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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編1年
33/232

33話 決着

「――“(ブライン)(ドサンド)”」

「ウラァァ!!」

 デ・ラ・セルナが砂嵐でボルグの視界を塞ぐのと同時に、俺の剣閃が地面を抉りつつボルグを呑み込む。

 キンッ!

 俺が気配を感じた方向に向き直り大剣を構えなおすのと同時に、ボルグの斬撃を凌いだデ・ラ・セルナが視界に入る。

 いつの間にかデ・ラ・セルナの手にはクレイモアが握られており、ボルグのロングソードを危なげなく弾いている。

 ボルグのほうも先ほどの攻撃で無傷ではなかった。

 服が裂けており泥をかぶっている。

「――“電撃(エレクトリックアタック)”」

 デ・ラ・セルナとボルグの距離が少し空いた隙に、電撃を最高出力でたたき込む。

「ぐぅ……」

 魔法障壁は咄嗟に張ったようだが、すべてを躱しきれたわけではなさそうだ。

 先ほどの剣閃のダメージが残っているのも、影響しているかもしれない。

「くそっ!!」

 正面から俺たちを同時に相手にするのは不利と悟ったのか、ボルグは魔晶石の欠片のようなものを地面にばらまく。

 次の瞬間には、それぞれの欠片から魔物が召喚される。

 どうやらボルグは魔物の軍勢を盾にするつもりのようだ。

「そうは問屋が卸さん。――“爆破(エクスプロージョン)”」

 この中級火魔術は照準がひどく難しいように思える。

 “(フレイム)(ランス)”を使ったほうがはるかに正確なピンポイント爆撃ができるのだ。

 本来なら“(フレイム)(ランス)”は爆発などしない。

 俺の“(フレイム)(ランス)”が爆発するのはミサイルのようなイメージがあるからだと推測している。

 この世界では「爆発」という現象のイメージ自体、この“爆破(エクスプロージョン)”の魔術が限界なのであろう。

 では、俺にとって“(フレイム)(ランス)”の劣化版ともいえる魔術をあえて使用する意図は何か?

 その答えはボルグの次の行動で明確になった。

「おのれ……」

 ボルグは迷いなく上空へ退避した。

 “(フレイム)(ランス)”ならば軌道を見て横に逃げることも可能だっただろうが、“爆破(エクスプロージョン)”では正確な発動位置が分からない。

 とにかく今の地点から離脱するためには、跳躍の過程とはいえ一度は斜め上に行かなければならない。

 当然、その隙を逃すデ・ラ・セルナではなかった。

「ぬんっ!」

 デ・ラ・セルナがクレイモアを唐竹に振り下ろす。

 俺はデ・ラ・セルナの追撃をするように魔術を発動した。

「――“冠水(スプラッシュ)”」

「くっ、小賢しい真似を……」

 滝のような水流が、デ・ラ・セルナの斬撃をロングソードですんでのところで防いだボルグに降り注ぐ。

「――“電撃(エレクトリックアタック)”」

「っ!」

 ボルグが召喚した魔物だけでなく、叩き落とされた本人も今は地に足をつけている。

 要は、足元は水浸しというわけだ。

 そこに電流を食らえばどうなるか。

 結果はご想像の通り…………のはずだった。



「ふぅ……今のは危なかったぞ。さすがに『砂塵の聖騎士』が共に戦うことを認めるだけはあるな」

 すんでのところで躱されたか……。

 水に濡らして感電させる作戦を見切られるとは、本当に厄介な奴だ。

 上を俺たち二人に塞がれている以上、普通なら攻撃に気づいても二次元で避けるはずだ。

 電流が水に沿って走ることを知っていたのかもしれない。

「クラウス・イェーガーか……。貴様はイシュマエル様の覇道を阻む者となり得る」

 どうする?

 魔力の残量にデ・ラ・セルナの古傷。

 それに、フィリップたちの不在。

 余程のことが無いかぎり敗北はあり得ないが、このままでは逃げられる可能性がある。

 何とか、奴の不意をついて仕留めきれる作戦を考えなくては……。

 銃を当てられる状況を作り出すには、ボルグの動きを止めるか視界を塞ぐしかない。

 ボルグの予想より大きな範囲や威力を持つ目くらましは何か?

 定石では爆発。

 この世界ではメジャーではない原理によって、規模を拡大されるものといえば核爆発。

 だが、放射線の影響や処理が可能かどうかわからないうえ、爆発を制御に関しても予測できない以上、原爆や水爆関係は却下だ。

 そうなると、ほかに可能性がありそうなのは……粉塵爆発……いや、水素爆発……。

 そうだ、水素爆発だ!

