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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編1年
37/232

37話 任命式

「デケェな……」

 王城といえば王都に来てから遠目に見るだけの豪華な建物くらいの認識だった。

 近くで見ると、改めてその貫禄に圧倒される。

「ご案内します」

 キンキラキンの馬車から降りて、案内の騎士に従いバカでかい門をくぐる。

 それにしても、この正装の窮屈さはどうにかならんのかね……。

 前世のスーツのようなスポーティ要素がどこにも無い礼服はひどく動きにくい。

「クラウス、ここで一旦お別れだ」

「しっかりね」

「粗相しないでくださいまし」

「刃傷沙汰はダメなのです」

 だから、理由もなく暴れないって……。



 謁見の間に向かうのは俺とデ・ラ・セルナだ。

 ほかの四人は宰相だか何とか卿だかのお偉いさんと会った後、別室で簡単に済ませるらしい。

 まあ、今回の功績から考えれば決して蔑ろというわけではないだろう。

 俺ごとき下級貴族の三男の面をわざわざ拝もうというのだから、寧ろ頭は柔らかいと言える。

 それに、フィリップたちと面会する連中も、先代オルグレン伯爵と知己であり関係も悪い奴らではないそうだ。

「では、行こうかの」

「はい、校長先生」

「こちらです」

 赤い絨毯が敷かれた広い廊下を進み、角を曲がり、直進し、曲がり、直進し、曲がり、直進し、曲がり……………………これ絶対一人では帰れないな。

「ご安心ください。帰りも案内の者を出しますので」

「あ、ども」

 俺は騎士を視界から外さないようにだけ気を付けることにして、デ・ラ・セルナに小声で話しかけた。

「(校長先生、謁見の作法とかあるんですか?)」

「(そうじゃの。陛下は歴代と比較しても、とりわけ礼儀作法には緩いお方じゃ。入場して面を上げろと言われるまで、わしと同じ姿勢で顔を伏せておくことくらいじゃの)」

 助かった。

 これで無礼者扱いからの大立ち回りは避けられたな。

 そんな会話をしているうちに、謁見の間に到着したようだ。

 今までで一番デカい扉が見える。

 ホールには多くの警備の騎士が立っている。

 だが、謁見の間の扉を守るのは……小さい…………猫?

 羽付き帽子にマントに長靴。

 レイピアを携えた猫だ。

 今は気にするのをやめて、ホールの端にある大きいカウンターのような場所へ向かう。

「こちらに武器をお預けください」

 一瞬迷った。

 今身に着けている武器は投げナイフと片手剣だけだ。

 サーベルを破壊されたので、代わりに故郷から持ってきた片手剣を差している。

 だが、“倉庫(ストレージ)”にはメインウェポンの大剣やクロスボウ、それに38口径リボルバーとデリンジャー、さらには投げ槍やナイフ類がどっさり入っている。

 全部出すべきなのか?

