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3話 いろいろと実践

 4歳になると剣術の稽古が始まった。

 騎士としての仕事をしている以上、アルベルトの剣術は巧みで、前世アサ○ンクリードシリーズはクリアしてきたものの、剣道やフェンシングの経験のない俺は相手にならなかった。

 この世界の剣士は強い。

 鍛錬次第では一瞬で間合いを詰め、鎧を断ち切る斬撃を放つことができる。

 魔術が存在するのだから驚きはしないが、果たして俺に習得できるのであろうか?

 父曰く才能は有るらしい。

 ならば信じてみよう。

 今は前世ではあまり縁のなかった体力づくり、戦闘訓練をしっかりこなし来たるべき魔物との戦闘に備えるのだ。


 この国では剣術の流派といったものは特に存在しない。

 父も王都の騎士だったころに騎士団の指南役から一通り教わった程度だそうだ。

 そもそも騎士や兵士のメインウェポンは剣ではない。

 ほとんどの兵士が槍や弓を使い、一部に斧や大剣を使う人間がいる程度だ。

 それもそのはず、リーチが長い方が簡単に相手を攻撃できるからだ。

 龍族という種族の間では未だに古流の剣術の型があるそうだが、生半可ではマスターできるものではなく人族には普及しなかったそうだ。

 本で調べた限りでは大剣や龍刀と呼ばれる片刃の両手剣を使う、傭兵のような仕事を生業とする者が多い種族らしい。

 この龍刀というのはどこか日本刀くさいが……。

 ところで、アルベルトの動きに対応する魔力は強化魔法を卸しているというより自然に絡みつく程度であるし、剣閃も魔力を飛ばしているのではなく真空波が発生しているような感じだ。

 イメージ次第で超えられそうな予感がするが慢心だろうか?

 だが、アルベルト曰く末端の兵士ではまず剣閃を飛ばしたり、魔術を弾いたりなどできない。

 それができるということは、もしかしてアルベルトは相当強いのではないか?

 あまり過去を語るタイプではないが聞けば答えてくれるかもしれない。

「父様って王都でもかなり強いほうだったのですか?」

「いや、そんなことはない。近衛騎士団や警備隊の指揮官クラスには、私くらいの使い手はごろごろいる」

 それでもすごい。

 近衛騎士ということは、前世でいえばSPだろう。

 確か柔道か剣道三段以上が最低条件だったはずだ。

「……お前は成人前に私を軽く超えそうだがな」

「本当ですか!?」

「鍛錬を怠らなければ」

 そうだった。

 生前の俺は怠け者だった。

 気を引き締めていかねば。

「ま、お前にはそんな心配は無用だろうがな」

 あれ、俺ってひょっとして勤勉な息子のように映ってる?


 この領地の裕福さは並といったところだ。

 前世の観察スキルをもって、出会った領民を注意深く観察したが、敵意は感じられない。

 冒険者ギルドまではないが一応宿屋や市場もあり、月に数回は商隊がやって来る。

 家の食事も現代日本と比べれば落ちるものの、ひどくさもしいものではないことから貧困のどん底ではないと判断していいだろう。

 しかしながら、次期当主バルトロメウス兄さんの補佐役である次男のハインツ兄さんも、空いた時間に 弓を携え森へ野生動物を狩ったり山菜を採取したりするあたり決して左団扇というわけではないようだ。

