えているようには見えない。

 接近戦の力量はデ・ラ・セルナより低いのかもしれないが、それでも雑魚を蹴散らすようにはいかないだろう。

 彼も戦いたくない相手だ。

「はい、よろしくお願いします。まあ、座ってください。デ・ラ・セルナ校長からも君に関して頼まれていることがありまして」

 ああ、会ってほしいと言っていたからな。

「失礼します」

 俺はヘッケラーと向かい合う位置、フィリップの隣に腰かけた。

 フィリップを挟んで向こう側にはレイア、メアリー、ファビオラの順だ。

「さて、それでは早速……」

「コホン。白魔の、某も挨拶を済ませたいのだが……」

ヘッケラーの隣に座る人物が口を開いた。

「ああ、そうか。悪かったね、ロベルト」

 この人も謁見の間にいた。

 あの槍を持った近衛騎士だ。

 今はヘルメットを外しているので素顔が見える。

 眼光の鋭さ以外、特に特徴の無い黒髪のおじさんだ。外見は。

 彼もほかの大多数の騎士よりかなり格上に思える気配の持ち主だが、かなり偉い人なのかもしれない。

「某はロベルト・クリストフ・ニールセン侯爵。近衛騎士団団長をしている。雷光の、以後お見知りおきを」

 まさかの近衛団長きました。

「ああ、今某がいるのは顔合わせに過ぎぬ。いずれ頼むことはあろうが、もう少し先の話だ」



「それで、ヘッケラー侯爵。事後処理で忙しい時期にわざわざ時間をとってくださるとは、どういったお話ですか?」

 フィリップは、表面上は相手を労わっているが、彼らの腹の一物が俺たちにとって有害かどうか見極めるつもりのようだ。

「単刀直入に申し上げましょう。クラウス君は私の弟子になっていただきます」

 一瞬、意味が分からなかった。

 筆頭宮廷魔術師のヘッケラーが俺の師匠になるってことか。

「それは……」

「フィリップ君が言いたいことはわかります。私は聖騎士とはいえれっきとした貴族であり王国に忠誠を誓う者。クラウス君は爵位を持たない聖騎士。獅子身中の虫になり得る彼を疎むかもしれない。そういうことでしょう?」

 フィリップは自分の考えていたことをあっさり口にされて戸惑っているようだ。

 さすがに近づいて暗殺云々ほどはぶっちゃけない。

 貴族連中にとっては言うまでもないことなのだろう。

「あとフィリップ君とレイアさんにも教授します。言い方は悪いですが、君たちも利用させていただきます」

「あたしを? どういうこと?」

レイアが思わずといった具合で口を挟む。

「フィリップ君、君は法衣伯爵ですが若すぎて王国の……いえ、貴族たちの信頼がありません。実際の忠誠心がどうとか功績を上げればとかの問題ではない。言いがかりをつけたい連中の大義名分になってしまうのです」

「それはわかりますが……」

「ですが、私は別です。これから、いくら君たちに近い関係になろうと、筆頭宮廷魔術師であり法衣侯爵であり年齢も実績もそこそこありますから」

 そこそこね……。

 筆頭宮廷魔術師の功績がそこそこなら、先ほどの謁見の間にいたおっさんどもはどうなるのやら。

「…………」

「私が君たちの師匠となれば、フィリップ君とレイアさんは私が取り込んだように見えます。オルグレン伯爵家は私が保証したことになる。クラウス君に教授すれば、クラウス君の首根っこを押さえているようにも見えます。クラウス君は私の保証と、より信頼性が強固になったフィリップ君の後ろ盾、その両方を得るわけです」

 なるほど。

 ヘッケラーは安全。

 ヘッケラーが保証するオルグレン伯爵家も安全。

 その両方が信を置けば、俺を危険視する奴らを黙らせることができるというわけか。

 爵位を断ることで生じる疑心暗鬼を予想していなかったな。

 もしかしたら、フィリップが何とかしてくれるだろうと、彼に頼り過ぎていたのかもしれない。

「失礼ですが、ヘッケラー様のメリットって何ですの?」

 メアリーが口を挟んだ。

 確かに、今の段階ではヘッケラーが面倒を抱え込むだけの提案にも見える。

「建前は先ほど言った通りです。本音の表は強大な戦力であるクラウス君に恩を売り私に信を置かせること。本音の裏は……君に張り付いておけば色々とおこぼれにあずかれると私の勘が告げています」

