231話 最終決戦4
遅れて申し訳ありやせん( ノД`)
長めなので許してくだせぇ(´;ω;`)
『クラウス』
「っ! ハインツ、兄さん……」
暗闇の底から聞き覚えのある声がした。
姿は見えない。
それどころか、俺の視界は一切効かない。
しかし、耳元に聞こえる声は確実にハインツのものだとわかった。
彼は……死んだ。
この目で確認し、弔った。
と、いうことは……。
「俺は……やられたのか?」
『いや、君はまだ死んでいない。呪いを受けた影響で、君の意識の底に定着した兄の記憶が微弱な魂魄を形成し、存在を浮き上がらせているだけだよ』
「…………」
俺の言葉をはっきりと否定するハインツの声。
だが、そこまで聞いて、俺は兄の声で語りかけてくる存在に違和感を覚えた。
「……お前は誰だ? 兄さんじゃないな?」
『ああ。だが、君の味方だ』
声の主はあっさりと認めた。
一体、何者だろう?
俺は……イシュマエルの魔眼のようなスキルで意識を飛ばされた。
この状況を鑑みるに、一番あり得るのはイシュマエルの呪術か何かによる幻聴だろう。
しかし、俺の動きを止められた以上、わざわざ複雑な呪いや魔術を掛ける意味は無い。
そのまま俺の首をあの大鎌で刎ねればいいだけだ。
それに、何故かこの声の奥には、どこか懐かしいような気配を感じる。
本当に……どういうことだろう?
だが、戸惑う俺を尻目に、ハインツの声で語る何かは言葉を続けた。
『あまり時間も無いみたいだから手短に言うよ。……君が自ら引き寄せた未来、共に歩み習得した技術、その全ては無駄ではない。闇を打ち払う剣となり、この先も今も光を支える影となるだろう』
「はい?」
正直、何を言っているのかさっぱりだ。
もっと具体的な文言が欲しいところだが……文句を言おうとした俺を遮るように、ハインツの声は続けた。
『お兄さんの霊を通して言えるのはここまでみたいだね。L○NEも無いし、げんだい……ちが……ふべ……ものだ……』
「LI○E? 現代? 一体、何を言って……」
『とにかく――――。いや、クラウス。みら……たの……』
そして、声が途絶えるのとともに、俺の意識も再び暗転した。
「っ! うぉ!!」
「むっ!?」
意識を取り戻した瞬間、俺に視界に飛び込んできたのは大鎌を振りかぶるイシュマエルの姿だった。
迷いのない剣筋で振り下ろされる禍々しい巨大な刃は、今にも俺の首を刎ねようと鋭く襲い掛かる。
差し迫った命の危機に、アドレナリンが大量に分泌されたような感覚に晒されながら、俺は大剣を振り上げるようにして斬撃を打ち返した。
どうやら、体は動くようだ。
しかし、相変わらず最悪の状況であることに変わりはない……と、思いきや……。
「何……!」
「っ!」
俺は横薙ぎに大剣を振り抜いた。
戦略など何も考えてはいない。
とにかく、最大出力の強化魔法で、奴の魔力と防御をぶち抜きダメージを与えることだ。
高揚した精神状態のまま、感情の赴くままに不規則な軌道で剣を振るい、消耗した魔力を絞り出し僅かでも剣戟のエネルギーに変換する。
今までの流れを鑑みるに、闇雲に殴ったところで防御され手痛い反撃を食らうのがオチだが……何と、俺の大剣の切っ先はイシュマエルの纏う炎のオーラの一部を消し飛ばし、彼の腹部にかなり深めの傷を与えた。
奴の顔にも若干だが驚愕の表情が浮かんでいる。
「っ……ッラァ!」
「むんっ」
間髪入れず畳みかける。
しかし、魔力を込めた大剣をフルスイングし剣閃を飛ばしても、雷の刃はイシュマエルの大鎌の一閃で相殺された。
艦砲射撃にも劣らない火力を軽く凌ぐとは、相変わらずの現地チートだ。
だが、さっきの一撃は間違いなく効いた。
その証拠に、イシュマエルの腹部はローブが引き裂かれ、白い肌にはざっくりと斬り傷が出来ている。
あの効果は、一体……?