 バルトロメウス兄さんはともかく、ハインツ兄さんは明らかに文官タイプだ。

 趣味だけで狩猟をするキャラではないだろう。

 自分も森へ行く許可を求めたところあっさりと父は認めた。

 4、5歳の子どもに対してずいぶん楽観的だと思ったが、もしかしたら魔法のことを知っているのかもしれない。

 だが、危険な大型動物には手を出さず、すぐに逃げて帰るように釘を刺された。

 剣と弓の訓練はしているので魔法がなくても野犬くらいなら対処できるが、まだ魔物に喧嘩を売る気はない

 まずは家にあった植物辞典と照らし合わせ果物や薬草などを探してみるとしよう。

 この世界の森はかなり資源が豊富だ。

 森の奥に行くほど浮遊魔力といわれる空気中に漂う魔力が濃く動植物が次々と育ち、狩猟や採取を行った数日後にはリスポーンしている感じだ。

 魔力の濃い場所は同時に魔物を垂れ流す。

 それもなかなか開拓が進まない理由のひとつだ。


 その日、俺は森の少し深いところに来ていた。

 狩猟スポット沿いの道からは少し外れた位置だ。

 小動物はちらほらと確認できるが魔物が出るような場所ではない。

 狩りのときは領民たちに見つかる可能性があるが、時間さえずらせば人と会うような場所ではない。

魔法の練習にはうってつけだ。

 後片付けも奥に瓦礫を飛ばしてしまえば楽だ。

 今までは人の目をかいくぐり初級の魔術を、威力を落として練習していた。

 魔力制御の訓練にはなったがこの数年間魔力量の増加と制御の練習を重ねてきた自分がどれだけの魔術を扱えるか試すのだ。

 だがその前に初級火魔術だ。

 こればっかりは家の中で全力で撃つわけにはいかない。

「“火弾(ファイヤーボール)”」

 ほぼ詠唱をしていないが一発で木を燃やし尽くした。

 連射を重視して撃ちまくってみるがどれも人を殺すには十分な威力だった。

 魔力のない人間が相手なら何人でかかってこようと瞬殺できる自信がある。

 続けて“風刃(ウィンドカッター)”も撃ってみる。

 細かい制御は家の中で練習していたおかげで、木の枝を1cm単位で切り落とすことから幹を綺麗に切り倒すことができた。

 さすが風魔術は万能だ。


 さていよいよ中級の魔術を練習する。

「深紅の揺らめき、我が手に集い、光と熱の恵みを与えしものよ、彼のものを貫け――“(フレイム)(ランス)”」

 結果は想像以上だった。

 狙った大木に突き刺さるイメージで撃ったが、一撃で粉々にしてしまった。

 大木の向こう側まで貫通して被害が出ていないのは魔力制御の訓練の賜物だろう。

 それからは魔法と弓を駆使して狩猟のスキルを磨きつつある程度の獲物を集めたら中級の魔術を訓練して家路につく日々が続いた。

 上級魔術の訓練もしたいが森とはいえ村まで歩いて数分の距離で爆炎や竜巻をぶっ放すわけにはいかない。

 上級は“飛行”の魔法をある程度練習したら海岸で試してみよう。

 “飛行”は“浮遊(レビテーション)”の延長にあるので強化魔法に近いが、風魔術の範疇でもある。

 聞くところによると我が領地は森が多く開発が難しいため現代でいう坪単価が安く無駄に広いのだそうだ。


「ここが診療所なのですか?」

「そうよ。この領地でたったひとつの診療所だけど、大勢けが人が出たときはすぐ隣の教会に収容するの」

 今日の俺はエルザの診療所の手伝いに付いてきた。

 理由は当然、治癒魔術を習うためだ。

 実はすでに中級までは魔術教本を見て発動できてはいるのだが、本当に効くかどうかはわからない。

 生死を左右する技術である以上、実践を省くことは考えられなかった。

「母様もよく手伝いに来てますよね?」

「そうね、ここで治癒魔術が使えるのは私とジローラモ司祭だけだから」

 ジローラモ……?

 サヴォ○ローラか?

