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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編1年
29/232

29話 真相

「入ってくれ」

 俺たちはデ・ラ・セルナに導かれるままに校長室へと足を踏み入れた。

 校舎や主だった研究室とは離れた場所にある、教員用の建物の最上階から出入りできる塔だった。

 おそらく強力な結界や保護の魔法がかけてあるのだろう。

 古そうな書物や模型などからも、かなり高レベルな魔力を感じられる。

「さて、まずはシルヴェストルに薬を飲ませなければの」

 デ・ラ・セルナは見るからに上質そうなポーションを引き出しから取り出し、シルヴェストルに飲ませた。

「しばらくは様子見じゃの。まあ、後遺症が残ることはあるまいが」

 さて、聞きたいことは山ほどある。

「校長先生。あなたの目的は何なのですか?」

「……詳しくはシルヴェストルが目を覚ましてからまとめて話そうかの。先に伝えておくことは、黒閻はわしらの宿敵であり、一連の事件も奴らの陰謀との戦いだったということじゃ。お主たちの行動を鑑みるに、ある程度は背景にたどり着いているようだがの」

 デ・ラ・セルナは俺の目を真っ直ぐに見つめた。

 腹芸で勝てるはずはないが、俺の直感は彼を信用してもいいと言っている。

 確かに、俺たちを殺せる機会は何度もあったはずなのに、排除しようとしなかったことは信用の根拠になる。

 とりあえず、シルヴェストルの言葉を伝えるか。

 確か「ボルグの仕業」だったか。



「ふむ、シルヴェストルはそこまで突き止めたか」

 どうやらデ・ラ・セルナに思い当たる節があるようだ。

 詳しいことは彼が起きてからだな。

 ところで、レイアにはどうも彼の話があまり聞こえていないようだ。

 まあ、これだけの魔道具を見る機会は、そうそう無いであろうから仕方ないかもしれない。

 しかし、フィリップ。

 君はさっきからそっぽを向いて何を見ているんだ?

 俺が声をかけようと思って振り返ったとき、彼が注目していたものは俺の目にも入った。

「日本と……龍刀か……」

 そこに飾られていたのは、どう見ても日本刀だった。

 俺も大剣を手に入れるまでは自作して使っていた、こちらの世界では龍刀と呼ばれる片刃の剣だ。

「ほう……お主は龍刀の古来の呼び方を知っておるのか」

「古来の呼び方?」

「うむ。なんでも龍刀を作り出した、わしの祖先である龍族の英雄は龍刀を『にほんとう』と呼んでいたそうじゃ」

 ちょっと待て。

 祖先だと?

「校長先生は……龍族、なのですか?」

「龍族の血は半分ほどじゃがの。ああ、その英雄本人は人族じゃぞ。当時の龍族を迫害から

救ったため、部族の有力者の娘を娶ったらしい」

 そんな話が……。

「初耳ですね」

 フィリップも知らなかったようだ。

 確かにハーフくらいの血の濃さとはいえ、デ・ラ・セルナの見た目は人族の老人と何ら変わらない。

「筆不精での。あまり個人的なことは喧伝しておらんのじゃ」

 なるほど。

 ならば個人的に親しい者でなければ、知らないのも無理はない。

 その英雄とかいうのは、ほぼ間違いなく俺と同じ転生者だろう。

 日本刀は外国人にも人気のある武器だ。

 伝えたのが確実に日本人とは言えないが、俺と近い時代から来たのならば先人の知恵を得られるかもしれない。

「校長先生。差支えなければその英雄殿の話を……」

「うっ! ぐぅ……」

 ここでシルヴェストルが目を覚ました。

 いいところだったが仕方ない。

 黒閻の件を優先するか。



 シルヴェストルは目を覚ますなり俺たちに謝ってきた。

「申し訳ない。イェーガー君、レイア君、オルグレン君。君たちを危険に巻き込んでしまって」

「いや、わしの不手際じゃ。本来なら他人を、それも学生を巻き込んでいい話ではない。この三人が優秀すぎたのも理由じゃが、言い訳にはならんの」

 どうやら、悪意から俺たちを魔物の巣窟のダンジョンに放り込んだのではないらしい。

「三人だけではありませぬ。メアリーとファビオラの協力もあってのことです。彼女たちにも真相を話していただきたい」

 フィリップが補足した。

「ふむ、確かにミス・メアリーとミス・ファビオラもずいぶんと活躍したそうじゃな。承知した。呼びに行かせよう。それにしても、シルヴェストルの動向を探り、禁書庫への潜入を成すか……」

