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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編1年
22/232

22話 策を弄する

「よし、では今日はこの辺で帰るとするか」

「ああ、初日にしてはなかなかの成果だったな」

 アイアンゴーレムは鉱物資源として魔法学校の研究室に買い取ってもらえる。

 まあ、実際のスポンサーは王国なわけだが……。

 アイアンゴーレム戦の後、俺たちは二階層への転移魔法陣と思われるものを見つけた。

 ダンジョンの転移魔法陣は、設置されている部屋そのものがアーティファクト級の魔道具らしい。

 何はともあれ、これで次回の探索では一直線に二階層を目指せるようになったわけだ。

 さらに幸運なことに転移部屋の近くで岩塩と銅の鉱脈のようなものも見つけた。

 当然、採掘を試みたのだが埋蔵量は通常の鉱山の何倍もあると思われるため、ある程度の量を掘り出して撤収してきたのだ。

 どうやらダンジョン内の鉱脈は採掘し尽くしたように思われる場所でも時間が経つと、また採れるようになるそうだ。

 地球に、こんな夢みたいな鉱脈があったら、利権をめぐって三次大戦でも起こっていたことだろう。

 だが、この鉱脈もいいことずくめなわけではない。

 採掘が非常に難しく、通常の鉱山から採取するときの数倍の魔力を消費するのだ。

 不純物の部分の土や石に内包されている魔力の違いかもしれない。

 俺だから半分くらい余力を残して数十キロの純銅を掘れたものの、普通の魔術師にとってはコスパのいい稼ぎとは言えないのだ。

 さらに新たな発見もあった。

 俺の魔晶石は平均的な魔術師であれば一つで満タンまで回復できるほどの品質ではあるが、10個すべて使って1割も回復しなかったのだ。

 採掘を終えたときの魔力残量の感覚が約50%だったので60%にも回復していない計算である。

 魔力量の成長はまだまだ続いている。

 11歳という年齢と、本来は消費魔力が多すぎてあまり普及していない“醸造”を使いまくって魔力量を鍛えていること考えれば当然だろう。

 この調子だと同じ魔晶石10個で1%も回復しないようになりそうだ。

 最後っ屁として魔術を何発か撃つ分のストックにはなるかもしれないが、もっと上質な魔晶石が必要だろう。

 だが、そうすると少なくともAランク上位の魔物を討伐することになる。

 飛竜やドラゴンを狩るのは、もう少し先延ばしにしたいところだ。

 マイスナーとディアスは思い思いに岩塩を採取して詰所に帰っていった。

 ちなみにディアスにもマイスナーに渡したのと同じように酒をすすめたが、彼は下戸だそうで受け取らなかった。

 それでも、上質な岩塩がどっさり持ち帰れて、ご機嫌だったが。

「さて、俺たちの岩塩はどう分ける?」

「私は持っていてもな……」

「あたしは1キロほどちょうだい」

 岩塩は見えている範囲のものをありったけ魔法の袋に詰め、300キロほどになった。

 さすがに奥まで掘り返すほどの時間はない。

 海水から作った塩はすでに数トン単位で魔法の袋にしまってある。

 料理の試作用に確保するにしても10キロもあれば十分だろう。

 結局スライムの素材のこともあり、端数をレイアが受け取ることに決まった。

 冒険者ギルドへの岩塩と武具と魔石の売却を済ませ、魔法学校の研究室に純銅とブルースライムのガラスゲルとアイアンゴーレムを売り払った。

 さすがに、アイアンゴーレムを床に放り出した時には、研究室の助手?たちの目が見開かれた。

 その段になってようやくダンジョン探索の詳細を聞かれ「一日でこれだけ集めたのか?」と驚かれる。

 純銅の量からも数日分の収穫をまとめて持ってきたものと思っていたそうだ。