「ほう、一瞬だが死霊の影が見えたな……妙な入れ知恵でもされたか?」
「…………」
イシュマエルは距離を取って魔力を制御し、炎の奔流や赤熱した魔力の槍を周囲に浮かべる。
しかし、俺は先ほどの意識を取り戻した直後の攻防とイシュマエルの反応を必死に思い起こしていた。
ここまでの戦いで、俺の攻撃は力量の差で悉く捌かれ、ほとんど奴に傷をつけることは叶わなかった。
それが、止めを刺されそうになった瞬間の反撃で、命の危機に直面した瞬間の一閃で、なかなかの深手を負わせることに成功した。
太刀筋の記憶をトレースすると、思い起こされるのは七の太刀。
強大な覚醒魔力を持つ者でないとまともに使いこなせない癖の強い剣術フォームだが、アドレナリンの過剰分泌でほぼバーサク状態に陥った俺は自然とそのフォームで剣を振るった。
あのハインツの声で語りかけてきた奴の口ぶりからしても、あながち間違った方策ではなさそうだが。
「っ…………」
剣術の技一つで解決するほど戦いは甘くない。
そもそも、七の太刀は完成度の高い剣術ではなく、俺も熟達しているとは言い難いスキルだ。
正直、確実性に欠ける武器を実戦で、しかも不利な状況下で命運を賭けるかのように導入するのは愚策というより他にないだろう。
「だが……」
「?」
先ほど、イシュマエルのシールドをぶち抜きダメージを与えた一撃は、確実に打開策となり得る。
新しい武器が一つ手に入ったくらいの気持ちなら、試してみる価値はある。
俺はイシュマエルを視界の真ん中に捉え見据えると、地面を蹴って今度はこちらから仕掛けた。
「オオォ!!」
「ぬ……」
俺は一気にイシュマエルへ接近すると、ショートアッパーのようなフォームで大剣を切り上げた。
背丈の差なども相まってあまり必中を狙える攻撃ルートではないが、先ほどの有効打は近距離の直接攻撃の際のものであり遠距離からの剣閃による攻撃は全て凌がれてしまうので、少しでも有効性を上げるために敢えて接近戦を仕掛ける。
「でぃやぁ!」
「ハァ!」
この戦いで全てをぶつける心積もりだ。
思い付きで窮地を脱せるほど殺し合いは甘くない。
都合よく戦いの最中で急成長を遂げたりもしない。
今ある武器で、持てる技の全てで、目の前の強大な敵を消し去らなければならない。
だから俺は、接近戦での大剣の一撃を叩き込むチャンスを窺いながら、魔術や蹴りなどの打撃も織り交ぜ、執拗にイシュマエルを攻撃し続けた。
「オラァ!」
「無駄だ」
魔力を通した大剣による唐竹の一撃は、防御に秀でたSランクモンスターであるベヒーモスの首をも落とす火力を持つ。
しかし、イシュマエルはいとも簡単に俺の振り下ろした大剣を防いだ。
被害は公国宮の床が深く陥没しただけに留まった。
……俺は今まで火力や攻撃力で困った経験が少ない。
“火槍”を連射すれば大抵の魔物の群れは瞬く間に駆除でき、魔力剣を振り回せば一太刀で数十人を纏めて薙ぎ払える。
単体攻撃においても、“落雷”はそもそも自然の雷の数倍の電流や貫通力を持つイメージで指向性を明確にして魔力を制御しているので大型生物を炭化させる威力を持っており、雷の覚醒魔力を通した真・ミスリル合金の威力は言わずもがなだ。
そんなわけで、俺は今まで単純に火力や貫通力を向上させる試みをすることなくここまで来てしまったわけだが……妙なところでツケが回ってきたな。
有効打を与えられない攻撃のラッシュは、いつしかイシュマエルに完全に凌がれるパターンが出来上がり、俺は徐々に押されていた。
「ふふっ……やはり偶然か。そろそろ死ぬがいい」
「っ! ぬぉぉ!」
返す刀で大鎌を一閃させたイシュマエルは、後退した俺に空中から飛び掛かり追撃を掛けてきた。
さらに、イシュマエルの纏う炎のオーラからは深紅の火の弾が千切れ飛び、カーブを描きながらこちらに向かって来る。
魔力を込めた大剣を薙ぎ払い迎撃すると、紫電を散らしながら激突した剣閃は火の弾を相殺する。
一瞬、火の弾は雷の刃に呑み込まれたように見えたが、次の瞬間、俺の放った剣閃を相殺するかのようにエネルギーが爆発四散し熱風が吹き荒れた。
一見したところ、術式など無さそうな単純な攻撃だが、魔力の密度が高すぎてウィークポイントなども探れないので、こうして力押しで対応し続けるしかない。