 剣はともかく銃は触らせたくない。

「(“倉庫(ストレージ)”は問題ないぞ。魔法の袋と今帯びている武器だけ預ければよい)」

 デ・ラ・セルナが教えてくれた。

 確かに、すぐに抜ける場所に武器を持っていなければ、国王や要人に攻撃を仕掛けても近衛騎士がどうとでもするか。

 魔術を放ったり“倉庫(ストレージ)”から武器を取り出したりするには時間がかかる。

 例え俺が攻撃を仕掛けても、近衛が突破される前に転移の魔道具などで国王を逃がすことはできるだろう。

「ありがとうございます。では謁見の間にお進みください」

 俺は片手剣と投げナイフと魔法の袋を預け扉の前に進んだ。

 自分の魔法の袋を預けたデ・ラ・セルナも横に並ぶ。

 そして、近づくにつれ猫の姿がよりはっきりした。

「ここから先が謁見の間ニャ。粗相のニャいようにするニャ」

 うお! 喋った。

 やはりこの猫は……。

「ケットシー……?」

「ん? 確かに吾輩はケットシーだニャ」

「陛下の召喚獣じゃよ」

 ほう。

 王様はケモナーか。

 確かに、なかなか手触りもよさそうだ。

「さて、行くかの」

 俺たちは扉の中に足を踏み入れた。



「っ!」

 謁見の間に入った瞬間、俺はわずかにだが戦慄した。

 玉座までの無駄に長い道の左右に並ぶのは、国の重鎮とはいえ、ごく普通の貴族たちだ。

 中には軍系の貴族もいるのだろうが、魔力は持っていても人並み程度がほとんどである。

 しかし、玉座のすぐ近くを固める近衛騎士のさらに隣に立つ人物は明らかに毛色が違う。

 外見は長い金髪のありふれた青年魔術師といったところだが、俺やデ・ラ・セルナを超える魔力を持っていることが感じられた。

 恐らく彼がもう一人の聖騎士だ。

 玉座に一番近い槍を持った近衛騎士も頭一つ抜けて腕利きだとわかるが、金髪の魔術師の気配はそれ以上だ。

 デ・ラ・セルナが立ち止まり膝をついた。

 俺も彼に倣い、騎士の最敬礼にあたるポーズで膝をつく。

「面を上げよ」

 デ・ラ・セルナを横目で見ながら、彼に続くように俺も顔を上げた。

 国王は40歳くらいの金髪碧眼のナイスミドルだった。

 金髪の青年魔術師のほうがイケメンではあるが、国王も前世ならハリウッド俳優でも通用するくらいの顔面偏差値だ。

「アレクサンダー・フランソワ・ド・ジェルマン・デ・ラ・セルナよ、クラウス・イェーガーよ。国賊の撃退と王都を襲撃した魔物の討伐、誠にご苦労であった」

 こうして俺の国王との初めての顔合わせが始まった。



「そなたと会うのは初めてであったの。余が37代目ライアーモーア王国国王のリカルド・ライアーモーアである」

「はっ、クラウス・イェーガーと申します」

 ほうほう、今の鷺沼さんは初代からそんなに代を重ねているのか。

「若いの。もうすぐ12になるか?」

「はい」

 ここまでは、シナリオ通りの挨拶。

 もしかしたら、年齢を聞くのではなく国王が覚えておいてあちらから言うだけでも、この世界では珍しいのかもしれない。

「今回の国賊の襲撃の阻止には、デ・ラ・セルナとその教え子であるクラウス・イェーガーとオルグレン伯爵、それに三人の学生が貢献したと聞いておる。そして、クラウス・イェーガーはとりわけ大きな戦果を挙げたと。相違ないか?」

「はい、陛下。ミスター・イェーガーが居なければ、王都に尋常ではない被害が出ていたと愚考いたします」

 そこまで聞いてリカルド王は俺に向き直った。

「事前の報告にもあった通り、そなたは現役の聖騎士でも単独では捌けぬほどの敵との戦いに貢献し、王都を救った」

 リカルド王は「単独では」を少し強調した。

 二人の聖騎士が揃えば大丈夫だったことを示し権威を保つためなのか、俺を妬む貴族を諌めるためなのかはわからないが、どうでもいいことだ。

 後者の効果をありがたく利用させてもらおう。

「その力と功績をたたえ、クラウス・イェーガーを我が国の聖騎士に任命し、聖騎士勲章を授けることを宣言する」

「はっ、ありがたき幸せ」

 謁見の間に歓声が響き渡った。



「それでは誓約を」

 宮廷魔術師が書類を持って来た。

 俺の前に机を置いて書類を広げる。

「『真理の机』起動。――“情報(インフォメーシ)開示(ョンリリース)”」

 魔道具をかざして起動させると、誓約書の横に広げた白紙に机の上にあるものの情報が浮かび上がった。

『高級紙、高級羽ペン、上質なインク』

 なるほど、怪しい魔力のこもった誓約書ではないというパフォーマンスか。

 そもそも「真理の机」とやらを俺が知らない以上、どこまで信頼性があるのか?