 やはり一階層とはいえ一日で攻略するのは異常な速さらしいな。


「なんとか夕食には間に合ったな」

「うむ、一日くらいダンジョンで夜を明かすことは覚悟していたのだが」

「そうね。まさか初日で一階層を攻略してしまうなんてね」

 フィリップもレイアも上機嫌だ。

 確かに幸先のいいスタートだった。

 アンデッドと関係がありそうなことも、今日襲撃らしい襲撃がなかったのも不安だが……。

「……結局、何もなかったわね」

「……ああ、そうだな」

「………」

 おかしい。

 確かに明らかに罠だとわかるものはなかった。

 しかし、あのダンジョンは何かが変だと思う。

 ほかの場所に潜ったことがない以上、比べることはできないが何か人為的な意図を感じる。

「どうしたの、クラウス?」

 いかん、雰囲気が伝染してしまったか。

「いや、何でもない」

 今の作戦行動はフィリップが考えたものだ。

 俺が迂闊に不安を煽るべきではないな。

「ふむ、さてはこの作戦の効果のほどに疑問があるのだな」

 ばれてーら。

 こいつボケなのか鋭いのか、よくわからんな。

「クラウス、確かに貴公の思う通り、ただダンジョン探索を騎士団の者と続けたところで、敵が尻尾を出すとは限らん。だが、これに乗じた動きを探る伝手さえあれば……」

「っ! では彼女が?」

「そういうことだ」

 フィリップはわざわざこちらに聞き耳を立てている人物の近くの席をとった。

 目的はわからなかったが、今謎が解けた。

「ねぇ、どういうこと?」

 レイアは気づいてないか。

 そこまで、熟達した気配の消し方ではないのだが。

 まあ、接近戦の経験が少なく、警戒は結界任せでは仕方がない。

 そして、悪戯っぽくかけられた声に……。

「あら、ばれてましたの」

 レイアは文字通り飛び上がった。

「メアリー! いつからそこに?」

「ふふっ、レイアはお仲間といると警戒心が薄くなるようですわね」

 それは言ってやるな。

 ツンツンモードになっちまうぜ。

「べ、べべ別にそんなことないわよ、ふんっ」

 ほら見ろ。

「ではメアリー、報告を頼む」


「まず、念頭に置いておいてほしいのだけど、わたくしの情報網は主に冒険者たちですわ。もちろん、商人とか店ぐるみの付き合いがある方たちにも探りは入れてますけど、ダンジョンに関しては、うちの武器を買いに来る方々のほうが有益な情報を持ってきてくれますの」

 俺は黙って頷く。

「最近ベテランではBランクの方が何人か潜っていますの。彼らの話では、今までは新人冒険者でも、ちょうどいい訓練場所になる程度のレベルだったそうですが、最近やけに中の魔物の動きが活発とのことですわ」

 やはり何かしらの異変があったのだろう。

「具体的にはどんな風に?」

「まず一か所に出現するモンスターの数が段違いとのことですわね」

 やはり五十匹ほどに囲まれたのは偶然じゃなかったのか。

 そして、レイアのせいじゃなかったのか……。

「それに、転移部屋付近のボスに、今まで居なかったレベルの魔物が出るそうですわ」

「あのアイアンゴーレム……」

「自然な変異では有り得ないわね……」

 さて、何者かが人為的にダンジョンのレベルを上げている可能性が高くなってきたが、いったい何のために?

 普通に考えれば、冒険者の装備を剥ぎ取る盗賊まがいの連中の仕業だ。

 だが、ダンジョンの生態系をいじるとなると、相当高レベルな魔術やら魔道具やらが必要だろう。

「ああ、冒険者を狙った物取りの線は無くてよ」

「何故そう断言できるのだ?」

「今のところ死亡者数は大して増えてませんの」

「どういうことだ?」

 ここでレイアが口を開いた。

「ダンジョンの中の魔物は外までは追って来ないの。危ないと思ったら逃げだせば済むから」

 なるほど。

「では、ダンジョンの奥に近寄らせないような工作ということか」

 何のために?