「おこぼれ?」

「諜報部隊からドレッシングにマヨネーズにタルタルソースは君が開発者だという情報が。それに最近ミゲールスイーツパーラーで珍しいお菓子が次々と開発されているそうですね。串揚げやらカツレツも部下に集めさせた情報では君が発案者だと……」

「それは誠か!?」

 あまり喧伝しないように頼んでおいたんだけどな……。

 どんだけガチで諜報活動したんだか。

 ニールセンまで食いついてきやがった。

「まあ、そういうわけです。君たちは強固な権力の庇護と今以上に研鑽を積む機会を得る。私は金では買えないほどの賄賂が貰える。ウィンウィンの関係じゃないですか」



 俺は数日間、外を出歩けなかった。

 もちろん三人目の聖騎士に任命されたことが原因だ。

 王都中で号外が売られ、俺の名前と身分が派手にばら撒かれた。

 当然、魔法学校の学生であることも知られ、大勢の野次馬が押し掛ける羽目となる。

 さすがに、魔法学校に不法侵入してまで俺に何かしようと考える奴はいなかった。

 万が一、そのような輩が現れてもラファイエットのゴーレムにつまみ出されるのが関の山だろう。

 …………俺の知らぬ間に排除された奴はいないと信じておこう。

 騒ぎも収まって、ようやく出歩けるようになった俺が真っ先に向かったのは、土木ギルドだ。

 王家からの紹介状があるので、早めに廃坑の探索許可を取っておこうと思ったわけだ。

 冒険者ギルドに比べて耐久性に欠ける扉を開き、足を踏み入れる。

「――というわけでよ、明後日の午後……」

「待って、お客……あら?」

 俺は建物に入った瞬間、ギルド内にいた全員から無遠慮な視線を向けられる。

 冒険者にもガラの悪い荒くれた雰囲気の者はいるが、ここにいる連中はさらに荒んだ雰囲気だった。

 だが、戦闘に関しては明らかに新兵以下の実力なのが気配からわかる。

「(何だ、あのガキ?)」

「(帯剣してるぜ。冒険者崩れか?)」

「(んなわけあるかよ。服を見てみろ。お坊ちゃんだぜ)」

「(貴族にしちゃあ安い服だ。出奔かもな)」

 今日の俺は王都に来てから買った普段用のジャケットを着ている。

 どうやらこれでも土木ギルドの連中にはお坊ちゃんに見えるらしい。

 俺は酒場のほうから聞こえるヒソヒソを無視して、最初に見たうだつの上がらなそうな男が口説いていた受付嬢の窓口に向かう。

「よお、坊主。ここはおめぇみてぇなガキが来るとこじゃないぜ」

 何というテンプレ!

 冒険者ギルドではなく土木系の事務所でこのセリフを聞くとは。

 まあ、この男は戦闘に関しては全く心得のない雑魚だ。

 弱い者いじめをする気はない。

「私も受付に用があるので、さっさと用事を済ませてください」

「なっ、てめ……」

 俺は魔力を放出せずに睨む。

 こんな雑魚にワイバーン亭の大将と訓練したような威圧を放ったら、下手すれば心臓発作を起こしてしまう。

「……………………ちっ」

 男が受付を離れた。

 だが、奴は俺が腰に下げている剣を見て引いたようだ。

 この剣は大した品ではないし、今の男が殴り掛かってくるのなら素手で制圧するつもりだった。

 それでも加減を間違えれば、今の男は血反吐を吐いてお陀仏である。

 だが、奴はそのことを見抜く技量など持ち合わせていないのだろう。

 少しでも戦闘の心得があるのならば、もっとすぐに引いていたはずだ。

「いらっしゃいませ。何の用でしょう?」

 この受付嬢もダメだな。

 冒険者ギルドの受付嬢は、あれでなかなかレベルが高い。

 冒険者に荒くれ者が多いのは事実なわけで、それなりのコミュ力と冷静さ、それに接客の技術が要求される。

 そこまでは求めないにしても、この女は取って付けたようなぎこちなさ全開だ。

 滲み出る雰囲気は、悪い言い方をすれば場末のホステスが場違いなパーティーにドレスだけ高級なものを着せられて放り込まれた感じだ。

 俺はさっさと申請を済ませて退散することにした。

「廃坑の探索許可の申請をお願いしま……」

「ぎゃははは!! おい、ガキが廃坑だってよ」

「ひぃ、ひっひ……笑わせてくれるぜ!」

「そういうのは護衛の騎士様に任せたほうがいいんでないかい?」

「無理だろ! 勘当されてんだぜ、きっと」

 王家の紹介状を出す前にセリフを遮られた。

好き勝手言いやがる。

 さっさと手続きを済ませて帰ろう。

 そう思っていた俺に更なる妨害をしてきたのは、予想外にも受付嬢本人だった。

「あのね、坊や。あたしは子どもの戯言に付き合っていられるほど暇じゃないの」

 ……こいつは何を言っているんだ?

