213話 圧倒
投稿ボタン押し忘れてました(´・ω・`)
本当に......すまないと思っているヽ(`Д´)
公国の竜騎兵団を殲滅した俺は、飛行魔法を制御して進路を地上に取り、重力に乗るようにして急降下を始めた。
眼下には、公国陣営の後衛に位置していた部隊が乱戦を繰り広げている。
既に王国軍は公国の主力部隊に攻撃を開始していた。
先ほど、フィリップが公国側のドラゴンゴーレムを破壊したことで、敵の士気は一気に低下している。
フィリップを旗頭にアルベルトが指揮する王国軍は突撃を敢行し、見事に敵の防御を正面から食い破り甚大な被害を与えた。
乱戦に持ち込み、今も王国側が押しているあたり、立ち回りは完璧といえるだろう。
俺が空の敵を食い止めている間に向こうも素晴らし結果を出してくれた。
ここは俺も乗っかり、フィリップたちの成果を最大限に増幅してやろう。
俺はさらに飛行魔法を加速して公国軍の魔術師部隊のど真ん中へ降下を続ける。
何名かの魔術師が俺の接近を感知し上空へ魔術を打ち上げたが、この速度で移動する人間サイズの標的には慣れていないのか、全ての攻撃は俺から大きく逸れ的外れな場所で炸裂した。
「でぇりゃぁぁあ!!」
そして、最大限に魔力を込めた大剣をフルパワーで振り抜くと、巨大な魔力の剣閃が広範囲の地面を抉り、大量の公国軍の魔術師を吹き飛ばした。
俺は公国の軍勢のど真ん中に降り立つと、そのまま魔力を込めた大剣を横薙ぎに振り抜いた。
土埃の向こうから慌てて俺に攻撃を仕掛けてきた魔術師たちは、回避や防御に移る暇も無く脚や胴体を両断されて息絶える。
さらに、俺は魔力を込めた大剣を連続で振るい、全方位に巨大な剣閃を撒き散らした。
「な、何だあいつは……?」
「ひぃ! 兵どもは何をしておるか!?」
俺が降り立ったのは公国軍の布陣の比較的後方の場所だ。
王国の軍勢はまだここまで到達していないため、この辺りに味方は居ない。
孤立無援の状態ではあるが、友軍を巻き込む心配が無いため、俺は気兼ねなく範囲攻撃を連発できる。
さらに、後方の部隊だけあって、自分だけは安全な場所に居たい貴族連中がこの辺りに集中している。
美味しい獲物だ。
上空から一気に接近できたチャンスを無駄にする手は無い。
俺は強化魔法の出力を上げて地面を蹴ると、一気に戦場を横断する勢いですれ違いざまに敵兵を斬り捨て、騎乗した連中は馬ごと両断していった。
直線的な軌道で度々進路を変えて移動し、大剣の届く範囲で殺戮を繰り返していると、中には何もせずとも恐怖のあまり落馬する者も出てくる。
「ま、待て! 儂は伯爵だぞ。貴様如き下賤の者が危害を加えていい相手では……」
「笑わせるな。てめぇこそ真っ先に死ぬべき存在だ」
豪奢な鎧を身に纏った肥満体の老人は尻もちをついて糞尿を垂れ流しながら捲し立てるが、俺は無慈悲に老人の首を刎ねた。
そう、こういう貴族家の当主というのは、戦場で死ぬことに最も価値がある。
戦争で発生する損害は決して馬鹿にならない。
魔物相手の狩りとはワケが違う。
敵も人間である以上、防御策は講じており、場合によっては魔法陣を逆手に取られて利用されたり術者が倒されたりもする。
もちろん、敵側も広範囲に攻撃や行動阻害の術式を展開できる魔法陣を使ってくる。
先ほども、“業火”を十発同時に起動したかのような火災旋風っぽい攻撃魔法陣が起動され、どうにか俺が“火槍”の爆発で掻き消したものの、友軍には結構な被害が出ていた。
俺やヘッケラーのような高い殲滅力を発揮する規格外が居ても、それだけで犠牲を大幅に減らすことはできないのだ。
