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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編1年
35/232

35話 運送ギルド

「ここが、フィリップの実家か……」

 どうも、クラウスです。

 私は現在、フィリップの実家であるオルグレン邸にやって来ております。

 見てください、この砦のような堅牢な城壁。

 まるで、廃墟の砦のようであります。

 そして何より、馬車の数が多い。

 今も多くの馬車が行きかっております。

 まるで車だけは立派な貧乏走り屋の溜まり場のようだ。

「クラウス、何か失礼なことを考えておらぬか?」

「……お前、エスパーだな?」

「えす……? まあ良い。運送ギルドは、この城塞都市の址を駐屯地としている。もともとは馬車を所有する商人の休憩所のようなものだったのだが、内部を本格的に改修し車庫やギルド本部、宿舎などを建設した。城壁や堀や立地はいざというとき商品や車両を守って防備を固めるのに現在でも利用されるというわけだ」

 確かに、広さは王都の城壁内部ほどではないし古臭いが、これだけ堅牢な造りならばそのまま基地として機能するだろう。

 貴重な商品や高価な車両を保有する団体の本拠地としては申し分ない。

「オルグレン邸は奥の方だ。ついてきたまえ」

 俺たちはフィリップの後に続き歩を進める。

 パウルは馬車を車庫に戻しに行っているので、フィリップに続くのは俺とレイアとマイスナーだ。



「ここだ」

 運送ギルドの中心部――屋台や車庫、整備資材が並ぶ場所――を抜け砦の奥まで来たところでオルグレン伯爵邸が目に入った。

 いかにも中世風の洋館といった佇まいだ。

 イェーガー士爵邸とは比べ物にならない荘厳で豪華な建物だ。

「こいつは……すげえな」

「まあ、郊外だからな。王都の上級貴族街で、この規模の居を構えるのは、侯爵以上でないと難しいであろう」

 なるほど。

 おそらく金の問題だけではないのだろうな。

 伯爵風情がとか、若造のくせにとか、隙あれば貶めるのが貴族あるあるだ。

 面倒なこった。

「若、無事であるか?」

「お館様、お帰りなさいませ」

 正面玄関で二人の男に出迎えられた。

 一人はいかにも執事といった雰囲気の初老の男性で、立ち振る舞いに隙が無い。

 彼が先ほど聞いた剣聖――エドガーとかいうフィリップの執事なのだろう。

 もう一人は立派な白い髭を蓄えたドワーフの老人だった。

「うむ、無事だ。それと、ロドス爺。私も一応当主になったのだ。若というのはやめてくれぬか?」

「そうであったな、伯爵様。だが、ついこの前まで赤ん坊だった気がするのであるよ」

「はぁ……敵わぬな」

 フィリップとはずいぶん親密な間柄のようだ。

 ドワーフの老人ということは、どんなに若くても100歳とか150歳以上か?

 先代どころか、もっと前からオルグレン伯爵家と関係がありそうだな。

 そんなことを考えているとエドガーとロドスが俺の前までやって来た。

「イェーガー様、この度はお館様の命をお救いいただき、誠にありがとうございます」

「我ら運送ギルド一同も伯爵様を助けていただき感謝しているのである」

 いきなり礼を言われてしまった。

「いえ、デ・ラ・セルナ校長が来なければ、俺もこの世にいなかったでしょう」

「ご謙遜を。その魔力に剣気。私が逆立ちしても敵いそうにございません」

「うむ、吾輩もエドガーが万に一つも勝てぬ者など初めて見たのである」

 え、俺ってそんなにやばいの?

「確かに、剣技はまだまだ発展途上ですし、魔力も完成してはおられないでしょう。しかし、それでもイェーガー様には隙がございません」

「隙?」

「はい。大陸有数の剣技を持つと自負する私でも、魔術による封殺には成す術がありません。ですが、イェーガー様は倒せる方法が見つからない。魔術による弾幕も接近戦も暗殺も確実に凌がれてしまう。あらゆる戦術に対抗できるということは、いかなる相手にも対応できるということです。一皮むければ史上最強の戦士となるでしょう。それこそ、勇者のような……」

 なるほどね。

 技能をランク付けするならSは無いけどすべてがAということか。

「エドガー、ロドス爺。すでに彼は最強の戦士として認定された。デ・ラ・セルナ校長先生曰く聖騎士への任命は確実とのことだ」

「な、なんと……」

「そうであるか……」

 あれ、ちょっと引かれた?

「イェーガー殿! これからもオルグレン伯爵とのお付き合いを、よろしくお願いするのである!」

 ええー!?

 どしたの? 