 受付嬢なら本格的な戦闘の経験は無くても、ある程度の実力や魔力くらいは感じ取れるはず……いや、それこそ冒険者ギルドの職員の話か。

 俺は窓口を破壊するのを我慢して王家の紹介状を見せた。

「紹介状なら持ってますよ」

「何これ? 見たことない紋章ね」

 いや、どう見ても王家の紋章だろ。

 田舎者の俺ですら書斎の本で見たことあるぞ。

 しかも、この女は文官ではなくても事務職の端くれだ。

 見たことないわけが……。

「間違いなく王家のはずですが……」

「はぁ……あのね、坊や。王家の紋章の偽造は重罪なの。死刑になってもおかしくないのよ」

 この阿呆は、どうして見たことない紋章を偽造と決めつけられるのか?

 そもそも、ギルドと名がつくからには、サインや紋章を照会する術はあるはずだろう。

 埒が明かないな。

「あんたでは話になりませんね。上の人間を呼んでください」

「はあ!? 何を言って」

「ら、ランドルフ様!?」

 唐突に労働者の一人が素っ頓狂な声を上げた。

 俺もつられて先ほど開かれた入り口のほうに注目する。



 王宮騎士に先導されて入ってきた人物には見覚えがあった。

 俺が顧問をしている商会の代表で、実家とも親交がある人物だ。

「ランドルフ殿、どうぞ」

「お手数をおかけします。護衛までしてもらって」

「いえ、問題ありま……イェーガー将軍!?」

 何故か騎士のほうが先に気が付いた。

「ん? おお、クラウスの坊ちゃんじゃないか。いや、今はイェーガー将軍か」

「どうも、ランドルフさん。将軍はよしてください。商会では俺が部下ですから」

「いやいや、そうもいかないさ。聖騎士ともなれば、こちらから御用商人にしてほしい相手だからね」

「はあ、そうっすか」

 俺はまだ膝をついたままの騎士に声をかけた。

「ええっと、そっちの王宮騎士さんは……どこかでお会いしましたか?」

「はっ、先日の将軍閣下と陛下の謁見の際、謁見の間前のホールにて警備を務めておりました。魔物の氾濫の日には鶏小屋前の戦闘で将軍の勇姿を拝見いたしました」

 なるほど。

 謁見の間前のホールには十数人の騎士が居たし、鶏小屋では百単位だ。

 覚えているわけがない。

 それにしても、いい加減に膝をついたままの姿勢はやめてくれないかね。

「そうでしたか。とりあえず、今は任務中ではないのでお気になさらず。立ってください」

「はっ」

 ここでランドルフが口を挟んだ。

「ところで、イェーガー将軍は何を?」

「ええ、実は廃坑の探索許可の申請に来たのですが、拒否されまして……」

 俺が視線を戻すと受付嬢は真っ青になって震え出した。

「い、いえ! その……まさかランドルフ様のお知り合いとは。それに将軍様とは露知らず……」

 ランドルフ商会は聖騎士よりネームバリューがあるのか?

 いや、下手をすると聖騎士という存在自体知らないのかもしれない。

「はぁ、まあ仕方ないだろう。大方、イェーガー将軍が紹介状を用意して無かったとか……」

「いや、紹介状は国王陛下に用意してもらったのですが、偽造を疑われまして」

 受付嬢が涙目で震え出した。

「そ、その件につきましては……た、大変……申す、申し訳なく」

 俺の話に聞く耳を持たなかったのは怠慢どころの話ではないが、こいつをいじめても仕方ないか。

 許可証と地図さえもらえば二度と土木ギルドに来ることはないだろう。

「もう、どうでもいいですから、とりあえず上の人間を呼んでください」

「は、はい! ただいま……」

 溜息をつこうとしたところ、突如、俺の耳に聞き覚えのある声が入った。

「騒がしいねぇ。いったい何事かねぇ?」

「わ、若様!」


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