当然、その間もイシュマエルの振るう大鎌は俺の首を刎ねようと、胴体を両断しようと襲ってくる。
「がっ!」
どうにか防御は間に合ったものの、俺はインパクトの瞬間に下半身から浮き上がるような衝撃を受け、後ろに仰け反った。
どうにか止めの斬撃は躱したものの、接近戦の打ち合いでもやはり技量の差は明らかだ。
「ハァ、ハァ、ハァ……くそっ」
「フゥゥゥ……ぬん!」
だが、敵にも若干の疲労と消耗が見える。
その証拠に、イシュマエルは大きく息をつき、攻撃の間隔が徐々に開いている。
それに、スタミナ切れのタイミングで畳み掛けられる可能性を考慮してか、鎧を形成するように揺らめく炎のオーラは若干分厚く高い密度で魔力が制御されている。
奴が防御寄りの態勢になっていることは明らかだ。
せめて、この炎の弾幕と壁を突破できれば……。
「っ!」
思いがけないチャンスは唐突にやって来た。
イシュマエルに肉迫された瞬間、視界を埋め尽くすイシュマエルの深紅の炎のオーラに、俺は思わず大剣を掲げて防御態勢を取った。
火というものはどうしても熱さと火傷によるダメージを連想させるため、反射的に触れるのを避け防御してしまうものだ。
咄嗟のことだったので、大剣にはまともに魔力を収束しておらず、とにもかくにも強化魔法の出力を上げて素早く剣を振るい、アドレナリンの噴出に任せて少しでも身体魔力を剣速に変える。
だが、気休めにしかならないはずの斬撃は、イシュマエルの炎のオーラを文字通り消し飛ばした。
「何だ……?」
「っ! ウォオオオォォォォォ!!」
俺は魔力が霧散するように掻き消えた炎とイシュマエルの怪訝な表情を見逃さなかった。
先ほどの感覚を思い起こし、強化魔法で循環する身体魔力をそのまま剣にも通すようにして、返す刀で再度鋭く斬撃を繰り出し横薙ぎの一閃を放つ。
当然、イシュマエルは大鎌を引いて防御姿勢を取るが……インパクトの瞬間、突如イシュマエルは膝から崩れ落ちるように脱力した。
高密度で張り巡らされた炎のオーラが弾けて霧散していくのがわかる。
「っ! まさか……神の……っ」
このチャンスを逃すわけにはいかない。
俺は押し切るようにして一歩前進し、そのまま大剣の刃を傾けてイシュマエルの肩口を鋭く斬りつけた。
「げはっ……お、のれぇ……」
地面を蹴って後退したイシュマエルは、肩口を押さえながら崩れるように膝をついた。
漆黒のローブは大きく引き裂かれ、露出した白い肌からは滝のようにドバドバと血を流している。
イシュマエルが身体魔力を開放して放出するように制御すると傷は炭化するようにした塞がり出血も止まったが、その魔力の強度が明らかに弱っていることは明確に見て取れる。
「ちぃ!」
「ふんっ!」
鋭い目で俺を睨みつけながらイシュマエルは大鎌を振るった。
有効打を与えたからと言って、一撃で返り討ちに出来るほど都合はよくない。
奴の斬撃を受けた俺の大剣は、再び大きく弾かれてしまう。
ここからはスタミナ勝負、意地の張り合いだ。
普段なら、まずその状況を避けることから考え、より安全に仕留める方法を模索するところだが……今は攻めるしかない。
退くわけにはいかない。
「くっ! 何故、ここまで余の邪魔をする!?」
「はぁ、はぁ……邪魔なのはテメェらだ。お前や部下がテロ行為をやらかすたびに、俺の不労所得と安寧が消え去るんだよ!」
お互いに一歩も退かず、何十合と打ち合った。
最早、まともに制御できる魔力は残っておらず、俺の魔力剣も刃を強化して斬りつけるのが精一杯。
だが、イシュマエルは確実に弱っていた。
そして、俺の大剣の刃がイシュマエルの体に到達するたびに、奴の体全体から発せられる魔力反応が徐々に勢いを削がれていくのが感じられる。
「……ッ! そうか……そういう、ことか……」
「っ…………」
刀身と刀身が擦れ合いギリギリと嫌な音を立てながら火花を散らすなか、イシュマエルはゆっくりと口を開いた。
鍔迫り合いの最中とは思えない穏やかな声色に思わず違和感を覚えるが、疲労と消耗と戦闘時の高揚で意識が混濁していた俺は、反射的に相手のポジションの隙を突く軌道で剣を振るう。
大鎌を弾き上げ、若干円を描くような剣筋で大剣を戻し肩口を斬りつけた。
横薙ぎにイシュマエルの腹部を深く切り裂き、止めに切り上げで頸動脈を狙い素早く防御姿勢に戻す。