 まあ、やばい魔道具は変な魔力が感じられるから問題ない。

 その主観でも、このペンや紙は大丈夫そうだ。

「“分析”されますか?」

 唐突な問いに俺はデ・ラ・セルナを見た。

 彼は「徹底的にやれ」とばかりに強く頷いた。

 どうやら不敬にはならないようだ。

「――“分析(アナライズ)”」

 “分析”は毒の探知など自分に害があるかどうかを調べることができる。

 魔力の質を感知するという意味では“探査”にも近い。

 俺は風と無属性の複合のようなものと理解している。

「(おお、何と濃密な魔力!)」

「(凄まじいまでに精密な制御だ)」

 机、紙、ペンともに違和感は無かった。

 皮膚から浸透する毒や薬品、妙なガスが漂っていないか“分析”で調べたのだが、こういった科学的な知識自体、この世界には持っている人間がいない。

 それを意識して魔法を使いこなすだけでも、常人にはとてつもなく高度な魔力操作となるだろう。

 デ・ラ・セルナが貴族たちの前で披露させたのには、俺の力を見せつける意味もあったのだろう。

「そなたに誓ってもらうことは一つだけだ。国家間の紛争にライアーモーア王国がさらされたとき、敵国に与しないこと。そなたが我が国の聖騎士であることを周辺各国に知らせるなど我々が動くことは数あれど、そなたに強制することはほかに無い」

 行っていい場所の縛りなどが無いのは驚いた。

 元々、将軍の地位ともなれば、制約は少ないのだろう。

 仕事熱心な将官ならすぐに戻って来られない場所まで遠征にも行くのだろうし。

 さすが中世レベル、曖昧だ。

 俺は妙な魔力が紛れ込まないか警戒しながらサインを終えた。

 遠隔操作で強制(ギアス)系の魔術でも使われたらつまらない。

「これで、そなたは聖騎士の一員だ。『雷光の聖騎士』クラウス・イェーガー将軍よ。今後とも、そなたの活躍と王国への貢献を期待している」

「はっ」

 サインが終わり、先ほどより大きな歓声が轟くなか、リカルド王は俺の胸に勲章を付けた。

 ちなみに『雷光』の二つ名は、ワイバーンを撃墜したりボルグの置き土産の魔物に片っ端から撃ち込んだのを、遠目に見た騎士や宮廷魔術師が言い出したらしい。



「さて、イェーガー将軍。そなたの戦果は聖騎士勲章をもって表彰したが、今回の襲撃は王都の危機でもあったのだ。これを未然に防いだことは叙爵するのも吝かでない功績である。どうだ? 伯爵くらいにならしてやるぞ」

 この気安さ……。

 公式な話は終わりってことか。

 まだ謁見の間の中なんだけどな……。

 ほかの貴族の目もある。

「いえ、私では力不足でございます」

 何人かの貴族がほっとしているのは気のせいではないだろう。

 予めデ・ラ・セルナ経由で爵位は要らないと伝えておいたので、無理やり叙爵はないはずだ。

「ふむ、そうか。しかしそなたの功績に勲章と地位を与えただけでは余の矜持に関わる。

いくら勲章の年金と将軍職の基本給がそこそことはいえ、欲が無いのもどうかと思うぞ。ほれ、何か申してみよ」

 キャラ変わってねぇか?

 しかしこの流れはある程度予想していた。

 フィリップとも相談していたし対策はできている。

「では、土木ギルドへの紹介状をお願いいたします」

「うん? そんなものでいいのか。わかった、すぐに用意させよう」

 最初は普通に金を要求しようかと思ったが、すでに金の伴う報酬をもらっている以上、礼儀的にも貴族への印象的にもよろしくないらしい。

 舐められないようにと考えたり謙遜したり面倒なこった。

 土木ギルドに関しては、鉱石などの採掘をそのうち再開しようと思っていたからちょうどいい。

 武器が破損してからより重要な問題になってきたが、紹介状が無いといろいろ面倒とのこと。

王家が紹介状を用意してくれるのなら渡りに船だ。

 こうして俺は余裕で左団扇の勲章と地位を手に入れた。

「ああ、イェーガー将軍。聖騎士は冒険者ランクもまず間違いなく自動でSランクになるから、早めに冒険者ギルドに行くと良いぞ」

 そうだ、冒険者ランクの更新もしなければ。

忙しいな。


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