 あのダンジョンの奥にどんな秘密が隠されているというのだろう。

「あと不審な動きをしている者がいないかという点なのですが……」

「? 何かあったのか?」

「その……シルヴェストル教頭がダンジョン付近で何度か目撃されていると。それも夜にですわ」

 しばしの間、テーブルを沈黙が支配した。

「……シルヴェストルに関しては生徒の安全のための見回りとも取れるな」

 フィリップなら同意するかと思ったが何も言わない。

「クラウス、あたしはそうは思えないわ。タイミングが良すぎるじゃない。何か企んでいるのよ」

 レイアの言うことはもっともだ。

 生徒に探索クエストを出しておいて何故妨害しなければならないのか?

 短絡的に考えればシルヴェストルの目的はダンジョンに隠された秘密だろう。

「ひとまず、わたくしの報告は以上ですわ。フィリップ、あなたの方はどうでしたの」

「……」

 フィリップは答えない。

 怪訝な視線が彼に注がれる。

「……実は屋敷に帰ったときに妙な噂を聞いた。前にトロールの集団に誘導してくれたクズどもを炙りだすための働きかけだったのだが……」

 確かに法衣伯爵家であれば王都の貴族たちに探りを入れることは難しくないだろう。

「噂?」

「最近『黒閻』の残党に動きがあると」

 嫌な予感がした。


 『黒閻』という名前には聞き覚えがあった。

 確か、王都に来る途中ぶち殺した、盗賊団の元締めだった奴らだ。

 俺は知らなかったがどうやら大陸中で恐れられていた、犯罪集団というより闇の組織のような存在だそうな。

 それも世界征服とかヤバい方向のやつだ。

 とはいっても、一般人はまず関わることが無いので、逸話に過ぎないと思っている人間もいる。

「そもそも、うちの校長アレクサンダー・フランソワ・ド・ジェルマン・デ・ラ・セルナ氏の一番の功績は、黒閻の首領を倒したことだ」

 マジかよ、初耳だわ。

 ついでに校長のフルネームも初耳だ。ファーストネームも間違って覚えていた気がする。

「確か、黒閻との戦いの功績で聖騎士に任命されたはずですわ」

 聖騎士。

 俺も話には聞いたことがある、ライアーモーア王国の最終兵器。

 一人で国家を攻められるほどの圧倒的な広範囲殲滅魔法と、多少の精鋭や物量任せの兵士による攻撃などものともしない近接攻撃能力を兼ね備えた最強の騎士。

 聖騎士のいない時代も珍しくない、まさに生ける伝説だ。

 今現在、王国にいるのはたったの二人。

 その一人がデ・ラ・セルナ校長らしい。

「これ……だいぶ危険な話じゃない? 順当に考えれば黒閻の狙いはダンジョンにある何か、シルヴェストルは黒閻の仲間、あのダンジョンの異変はデ・ラ・セルナ校長の防衛策か黒閻が仕掛けた陽動ってことになるわよ」

 確かに危険すぎる。

 今の俺たちは才能こそ突出しているかもしれないが、いかんせん経験不足だ。

 そんな伝説の勇者と渡り合う闇の組織と正面衝突しては、まず勝ち目がない。

 だが、どうしても避けられない厄介な問題がある。

「シルヴェストル、か……」

 彼の目的は掴めない。

 黒閻の目的がダンジョンにあるとして、なぜ俺たちカタストロフィをはじめ大っぴらに探索を扇動するのだろう。

 黒閻の活動を効率よく行うための利用と考えることもできるし、もしかしたら彼は黒閻の敵で戦力を集めているのかもしれない。

 どちらにせよある程度こちらから接近しなければ進まない話だ。

「クラウス、リーダーは貴公だ。とりあえずの方針は貴公が決めてくれ」

 俺はしばしの逡巡の後、口を開く。

「出来るだけ早くダンジョンの秘密を突き止める。黒閻に後れを取ってはならない。シルヴェストルの正体を見極めるのも重要だし、校長の策に協力するにしても、ある程度は自分たちで考えて動けないようでは役に立たないだろうからな」

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