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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編1年
25/232

25話 密談

「フィリップ、メアリー、ちょっといいか?」

 二人はラウンジで同時に見つかった。

「(おい、見ろよ。イェーガーだぜ)」

「(あの二日でダンジョンを攻略したってのは本当か?)」

「(騎士に手借りたんだろ)」

「(じゃあ、あいつら自身は大したことねぇのか)」

「(いや、手貸さないと警備隊を皆殺しにするって脅したらしい)」

「(しかも、役立たずだってんで、三階層の魔物はイェーガーがまとめて焼き払ったらしい)」

「(マジかよ)」

 話に尾ひれや背びれどころかスクリューが付いてるな。

 それはそうと、やはりここでは密談には具合が悪い。

 レイア達との合流は学校の外にしておいて正解だった。

「ええ。どうしましたの?」

 露骨に移動を促すのは考え物だ。

 注目されているということは、視界から消えた後の行動も邪推されやすい。

 だが、自然に聞こえるように考えてきた案がある。

「ミゲールさんの新メニューの件覚えているか? 着手して今日でちょうど一週間だ」

「おお、なるほど! では、その新作がすでに完成している可能性が高いな」

「それは気になりますわね」

 よし、自然に持っていけたぞ。

 集合場所をミゲールの店にして正解だったな。

 一番乗り気なのがレイアだったことは言うまい。

 遮音結界を使いやすい云々の言い訳は忘れてやろう。

「では、早速行こうではないか。ちょうど午後のお茶をするのにもいい時間だ」

 レイアとファビオラはもう席を取っているだろうか。

 このときの俺は、今まさにレイア達が厄介な相手と接触しているなど、思いもよらなかった。






 閲覧できる書物だけでは、進展が望めないことがわかった以上、あたしの行動は早かった。

 どこに耳があるかわからない状況で喋るわけにはいかない内容なので、まだクラウスにもファビオラにも話していないが、腹は決まっている。

 そう、普通なら手に入れられないはずの情報を入手するのだ。

「(レイアさん、お話だけのためにわざわざ学外の喫茶店に集合だなんて、ワタクシ本当に不可解なのです。無駄遣いなのです)」

 ファビオラには計画の全容はもちろん話していないが、さすがに小声で話すくらいは、事の重大さを察しているようだ。

「(フィリップたちと合流したら詳しく話すから。それに、クラウスの発案でミゲールさんが新作スイーツを作っているのは本当よ)」

「(うっ……そう言われると誘惑に抗えないのです、じゅるり)」

 あたしも実のところすごく楽しみだ。

 クラウスも内容に関しては教えてくれなかった。

 まあ、今日中に食べられるので良しとするか。

 今度はどんなものを開発したのだろう。

 前に聞いた完璧なドーナツ――ミ○タードーナツだったか――を作ったのであろうか。

「……ぃ、君ぃ」

 あれには確か『ちょこれーと』とかいう食材が必要だった気もするが……。

「おい! 聞いているのかねぇ?」

「貴様! アーネスト様を無視するか!?」

 ん? なんか周りがうるさいわね。

 誰だ? あたしの最も重要な思考を遮る愚か者は。

「レイアさん! 呼んでいるのです」

「貴様! そこになおれ!! 不敬罪だ!」

「まあまあ、マリウスはねぇ、少し落ち着いて。……久しぶりだねぇ」

「…………誰?」

「「「「ぷっ!!」」」」

 ファビオラ以外にも明らかに関係ない人たちが吹き出しているみたいね。

 さて、この頭の悪そうな男は誰だろう?

