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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編1年
34/232

34話 戦いの結末

 置き土産の魔物の殲滅を終えた俺とデ・ラ・セルナは、未だ気を失ったままのフィリップたちのもとに戻ってきた。

 先ほどの大掃除は、ほとんどが魔術の連発で片が付いた。

 “落雷(サンダーボルト)”の餌食だ。

 魔力を節約するために広範囲殲滅系の魔術などの使用を控えたこともあるが、どういうわけか“落雷(サンダーボルト)”の効率が非常に良くなっていたのだ。

 魔力量も、またずいぶんと増えた感じがする。

 今こうしている時間の回復量も前より明らかに多い。

 デ・ラ・セルナ曰く魔力量の増加は激しい戦闘を乗り越えた故の成長でしかないが、“落雷(サンダーボルト)”の効率アップは『覚醒』の兆候らしい。

 なんでも、魔術の属性による適正が云々とのことで、いずれ説明してくれるようだ。

 何はともあれ、まずはフィリップたちの治療だ。

 三人は前にレイアが使ったものより強そうな結界の中に横たわっている。

 俺とボルグの戦闘に介入する前に、場所を移して結界を張ってくれていたのだろう。

「さて、ミスター・イェーガー。この者たちは“マナドレインミスト”を受けたと言っておったな。ならば、魔力も回復してやる必要がある。“ハイヒーリング”を使うのじゃ」

 デ・ラ・セルナは結界を停止させながら俺に指示を出した。

 上級治癒魔術“ハイヒーリング”は身体魔力を生み出すのを促進する効果がある。

 魔力の回復量としては微々たるものだが、今回のように魔力を完全に吸い取る攻撃を受けたときの治療としては一般的な方法だ。

「了解です。精霊の言霊、命の躍動、傷つきし彼の者に慈しみを覚える者よ、高貴なる御救いを与えたまえ――“ハイヒーリング”」

 俺が手をかざしたフィリップは全身を青白い光に包まれ、ゆっくりと目を開けた。

「むにゃ……無事、か?」

 おい、ヤローに蕩けた表情で心配されても嬉しくねぇよ。

「レイ、ア」

 あ、そっちか……。

 幸せそうな表情しやがって。

 俺は上空に向けて銃をぶっ放した。

「うおっ! く、クラウス、奴は? ボルグはどうなった?」

「残念ながら逃げられたよ」

 デ・ラ・セルナが治癒魔術を掛けたレイアとマイスナーも目が覚めたようだ。



「そうか……。魂魄は奪われ、黒幕を捕らえることは叶わずか……。」

「ああ、分断された状態でやり合って命があっただけでも幸運だがな。収穫は無い」

 俺はフィリップたちに申し訳なく感じた。

 戦線を離脱してしまった以上、文句は言わないだろうが、奴を逃がしたのは俺の詰めの甘さが原因だ。

「いや、ミスター・イェーガー。収穫が無いわけではないぞ」

デ・ラ・セルナが俺の言葉を否定した。

「一連の騒動で黒閻の動きがあることが確実になった。実際にわしが本人と交戦し、直接被害を受けた貴族が居る以上、王国も本腰を入れて捜査を始めるじゃろう」

「うむ、このことは国王陛下に直接伝える必要がある。実際に戦ったのが貴公と校長先生だけで被害者も関係の近い我々では、危機感の足りぬ阿呆どもは足を引っ張るであろうが、無視はできまい」

「そうね。ディアスのことは表沙汰にはできないでしょうけど、校長先生の魂魄が奪われたことはさすがに重大な危機とみなすはずだわ」

 なるほど。

 王国の支援を受けられるだけでも前進か。

「マイスナー大尉じゃったな。お主の報告も重視されるであろう。しっかり頼むぞ」

「やっぱりそうなりますか……。わかりましたよ。上と話すのは億劫ですが、俺もあと少しで命を落とすところでしたから、しっかり煽ってやりますよ」

 どうやら、ここから先は上級貴族様と大人たちに任せていいらしいな。

「さて、それではわしは報告に戻るかの。ミスター・オルグレンは一度実家に戻り王宮へ連絡じゃな。マイスナー大尉の報告もミスター・オルグレン経由で先触れを出してもらえるかの?」

「はい、お任せを」

「すまねえ、世話になるぜ」

 そこで、デ・ラ・セルナが俺とレイアに振り返った。

「そうじゃ、ミスター・イェーガーとミス・レイアも匿ってもらわんか?」

 匿う?

 どういうことだ?