結局、こちらもズルズルと無駄に敵軍の被害を嵩ませることになる。
だが、貴族の当主を討ち取れば、百人の兵を殺す以上の影響を与えることができる。
大将が死ねば下の連中は抵抗を辞めて投降してくれる場合もある。
能力的にはいくらでも代わりが居る存在が一人死ぬだけで、大勢の無駄死にを避けられる可能性があるのだ。
この状況下で遭遇した爵位持ちを殺さない手は無い。
王族や余程の有名人でもない限り、敢えて生かしておく意味は無い。
だから俺は一目で貴族とわかる装いの連中を躊躇なく大剣で斬り殺していった。
魔力剣の火力があっても、この軍勢を相手に一人で殺戮を続けるのは時間がかかる。
少しでも疲労や消耗を防ぐため、俺は左手に“倉庫”から取り出したエクスカリパーを握り、右手の大剣との二刀流で戦い始めた。
エクスカリパーはパチモンの魔剣もどきだが、敵を斬るたびに若干の魔力を吸収し、使用者に微弱な治癒魔術を付与する。
治癒魔術には疲労や精神的な不調を軽減する効果もあるので、長時間の戦闘においてこれがあるのと無いのでは大違いだ。
そして十数分後。
公国軍の陣形を割るように走り抜けつつ目に付く敵兵を斬り続けた俺は、敵兵の布陣を縦に突破し、そのまま公国軍の前衛部隊と合流した。
乱戦の中、フィリップの姿はすぐに発見された。
愛馬はレイアに任せているようで、彼自身はレイピアを携えて一見すると棒立ち状態だが……その立ち姿には微塵も隙は無い。
時折、後方の馬上に居るレイアから支援砲撃をもらいつつ、ゆっくりと前進しながら進路を阻む公国兵を的確に切り伏せていた。
魔力反応以前に、これだけ目立つ真似をしていれば、その存在感にはすぐに気づく。
そして何より……。
「オルグレン伯爵、覚悟……あがぁ!」
腕に覚えがあると思わしき冒険者や傭兵は次々とフィリップに群がっていく。
これだけ人の流れが顕著であれば、その中心に重要人物が居ることは予想に難くない。
ゴキブリみたいな連中にいつまでも纏わり付かれるのは面倒なので、俺はフィリップに奇襲を仕掛けようとしていた軽装の冒険者を後ろから叩き斬った。
完全に不意を突いた一撃で体を上下に両断された冒険者が倒れ伏し、次いで彼の持っていた弓と矢が地面に落ちて込められていた魔力が霧散する。
「なっ……アレンが一撃で……」
「う、嘘だろ! Sランク冒険者がこうも簡単に……」
「ひっ……! 何だ、あの男は……?」
「あんな魔力……勝てない……」
冒険者や傭兵たちは、少人数のオペレーションに慣れているだけあって、兵士以上に敵の力量や状況を見る目が肥えている。
キャリアの長い高ランク冒険者、特に魔術師や魔力持ちの連中は、俺の魔力反応から保有する魔力量の強大さを感じ取り、早くも絶望の表情を浮かべた。
そんな中、フィリップは軽い調子で声をかけてきた。
「クラウス、戻ったか」
「ああ、待たせたな」
お互いの無事と再会をしばし喜びつつ、俺たちはどちらともなく歩み寄り、背中合わせに立って周囲を見渡した。
ここまでフィリップを奇襲で討ち取ろうとやって来た冒険者や傭兵は、俺たちの視界内で下手に動くことを躊躇しフリーズしている。
しきりに辺りに視線を彷徨わせながら逃げ道を探している奴も居るが、ここで逃がす手は無い。
竜騎兵ほどではないにしろ、彼らもここまでフィリップを討ち取りにやってきた以上、それなりの水準に達している戦力だ。
今後のためにも、ここで可能な限り数を減らしてやる。
俺はフィリップへ肩越しに声を掛けた。
「行くぞ」
「うむ」
そして、俺たちを包囲する公国側の高ランク冒険者たちは、物の数分で百名近くの戦力を削られることとなった。