「き、君はねぇ! 特待生試験とはいえ、君とあれだけ死闘を繰り広げた僕を忘れるとは!! どうなっているんだねぇ?」

 どうもなにも……ああ、思い出した。

 あたしを舐めきって“氷壁(アイスウォール)”に見事に捉えられたあのバカだ。

「あれを死闘というのかしら」

「死闘と書いて茶番と読むのです」

「「「「「「「「ぷっ!!!!」」」」」」」」

 さっきよりも人数が増えたわね。

「きぃ、きき、き、君は!? 僕を侮辱するのかねぇ!? この次期ハイゼンベルグ伯爵たる僕を! 平民の分際で!」

「アーネスト様! いけません。このような下賤の者と、これ以上同じ空気を吸ってはお体に障ります。こやつはわたくしめが」

 はぁ、なるほど、こういうやつか。

 典型的なバカ貴族ね。

 このマリウスとかいう腰巾着も大概だ。

 この主君にしてこの家臣ありか。

 こういうやつらを見たことが無いわけではない。

 Bランクにもなれば馬車の護衛や、僻地で希少な魔物の素材を取って来る依頼がある。

 そういった依頼では大抵依頼人は豪商か貴族だ。

 依頼人本人がこういうタイプでなくても、取り巻きに選民意識が強い人間がいることは珍しくない。

 だが、関わり合いになりたくないほど不愉快なのは同じだ。

「失礼しました、お貴族様。それでは、ごきげんよう」

 あたしは踵を返し、さっさと退散することにした。

 まったく、あたしのスイーツの思考に割り込むとは罪深いやつだ。

 後ろで何かが叫んでいるが気にしない。



「レ、レイアさん。お出かけですか?」

 何でこう続けて邪魔が入るんだろう?

 警備隊のディアス。

 この男は信用ならない。

 あたしが警戒するのは、ほとんど勘に過ぎない。

 それでもクラウスもフィリップも、マイスナーやバイルシュミットに対するほど気を許していない。

「ええ、ちょっとね……」

「レイアさん、誰なのです?」

 ファビオラ、あなたはあたしにこいつを紹介しろと?

「わ、私は王都騎士団警備隊のディアスといいます。デ・ラ・セルナ校長に用がありまして」

 校長に?

「ファビオラなのです。受付の人にアポイントの旨を伝えれば、校長室まで案内してくれるのです」

 ちょっと待って。

 何故こいつは来賓の受付に向かわないで、校門の前であたしに話しかけてきたの?

「いや、じ、実は……アポイントは取ってませんので」

 怪しい……。

「それは、校長と会うのは厳しいのです」

 当たり前だ。

 デ・ラ・セルナ校長は爵位こそ持っていないが、国を挙げて支援する魔法学校の最高責任者で、国の二大戦力の聖騎士である。

 そう簡単に末端の兵士が会えるものではない。

「え、ええ、わかってます。ですが、上層部からの指示でして。普段は国を通して書類のやり取りだけで済ませていますが、昨今の冒険者活動における危険性を考慮したうえで直接情報のやり取りができる者を警備隊から派遣するようにとのことでして……」

 妙だ。

 もっともらしい理由のわりに、指示の内容が丸投げで適当すぎる。

「そこで、レイアさんは私の身分をご存知ですし、取り次いでいただけないかと思いまして……」

 冗談じゃない。

 こんな怪しい奴の身分を保証するだなんて!

 ロクデナシが後ろ盾になっていても、さすがに正式な使者に任命するほどの動きはできないのかも。

 ならばせめて、非公式のものを拒絶することからだ。

「ディアスさん、悪いけどあたしは引き受けられないわ。正式に連絡役に指名するように上に掛け合って……」

「待ちたまえ」

 アーネスト、何であんたが……。

「君はねぇ、せっかく好意で来てくれた騎士を追い返すのかねぇ?」

「まったく、これだから下賤のものは」

「ディアス君だったねぇ。僕はアーネスト・フォン・ハイゼンベルグ。クレメンス・フォン・ハイゼンベルグ伯爵の息子だ。この僕が校長に話を通してあげよう」

「あ、ありがとうございます。アーネスト様」

 このバカ! なんてことを……。

 勝ち誇った顔してるけど、あんた自分が何しでかしてるのか絶対わかってない!