「今回の件はお主たち全員のお手柄じゃ。特にミスター・イェーガーがボルグの置き土産どもを片づけてくれなかったら王都の被害は尋常ではなかったはずじゃ。しかも最初の襲撃での騎士団の疲弊を考えれば、王都が半壊してもおかしくはなかった」

「叙爵されるということですか?」

「ああ、バイルシュミット殿の援護のときだけでも十分すぎる戦果だ」

「なるほど。王都を襲うはずだった数千体の魔物を討伐したとなれば、妥当だわ」

 え、うそぉ!

 爵位とか貰えるの?

 士爵家の出とはいえ俺は三男。

 普通に冒険者とランドルフ商会の開発者で暮らしていこうかと思っていたのに。

 ……だが、調子に乗ってノリで受け取っていい物ではないな。

 俺の場合、まず間違いなく厄介な領地を押し付けられる。

 褒賞という形をとりながらも、結局のところ意味するのは王国への献身を義務として最前線で肉の壁をやれってことだ。

「いや、わしは聖騎士への任命もあり得ると思っておる」

 その言葉に、俺たちは固まった。

「クラウスが……聖騎士に、ですと?」

「やだ……それって……」

「ああ……史上最年少の聖騎士てぇことに」

 マジかい……。

「実際、ミスター・イェーガーの魔力量はわしに追いつきつつある。しかも、『覚醒』が近い。すでに魔力の効率では運用次第でわしより強力な殲滅力を発揮できるのじゃ。おそらく国王陛下もすでに任命を考えているはず」

 そうか。

 宮廷魔術師団に思いっきり披露してしまったからな。

「実はわしも推薦しようと思っておる。はっきり言って王族が妨害しても任命は確実じゃな」

「ええ~!?」

「もともと聖騎士とは強大な戦力を他国に取られないようにする方策じゃ。わしなりの王国の危機管理でもあるのじゃ。諦めい」

 そういえばそんな話だったな。

 誓約が騎士の誓いよりむしろ、他国との紛争の際に敵側に味方しないことって時点で、腫れ物のような扱いということだろう。

 爵位を受け取らず聖騎士にだけなれば、意外といい身分かもしれない。

「まあ、そういうわけじゃ。今お主たちが凱旋したら騒ぎになる。体も休めたいじゃろうし、オルグレン伯爵家に匿ってもらうと良い」

「そうですな。では、二人のことは引き受けました。メアリーとファビオラのことはお願いしても?」

「うむ、任せるが良い」



 フィリップが迎えの馬車を通信用の魔道具で呼んだ。

 豪華な当主専用の馬車ではなく、運送ギルドの速度重視の物を呼んだからすぐに到着するらしい。

「オルグレン伯爵家って運送ギルドの担当だったのね」

「そういえば、言ってなかったな。そうだ。当主が武官気質なのは輸送部隊が戦時では重要なポジションを占め、自ら敵を打ち払えなければならないからだな」

「それはあまり関係なくねぇか……。まあ、先代が剣聖エドガー殿を抱えていた時点で伯爵様がいかにも武官なのは納得だが」

「剣聖?」

「ああ、レイアちゃんは生粋の魔術師だから知らなくても無理はねえ。オルグレン伯爵家の執事……というか家令か? フィリップ殿の剣の師匠で元Sランク冒険者だった男だ。冒険者を引退してオルグレン伯爵家のお抱えになってずいぶん経つが、剣を扱う者なら誰でも――それこそ騎士も――憧れる伝説の剣士だな」

 フィリップの執事っていうとあれか、数学を無理やり取らせた教育ママ。

「魔力量の差で何とか勝負にはなるが、私ではまだまだ勝てぬよ」

「ふーん。俺でも勝てないかな?」

「……さすがにエドガーはそこまで人外ではないと思うぞ」

「だな。魔術無しでは苦戦するかもしれねぇが、聖騎士に勝てたらそれこそ魔王か勇者だろ」

「そうね」

何か扱いひどくね!?

「お、馬車が来たな」

「早いわね。……クラウス、どうかしたの?」

 何の変哲もない馬車。

 いや、車輪や車軸に中世にしては複雑な改良が施されているのはわかるが、俺には何か別の違和感があった。

 どこかで見たような気がするのだ……。

 そして御者台から降りてきた男のおかげで全ての疑問が解けることになる。

「お、オルグレン伯爵様。エドガー様の命によりお迎えに上がりました」

「緊張せずとも良い。業務の途中で済まなかったな」

「い、いえ。滅相もねぇ……無いです」

 あれ?