「っ」
長い剣戟の末、確実に目標を刀身に捉えた手応えがあった。
奴の利き手の方への攻撃は確実に骨へ達しており、少なくとも腹部への薙ぎは胴体の半ばを通過した。
だが……相手は不死身の強敵だ。
俺は素早く大剣の切っ先を前に向けると、体重を掛けて素早く両手を突き出した。
「おおおぉぉ!!」
「っ……」
「…………」
「…………」
ふと前を見ると、至近距離にイシュマエルの顔がある。
大剣の刀身にありったけの魔力と殺気を乗せて放った刺突は、思いのほかあっさりとイシュマエルの胸を貫いていた。
刀身は鍔近くまで埋まり、切っ先が背中側から突き抜けている。
「っ!」
俺は慌てて大剣を引き抜き、相手の胴体を蹴って引き剥がす。
次の攻撃に備えて大剣を構え直すが……予想に反して、イシュマエルは地面に倒れ伏したまま起き上がってこない。
「くく……」
「――ッ!」
慌てて大剣を握り直し魔力を制御するが、そんな俺に構わず、イシュマエルはゆっくりと仰向けになった。
しばらく距離を保ち警戒するが、徐々に奴の体から濃密な魔力が霧散し力が消失していくのがわかる。
そして、イシュマエルの手を離れた大鎌が瓦礫だらけの公国宮の床に落ち、ガコンと重い金属音を立てた。
「これも……運命か」
相変わらず警戒態勢を解かない俺を尻目に、イシュマエルはふっと苦笑いを浮かべて口を開いた。
彼の体から力は抜けているように見えるが油断はできない。
「魂の集いは水の理。幾年の周期を経てこの地に強き者が生まれるのは必然」
「…………」
「思えば……毎度毎度、聖騎士は一番の障害だった。いつの時代においても、余を敵と見做す群れの筆頭たる戦力である以上、当然とも言えるが……」
そして、イシュマエルはゆっくりと俺に視線を向け、言葉を続けた。
「だが、貴様は違う。言われるがまま破壊し、独り善がりな正義を振りかざす阿呆ではない……」
疫病神に褒められてもな……。
だが、そんな俺の内心を知ってか知らずか、イシュマエルは俺をさらに強い眼差しで見据えた。
「貴様が引き継ぐのだ。余の……かつての強者たちが成した決して讃えられぬ偉業を……」
「……冗談じゃない」
不労所得や臨時収入は大歓迎だが、何のメリットも無い労働なんぞ紛争だけでもう懲り懲りだ。
自分と家族や友人を守れればそれでいい。
ただ、過酷な世界だから生き抜く力を求めただけ。
こいつらの悲願やら目的やらは知ったことじゃない。
俺は冷たく突き放した。
「俺は世界征服なんざ興味ねぇ。裏社会の統一やら覇権やらも、俺にとってはどうでもいいことだ」
「何?」
しかし、当のイシュマエルは片眉を上げて怪訝な表情を浮かべ、しばらくすると静かに笑い出した。
「くははっ……余のことをそのように思っていたのか……」
「おい、笑いごとじゃねぇぞ。こっちは、テメェらカルト教団もどきの下らないテロ行為で、散々迷惑を被っているんだからな」
だが、イシュマエルは俺の言葉が耳に入らないかのように笑い続けた。
「ははっ……済まぬ。滑稽すぎて、これ以外に言葉が見当たらぬ」
一頻り笑ったイシュマエルが黙ったタイミングで、今度はこちらから声を掛けた。
「読めないな。なら、お前らは結局何がしたかったんだ? 確かに、金では手に入らないものも多いとは思うが……」
「ほう?」
イシュマエルは興味深そうに口元を歪めて笑みを浮かべた。
「権威、名声、力……どれも金をバラ撒くだけでは集まらないだろう。だが、欲しいものが明確になれば、それを手に入れるのにより効率のいい方法も思い付くはずだ。主権国家を建てたいのなら大義のある戦争を利用すればいい。経済的な影響力を持ちたいならギルドの旗の元に人を集めればいい。少なくとも、大っぴらに大罪を犯す意味は無いはずだ。お前らは……一体、何のために人様にここまで迷惑を掛けるんだ?」
はっきり言って、彼ら『黒閻』の所業は、危険な秘密結社として一部から敵視され、派手に動けばパブリックエネミーとして追われるだけのものだ。
金銭においても名誉においても、彼らにメリットは無い。
それ故に、俺もデ・ラ・セルナたちも、彼らを世界征服や裏社会の覇権を握らんとするヤバイ集団だと信じて疑わなかった。
違うというなら……一体、何を目指していたというのか?