 やはり気づいていたのか。

「当然じゃ。お主たちと懇意にしており、ミスター・イェーガーが図書館の警備用の魔道具を破壊してまで手助けする人物といえば想像はつくからの」

 しかし、参ったな。

 この一件を片づけるためにはやむを得ないこととはいえ、ラファイエットはカンカンだろうな。

「警報装置に関しては……」

「ラファイエットにはわしから知らせておくよ」

 さーせん。

「あの時は、わしも焦った。通常の何倍もの威力の“業火(ヘルファイア)”が放たれたとあっては、黒閻の幹部級が虐殺でも始めたかと思ったの」

 それで、あんなに警戒していたのか。

 しかし、通常の数倍の威力とな。

 レイアは()のいつも通りと言っていたな。

 いや、よくよく思い出せばいつも通りの魔力の込め方で警報装置が壊れるのが信じられないとか言っていたか。

 ここで突然、ドアが乱暴に開かれた。

「皆さん! 無事ですの?」

「フィリップさん、レイアさん。無事なのです?」

 おい、ファビオラ。

 俺の心配は無しかよ。

 そんな思いを込めて睨んでやったが、ファビオラは柳に風と受け流した。

「クラウスさんはワタクシに酒臭い息を吹きかけた挙句、アホ扱いする鬼畜なのです。心配してやる筋合いはないのです」

「ちょっと待て。酒臭かったのは認めるが、さすがに吹きかけてはいないぞ」

「ほう、ではアホ扱いは認めるのです?」

 くっ、墓穴を掘ったか。

「ほっほっほ。それでは、揃ったところで説明しようかの」



 デ・ラ・セルナの話によると、彼が黒閻の首領から奪ったものを秘匿しているというのは、どうやら本当らしい。

 首領であるイシュマエルが倒された後、散り散りとなった幹部たちはイシュマエル復活のため未だに活動を続けているそうだ。

 その幹部の一人、『冥帝』と呼ばれる男が復活の儀式の準備をするための筆頭とのこと。

 こいつが例のボルグだ。

「復活? イシュマエルはすでに校長先生が倒したのでは?」

 フィリップが疑問をはさむ。

「確かにわしがこの手で殺した。だが奴らには死者を蘇らせる禁呪があるのじゃ」

 死者の蘇生といえば大抵のRPGでは治癒魔術に含まれるが、こちらの世界では禁呪らしい。

 それも大量に魂を生贄にするクレイジーなやつだ。

「ボルグは『冥帝』の異名が示す通り、闇魔術や闇属性の召喚術、アンデッドの使役に長けた厄介な男なのじゃ」

 待てよ、アンデッドの使役だと。

「おそらく最近のアンデッド系の魔物の徘徊による冒険者の被害も、奴が元凶でしょうね」

 シルヴェストルが俺の疑問に答えた。

 どうやら、イシュマエルを復活させるためにはかなり高度な技術が必要らしく、実験の失敗作を垂れ流しにされたらしい。

 それがさらに冒険者を襲いまくるという負の連鎖だ。

 迷惑な産業廃棄物だぜ。

「私はその調査も含めてダンジョン付近を調べていたのですよ。そしたら出るわ出るわ。ボルグに実験体にされた挙句、魂を侵され捨て石にされた者たちの亡骸が三階層を埋めつくしてました」

 どうやら、シルヴェストルが処理を行っても完全にはダンジョンの浮遊魔力が正常には戻らず、魔物の異常発生を引き起こしていたらしい。

 だが、何かがおかしい。

 ボルグが産廃的な扱いで放り出した者たちは、捨て石とはいえ使い道はある。

 ダンジョンの隠し部屋への襲撃に利用されやすいことくらい、デ・ラ・セルナなら気づいていたはずだ。

 転移装置の一挙動で最深の到達階層まで行けるシステムを、使えないように細工してあったのはデ・ラ・セルナの防衛機構らしいが、少し不十分ではないか。

 そんな場所に大切なアイテムを置いておくのは危険だ。

「もしかして…………さっき先生が隠し部屋から取り出したものは偽物……」

 俺は一つの仮説をボソッと口に出した。

「ほう、ミスター・イェーガー。気づいたかの」

 デ・ラ・セルナは軽く驚きを顔に出して肯定した。

「クラウス、どういうことだ?」

 フィリップはそこまで気が回ってないか。

「仮説にすぎないが……校長先生はボルグの尻尾を掴むために、その戦利品をエサにしたんじゃないか? もし軽くでも攻撃があれば、その痕跡が残る。長いこと渡り合ってきた校長先生ならば、そこから糸を引いている者を割り出すことも可能だろう」