 これなら奴の予想外の攻撃範囲だ。

 作戦は決まった。

「(校長先生、俺の上級魔術に合わせて奴の足止めをお願いします)」

「(うむ、何か策があるのじゃな)」

「(はい)」

 俺は一旦、大剣を“倉庫(ストレージ)”に仕舞った。

 今からやろうとするのは上級水魔術“津波(タイダルウェーブ)”と“落雷(サンダーボルト)”に風魔術による気流操作の同時展開だ。

 水の電気分解による水素の抽出を魔術で行うことはすでに成功している。

 イメージ次第だが“津波(タイダルウェーブ)”が海水ならば電気も通りやすいはずだ。

 もっとも、その場合はもう一つの生成物が酸素ではなく塩素になる。

 そもそも海水や水酸化ナトリウム水溶液でなくとも電気分解の調整くらい魔術でどうにでもなる。

 魔力云々という概念がある世界で、精製水並みの純水を無理やり分解しているのか雷の魔術を通りやすくする物質を生み出しているのか、気にするだけ無駄だろう。

「“(ロック)(スピア)”」

 デ・ラ・セルナが並列起動した石の槍が時間差で数十個、ボルグめがけて撃ちだされる。

「“ペインバースト”」

 案の定、ボルグは戦闘の継続は不利とみて、デ・ラ・セルナの体力を削る作戦で来た。

 連携を取れなくして、大規模な攻撃を撃たれる前に機動力を奪い、逃げるつもりなのだろう。

 魔法障壁で“(ロック)(スピア)”で防ぐ傍ら、デ・ラ・セルナに闇魔術を放ってきた。

 だが、この程度で止まる聖騎士ではない。

 デ・ラ・セルナはわずかに顔を顰めただけで、次の魔術の詠唱を終えていた。

「――“メテオバースト”」

「くそっ……」

 見たことがない大規模な土魔術だ。

 雲の上から極限まで加速した隕石のような岩塊が大量に降ってくる。

 おそらく最上級に分類される魔術なのだろう。

 これでも範囲を絞ったようだ。

 本来の規模で放てば一軍を崩壊させられる威力だろう。

 一点集中型ではないとはいえ一発でも食らったらボルグも無事では済まない。

 魔法障壁を全力で張り防戦一方だ。

 俺は隕石群による攻撃が止むのと同時に、練り上げていた魔術を発動した。

「バカめ、同じ手がオレに通用すると思うな!」

「ミスター・イェーガー!」

 ボルグは迫りくる津波から危なげなく離脱した。

 一拍遅れて数条の“落雷(サンダーボルト)”が水に撃ち込まれる。

「残念だったな、小僧……ぬっ、小賢しい!」

 ボルグが感電を避けた後も魔力による干渉を切らさず、空気より軽い気体をその場に留めていた俺は“火弾(ファイヤーボール)”を放った。

 直後、ボルグの周辺で大規模な爆発が起きる。

「何だと、こんな……魔力は……」

 俺は油断することなく爆炎越しに回り込み38口径リボルバーを連射した。

「ぐぅ……」

 ボルグは腹部から血を流しながら地面に突っ伏した。

 ある程度の熟練の戦士ならば魔術が発動されるときの魔力の量で、どれだけの威力を持つものか嗅ぎ取ることができる。

 例えば、数センチの小さい火の玉が着弾後に大爆発を起こすようにしても、一定以上の力量を持つ者にはバレるということである。

 だが、この水素爆発は起きる前後でそこまでの魔力が注ぎ込まれた気配はしない。

 しかも、先ほどの「水に濡らして感電作戦」の二番煎じだという先入観を植え付けるのにも成功した。

 水を掛ける過程と電流を放つ魔術を両方ともより大規模なものに置き換えたのだ。

 途中まではデ・ラ・セルナですら騙されていたようだ。

 まあ、実際に銃弾を撃ち込めた以上、苦労した甲斐があったってものだが。

 さて、こいつをどうしてくれようか……。



「(“ブラッドミストパペット”)」

 小声で呟かれた呪文に、倒れたボルグに警戒の視線を向けるも、本人からは何もしてくる気配が無い。

「ミスター・イェーガー! 後ろじゃ!」

 デ・ラ・セルナの警告とほぼ同時に、背後に不穏な気配を感じた俺は、サーベルを抜き放ちざまに斬りつける。

「ぐっ、何だこいつ!?」

 目の前に現れたのは人型の赤黒い霧のような物質だった。

 両断したはずの霧は、何ら影響を受けていないように見える。

「くっ」

 バックステップで霧のパンチを避け、デ・ラ・セルナの援護の射線を確保する。

「――“(セイクリッド)(ジャベリン)”」

 再度、腕を振り上げ攻撃に移ろうとしていた霧が、デ・ラ・セルナの聖魔術で浄化された。

「敵の攻撃によって流れた血を媒体にしたゴーレムのようなものじゃな。今のでボルグ本人には……」

 俺はボルグに慌てて視線を戻すがそこにはすでに何も無かった。

「転移用の魔道具で逃げられたようじゃの」

 畜生、逃がしたか……。

 聖騎士の宿敵である黒閻の幹部と戦って生き残ったのだから、傍から見たら幸運だが今回は仕留めるつもりだった。

 腹に鉛を撃ち込んだからといって油断したのがいけなかった。

 今考えれば確実に無力化した保証がないのに、捕縛するかどうか逡巡するなど言語道断だ。

 きっちりとどめを刺すべきだった。

「まあ、ミスター・イェーガーもこれで『黒閻』がどんな奴らかわかったじゃろう。それだけでも収穫かの。それよりもお主、武器が一つお釈迦になってしまったの」

 そこまで言われて気づいた。

 俺のサーベルの刀身がほとんど無くなっている。

 先ほどのブラッドミストパペットのせいだろう。

 いくら業物とはいえ所詮は鋼鉄製。

 魔力耐性など無いに等しい。

「サーベルは警備隊の鹵獲品を譲ってもらった物なので、新しいのを買えば大丈夫です。問題は……」

「うむ、奴の置き土産の始末じゃな」

 俺は壊れたサーベルを“倉庫(ストレージ)”に仕舞い大剣を取り出し、ボルグが召喚した魔物の群れに向き直った。

 すでに目の前まで千を超える魔物が迫っている。

 これは下手したらダンジョンや鶏小屋に現れた数と変わらないんじゃないか?

「ミスター・イェーガー、任せてもいいかの? 奴の“ペインバースト”の影響もきついのじゃ」

 そういえば、デ・ラ・セルナは俺と違って古傷に受けていた。

 長い間にわたって引き摺る怪我に闇魔術を掛けられたのだ。

 痛みは桁違いだろう。

「了解です。お年寄りは寝ててくださいな」

「うむ、苦労を掛ける」


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