俺が問い詰めるような雰囲気で一歩近づくと、イシュマエルは再びふっと力のない笑いを漏らし呟いた。
「余は魔王の脅威をこの世界から取り除こうとしたのみ。いや、その過程で起きる些細なことこそ、貴様にとっては問題か……」
なかなかに衝撃的な一言だった。
もちろん、イシュマエルの言葉を鵜吞みにするわけにはいかないが……嘘や時間稼ぎならもっとマシなことを口にするだろう。
元小市民の日本人としては、思わず不信感に駆られてしまう。
「俺が騙されていると? ただ踊らされていただけだと?」
「いや、お前ならいずれ気付いただろう。お前には智と力がある。そういう者はいずれ魔王に立ち向かう運命だ」
「…………」
しばしの逡巡の後、俺はどうにか言葉を返した。
「俺は……これ以上の面倒はご免だ」
「それは世の理が許さぬ。時代の敵であろうと、外道であろうと、負の存在と戦う定めは強固ゆえに」
「改めて聞くが……お前たちがやらかした犯罪や悪行はどう説明する? 何故、世界を滅ぼそうとした? 支配しようとした?」
「知れたこと、配下が望んだからだ。王が道端の乞食に施すのと変わらぬ」
「覇権を握ることがエルアザルたちへ報いることだと? お前にとっては、本当にその程度の些細なことだったのか?」
「然り」
結局のところ、イシュマエルの悲願とやらは理解できそうもない。
いや、仮に理解できたところで、分かり合える存在でないことは確かだ。
もし、その魔王の脅威とやらが差し迫った事実だとしても、彼らと共同歩調を取ることはできやしない。
俺には……家族や友人が住む王国と中央大陸を、エレノアの故郷である魔大陸を見殺しにすることはできない。
どちらにせよ、彼らとは道を違えることになる。
「神々の考えることは理解できぬが……余の役割は終わりのようだ」
「俺にはあんたの思考回路こそ理解できんよ」
そして、何一つ隠す気のない様子のイシュマエルにありったけの問いを投げかけ情報を引き出した俺は、ゆっくりとホルスターから銃を抜いた。
どれだけ言葉を交わしても、彼は理解し合えない存在。
ここで見逃すことはできない。
それはイシュマエルもわかっているようで、俺の動きに特に反応することは無い。
「さらばだ。若き聖騎士よ」
俺はイシュマエルの頭部にSIG SAUER P226の銃口を向けると、そのままトリガーを引いた。
既に身体魔力が尽きていたイシュマエルの頭部は、あっけなく9mm弾に貫かれる。
霧散する魔力反応がイシュマエルは完全に活動を停止したことを物語っていた。
「終わった……」
俺はしばらく拳銃を提げたまま呆然としていたが、ゆっくりと顔を上げた。
「脅威は、未だ去らず、か……」
今更のように顔の傷が痛みだし、体のあちこちが悲鳴を上げ始めているので、魔法の袋から取り出したポーションを続けざまにガブ飲みして誤魔化す。
治癒魔術を使う元気は残っていない。
「……帰ろう」
避難しているシルヴェストルの回収をギリギリ思い出しながら、俺は踵を返して歩き出した。
最後は泥臭いド突き合いのようなバトルでしたが、楽しんでいただけたでしょうか?
そろそろ、第一部の終わりも見えてきました(´;ω;`)