 俺の予想をデ・ラ・セルナは肯定した。

「その通りじゃ。あれはただの安物の魔晶石じゃ。まったく、そこまで見透かされるとは驚きじゃの」

 ここでシルヴェストルが補足する。

「ついでに私がダンジョン付近をうろつくのは偽物だとバレないためと、黒閻の構成員が関与する物証を探すためです。まあ、偽造がばれるのは時間の問題です。まさかボルグみたいな大物が、しかも本人が来るとは思いませんでしたが」

 本当に一足違いだったのだな。

 もう少し早くレイアの“探査”の範囲まで近づけていれば、ボルグの魔力反応を確認できたかもしれない。

「本当は君たちもダンジョンの探索で手をこまねいているところを、近くで守るつもりだったのです。予想以上に早く攻略されてしまいましたが……」

 なるほど、手の届く範囲に集めようと思ったのね。

「放っておけば、いずれ黒閻のことを突き止めてしまうと思っていたからの。警備隊の救援に始まり、精霊祭のときのトロールキングとグリフォンの討伐とめざましい活躍じゃった。先手を打ったのじゃが、それでもなお不足とは」

 これで誤解はほぼ解けた。

 普通の人間なら死んでもおかしくないダンジョンに放り込まれた以上、全面的に信頼するわけにはいかないが、今はデ・ラ・セルナたちと争っている時ではない。

 黒閻の幹部であるボルグが業を煮やし自ら動いて、ダンジョンの隠し部屋の中身がダミーだったことに気づいた。

 これは本格的に敵の襲撃が始まることを意味する。

「これまでのお話から考えますと、奴らは首領イシュマエルの復活の準備を進めつつ、校長先生の持つ戦利品を狙っていたのですわね。本来なら、どちらかに集中したいであろう時期に、奴らがそこまで執着する物とはいったい……」

 メアリーが当然の疑問を口にする。

 重要な話だ。

 全員が固唾を飲んでデ・ラ・セルナを見る。

「イシュマエルの魂魄の欠片じゃ」

 壮絶なカミングアウトだった。



「イシュマエルの……魂の、欠片だと……」

「魂魄の、欠片……。そんな物が存在するというのですか?」

 俺もレイアも想像がつかなかった。

 魂をそんな物みたいにホイホイ持ち歩けるとか、この世界に来てからも聞いたことも無いぞ。

「うむ、これも禁呪での。詳しくは省くが、許されざる行いの積み重ねにより生じた瘴気を封じ込めた魔道具を使い、闇魔術によってギリギリまで生命を削り取ったものを集め続ける。そうして魂のスペアを作っておけば、肉体は滅びても決して死ぬことが無い」

 なんて厄介な……。

「それでは、校長先生はそのイシュマエルの魂が封じられた魔道具を?」

「いや、わしが持っているのはイシュマエルのやつを仕留めたとき、急いで回収した本体の魂じゃ」

 何だって?

 ちょっと混乱してきたぞ。

 仕留めたのだから、本体の魂はぶち壊したんじゃないのか?

「スペアは所詮スペアじゃ。それだけでは復活はできん。じゃが、死したとき霧散した魂が時を経てスペアの魔道具に集まり、さらなる生命を生贄にした蘇生の禁呪によって復活する。わしはそれを防ぐため、倒した後すぐにイシュマエル本体の魂を回収したのじゃ」

 なるほど、本体を封じない限り復活が可能になってしまうから、スペアだけ奪っても意味がないってことか。

「魂魄の欠片を封じる器を作るだけでも、当時ラファイエットが苦労しての。魔王のようにしぶとい奴じゃ」

 魔王って居るのか?

 ともかくこれで大体の事情はわかった。

 少々危ないところもあったが俺たちはこうして無事で、デ・ラ・セルナとシルヴェストルの黒閻の幹部をおびき出す作戦にも進捗が見られた。

 死人が出なかった以上、上出来と言っていいだろう。

「さて、説明も終わりじゃ。後はわしらに任せて、もう休むのじゃ。最近、お主たちは働き過ぎだからの」

「……そうですね。さすがに夜更かしが過ぎました」

 建国祭が終わってからダンジョンを突破してからの長いお話が終わり今に至る。

 もう夜が明けかけていた。

 前世では徹夜の経験がそれなりにあるとはいえ、今の肉体年齢は11歳なのだ。

 さすがにこたえる。

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