しばらくすると、公国軍の後方から空中に火炎弾のような魔道具が打ち上げられ、各所から指揮官の怒号が飛び始めた。
どうやら撤退指示が出されたようだ。
公国の軍勢はほぼ例外なく踵を返して逃げ始める。
王国軍の各所で歓声が飛び、既にこちら側の陣営は戦勝ムードだ。
「王国の竜騎兵団が敵の後衛部隊に到達し壊滅的な被害を与えたようだ。勝負あったな」
通信用の魔道具で戦況を確認したフィリップは、しみじみと呟くように告げた。
そういえば、王国側も先ほど竜騎兵団を出撃させていたな。
公国サイドの竜騎兵を俺が殲滅したこともあり、王国軍の竜騎兵はさぞかし大活躍して敵の本隊を蹂躙したことだろう。
単体では聖騎士に遠く及ばない殲滅力しか持たないものの、多数のワイバーンが上空から一方的にファイヤーブレスを浴びせる火力は本当に馬鹿にならない。
地上部隊は成す術なく片っ端から焼き殺されることとなる。
公国側が竜騎兵に対処する手段を持っていない以上、ここでチェックメイトだ。
「敵の兵数も減らしておきたいし、腕利きも可能な限り始末した方がいい。追撃に移るぞ」
「うむ……」
俺は意気揚々と空へ飛び上がり敗走する公国軍の後衛部隊の方を見たが、フィリップは些か気乗りしない表情だ。
彼にとっては、追撃や虐殺は気分のいいものではないか。
俺も殺戮を楽しんでいるわけではないが……フィリップの奴は根っからの武人だからな。
俺が後ろから敵を斬り捨てたことに関しても、思うところが無いわけではないだろう。
そんなことを考えていると、後ろから俺たちに声をかける者が居た。
「待ってください」
振り返ると、ヘッケラーの姿が目に入った。
彼はレイアとアルベルトを引き連れて俺たちの近くまで来ると、公国の軍勢の後ろを指差して口を開いた。
「敗走した兵への対処は他の部隊でも事足ります。君たちは敵の野戦陣地へ突入してください」
どうやら、追撃はアルベルト率いる騎兵隊とヘッケラーやレイアたち魔術師部隊が引き受けるらしい。
確かに、追跡速度と殲滅力を考えるのならば悪くない選択だ。
騎兵で追い立てて足止めして、魔術師が遠くから集中砲火を浴びせて数を減らせばいい。
敗残兵は四方八方に散り散りになって逃げているが、それこそ王国の諸侯軍も勢いづいている今、それなりの数の敵を討ち取ってくれるだろう。
俺たちが手を出すまでもない。
……願わくは、公国の一般市民や街に被害を出すのは控えてほしいものだが……完全には防げないだろうな。
略奪や強姦を勝者の特権だと思っている貴族は救いようが無いが、厳密に指揮系統が定められていない冒険者や傭兵も多数参戦している紛争である以上、仮に諸侯軍で暴挙に及ぶ者が居なくても被害をゼロにするのは難しい。
何はともあれ、一刻も早く敵の本陣を叩いて高みの見物をしていた要人どもを始末もしくは捕縛するなら、飛行魔法の移動速度が速い俺たちが適任か。
横目でフィリップを見ると、彼も同じ結論に達したようで、俺に一つ頷いてからヘッケラーに返答した。
「引き受けましょう。我々が先行して殲滅しますので、後で制圧のための人員を送ってください」
「もちろんです。じゃあ、任せましたよ」
こうして、戦争の仕上げともいえる役割を承った俺たちは、敗走する公国軍を追い越すように飛行魔法で飛び立った。
時折、公国兵の密集している地点に“火槍”を撃ち込んで追撃部隊を掩護しつつ、こちらに矢を射かけてくる奴には構わず直進する。
そして、俺たちはついに公国軍の本拠地である野戦陣地付近に降り立った。
もうひと踏ん張りだ……。