 このドワーフは……。

「ん? 旦那! イェーガーの旦那じゃないですか。俺ですよ、俺」

「もしかして、パウル君?」

「そうです! いやぁ、奇遇ですね旦那」

 思い出した。

 王都に来るのに父アルベルトが用意してくれた馬車の御者だ。

「なんかすげぇ戦争の後みてぇな地形でしたけど、旦那が原因でしたか。こりゃ納得でさぁ」

 おい!

 俺の印象どうなってんだよ。

 眉間を抑えていた手を放しフィリップたちを見ると、全員が唖然とした表情で俺を見ていた。

 どしたの?

「旦那ってぇと……まさか……」

「もしかして、あなたたちが……」

「貴公が、『カタストロフィ』だったのか?」

 ……………………あ!

 やっちまった。




 薄暗い洞窟とも坑道とも知れぬ場所に瀕死の男がいた。

 黒閻の大幹部にして『冥帝』の異名を持つ男ボルグだった。

「はぁ、はぁ、はぁ…………ぐぅぅ……」

 ナイフで傷口から異物を抉り出し、ようやく息をつく。

 先ほどまで噛み締めていた革が口から落ちた。

 足元には指先ほどの鉛の塊が複数転がっている。

 クラウスが放った銃弾だ。

「くっ……――“ヒーリング”――“ヒーリング”――“ヒーリング”」

 繰り返し掛けられた初級治癒魔術のおかげで徐々に出血量は減っていく。

 ボルグの力量をもってしても、まともな精神集中ができず、一気に上級治癒魔術で治療できないのだ。

「くそっ、小僧め……」

 初級治癒魔術の重ね掛けで痛みが引いてきたらしく、ボルグは落ち着いて上級治癒魔術を詠唱した。

「ふう……」

「無様だな」

 唐突に闇の中からボルグに声がかけられる。

 本来なら、即座に武器を構えるところだがボルグは眉を顰めただけだった。

 声の主が誰か知っていたからだ。

「貴様らはオレを笑いにきたのか?」

「まさか。あんたが死ぬ前に情報を聞きに来ただけだよ。あたいに尻拭いのお鉢が回ってくることもあり得るからね」

「揃いも揃ってご苦労なことだ」

 暗闇から姿を現した人物は二人。

 一人は黒やグレーを基調とした禍々しいローブを着た魔術師風の男。

 もう一人は皮鎧にレイピアを携えた軽戦士風の女だった。



「で、イシュマエル様の魂魄は手に入れたのだな」

「ああ、これだ」

「ふん、せっかく集めた生贄の魂や我の魔道具を浪費したのだ。当然であろう」

 魔術師の男エルアザルは引ったくるように魂魄を受け取った。

 ここで軽戦士の女ロベリアが口を開いた。

「で、あんたをこんなザマにしたのは誰なのさ? まさかデ・ラ・セルナのじじいにやられたってんじゃないだろうね」

 ボルグは忌々しそうに答える。

「クラウス・イェーガーとかいう魔法学校の学生だ」

「ぷっ……アハハっ! 何だいあんた。ガキにやられたって?」

 嘲笑するロベリアに対し、ボルグは真顔で告げる。

「……奴は危険だ。ロベリア、貴様では勝てん」

 それは至極、当然の分析結果だった。

 自身の慢心しやすい性格を熟知していないボルグですら、クラウスの戦闘力が自分を上回っていることはわかる。

 見たことのが無いはずの凶悪な闇魔術をもって隙をついて畳みかけたにも関わらず仕留めきれない。

 デ・ラ・セルナの援護があったとはいえ、本来なら加勢される前に片づけられる予定だったのだ。

 しかも、クラウスはボルグと数合斬り結んだだけで適応し、大きく成長した。

 もし次に戦うことがあっても、勝てる気がしない。

 だが、ボルグの忠告を挑発と捉えたロベリアは笑いを引っ込め、据わった目で睨みつける。

「おい、ボルグ。あんた、あたいがガキなんぞに負けるってのかい?」

 ボルグはロベリアの眼光を真っ向から受け止める。

 正面から斬り結んだ場合の腕はボルグの方が遥かに上だ。

 ロベリアにも今の自分の態度が、虚勢を張っているだけだということはわかっていた。

 だからこそ引っ込みがつかない。

「やめんか」

 今まで黙って聞いていたエルアザルが口をはさんだ。

「ロベリア、計画は予定通り進める。役割はわかっているな」

「…………」

 ロベリアは答えない。

「ロベリア!」

「……ちっ。わかってるさ」

 エルアザルはボルグに向き直る。

「ボルグ、お前はそのイェーガーとかいう男のことを詳しく話せ。それと……この兵器のこともな」

 エルアザルはボルグの血が纏わりついた弾丸を拾った。


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