 あたしへの嫌がらせだけで、こんな重大な片棒担ぎだなんて。

「じゃあ、ついて来るといいねぇ」

「は、はい。よろしくお願いします」

 この件はフィリップに相談ね。






「遅いな」

「ああ、あまりにも遅いではないか」

「何かあったのかしら…」

 ミゲールの店に着いたとき、レイア達はまだ来てなかった。

 俺は一度図書館から校舎に戻りフィリップたちを探してから来たのだから、図書館から真っ直ぐ街に出たレイア達より早いなんてことは普通あり得ない。

 不安がピークに達し俺が様子を見に席を立とうとした瞬間ドアが開かれた。

「いらっしゃいませ。あ、レイアちゃん、ファビオラちゃん。クラウス君たちなら奥の席だよ」

「ありがと、ミゲールさん」

 ようやく来たか。

「こっちだ、座ってくれ。ミゲールさん、この二人の紅茶と例のものを」

「はいよ」

 さて、何があったのやら。

「で、どうしましたの?」

「実は…………」



「ふむ、ディアス殿が……」

「怪しいなんてものじゃないのです」

 確かに、ディアスが非公式の使者として来るのには違和感を覚える。

 学校との連絡役ごときに、大層な任命書など出さないと言われてしまえば普通は納得せざるを得ないが、時期が時期である。

「とりあえず、ディアス殿のことは置いておくとして、レイアが我々を呼び出したということは打開策があるということであろう? 聞かせてくれ」

 俺も是非聞きたい。

 図書館で話した限りでは手詰まりとしか思えなかった。

 それを、わざわざ学外で遮音結界まで張って密談しているのだ。

 レイアは考えも無しに、ここまでやらないだろう。

「禁書庫の中身って何だと思う?」

 レイアの問いかけに、皆が黙りこんだ。

 この一言で彼女の意図することがわかったからだ。

 彼女は禁書庫に忍び込もうというのだ。

「定石では……国防に影響するほどの魔術や錬金術に関する蔵書、もしくは大衆に周知させてはまずい国の暗部や裏の歴史について書かれた本ってところか」

 俺の分析にフィリップが深く頷くがレイアが補足する。

「その知識を得るものを慎重に選ぶ必要がある。この方向から考えると恐らく確実に見つけられる内容が……」

 俺はレイアの言葉を引き継いだ。

「『黒閻』か……」



「それにね、あたしは禁書庫から得られるのは黒閻の詳細だけじゃないと思う」

「レイア、どういう意味ですの?」

 皆の視線がレイアに注がれる。

「今回あたしたちが図書館で探した本はダンジョン関係が多かったじゃない。でも、この前攻略したダンジョンのような、中枢が無い小規模なやつについて記載されてたもの、有ったかしら?」