 ロドスさん。

 さっきより歓迎ムードだよ。

「吾輩は文官であり商人である。利益になる人物にはすり寄るのが当然である」

「ぶっちゃけたな、おい!」

 なんともまあ現実的な爺さんである。

「イェーガー様はお館様のかけがえのない友人でございます。是非、今後とも変わらぬお付き合いを」



 さて、翌日の朝。

 俺たちはオルグレン伯爵邸の客間に泊めてもらい、目が覚めたわけだが…………まぁ落ち着かない。

 ホテルのロビー並に広いのはまだいい。

 だが、いかにも高級そうな壺やら燭台やらに囲まれて寝るのはひどい苦痛だ。

 ちょっと触れただけで砕けてしまいそうなインテリアが一体いくらするのか、恐ろしくて想像すらできない。

 訪ねるだけならまだしも一夜を明かしたり寛いだりするには最悪の環境だ。

 目覚めの気分も最低。

 しかし万一があってはいけないと思い、俺はかつてないほど魔力を慎重に制御し、体から漏れないようにする。

 王都に戻るまでまだ日にちがある。

 それまで、ずっとこの部屋では耐えられそうもない。

 ギルドの宿舎に部屋を確保してもらおう。

 そんなことを考えていると、扉がノックされた。

「おはようございます、イェーガー様」

「ああ、おはようございます、エドガーさん」

「朝食の用意ができております……どうかされましたか?」

 ちょうどいい。

 相談してみるか。

「いや、実は高そうなものに囲まれて落ち着かなくて。明日からはギルドの宿舎にお世話になろうかと」

「……そうでございますか。お館様は残念がるでしょうが、ロドスに相談されては? 朝食の席におりますので」

「そうか、ロドスさんもいるのか」

「はい。(……相談する暇があるといいですね)」

 最後の呟きははっきりと聞こえなかった。



「クラウス、遅いぞ」

 朝食の席にはすでに全員揃っていた。

 しかし……なぜパウル君がいるんだ?

 しかもすげえ緊張感。

 パウル君が項垂れているが何かやらかしたのか?

 マイスナーがこんな蒼い顔をするのはあのトロールキングの時以来だな。

「クラウス、話はパウルから聞かせてもらった。どうやら本物の『カタストロフィ』の正体は貴公とパウルだったようだな」

 そっちか!?

 まあ、そういうことになるのか。

「聞けば貴公は、魔法学校に入学するため王都に来る道すがら、盗賊を虐殺し魔物を狩り尽くしていたそうではないか」

「ちょっと待て。あのとき俺がぶっ殺した盗賊は六人だけだぞ。それに魔物だって自分から狩りに行ったわけじゃない」

「はぁ……問題はそこではない。あまりにも強い集団の正体が不明だということだ。我々がカタストロフィを名乗って行動した結果、トロールキングやらグリフォンやらが居付いた場所に誘い込まれたのは覚えているな? 私が事前に知らなかったことからも、ほかの派閥の貴族たちが本気で妨害に来たとわかるだろう。もう奴らは処分を下されておとなしくなってはいるが……。それだけ本物(・・)のカタストロフィは脅威だということだ」

 なるほど。

 確かに、宮廷魔術師顔負けの魔力量にものをいわせて、強力な“風刃(ウィンドカッター)”をぶっ放しまくったからな。

 そんな奴らが、どこの馬の骨とも知れないのでは、住民も騎士団も不安か。

 ボルグのアンデッドとの関係を疑われてしまうわけだ。

「この件はマイスナー大尉から上に報告してもらう。クラウス・イェーガーが『旦那』の正体であり魔術も貴公が放ったものとな」

「ああ、わかった。マイスナー大尉、よろしくお願いします」

「任せてくれ。(仕事増えちまった……)」



「旦那、すんませんでした。俺が言い出せなかったばっかりに」

「いや、パウル君のせいじゃないさ。俺がカタストロフィとアンデッドのつながりを示唆した奴を炙り出せると思ってかき回しちまったんだ。それも結局、誰のせいでもない。噂に尾ひれがついただけの話だった」

 フィリップのお説教が終わり俺はロドスとパウルに運送ギルドの内部を案内してもらっている。

 パウルはまだ自分がカタストロフィの片割れだと言い出せなかったことを悔やんでいるようだが、もう解決したことだ。

「それより、ロドスさん。この運送ギルドの構成員は、やはりドワーフの方が多いんですか?」

「そうであるな。個人で持つ馬車で商売をする者はいまだにそれなりの数がいるが、そのほとんどが二、三か所の街を行動範囲とする小さい商会である。長距離を運ぶならば積載量も速度も我々ドワーフの馬車以上のものはない故に」

 なるほど。

 個人の馬車で商品を運ぶのは、現代でいえば乗用車や軽トラで運ぶようなものか。

 そんな会話をしながら整備場を通り過ぎると、見慣れない建物が目に入った。

 砦の址を利用しているので、城壁内部にも空き地になっているような場所はそれなりにある。

 だが、目の前の建造物は、周りは片付いているのにポツンと取り残されている印象を受ける。

「ロドスさん、あれは?」

「あれは元醸造所であるな」

 醸造!?

 ドワーフは職場で酒を造っているのか?

「旦那、何で俺を見やすか?」

「いや、そういえば仕事中でも飲みそうなのがいたと思ってな」

「さすがに酒が残ってちゃあ馬車の運転ができないですよ」

 この世界にも飲酒運転があるのか。

 刑罰があるかは不明だが。

「元と言ったであるな。もう使われていないのである」

「出来る酒の質が悪いとか?」

「いや、コストが割に合わないのであるな」

 見たところ、この装置は稼働に魔術や魔道具を多用する設計だった。

 相当古い物のようだ。

 確かに、“醸造”の魔術は魔力の効率が悪い。

 一般的な魔術師だと、魔力が切れるまで頑張っても晩酌で自分が飲む分くらいしか作れない。

 安いワインなら賤貨で買えるのだ。

 自作する必要はまずないだろう。

「優秀な錬金術師に改良してもらえば使い物になるらしいが、素材もかなり貴重な物が必要とのことである。醸造設備の復元にそんなにつぎ込む者はいないのであるな」

 そうか、現段階では使い物にならないと。

 だが、酒造は俺が昔から副業として考えていたものだ。

 いずれはこういった設備のことも考えてみてもいいかもしれないな。


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[良い点] ノクターン版から作者追いかけこちらに。うーん、まだなんか読むの辛い。まだ前半だからこれからに期待。いや期待大。ノクターン版のパワーつうか勢いに期待。
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