 清貧の押し付けは勘弁だぜ。

 悔い改めろ~、とか言い出す前に火あぶりにしたる。

 しかし、心配だ。

 前世の影響か、宗教の類には妙に警戒心が高まる。

「ジローラモさん、いらっしゃる」

「ああ、エルザ様、お待ちしておりました。おや、そちらは……もしかしてご子息で?」

 うむ、第一印象では狂信的な雰囲気はない。

「クラウス・イェーガーです。よろしくお願いします、司祭様」

「おお、賢いお子さんですな。それと私のことはジローラモで結構でございますよ、クラウス様」

 まあ、領主の息子と司祭ではそんなものだろう。

 正直なところ、じじいに様付けされるのに違和感はあるが……。

「では母と同じく私もジローラモさんと」

「はい。ところで、今日はエルザ様だけでなくクラウス様も、お手伝いいただけるとお聞きしましたが……」

 ああ、もう話は通してあったんか。

「ええ、この子も初級の治癒魔術なら発動はできますの。今日は実際の効果を確かめるということで」

「なるほど。では、手首を折った者がおりますのでこちらに」


 ベッドに横たわっていたのは、森に行くときに何度か見た顔だった。

 領主の妻と息子の手前、顔には出さないように努力していたが、明らかに不安そうだ。

 まあ、さっさと治してほしいものを実験まがいの理由で引き延ばされる可能性があるのだから当然か。

「じゃあ、クラウス。彼の患部に手を当てていつも通り“ヒーリング”を使ってみて」

「はい。精霊の言霊、命の躍動、傷つきし彼の者に慈しみを覚える者よ、御手を差し伸べ給え――“ヒーリング”」

 “ヒーリング”は初級治癒魔術の基本形だ。

 裂傷や打撲などの外傷のほかにも、軽いものならば頭痛や倦怠感などの不調を癒すことができる。

「おお、これは……」

「……なにも教えることはないわね」

 どうやら成功したようだ。

 胡散臭げだった患者も、今では俺を尊敬の目で見つめている。

 しかし、危うくやり過ぎるところだった。

 すでに初級治癒魔術ならば詠唱など必要ない。

 だが、あまりにも優秀だと不自然だ。

 エルザに発動だけを見せるのにも、その前に魔力を制御するのにどれだけ時間がかかったことか。


 6歳になるとだいぶ魔法の腕も上達してきた。

 詠唱の短縮にもだいぶ慣れてきた。

 しかも最近ではどれだけ魔法を使い続けても魔力が枯渇することが全くない。

 探索の方も順調だ。

 ウサギや鳥のほかにも、“探査”の風魔法で強力な魔物の領域を避けて森を探検しているうちに自分なりの狩猟マップが作られ、デザートやジャムになるフルーツなども持って帰ってくるようになり、鉱山や海岸への道なども把握した。

 魔術で採取、精製した塩や鉱物のインゴットを“倉庫(ストレージ)”の魔術でため込む。

 “倉庫(ストレージ)”には限りがあるので、いずれはサバイバル用品や隠し持つ武器など専用に使い、インゴットなどは魔法の袋を作り移す予定だ。

 すでにイノシシや熊なら氷の槍やかまいたちで、一撃で仕留められるようになっており低レベルの魔物ならばたやすく始末できる。

 この魔法だけでも、狩猟に関しては、すでに領地では飛び抜けて一番の腕前であるが、まだ将来の見通しが立ったわけではない。

 そろそろ今後の身の振り方を考えておいたほうがいいだろう。

 この領地に残っても騎士団の幹部として暮らしていけるだろうし、実際のところバルトロメウスの性格を考えるに次期領主の座など簡単に俺に譲りそうだ。

 だが、この田舎でくすぶり続けるのはいい選択とは思えない。

 この世界での目標は定まっていないが、転生したからには冒険に出ないと物語が始まらないだろう。

「さて、どうしたものか……?」

 まず、都会に出ていくにしても、ただ、商売人にでもなって一旗揚げてきます、では難しいだろう。

 田舎の下級貴族の三男とはいえ貴族は貴族だ。

 成人するまでは何か理由がない限り家を出ていくことはできそうにない。

 兄たちですら貴族学校には行かず家庭教師で済ませているあたり、俺が都会の貴族学校に入学するのも難しい。

 もっとも、この世界の学校の勉強程度なら書斎の本で十分習得が可能で、前世のアドバンテージも併せておれにはすでに必要ないともいえるが……。

 とりあえず領内に縛り付けられないようにするには、ある程度の工作が必要だ。

 治癒魔術が使えることは領民にも知られているわけで、これで特に目的もなく領地を出ていくと言ったら領民総出で引き留められそうだ。

「よし、決めた。今日から俺は不良息子だ」

 自分の魔法の研究の時間も欲しいしね。

 俺は獲物の毛皮で自作したベストを着て森に籠るようになり、家の仕事の手伝いをしたがらないように振る舞った。

 しかし、そこは兄たちもわかっているのか家の中での態度まで変わることはない。

 そう、あくまでこのポーズは領民に対してであり、領民によって次期当主挿げ替えのお家騒動を扇動されないようにするためなのだ。

 エルザが俺の弟か妹を身籠っているので心労が重なるのはよろしくないが、彼女なら俺の意図もわかってくれるだろう。

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