 そういえば無かったな。

 そもそも、小さいダンジョンはアーティファクト的な物の発掘も、強力な魔物の素材も期待されない。

 要は、好き好んで挑む冒険者がいないということだ。

 記載されるほどの情報ソースがないのだろうということで、黒閻のことについて同時に調べるようにしてたのだ。

「可能性としては低いけど、もしかしたら小規模ダンジョンについて、見落としていることがあるかもしれない」

 なるほど、レイアの説にも一理ある。

 シルヴェストルに黒閻。

 不審な動きが数多くある以上、可能性を最初から切り捨てるなどあり得ない。

 では本題に入ろう。

「わかった。それで、具体的には、どうやって禁書庫の中身を入手するんだ」

 俺の記憶が確かなら、禁書庫の入口には簡単には開けられない鍵がかけられていたはずだ。

 恐らく魔道具の一種だろう。

「なるほど、ワタクシの出番なのです」

「ええ、そうね。鍵を開く魔法陣なんかはあたしが作るけど、実際に禁書庫に忍び込むのは

ファビオラに任せるわ。この中で隠密行動に最も優れているのは彼女よ」

 ほう、初耳だな。

 いや、確か冒険者カードのジョブは斥候(スカウト)だったか。

 簡単な身の上は聞いたことがある。

 隣町の商家の出で、短剣術と隠密に関しては獣人ゆえの敏捷性のおかげもあり、非常に優秀だとか。

「確かにファビオラなら適任ですわね。冒険者たちも討伐依頼に出て来ないのが惜しいと言ってますもの」

「さすがに討伐依頼は小遣い稼ぎには危険すぎるのです」

 そういえばファビオラは雑用系のほかは、採取くらいしか受けてなかったな。

 冒険者を本業にする気はないので当然か。



 レイアの計画の詳細はこうだ。

 まず、決行は建国祭――時期的に言うとクリスマス――当日の夜。

 この日は街全体がお祭りモードで、市民は昼間から酒をがぶ飲みし大騒ぎする。

 国を挙げて祝うのだから当然だ。

 しかも、この時期は10月末の精霊祭と違い、冒険者や商人などのアウトドア系の仕事は積雪のため休みに入る。

 ブルーカラーのほとんどが街に留まっているのだ。

 必然的に人数は増える。

 そして、バカ騒ぎでエネルギーを使い果たし、夜が更けるころには逢引の予定がある者以外はほとんどが寝静まっている。

 警備兵も気が抜けるというわけだ。

 当然、魔法学校の職員も例外ではない。

 この日ばかりは多少の飲酒くらい大目に見るものの、それがもとでトラブルを起きないか気が気でない彼らにとって、深夜まで警戒を続けるのはまず不可能である。

 確実に起きているのは、教会から魔法学校の医務室に派遣されているシスター・リュシール。

 彼女はメアリーが相手をしておけば良い。

 これで、人の目という第一の関門はクリアだ。

 そしてもう一つ。

「禁書庫の警備にはラファイエット先生の警報装置が多数配置されているの。これもラファイエット先生の警備用ゴーレムと、管制が繋がってるわ」

 さて、そいつをどうすれば……。

「ゴーレムはフィリップが図書館から引き離して。あのタイプは校門から出れば、一時的に警報とは遮断されるはず」

「ふむ。しかし、どのような理由をつけて……」

 確かに、人手が必要な緊急事態を自作自演するのはリスクが高い。

「そこは、考えてあるわ。あのゴーレムの行動原理の最優先事項は学生の安全確保よ。例えば、『酔っぱらって倒れている学生がいないか、校門周辺を見回ってくれ』とでも言えば、従ってくれるはずよ」

「なるほど、心得た」

 確かに、それなら不自然じゃないな。

 フィリップ本人の性格はともかく、恩を売る機会を常に狙うのは貴族らしいといえる。

 本当に凍死しないよう保護してやれば、評判も良くなるというものだ。

「で、俺は何をすればいい?」

「クラウスはファビオラが潜入した後、図書館の裏手で強力な魔術を発動させて」

「強力な魔術?」

 どういうこっちゃ。

 目くらましならもっと遠い場所の方がよくないか。

「あたしの読みが正しければ、禁書庫周辺に仕掛けられている警報装置の仕組みは、魔力を感知して侵入者を察知するものよ。おそらく、あなたが上級魔術を付近で発動させれば、あてられる魔力反応の残滓が強過ぎて一時的に機能を停止するわ」

 それって結構重要な役目じゃない。

 てか、どれほどのものを発動させればいいのよ?

 ショートさせてぶっ壊しでもしたらまずいぜ。

「規模についてはある程度割り出してあるわ。“業火(ヘルファイア)”あたりが一時間以上の故障を誘発させる、もっとも有効な規模ね。……俄かには信じられないほどの効果だけど」

 なるほど、火魔術か。

 さて、上級火魔術をぶっ放すとなると、生半可な口実では危険すぎる。

 いきなり火の手が上がって、不審に思わない奴はいないだろう。

 教師でそんなボケがいたらクビにした方がいい。

 だが、待てよ。

 図書館の裏手といえば……。

「ゴミ処理ってのはどうだ? 確か図書館の裏にはゴミを野焼きする場所があっただろ」

「うむ、名案だな」

「そうね」

「ちょうど、路上にゴミがあふれる日ですものね」

「十分言い逃れ可能なのです」

 大体決まったな。

 さて、うまくいくものやら。

「よし、それでは難しい話は終わりにしようではないか」

「そうね……なんか、さっき食べた『ぷりん』の記憶が薄いんだけど」

 ホント、ブレないな。

 まあ、俺も転生後にもプリンが食べられることには感動したけどさ。

「うむ……深刻な話題とともに食したのは、失敗だったな」

「勿体ないことをしましたわ」

「ワタクシはそんなことないのです。官能的な食感といい、濃厚な味わいといい素晴らしかったのです」

 俺もこの店のプリンの味はしっかり覚えているがフィリップたちと違い、もとからプリンの味を知っているからだろう。

 ファビオラのように超マイペースなわけではない。断じて!

 そう信じたいものだ……。

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